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ホリエモン、ひろゆき、成田悠輔よ、ありがとう…無視されていた「ジャニーズ問題」がついに動いた本当の理由

プレジデントオンライン / 2023年12月23日 12時15分

ジャニーズ事務所(当時)の東山紀之新社長(左)と引責辞任した藤島ジュリー景子社長(右)が、故創始者の性的虐待疑惑に関する記者会見で報道陣の質問に答える(2023年9月7日、東京都内のホテルで)。 - 写真=AFP/時事通信フォト

旧ジャニーズ事務所の性加害問題は、なぜ長年見過ごされてきたのか。放送プロデューサーのデーブ・スペクターさんは「日本のテレビ局の構造がひとつの要因だ」という。脳科学者の中野信子さんとの対談をまとめた『ニッポンの闇』(新潮新書)より、一部を紹介する――。(第1回)

■「ジャニーズ性加害問題」でもっとも深刻なこと

【デーブ】どこのメディアも最高裁の結果くらいはきちんと報じるべきだったでしょ。そこはもうメディア側の忖度(そんたく)だよね。あるいは事務所の力。

【中野】時代的なこともあったんですかね。今ほどセクハラだパワハラだに厳しくないとか、男性の性被害に関心が薄かったとか。

【デーブ】それもあったかもね。コンプライアンスって言葉自体一般的じゃなかったし、女性が性被害を受けた場合と違って、男性の場合、そのこと自体を笑い話にしてしまったり、周囲も「しょせんいたずらでしょ」って見なしてしまったりということもあったかもしれない。

NHKの『クローズアップ現代』が当時の検証を行っていましたけど、元司法担当デスクという人がそういう趣旨のことを言っていますよね。「男性の性被害の問題に関心が低かった。問題視すべきという認識がなかった」って。

【中野】そういう経験を「武勇伝」みたいにしちゃう人もいれば、深刻なトラウマになってしまう人もいる。個人差もさまざまだから、なおさら表に出しづらいということもあったのかもしれない。

【デーブ】一方で「枕営業」みたいな言葉もあるしね。実際、そうやって芸能界で自分の居場所を作るきっかけにする人もいる。男性だって女性だって、誰とは言えないけど。しかもそれって別に芸能界に限ったことじゃないし、日本に限ったことでもない。

ただ、この問題がおぞましいし、深刻なのは、相手が未成年だってことですよ。子供相手だったってこと。それはね、人生を変えてしまうくらい大きなことで、そこはほんとに罪ですよ。

■日本における児童の性的被害

【中野】しかもそれが何百人、もしかしたら4桁になるかもしれない。

【デーブ】きちんと報じられていたら、ジャニーの行為も止まって、そこまでの被害は出なかったかもしれない。そこはやっぱりメディアの罪だし、検証しないといけない。

【中野】これはジャニーズの問題に限らないですけれど、児童の性的被害の問題って日本はけっこう深刻なんですよ。

1999年の日本性科学情報センターによる日本で初めての大規模調査(『子どもと家族の心と健康』調査報告書)では18歳未満の女子の39.4%、男子でも10%が性的被害を受けているっていうんですね。13歳未満でも女子の15.6%、男子の5.7%が被害に遭っている。

性的被害の影響としてはPTSD、解離性同一性障害をはじめとする精神疾患、自殺念慮、薬物濫用などが指摘されていて、性的被害を告発した元ジャニーズのメンバーにもそうしたことを告白している人もいましたから、その人の人生に及ぼした影響は計り知れないですよね。

■なぜ今になって大騒動になったのか

【デーブ】ジャニーの場合、同性からの被害だしね。自分の性的指向がわからなくなってしまう人もいるかもしれないし、性暴力を「魂の殺人」と言う人もいる。イギリスのBBCでも、有名番組の人気司会者による少年、少女への性的虐待が発覚したんですが、これも被害者が70人以上ですよ? ひどい話です。

2011年にその司会者は亡くなってるんだけど、BBCは徹底的に検証しましたよね。

【中野】2004年当時は騒がれなかったのに、今回は大騒動になったのは日本のそういうコンプライアンスに対する意識が変わったからだと思います? それともBBCが放送したドキュメンタリー『J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル』でなにか新しい事実が報じられたからとかなんですかね?

【デーブ】BBCの番組の影響は大きかったけど、とりわけ新しいことは出てないですよね。むしろ大きかったのはYouTubeで元ジャニーズJrのカウアン・オカモトが告白したことだったり、ネットの「世論」だったかもね。

ホリエモン(堀江貴文)、ひろゆき(西村博之)、成田悠輔の3人も大きかったんじゃないかな。ジャニーズ事務所の姿勢を強く批判したから。

「ジャニーズ帝国」はテレビや新聞、出版も含む各メディアに強い影響力を持っていて、世論を誘導していた面があるけれど、さすがのジャニーズも“ネット裁判所”まではコントロールできなかった。そこが大きいんじゃないですかね。

■ネット記事やSNSの影響力の大きさ

【中野】デーブさんもものすごい数、記事出てましたもんね。

【デーブ】取材いっぱい来た。

【中野】ネット記事やSNSの影響力の大きさって海外も同じですよね。#MeToo運動もそうだったじゃないですか。あれはニューヨーク・タイムズによるハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの性暴力、セクハラ疑惑報道がきっかけで始まりましたけど、ツイッター(現・X)のハッシュタグが猛威を揮った。ワインスタインの件だけに留まらず、女性に対する男性のレイプやセクハラが多数告発されて。

【デーブ】ちょうどジャニーズ問題の頃、イギリスやアメリカでは人気コメディアンのラッセル・ブランドの性的暴行疑惑が浮上して、大問題になってたんですけどね。

【中野】ケイティ・ペリーの元夫。

【デーブ】そう。ジャニーズ問題ではジャニー喜多川がもう亡くなってるから、彼自身の刑事責任も民事責任も問えないけど、ブランドはロンドン警視庁が捜査しているんですよね。ここでも「ネット裁判所」の影響がとても大きい。本来まだ捜査段階だし、そういう意味では「推定無罪」なんだけど、ブランドは徹底的に叩かれてる。

■日本の芸能界の特殊な構造

【中野】デーブさんにもうひとつ聞きたいことは、こういう問題が起きた日本の芸能界とかメディアの構造ですよね。日米の違いとか。

【デーブ】日本の芸能界はタレントより事務所が力を持ってますからねえ。ジャニーズ事務所に所属していれば仕事ができて、芸能界で成功できる。そういう力関係ですよね。

つまり、タレントよりジャニーのほうが強いから止められなかった。この問題には未成年に対する性虐待という側面と同時に、芸能界のパワハラ、セクハラという面があるわけですよね。

【中野】これがこと「未成年」って問題に限らなければ……。

【デーブ】テレビでも映画でも音楽でもどこの業界でもありうる話で、広告代理店だろうが出版社だろうが上場企業でも中小企業でも、言ってしまえば男でも女でもありうることで、さらに言えば世界中どこでもある話でしょう?

【中野】権力と性がある限り。

【デーブ】そう、だからといって許されてはならないし、この問題がこれ以上広がらないようにヒヤヒヤしてる人も実はけっこういるんじゃないかと思ったりするんだけど。

■アメリカに芸能事務所への忖度はない

【中野】「アメリカのシステムを参考にすべき」って言う人もいますよね。

【デーブ】それは絶対に無理でしょ。まず、アメリカではドラマでもバラエティでも、よっぽどでない限り必ずオーディションで出演者が選ばれるんですよね。

オーディションを受ける若い女性
写真=iStock.com/SDI Productions
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SDI Productions

【デーブ】公平公正な選出が保証されてて、キャスティング担当は監督やプロデューサーの意向しか考慮しない。監督やプロデューサーに権限が集中する面はあるけど、日本のテレビ局みたいに「大手芸能事務所への忖度」なんかない。

【中野】そうか。タレントがエージェントより強いわけだから。

【デーブ】仕事ごとにその人の領域がちゃんと決まってて、キャスティングする人もほとんどThe Casting Society of Americaって組合に入ってるし、プロとして誇りを持ってる。映画のクレジットでキャスティング・ディレクターの名前の後にCSAってあるでしょ? あれですよ。

【中野】不祥事起こしたら、組合にいられなくなって仕事もなくなると。

【デーブ】日本みたいに、ジャニーズ事務所に文句言ったらタレントが出演してくれなくなるとかそういう心配をする必要がない。

■だからジャニーズ問題は闇に埋もれた

【中野】だから「ジャニーズ問題」をワイドショーなどが長年、取り上げられなかったわけですもんね。

中野信子、デーブ・スペクター『ニッポンの闇』(新潮新書)
中野信子、デーブ・スペクター『ニッポンの闇』(新潮新書)

【デーブ】メディア各社に「ジャニ担」と呼ばれるジャニーズ事務所の窓口担当がいて、そこを通してしか交渉ができない仕組みになってたから、社内のどこの部署でも勝手に報じたりしたら「タレントを引き上げる」ってことになる。それが怖いから報じられない。

【中野】「ジャニーズ帝国」になっちゃうし、忖度もそりゃ生じると。

【デーブ】アメリカの場合は例えばテレビ局の中で全部の番組を何もかも作っているわけじゃないんですよ。だからニュースとして報じるとすれば止めようがない。

日本の場合は制作が一部外部であっても、基本的に全部局が作ってるでしょ。だからトップダウンで「ジャニーズには触れるな」ってなったらそうなっちゃう。ほんとそこは反省しないといけない。

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デーブ・スペクター 放送プロデューサー
アメリカ・シカゴ出身。TVプロデューサー、タレント。世界の番組や情報等を日本に紹介、情報番組を中心にコメンテーターとして活躍。

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中野 信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者
東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。1975年、東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『サイコパス』『不倫』、ヤマザキマリとの共著『パンデミックの文明論』(すべて文春新書)、『ペルソナ』、熊澤弘との共著『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)、『脳の闇』(新潮新書)などがある。

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(放送プロデューサー デーブ・スペクター、脳科学者、医学博士、認知科学者 中野 信子)

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