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子供3人で「7000万円の実家」を相続するにはどうすべきか…絶対にスルーできない「遺留分の現金」というリスク

プレジデントオンライン / 2023年12月29日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

実家を相続する時はどんな点に注意すればいいのか。宅地建物取引士で相続診断士の中川祐治さんは「兄弟姉妹が共有で相続すると揉め事の種になる。かといって、1人で相続すると遺留分の支払いが必要になるので、大金の準備が必要だ」という――。

■「仲良く共有で相続」はトラブルのもと

人が亡くなると相続が発生します。このとき、その子供たち全員が納得する形で、財産を分割することができれば理想的ですが、残念ながら取り分を争って揉め事に発展するケースが少なくありません。

たとえば、子供3人で親の実家を相続する場合、3人で共有で相続しても、1人が単独相続してもトラブルがつきものです。

なぜトラブルになるのでしょうか。まずは、不動産の共有で相続(共有)したケースです。相続に限らず、不動産は共有にしないことが理想とされます。実家は平等に兄弟姉妹仲良く共同で相続してほしいという親心は分かりますが、一度共有にしてしまうと、共有者全員の同意がなければ、将来実家の売却や建て替えができないことになってしまいます。

過半数ということでもなく、全員の同意を取り付けるという点が共有不動産の難しいところになります。つまり、子供3人で相続した場合、1人でも反対者がいれば実家の売却はできません。あるいは、共有者の1人が認知症や行方不明でも売却はできません。

どうしても売却を進めたければ裁判所で一定の手続をとる必要がありますが、時間も費用もかかるため容易ではありません。このような共有のリスクを考慮し、実家を含む不動産は共有にせず、1つの不動産は1人に単独で相続させましょう。

■遺言書があれば、兄弟を黙らせられるが…

1人で相続するとなると、今度は別の問題が出てきます。例えば、親と長男家族が同居していた実家の相続の場合、同居する長男家族は当然そのまま自分が相続し住み続けるものと考えていることでしょう。

もし、長男が1人で実家を相続すると、他の兄妹は残された預金等をみんなで分けることになりますが、実家の資産価値のほうが高いことが多く、不公平だと遺産分割で揉めることになります。

そこで、長男家族は親の体調が悪くなった頃から、親に遺言書を書かせようと必死になります。内容は当然、「実家は長男に相続させる」というものです。遺言書が法律に定められた形式で作成されていれば、長男は他の兄弟姉妹から文句を言われようとも、1人で実家を相続することができるのです。

■「遺留分」が用意できないと苦労する

ここで盲点なのが、「遺留分」と言われる他の相続人の持つ強い権利の存在です。遺留分とは、遺言書があった場合でも、法定相続人に最低限保証される遺産を受け取る権利のことで、遺言書の内容が各法定相続人の法定相続分の2分の1(一部例外あり)を侵害している場合には不足分を遺留分侵害額として請求できるというものです。

この遺留分への備えが不十分だと、長男は遺言書の力で実家を相続しても、他の相続人から遺留分侵害額相当の支払いを請求された時に困ったことになります。長男に現金がなければ、せっかく相続した自宅を売却して支払いをしないといけません。これでは何のための遺言書だったのか意味がありません。

このような遺留分の対策として、①実家を相続する長男以外の兄弟姉妹に対して、少なくとも遺留分相当額の現金を相続させる、②実家を相続する長男が少なくとも遺留分相当額の保険金を受け取れる生命保険を掛ける、といった方法があります。

まとまったお金が手元になく、親の遺産も当てにならなさそうという人もいるかもしれません。その場合は、相続する実家を担保に入れて借入金を利用するといった対策があり得ます。その他にも遺留分を少なくするために、養子縁組をしたり、生前贈与をしたりという方法もありますので、困った時には早めに専門家に相談することをお勧めします。

しかし、いくら対策を万全にしたとしても、特定の1人が遺産を相続すると後にトラブルになることが多いので、その点はしっかりと認識して対応を検討しないといけません。

■実家の価値を決める「境界確認書」

相続人をだれにするかを家族で話し合い、遺留分対策などを検討したとしても、注意すべき点はまだあります。ここからは、立地や形状などの特性だけではなく、近隣との人間関係などにより土地の価値が大きく左右されることがある例をご紹介します。

代表的な例としては、お隣さんとの関係が悪く、土地の境界確認書(隣り合う土地所有者間で、双方の土地境界線の位置を取り決めたことを確認する書類)の作成に協力してもらえないような状態です。このような土地境界線が明確でない土地の場合、購入者の不安は強く、需要が減るため評価減となります。

また、土地境界線が確定しないと土地を分割することもできません。例えば60坪ほどの実家の土地を売却する場合、東京都心部ではこの土地を3区画か4区画に分轄して建売りする業者がいるため、分割(分筆)可能なら相続税評価額よりもはるかに良い価格で売却できることが多々あります。しかし、境界確定ができない場合は相続税評価額を下回ったり、最悪の場合は売却不可ということもあります。

同様に私道にだけ面した土地の場合、私道の通行や私道内の水道管などの掘削工事を無償承諾する「私道の通行掘削承諾書」を、私道の所有者全員から取得しないと売り物になりません。また、実家が借地であるケースの場合も同様で、地主さんの承諾が無ければ、借地上の実家は売却することも建て替えることもできないという事情から、地主さんとの良好な関係が土地の価値を左右します。

このように不動産の価値は他人との関係にも影響を受ける場合があることが分かりましたが、相続税評価額にはこれらが反映されないという落とし穴があるのです。

■「実家の価値」を自分で計算することはできるか

とはいえ、そのような事情は抜きとして、実家の価値が知りたいと考えた時、ザックリと計算することはできます。

方法としては、インターネットで近隣の不動産の取引事例(国土交通省:土地総合情報システム)や相続税路線価(国税庁:路線価図)で土地のm2単価が簡単に分かりますので、m2単価に土地の面積を掛ければザックリと土地価格の目安が分かります。

住宅街
写真=iStock.com/Orthosie
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Orthosie

しかし、相続の際に不動産をどのように分けるのか、相続税の納税用の売却候補地の選定など相続税対策を検討する場合、必ず不動産業者に相談することをお勧めします。繰り返しますが、相続税評価額や上記のようなザックリとした目安額には、各不動産が抱える前述の問題点を反映し切れていないという落とし穴があるからです。

通常であれば、相続税評価額よりも高く売却できることが多いのですが、前述したような問題を抱えている場合、評価額を下回ってしまう場合もあり、高額な相続税を支払うための納税用に駐車場を準備していたのに、隣との境界確定ができず、想定した金額で売却できなくて困ったという例も実際にあるのです。実際にいくらで売れるのは、相続税評価額とは別の問題なのです。

■都内の木造3階建てを相続する場合は…

具体的にイメージしていただくために、私のところに相談に来たAさん(30代女性)の実家を例に相続について考えていきましょう。

・東京都調布市の住宅地にある築11年の木造3階建て
・宅地面積170m2、延べ床面積140m2
・住んでいるのは両親のみで、子供3人は別居

もしAさんの父親が亡くなった場合、母親が実家の土地建物を相続することに兄弟姉妹に異論はないそうで、また、相続税も小規模宅地等の特例が使えそうなので、相続税の納税も必要なさそうです。さて、その後の母親からの相続(二次相続)の時のほうがトラブルになる可能性があるので、Aさん家族に二次相続が生じた場合の相続税を考えてみましょう。

■3mの擁壁が土地の価値を大きく左右する

まず、基礎控除ですが、3000万円と相続人が3名なので600万円×3=1800万円の合計4800万円となります。次に実家の土地建物の相続税評価額を計算すると、約6800万円とそれだけで基礎控除を超えてしまいます。さらに、実家に同居する兄弟姉妹はいないなど小規模宅地等の特例も使えないようなので、相続税の納税が生じるかと思います。

このAさんのご実家ですが、住宅街のなだらかな坂の途中に築浅のお洒落な木造の実家が建っています。前面の公道道路もトラックの通行が可能なほど幅員もあります。しかし、前面道路と敷地の間に3m程の高低差がありますので、建て替えをする場合はこの高低差を支えるコンクリートの擁壁が再利用できるかどうかで土地の価値が大きく変わりそうです。

家の模型を観察する男性
写真=iStock.com/years
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/years

その他には隣との境界トラブルなども無いようなので、大きな減額になる要因はなさそうです。以上から、実際に実家を売却できる金額の目安は近隣の取引事例等から7000万円程になるのではないかと見込まれます。

■兄弟の遺留分として2333万円の準備が必要

では、もし、Aさんが1人でご実家の土地建物を相続しようとした場合、どのような対応が必要になるかを考えてみましょう。遺産が実家不動産のみと仮定した場合、法定相続割合で遺産分割しようとすると、Aさんは他の兄弟姉妹の法定相続分(3分の2)に相当する代償金を支払う必要があり、7000万円の3分の2に相当する約4666万円もの大金の準備が必要となります。

そこで、実家をAさんに相続させる旨の遺言書を母親に作成してもらうことが考えられますが、その場合でも、他の相続人の遺留分(他の兄弟それぞれ6分の1ずつ)を侵害することになるので、Aさんは他の相続人に対し遺留分侵害額相当のお金を支払う必要があり、7000万円の3分の1(6分の1+6分の1)に相当する約2333万円が必要となります。

このようなことから、やはり1人が実家を相続することは大変なことがわかります。実家を使いたい、残したい気持ちがあっても、他の相続人に一定の支払いを行う覚悟が必要ということなのです。

■年末年始は財産の全容を確認するチャンス

相続財産は実家の土地家屋だけではありません。不動産から預貯金、株、国債、投資信託、保険などのほか借金までのすべてが対象となりますので、それら全てを親から聞き出すなどして把握しないといけません。

しかし、何の前触れもなく、いきなり財産を聞き出すのはハードルが高く、不信感を与えてしまうかもしれません。年末年始やお盆などで家族が集まる時期に、断捨離、エンディングノートなどの話を少しずつ無理なく取り入れながら自然と相続の話がするのが良いかと思います。

そうした話の中で、前述の境界確認書をお隣さんと過去に取り交わしたことがあるか、実家の前面道路が私道なら私道の通行掘削承諾書があるか、借地なら土地賃貸借契約書や地主さんのことなども聞いておくと良いでしょう。

実家を売却する場合は、さらに書類の準備が必要です。物件にもよりますが、一戸建ての場合は、①土地建物の権利証(登記識別情報通知)②所有者の印鑑証明書③印鑑登録した印鑑(実印)④評価証明書が主なものとなります。

①の権利証は再発行できないものなので、万が一紛失した場合は司法書士さんに費用(5万円~10万円目安)を支払って証明書に準じた書類を発行してもらうといった手続きが必要です。また、前述の境界確認書や私道の通行掘削承諾書も探しておくと良いでしょう。

■親が元気なうちに話し合っておくべきこと

相続で揉めないためにはどう備えたら良いのか。来るべき相続に備えてどのような動きをするか。まずは、現状で我が家では相続税が課税されそうなのかどうなのかを知ることです。

もし、不明な場合や不動産を多く所有されているような場合は、税理士さんや相続の専門家に相談すると良いでしょう。

次に、不動産業者に相談して、実家など不動産について実際に売却可能な金額の査定を依頼するとともに、実家が抱える問題点を洗い出す必要があります。そして、相続の専門家や不動産業者を交えて、家族みんなで問題点の解消やどのように相続を迎えていくのかをじっくり話し合われると良いかと思います。

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中川 祐治(なかがわ・ゆうじ)
宅地建物取引士、相続診断士
株式会社アバンダンス代表取締役。1979年生まれ。高校卒業後、建設業界に地主を主な顧客とした土地活用の提案営業に従事。2006年、底地専門の不動産会社に転じ、地主に寄り添った底地売買や相続対策の経験を積む。2011年、底地と借地に特化した不動産会社アバンダンスを設立。柔軟なコーディネートに定評があり、税理士などの士業事務所や大手ハウスメーカーと連携し、様々な不動産案件に対応している。2013年、税理士などの士業とワンストップで相続対策をコーディネートする、あいか相続対策研究所株式会社を設立。現在は、地主・借地人向けセミナーのほか、金融機関の行員向け、大手ハウスメーカーや保険会社の職員向けセミナーや勉強会も行っている。著書に『底地・借地で困ったときに最初に読む本』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

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(宅地建物取引士、相続診断士 中川 祐治)

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