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「カネのためにしぶしぶ働く」は間違っている…マルクスが『資本論』で"自己実現論"を説いた理由

プレジデントオンライン / 2024年1月8日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuto photographer

資本主義の最大の問題点とは何か。カール・マルクスは『資本論』で「本来の労働とは自己実現のためのものであって、賃金を得るためのものではない」と説いた。新刊『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0』(Gakken)からその思想を紹介しよう――。

※本稿は、富増章成『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0 現代人の抱えるモヤモヤ、もしも哲学者にディベートでぶつけたらどうなる?』(Gakken)の一部を再編集したものです。

■「資本論」が今再び注目を集めている

近年、資本主義の限界について指摘する声が多く上がっています。「脱成長論」とともにマルクスの「資本論」が注目を集めており、YouTubeや書籍で一度は目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

ただ、「そもそもマルクスはどんなことを唱えた人なの?」「社会主義って何? 資本主義とどちらがいいの?」と疑問に思う方もいらっしゃると思います。

そこでここでは、「もしもマルクスとバリバリの資本主義者が《資本主義の問題点》について話したらどうなる?」という切り口で、資本主義の功罪やマルクスの主張を簡単にご紹介します。「資本主義や資本論についてサクッと知りたい!」と思う方はぜひご一読ください。

現代の資本主義は、問題がある?
『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0 現代人の抱えるモヤモヤ、もしも哲学者にディベートでぶつけたらどうなる?』(Gakken)より

■資本主義が発展すればするほど格差は拡大し続ける

カール・マルクス(1818~1883)…ドイツの哲学者、経済学者。エンゲルスの協力により、科学的社会主義(マルクス主義)を確立。著書『資本論』。

【バリバリ資本主義者】最近、景気がいいとはあまりいえないようですね。物価の変動も激しいですし。もっと、資本主義経済を刺激する必要があると思いますよ。

【マルクス】でも私の理論によれば、資本主義が発展すればするほど、格差が拡大し続けます。少子化も伴って、生産性はより低くなり、貧富の差がますます拡大するんじゃないでしょうか。今こそ、社会主義の考え方を参考にするべきだと思いますよ。

KEYWORD 社会主義
社会主義とは、貧富の差のある不平等な資本主義に対抗し、生産手段(土地や工場など)を国家所有として、平等で公平な社会を目指す思想である。

【バリバリ資本主義者】そうとも限りませんよ。日本だって、これから半導体産業や人工知能(AI)、ロボット、電気自動車(EV)などの分野ではまだまだ見込みがあります。少子化で働く人が減っても、その分をAIとロボットが補填すればいいわけです。これからも資本主義は進歩し続けのです。もうグローバル資本主義の世界だと思いますよ。

KEYWORD グローバル資本主義
現代では世界の市場は、社会主義経済と資本主義経済という対立構造がなくなり、世界の市場がひとつになっているという考え方を、「グローバル資本主義」という。
これに対して、経済のグローバル化が世界の貧富の差をより拡大させ、地球環境破壊ももたらし、地域の固有文化を破壊していくとする反グローバリズムという考え方もある。

【マルクス】しかし実際は、そのテクノロジーの方面で、現代の日本という国は世界から立ち遅れているという指摘もあるようです。それにAIの発展で多くの労働者を必要としなくなれば、さらに労働者の余剰を生み出す可能性もあります。もう貪欲な成長は諦めましょうよ。それより、貧富の差を是正して、みんなが幸せにゆったりと生きるのが最優先だと思います。

■経済的なピークに達すれば反動が起きるのは資本主義の宿命

【バリバリ資本主義者】たとえば、日本ではバブル崩壊以降に景気が停滞してしまいましたが、これは国家が規制を厳しくしたことが原因という見方もあります。自由主義経済に、社会主義的な介入をしない方がいいのではないでしょうか。

【マルクス】そうですかね。バブルというのは、株や土地に投機して、利益を得る、つまり働かないで儲けるというよくない考えが表面化したものだと思います。バブル崩壊の原因は諸説ありますが、経済的なピークに達すると、その反動が起こることは資本主義の宿命だともいえます。自己実現のために働いて物を生産し、足るを知るという質素な哲学がないからバブルが発生するのです。

【バリバリ資本主義者】いやいや、人間は欲望をもっているから、それを満たすことが大切なんだと思いますよ。欲望があるからこそ、新しいものをつくれる。新しいものをつくるから、また新たな欲望が生じる。そうやって自己実現していくという過程が成長なのだと思います。資本主義社会における人間の生きがいは、経済成長と言い換えてもいいと思いますよ。

■社会主義における理想は「労働=生きがい」だった

【マルクス】その考えが残っているから、あなたの時代に矛盾が露呈してきたのではないでしょうか。そもそも社会主義の哲学では、人がそれぞれ自分の才能を適材適所で活かして、「労働=生きがい」とすることが理想だったのです。でも、資本主義では自分が社会の部品のようになって、嫌な仕事でも賃金を得るために働き続けなければなりません。これは人間が疎外されているということです。こういうことが、現代になってはっきりとわかってきたのだと思いませんか。

KEYWORD 人間が疎外されている(人間疎外)
人間疎外とは、資本主義社会の巨大化・複雑化によって、人間が機械を構成する部品のような存在となってしまい、本来の人間らしさがなくなってしまうことをいう。社会主義の哲学によれば、人々が自己実現としての労働(好きな仕事をすること)を行えば、自分自身の本来性が取り戻され、人間疎外は解消されるという。

【バリバリ資本主義者】だったら、今の日本はだんだん質素になってきていますけど、それでいいんでしょうか? 経済というのは、心理的な作用がとても強く影響するものです。少子化と高齢化に加えて、欲望までなくして無気力化が進んだら、日本は終わってしまうかもしれません。

【マルクス】でも、しょうがないですね。資本主義は欲望を煽りすぎて、余計な仕事とモノをつくりすぎたのです。我々は「労働は賃金を得るためのものだ」という非本来的な姿を反省するべきです。労働は自己実現なのであって、金の奴隷となるためのものではありません。最近では「好きなことをやって生きていく」という目標を掲げる人も多いようですが、これを実現するには、社会主義こそが向いているのです。

■「人間は能力に応じて働き、能力に応じて与えられる」

【バリバリ資本主義者】好きなことやって生きていくのは資本主義のほうがやりやすいと思うんですけどね。資本主義では欲望がエネルギーとなって、創造性を高め、新しい技術を開発してどんどんやりたいこともできるようになりますからね。

【マルクス】でも私の分析では、資本主義とは、土地や工場などの生産手段を資本家が所有し、自分たちの利益追求のために労働者を働かせて生産を行う経済体制です。だから資本主義とは結局、企業側が儲かる仕組みであって、労働者は資本家に搾取され続けるのです。今「好きなことで生きている」というような人々も、結局は労働者ではなく資本家に寄っていると思えますね。労働者はみんな幸せそうに働いていますか?

【バリバリ資本主義者】それは、働くことよりも遊ぶことを優先している人が多いからだと思いますね。だから、仕事は苦痛で、仕事中も仕事が終わったあとのことを考えている。働くことを遊びだと思うくらいにしなければダメなんだと思いますよ。

【マルクス】働くことを遊びにするというのは、どちらかというと、私の唱えた社会主義社会の理想です。それに、お金には替えられない大切なものもあるでしょう。家族と過ごす、ゆっくり休む、スポーツをするなど。金儲けで成長することだけを考えていたら、世の中おかしくなってしまいます。

【バリバリ資本主義者】ですが、だからといって社会主義はどうなんですかね。社会主義体制のなかでそこそこ働いて、資本主義レベルの新しい製品が大量に生まれるというのは考え難いですね。結局ソ連なんかも上手くいかなかったわけでしょう。

【マルクス】資本主義が高度に発達した段階で、社会主義段階となり、その後に共産化すればいいのだと思いますよ。ソ連の場合は、十分に資本主義が育っていないうちに社会主義段階となり、共産主義を目指していたから頓挫したという説もあります。

POINT 社会主義と共産主義
マルクス主義(ソ連のマルクス=レーニン主義)では、社会主義社会は共産主義社会の前段階であるとされる。
社会主義社会では、「人間は能力に応じて働き、能力に応じて与えられる」というシステムをもつ。これがより進歩した段階が共産主義社会であり、「人間は能力に応じて働き、必要に応じて与えられる」という理想社会であるとされた。

■資本主義と社会主義の行く末はどうなるか

【バリバリ資本主義者】しかし、社会主義国家である中華人民共和国も、結局は資本主義を取り入れているようですが…。

【マルクス】それは、理想的な国家になってきているという意味かもしれません。資本主義が高度化した現在こそ、国家が富裕層のお金を恵まれない人たちに再分配することで、格差の解消が進むでしょう。

【バリバリ資本主義者】しかし、このまま資本主義のもとでさらにテクノロジーを成長させることで、格差や環境の問題も是正できると思います。

【マルクス】そうですか。そうなるといいんですが……。ですが私は、その前に資本主義の限界が来て、社会が立ち行かなくなると予言しておきますよ。

【バリバリ資本主義者】しかし、最近ではAIも発達していますからね。2029年には人間同じレベルの知能をもったAIが出現し、シンギュラリティが起こるといわれています。そうなれば、少子化や格差など、人間だけでは解決が難しいかもしれない問題も補われ、みんな好きなことをやってモノが満ちあふれるネオ資本主義社会が生まれると思います。

タブレットを使用してロボットアームを操作するエンジニア
写真=iStock.com/gorodenkoff
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gorodenkoff

【マルクス】なるほど、2029年ですか。もしかすると、資本主義と社会主義がテクノロジーで融合した、希望ある世界になっているのかもしれません。では、そのときまた会いましょう。

■限界まで働かなくてはならない社会で助け合いは不可能

ドイツの哲学者・経済学者であるマルクスは、ヘーゲルの歴史における弁証法を応用して、世界史が原始共産制・古代奴隷制・封建制・資本主義制・社会主義制の5段階で発展すると考えていました。

富増章成『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0 現代人の抱えるモヤモヤ、もしも哲学者にディベートでぶつけたらどうなる?』(Gakken)
富増章成『21世紀を生きる現代人のための哲学入門2.0 現代人の抱えるモヤモヤ、もしも哲学者にディベートでぶつけたらどうなる?』(Gakken)

世界は産業革命によって資本主義制の段階に入りました。この発展に伴って、多くの富が生産される一方で、その限界も指摘されています。実際、現代の競争社会のなかで、働く意味を見失ってしまう人も少なくないのではないでしょうか? マルクスは、このような労働の苦しみの原因は資本主義社会の仕組みにあると考えたのです。

マルクスとエンゲルスに影響を与えたドイツの哲学者フォイエルバッハは、人間が「類的存在」であるとします。「類的存在」とは、物質の生産と交換によって、互いに助け合っていく存在ということです。

しかし資本主義社会では、その理想が実現していません。マルクスによると、資本主義社会においてはあらゆる生産物は商品となり、労働力までが商品化されます。つまり、労働者は自分の労働力を切り売りして、身を粉にして働かなければならないということです。このような社会では、人と人が助け合っていくどころではありません。人は給料をもらうために必死に働きますので、自分のことで精一杯なのが普通でしょう。

■自分が機械の部品になったように感じる「労働疎外」

またマルクスは、資本主義社会の「分業」のなかで、労働者の個性が消え去ると考えました。労働者は「誰がつくったのか」がわからない匿名の生産物を大量生産することになると唱えたのです。

そんな状態で働いていると、自分が機械の部品のような気分になるかもしれません。すると、生産物がよそよそしく自分の手を離れていき、「労働から疎外されている」状態に陥ります。マルクスはこれを「労働疎外」と呼び、自己実現を目指す本来の人間の姿から、大きくかけ離れていると考えました。

さらにマルクスは、資本主義では人間対人間を中心とする社会関係がゆがめられて、モノとモノとの関係が社会の中心になると唱え、これを「物神化」と呼びました。これが進むと、まるでモノを手に入れるための貨幣そのものが価値をもつかのような錯覚が生じるとされます。

このように金・モノを万能なものとして崇拝する態度は、物神的性格(フェティシズム的性格)と呼ばれます。資本家たちはこれにとりつかれ、金を貯めるために労働者をこきつかうのです。

マルクスは、社会主義によって、このように労働者が苦しむ状態を救おうとしました。資本家と労働者の対立が消え、階級支配のための政治権力もなくなる社会を目指して運動をしたのです。

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富増 章成(とます・あきなり)
予備校講師
中央大学文学部哲学科卒業後、上智大学神学部で学ぶ。河合塾などの大手予備校で「日本史」「倫理」「現代社会」などを担当。著書に『超訳 哲学者図鑑』(かんき出版)、『読破できない難解な本がわかる本』(ダイヤモンド社)、『コウペンちゃんとおべんきょうする「幸福論」』(KADOKAWA)ほか。

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(予備校講師 富増 章成)

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