「クソどうでもいい仕事」しかできない無能な若手が量産される…ChatGPTに頼りすぎた会社が辿る残念な末路
プレジデントオンライン / 2023年12月26日 10時15分
■ChatGPT導入がうまくいく会社とそうでない会社の違い
(第1回から続く)
これからはパソコンやスマートフォンを使う作業をもちろん、日常を含めてAIを使わないことの方が難しくなる時代になるでしょう。
特にChatGPTは2022年11月のサービス開始から1年がたつ間に、「どうやってうまく使うか」「社内業務のうち、何をさせるか」という活用事例の提案がさまざまなメディアでなされてきました。
当方もご相談を受けることがありますが、導入事例は明暗は分かれていると言えそうです。
導入がうまくいっているのは、素のChatGPTを使える範囲で、業務に組み込んでいる組織や企業です。
一方、導入状況がかんばしくないのは、ChatGPTは新著『ChatGPTは世界をどう変えるのか』(中公新書ラクレ)でも解説したように、その会社の流儀や用語の使い方に沿った文章を生成できるよう、ChatGPTの学習や出力をカスタマイズして導入しようと考えた組織や企業で、こうした企業は公開から1年、ブームから数えても半年以上たった現在でも「まだ社内で使う段階に至っていない」といいます。
■日本の企業でDX化が進まないのと同じ
というのも、会社の流儀や用語をChatGPTに学習させるためには、まず社内でどのような用語がどのような意味や文脈で使われているかを整理する必要があります。
同じ用語・単語を使っていても、部署ごとに微妙にニュアンスが違うこともあり、そうした場合にはどのように言葉を定義して、学習データをチューニングする必要があります。何をチューニングさせるかを整理する段階で四苦八苦しており、そのうちに半年以上が経過してしまったそうです。
しかもChatGPTの性質上、学習データをチューニングしても、必ずしも期待した通りの文章を生成するとは限りません。すべての作業が徒労に終わる可能性もあるのです。
企業によってはこうした作業の煩雑さから文章作成を担わせることは諦め、ソフトウェアのコード書きのみに使っているというところもあるようです。
これは社内のDXなどでもみられる問題ですが、AIやシステムに任せるのであればそれらがうまく回るように作業の流れや定義を変えればいいところ、多くの職場ではAIを社内の独特のルールや慣習に合うようにカスタマイズしがちです。
■頭を抱える地方自治体
同じ理由で、ChatGPTの導入がうまく行っていないのが地方自治体です。
ChatGPTは前述の通り、大量の学習データを読み込ませて学習させていますが、それはウェブ上の情報が基になっており、広く一般で知られている情報については大量に学習しています。従って「広く一般的なこと」を尋ねれば正確性も高まりますが、ローカル情報や、あまり知られていない情報、例えば個人に関する情報は学習した量が少ないので、仮に尋ねても正確さは期待できません。
しかしこうした仕組みをよく理解していないのか、地方自治体がChatGPTを導入する際に「地元の名産の情報を生成させようとしたが、不確かなものしか出力されなかったので使えない」と判断している状況が聞こえてきます。
しかし、これは明らかに使い方を間違っているケースであり、ChatGPTの問題ではありません。
そこで地元の情報を正確に出力できるように、高いコストを払ってChatGPTのチューニングを委託した自治体もありますが、どのような情報をチューニング対象にするかで困ることになりますし、チューニングしたところで期待したような出力が得られるかは分からないのです。
■ジョブ型はAI導入に不向き
ChatGPTを含めて、AIによって仕事の効率が変わるのであれば、AIを活かすことが求められますが、どんな仕事がAIを活かせるのかは予測がつきません。例えばChatGPTが登場する以前、生成AIがここまで実用的になるとは思っていなかったはずです。
従って、そのとき時々でAIができることを見極めて、そのAIを活かせるスキルが重要となってきます。従って、AIの進化とともに仕事の内容を変えることが求められます。
日本の会社は、「その時必要なスキルを持つ人間を雇う」というジョブ型雇用ではなく、大企業になればなるほど「職務や勤務地を限定せず新卒で正社員を一括採用し、長期にわたって雇用する」というメンバーシップ型の雇用形態をとっているケースが多いのですが、実はこうしたメンバーシップ型の雇用体系はAI時代に合っています。
というのも、AIの影響で仕事の差配が変わる際に、何がどこまで変わるかをあらかじめ予測してその都度、人を雇っていると、予測が外れたときにはその人物を解雇して新たに人を雇わなければならず、あるいは中の業務を理解するまでに時間がかかってしまったりして、かえって企業体の機動力は低下してしまうのです。
一方、メンバーシップ型であれば、中の業務への理解はありますから、業務とAI導入をどのように調整すればうまく行くかを考えやすいという利点があります。
■ブルシット・ジョブを増やす人間の性
前述の新著『ChatGPTは世界をどう変えるのか』(中公新書ラクレ)で詳しく議論しましたが、AIで業務を効率化したときに気をつけなければならないのは、AIを導入して部分的に生産性が上がったとしても、全体でみるとむしろマイナスになっている、という事態です。
文書作成が容易になれば作られる文書の量が増大し、確認するだけでも一苦労になるとか、本来なら作成の必要がないアリバイ的な文書まで無限に作られるという事態も想定されるのです。
さらには、これは実に人間らしい顛末と言えるかもしれませんが、ある部分が効率化されると、人は一生懸命無駄な仕事、つまりブルシット・ジョブを増やすようになります。
「効率化したのだから勤務時間を短くして早く帰ろう」とはならず、空いた時間を埋める別の仕事を探し出し、生み出すようになるでしょう。
■若手社員の成長を阻害する
また、AIに置き換えたことによって起きる影響として考慮しておくべき点がもう一つあります。
よくChatGPTのような文章生成AIに任せる仕事として「社内会議の議事録の整理」が挙げられますが、これをAIに任せることによって仕事の手間が省ける一方、社員養成を担っていた仕事が消えてしまう可能性が出てきます。
議事録作成のような仕事は、多くの場合、新人や年次の若い社員が担っています。単に文書が必要だから作らせているわけではなく、会議の内容を聞き直して要点を抽出することが、若手社員自身の学びにもなっているからです。
当然のことですが、そもそも若手社員には、ベテラン社員のような働きぶりは期待できません。そのため、最初はAIでも行えるような仕事をしてもらうことによって仕事の内容を把握し、能力を上げてさせていたことは少なくないでしょう。
文書作成のような仕事は確かにAIに置き換えることが可能でしょうが、そうした場合、新人社員はどのような仕事を担うことでベテランになるための積み上げる機会を失うことを考えておく必要があります。
■「あくまでも道具に過ぎない」
こうした点を考慮せず、「AIに置き換えられるものはすべて置き換えてしまえ」となると、気づいた時には将来ベテランになる人材を育てる機会も失います。人材を育成も考慮して、どんな業務をAIに置き換えるかを考えるべきです。
さて忘れてはならないのは、「ChatGPTのような生成AIは、「あくまでも道具に過ぎない」ということです。
道具を使うときは道具の特性や限界を知るべきですし、道具の仕組みを理解せずに使うと事故につながりやすい。ChatGPTの場合、出力の間違いや偏りなどはChatGPTの仕組みと関わっており、その仕組みを理解して使うべきでしょう。
ところでChatGPTのような生成AIの登場がよかったことは、AIは間違えないと思う人が多くはなかったのですが、ChatGPTをが実際に使ってみたことで、生成AIを含むAIは間違った情報を出力するということの理解が進みましたが、もう一歩踏み込んで、ChatGPTのような生成AIはどのような仕組みで動き、何が得意なのかを見極めて、職場に導入する必要があるのです。
AIといっても、つまるところ人間にとって道具にすぎません。その意味では、AIといってもトンカチやのこぎりと同じなのです。万能だと思い込むのは間違いであり、効果的な使い方を考えるのはあくまでも人間なのです。
■OpenAI社の背後にいる会社
最後にOpenAI社の騒動について触れておきましょう。
ChatGPTのサービス開始からちょうど1年の時期に重なる2023年11月17日、ChatGPTの開発を手掛けたOpenAIがサム・アルトマンCEOの退任を発表し、国際社会は騒然となりました。
一部報道によれば、宣伝塔として各地に出向いていたアルトマン氏が社内の取締役会などを欠席し続けたことで、反発を呼んだのではないかという指摘もありますが、社内の問題ですから、騒動の原因はまだよくわかっていません。
すぐにMicrosoftがアルトマンの同社への入社を発表したため、この騒動の背後にMicrosoftがいるのではないかという見方もありましたが、むしろこの騒動はMicrosoftにとってはマイナスの影響をもたらしています。
■なぜ非営利組織にしているのか
そもそもOpenAI自体は非営利組織でその下に営利組織の株式会社を持ち、ChatGPTのサービスは株式会社が提供しています。
OpenAIが非営利組織であり続けているのは、同社が掲げるミッションにあります。OpenAIは汎用AIの開発を目標としていますが、仮に開発が実現しても表には出さないと公言しています。
それは汎用AIの負の影響を懸念しているためで、自らのコントロール下に置くために非公開とするというスタンスを取っているのです。
一方で、汎用AIを開発する過程で生まれた技術に関しては公開するとしており、その一つがChatGPTということになります。
OpenAIはAIの危険性も見据えた非営利目的の研究者たちが集まった組織ですから、いわばピュアな動機を重視している人もいる一方で、ChatGPTが世界的に流行したことで組織が急拡大し、ビジネス指向の人も増えたはずで、社内の意思統一が揺らいでいるのかもしれません。
しかもOpenAIはMicrosoftから100億ドル(約1兆5000億円、現在のレート。以下同じ)とも150億ドル(約2兆2500億円)とも言われる投資を受けています。
MicrosoftはOpenAIの株を49%保有してもいますから、OpenAI内部の人たちに葛藤があるのではないかと推測されます。ピュアな研究者からすると、Microsoftのように大金を稼ぎ政治的な存在感もある会社に対する反発もあったのかもしれません。
■マイクロソフトが直面する課題
Microsoftにとってマイナスなのは、一つは49%もの株を持っているOpenAIに対して何らのグリップも効いていないことがこの騒動で露呈してしまったこと。
100億ドルもの投資をしている会社でこうした問題が起きれば、Microsoftの経営陣は責任を問われ、最悪、株主代表訴訟を起こされかねません。
また、MicrosoftはOpenAIに生成AIに対する逆風を受け止めてもらっており、いわば風よけになっていた側面は否定できないでしょう。
実際、生成AIについてはフェイクニュース生成を容易にするなどの民主主義への影響や、著作権問題、個人情報の問題などさまざまな課題が指摘され、法規制も検討されていますが、こうした逆風はOpenAIが前面で受け止めている状態にありました。
一方のMicrosoftはその後ろで粛々とChatGPTを自社のサービス、つまりwordやExcelをはじめとするOfficeのアプリケーションに組み込んでいく……という構図になっていたといえるでしょう。
しかし今回のことで風よけがふらつき、Microsoft自身も風を受けることになってしまいました。これはMicrosoftにとってよかったとはいえないのではないでしょうか。
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国立情報学研究所 情報社会相関研究系・教授
1991年慶応義塾大学理工学部電気工学科卒業。1996年同大学大学院理工学研究科計算機科学専攻後期博士課程修了。博士(工学)。1996年お茶の水女子大学理学部情報学科助手、1998年同大助教授、2001年国立情報学研究所助教授を経て、2006年から現職。このほか、デジタル庁「政策評価有識者会議」座長、経産省・総務省「企業のプライバシーガバナンスモデル検討会」座長他を歴任。
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(国立情報学研究所 情報社会相関研究系・教授 佐藤 一郎 インタビュー・構成=ライター 梶原麻衣子)
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