3億円超だった「世界初のつぶやき」は21万円に大暴落…「NFTバブル」を煽りまくったエセ富裕層の末路
プレジデントオンライン / 2023年12月26日 10時15分
■投機ブームから一転、無価値になったNFT
パーティー帽をかぶったまま目を潤ませるサル。日本刀を凜々しく肩に担ぐ女性剣士。それに3Dメガネをかけたミミズクのような鳥……。いずれも一昨年から昨年にかけ、仮想資産として流行したデジタル・アート「NFT」だ。
NFTブームに乗り、米人気歌手・ジャスティン・ビーバーが2022年1月に130万ドル(1億5000万円)で購入した「サルの絵」は、マイナス95%の大暴落となっている。マドンナなど著名人も、巨額の含み損を出しているのが現状だ。
NFTは平たくいえば、デジタルで証明された所有権だ。主にコレクター性の高いデジタルアートなどについて、その所有権をネット上で売買。購入・売却履歴をブロックチェーン技術で記録し、現在の所有者を証明する。将来の値上がりを見込み、実体のないデジタル作品に巨額の値が付いた。
ブームが去ったいま、現状は厳しい。ビットコインやイーサリアムなど暗号通貨には復調の兆しが見えるが、NFTは一部をのぞきほぼ無価値になった。現在では全NFTの95%に値が付かない状況だ。かつては数多の種類が取引されていたが、現在では取引額の大半をたった2種のNFTが占めるまでに市場規模は縮小。復調の気配は見えない。
■「サルの絵」に飛びついた人々は大損害を被った
NFTは時に、同じブロックチェーンを使うビットコインなどの暗号通貨と混同される。NFTの場合は大量に出回る通貨と異なり、特定のアート1点の所有権を示している。唯一無二の「替えのきかない」資産を対象とすることから、「非代替性」トークン(NFT:Non-Fungible Token)と呼ばれる。希少性から投機熱が過熱した。
NFTをめぐる投機バブルは2021年から加熱したが、いまや崩壊。著名人を含む多くの投資家が大きな損失を被った。投機に燃えた市井の人に加え、セレブも例外ではない。
米CNBCによると、ジャスティン・ビーバーはアート作品群『Bored Ape Yacht Club(ボアード・エイプ・ヨット・クラブ)』のうち、ある1点のイラストに投資。ファッションアイテムを身にまとったサルが、小憎たらしげな表情を浮かべるイラストだ。
ボアード・エイプ作品群は、米NFT制作スタジオが表情やファッションの異なる1万点のバリエーションを制作し、それぞれの所有権を示すNFTを発行(「鋳造」と呼ばれる)した。
■ジャスティン・ビーバーの「泣き顔のサル」は、95%の大暴落
ジャスティン・ビーバーはこのうち、3001番を2022年1月に購入。切ない表情のサルが目に涙を湛える作品だ。
当時130万ドル(当時のレートで1億5000万円)以上の価値があったが、NFT取引分析サイトのOpenSeaによると、現在寄せられている買い付けオファーは最大でも約5万8000ドル(現在のレートで830万円)に留まる。ドル換算で約94.5%の下落率だ。苦悶の表情で両目を潤ませるサルは、所有者の悲哀を象徴するかのようでもある。
サッカー選手のネイマールJrは2022年1月、ボアード・エイプのバリエーション違いである5269番を約49万6000ドルで購入した。現在の最大オファー額は7万7000ドル台で、購入時から約85%の下落率となっている。
マドンナは2022年3月、ボアード・エイプの4988番を約46万6000ドルで購入。驚いた表情のサルの身体に多数の目が描かれたこの奇抜な作品は、現在6万1896ドルが最高オファー額となっている。85%以上の価値が失われた。
最も損失の少ないマドンナの事例でも、購入からわずか2年足らずで約40万ドル(約5600万円)の巨額の含み損を出した計算だ。投機対象としてもてはやされたNFTの恐ろしさを物語る。
■3億円超の値が付いた「世界初のTwitter投稿」、現在はいくら?
NFTブームの中心となったのはデジタルアートだが、なかには希少性を話題が先行した例もある。それまで別段価値が注目されていなかったものにさえ、将来の価格高騰を見込んだ購入者が殺到。破格の値段で取引された。
米デジタルメディアのVICEは、Twitter(現X)上に残る史上初のツイートの取引事例を報じている。ツイートはTwitter社のジャック・ドーシーCEO(当時)によるもので、「just setting up my twttr(自分のTwitterアカウントを設定しているところ)」との短文だ。
このツイートの“所有者”となれるNFTが2021年3月、230万ポンド(落札時、約3億円)という高値で取引された。歴史的な投稿とはいえ、ドーシー氏のアカウントを自在に使用できるわけでもなく、この1点の投稿を所有しているという認識を得られるにすぎない。わずか24文字のつぶやきに、常識を超える値付けだ。
VICEによると評価額は現在、1200ポンド(21万6000円)程度とされる。適正な価格に落ち着いた印象だが、価値は当時の0.0052%にまで暴落した。
■NFT投資家の手元に残ったのは「巨額な含み損」だった
派手に盛りあがったNFTブームが去ったいま、濡れ手に粟(あわ)の夢は去り、巨額の損失だけが残った人々がいる。暗号通貨企業のレイバーXなどを創業したシドニーの起業家、セルゲイ・セルギエンコ氏は、VICEの取材に対し、NFTで少なくとも499万5000ドル(約7億1000円)の含み損を出したことを明らかにした。
投資したNFTの評価額は、ピーク時の500万ドルから5000ドル程度まで急落した。驚異的な損失にもかかわらず、セルギエンコ氏はNFTの将来について楽観的な見方を崩さない。「我々はまだ始まったばかりだ」とセルギエンコ氏は語る。
だが、活況のNFT市場は大きく低迷し、コレクションの大半が無価値とみなされるようになった。暗号資産分析会社のダップギャンブルは今年9月、NFTの調査報告書を公表。市場の現状を「NFTの始まりの終わり」と、厳しく表現している。
同社が分析した7万3257件のNFTコレクションのうち、6万9795件という圧倒的な数の時価総額が、合計ゼロイーサ(ETH)であったという。コレクションの95%が無価値となっている過酷な現状を浮き彫りにした。報告書は、2300万人以上の人々が無価値な投資をしていることになるとも指摘している
取引額も激減した。ピーク時のNFT市場の月間取引額は28億ドル近かったが、2023年7月の週間取引額は約8000万ドルで、往時のわずか3%にすぎない。比較的活況の上位NFTに限定しても、その18%はフロアプライスがゼロとなっており、6000ドルを超えるものは1%未満だという。NFT資産の価値の暴落を強調する分析結果だ。
■人気を集めたNFTほど大きな下落に直面
米技術解説サイトのインタレスティング・エンジニアリングは、NFTプロジェクトの市場価値を評価するうえで有益な「フロアプライス」を基準に、下落の激しいNFTコレクションを集計している。
フロアプライスはコレクション内の最低販売価格のことで、例えばボアード・エイプの場合、シリーズ作品1万点のうち最低額を示す。2022年4月28日から2023年10月8日まで、1年半弱の変動を追った。
ワースト1位はボアード・エイプだ。同コレクションの場合、フロアプライスは118.0ETH(仮想通貨単位「イーサ」)から25.9ETHに下落した。イーサの価値自体も、同期間に2888.85ドルから1634.66米ドルと、約43%価値を落としている。ドル換算ではボアード・エイプのフロア価格は、34万ドルから4万200ドルへ急落した計算だ。コレクション全体の平均価格としても、約29万8000ドル(約4200万円)下げている。
ワースト2位となった同一NFTスタジオによる「Mutant Ape Yacht Club(ミュータント・エイプ・ヨット・クラブ)」をはさみ、3位には日本アニメ風のデジタルイラスト「Azuki」の名が挙がる。ロサンゼルスのスタジオが制作した。コレクションのフロア価格は21.9ETHから4.2ETHに下がり、ドル換算の平均損失額は5万6351ドル(約800万円)となった。
■優れた技術が投機で歪められた
NFTを取り巻く投機バブルが崩壊し、多くの投資家が大きな損失を被った。当初、NFTは画期的な技術として歓迎され、アーティストを支援し、デジタル所有権を認証する方法と考えられていた。しかし、市場は実用性よりも投機に重点を置いたため、劇的な下落につながった。
いまや市場には限られた人々だけが残り、少人数のあいだで同じNFTが行ったり来たりしている状況だ。2050ドル(約29万円)の損を被ったというサンフランシスコの32歳男性は、VICEの取材に、「これらのNFTプロジェクトの多くは、少数の人々によって所有され、同じ人々の間を行き来しているのが実情です」と語る。コミュニティには、内輪もめやヒステリックな感情も漂っているという。
NFTの暴落には、複数の要因が関連している。最も顕著な点として、過度な期待から適正価格を大幅に超える値付けが横行した末に、投機バブルがはじけた。また、NFTの売買には暗号通貨が用いられることが多い。ドルに対する暗号通貨の価値の減損も足を引っぱった。さらには、NFT市場に新しいアーティストやプロジェクトが続々と参入したことで、市場が飽和状態に。供給過多となり、多くのNFTの価値が下がった経緯がある。
最後に、法的な不確実さも大きな要因だ。NFTは匿名性から、マネーロンダリングに利用される懸念などがある。米証券取引委員会(SEC)は、一部NFTを連邦証券法に定める証券とみなし、無許可で扱った特定の取引業者に対する行政手続きに出ている。こうした事例はまだ一部だが、SECが暗号資産業界を潰しにかかったとの見方もあり、NFTの法的な立ち位置は先行き不透明だ。
NFT自体はひとつの優れた技術だ。未来あるアーティストの作品を適正価格で購入して支援したり、チャリティ目的で気軽に寄付をしてささやかなNFTを記念に受け取ったりと、活用の方法は本来無限大であった。だが、アルゴリズムで自動生成された1万点のサルのアートが巨額で取引されるなど、歪んだ用途が拡大したことで退廃を招いた。
NFTは苦労なくして儲ける手段だとの認識を改めない限り、本来の可能性を発揮することは難しいだろう。
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フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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