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習近平はもう詰んでいる…「不動産バブル崩壊」の次に進む「中国人富裕層の国外脱出」の深刻すぎる状況

プレジデントオンライン / 2023年12月25日 9時15分

2023年11月17日、第30回APEC非公式首脳会議で重要演説を行う習近平氏。 - 写真=中国通信/時事通信フォト

■「ゼロコロナ解除」で海外移住者が急増

経済協力開発機構(OECD)による国際移住アウトルック(“International Migration Outlook 2023”)によると、2018年頃から海外に移住する中国人は増加している。コロナ禍で一時的に移住者は減少したものの、2022年12月、政府の“ゼロコロナ政策”の段階的解除で、中国から米国などへ移住する人が再び急増しているという。

移住を目指す人々は、富裕層から低所得層まで広い範囲にわたっているとみられる。そうした人々の中には、中国から出て新しい可能性にチャレンジする意図もあるようだ。

中国の人々による海外脱出の要因として、経済の先行きや雇用などへの懸念が高まったことがあるとみられる。不動産バブル崩壊により、中国が高い経済成長を続けることは難しくなった。IT関連など一部に少し明るい兆しもあるものの、いまのところ中国政府にはそうした分野を積極的に活かす政策がみられない。経済よりも、政治や政権維持を重視する習政権の考えはかなり強いとみられる。

今後も中国からの脱出を目指す人は増えることが想定される。海外移住に伴って資金も海外に流出し、最悪のケースでは中国の金融システムが不安定化することも考えられる。今のところ、中国政府は明確な対応策を打ち出しておらず、これから中国社会にマイナスの影響が出ることが懸念される。

■アメリカへ不法入国を試みる中国人が急増中

コロナ禍で中国政府が“ゼロコロナ政策”を実施したため、一時、人々の移動は強く制限された。そのため2020年以降、海外移住者は一時的に急減したものの、2021年以降は徐々に増加した。2023年1月にゼロコロナ政策が終了すると、海外移住は一気に加速した。

米国税関・国境警備局(CBP)のデータによると、2023年1月以降、米国への不法入国を試み摘発される中国人は5月までの間に1万728人(昨年同期比で17倍)と急増した。その多くが中国からエクアドルなどにいったん入国し、陸路でメキシコ国境を越えようとした。

富裕層の流出も勢いづいているようだ。移住や市民権の取得などを専門とするコンサルティング会社、ヘンリー・アンド・パートナーズの報告書(“Henley Private Wealth Migration Report 2023”)によると、2022年、中国を去った富裕層(100万ドル=1億4200万円以上の投資可能な資産保有者)はおよそ1万800人だった。2023年は1万3500人に増加した。

■海外に資産を持ち出し、移住するケースも

報告書によると、一定の投資を条件に永住を認める“ゴールデン・ビザ”制度を運営する国への移住を検討する中国人(含む香港)は増えた。主な地域として、欧州のマルタ、カリブ海のアンティグア・バーブーダなどを検討するケースが多いという。

中国人の富裕層は、いったん資産を海外に持ち出し、その上でより高い利得が期待できる国などに資産を分散しようとしていると考えられる。

マレーシア・ジョホール州で碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)が進めた“フォレストシティ計画”と呼ばれる不動産プロジェクトでは、人民元でマンションなどが購入できた。それは、多くの中国人富裕層にとって、政府の監視を回避して海外に資産を持ち出し、国際分散投資を実行するための有効な手段の一つに映ったはずだ。

■投資牽引型の経済運営に限界が来た

雇用など中国経済の先行き懸念は高まっている。その状況から逃れ、より多くの選択肢を確保するために海外に移り住む人は増えた。

何よりも大きいのは、不動産バブルの崩壊だ。リーマンショック後の中国では、マンション建設などの投資が増えた。それを支えに鉱工業生産や雇用機会は増えた。しかし、不動産バブル崩壊により投資牽引型の経済運営は限界だ。

足許、中国国内では不動産、地方政府傘下の“地方融資平台”と呼ばれる政府系企業、そうした企業に資金を融通した“シャドーバンク(影の銀行)”などの分野で不良債権問題が深刻である。高利回りの投資商品として需要を集めた“信託商品”の債務不履行懸念も高まった。

本来なら、中国政府は大手銀行などに公的資金を注入し、不良債権処理を進めなければならない。同時に、規制を緩和し、成長期待の高い半導体や人工知能などの分野にヒト・モノ・カネが再配分されやすい環境を整備する。

そうした経済政策が進めば、経済全体で成長期待が持ち直す可能性はある。EVや再生エネルギー利用に欠かせないバッテリー、サイバーセキュリティー技術、人工知能(AI)分野などで、中国企業などは世界トップレベルの特許件数を持つ。わが国以上に先端分野での成長志向は強いとの見方もある。

■海外投資家は習近平主席に失望している

しかし、肝心の経済政策の立案は海外投資家の失望を買うものが続いている。カントリー・ガーデンの経営破綻リスクの上昇にもかかわらず、習政権は公的資金を用いた不良債権処理を進める姿勢を示していない。

また、習政権は過度な受験競争の抑制、愛国教育の強化、民間IT先端分野における企業家の締めつけ強化など、経済のダイナミズムを減殺するような政策も進めた。若年層を中心に雇用・所得環境は追加的に悪化した。

香港では、英国の統治時代に醸成された自由な社会風土も毀損(きそん)された。2021年6月、中国政府に批判的な論調で知られた香港紙、“蘋果日報(アップル・デイリー)”は廃刊に追い込まれるなど、一国二制度体制は形骸化した。

ゼロコロナ政策は、中国の社会経済運営が、党指導部の意向によって急激に変化し、経済が急減速するリスクを世界に示した。よりよい就職先の確保、命の次に大切なお金の価値保全、自由な生き方の実現などをめざし、中国から海外に逃げだす人は急増中だ。

■職にありつけない新卒学生が大量発生する

海外に事業拠点を移す企業の増加傾向も強まった。不動産バブル崩壊による需要減少の影響は大きい。生産年齢人口の減少により労働コストが上昇したため、中国の企業はコスト削減も急がなければならない。一方、海外に進出することが難しい企業の収益力は低下し、国内の“ゾンビ企業”は増加するだろう。

今後も、中国の雇用機会は減少せざるを得ない。懸念されるのは、雇用・所得環境の厳しさが高まる中でより多くの若者が労働市場に参入することだ。中国教育省は2024年度の大学・大学院卒業者数が1179万人になるとの見通しを公表した。新卒学生の就職難の深刻化は避けられないと考えられる。

卒業式で角帽をかぶっている卒業生たちの後ろ姿
写真=iStock.com/hxdbzxy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hxdbzxy

中国政府は雇用の悪化を食い止めるために、企業に採用を増やすよう圧力をかけたが、実質的な効果は見込めない。雇用・所得環境の悪化により、デフレ圧力は高まり、個人消費、企業の設備投資の減少も避けられないだろう。

■当面ヒト・モノ・カネの流出は止まらない

そうなると、若年層を中心により良い就職の機会、自由な生き方などを目指して海外に移住しようとする人は加速度的に増加する。海外移住の増加とともに、資金も海外に流れ出す。

資金流出は人民元の下落圧力を高め、社会心理を不安定化させるだろう。それを食い止めるために、中国政府は一度に外貨と交換できる金額を制限したり、“デジタル人民元”の普及を急いだりして社会と経済に対する統制を強化しようとするはずだ。

それに反発する人は、あの手この手を使って資金を海外に持ち出そうとする。そうした観測が高まると、主要海外投資家の一部が人民元の先安観を警戒し、本土の株や債券に対する売り圧力が強まるだろう。海外投資家の売りが急増し、“トリプル安(株安、債券安、通貨安)”が鮮明となる恐れもある。本土金融市場の不安定化は、下落基調にある不動産市況を下押しし、不良債権残高の増加要因にもなりうる。実体経済の下押し圧力も強まる。

今のところ、中国政府は大手銀行などに公的資金を注入し、不良債権処理を進める考えを明確に示していない。当面、中国からヒト・モノ・カネの流出は加速し、景気低迷の懸念も一段と高まるだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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