なぜ名経営者は「マラソン、筋トレ、サウナ」を欠かさないのか…「最高のひらめき」を得るためにやるべきこと
プレジデントオンライン / 2024年1月12日 13時15分
※本稿は、山﨑晴太郎『余白思考』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■インスピレーションを否定していい結果は生まれない
僕は、どんな決定も、なるべく即座に行うことにしています。それには理由があります。
一つは、単純に、悩む時間がもったいないから。「悩んで時間をかけて決めたほうがよい結論が出せる」「多角的な視点から物事を検証したほうがいい結論になる」という決断の方法論を、僕はあまり信用していません。それより、最初のインスピレーションを信じ、そのインスピレーションの精度を上げていくほうが、考え方としてシンプルです。
最初に「何かおかしいな」「ちょっとひっかかるな」と感じたとき、たしかに「よくよく話を聞いてみれば、それもありかも」と説得され、最初のインスピレーションと異なる判断をすることがあります。
でも、こういうときに最初のインスピレーションを否定して、いい結果になったためしがありません。また、最初に自分のインスピレーションを否定しているので、その延長で判断が必要な場面でも、その精度は徐々にずれていく気がします。
というわけで、判断の精度を上げるために、資料を読み込んだり、情報収集したりということには時間をかけるけれども、いざ、判断するとなれば、決断は一瞬。それが僕には性(しょう)に合っていると思います。
■即座にいい判断をするために必要なのが「余白」
決定を即座にするための必要条件が、余白です。即座にいい判断をするためには、自分の中に余白を持っておくこと。
それは、インスピレーションを最大限に働かせるためです。
僕たちは、日ごろ、様々な先入観や偏見に触れています。自分では影響を受けていないつもりでも、そもそもの判断をする人が、無自覚に偏ったところから物事を見ている、ということがよくあります。
特に、余白なくギチギチの状況下では、インスピレーションが正しく働くことはまずありません。思考のゲシュタルト崩壊のようなことが起こってしまって、目の前のものの本質をつかめなくなるからです。
■ニュートラルになるための儀式
いいインスピレーションの源泉となるのがニュートラルさ。そのために僕がよくやるのは、ジャンプです。比喩(ひゆ)ではなくて、本物のジャンプ。
何か判断を求められて、「今ちょっと余白が足りないかも」「他のことで頭がいっぱいだな」と思ったら、実際に、ぴょんぴょんと跳ねる。ジャンプすることで身体の軸をニュートラルな位置に戻すことができます。スポーツをする人は、身体のバランスを戻すためにジャンプしますが、それとまったく一緒。心身一体。不思議なもので、心は身体についてきます。
もう一つ、これは仕事の合間にはできないのですが、習慣として個人的におすすめなのが、お風呂でお湯に潜もぐること。「空気が読めない」という言葉もあるように、社会性や相対性は空気とともに僕たちにまとわりついています。お風呂に潜ると、身体の周辺から空気が消えて水につつまれ、余計なものが全部はがれていく、そういう実感があります。僕自身は単純にお風呂やプールが好きということもあるのですが、毎日朝晩2回、お風呂にお湯をためて頭の先まで潜っています。
お湯に潜ることで空気を遮断するというのも、自分と社会の間に余白をはさむ作業になっているのかもしれません。
名経営者といわれる人の中には、ランニングやジムでの筋トレ、サウナやトライアスロンなどを趣味にしている人も多いと聞きます。共通しているのは、目の前のことに集中し「思考をクリアにする」ということ。つまり、「無心になる」ということです。
お風呂に潜ったりジャンプしたりすることには、身体を動かすことやサウナと共通して、無心になり、余計なものを落とす効果があります。
■怒っているときにいい判断はできない
これらはすべて、本質的でシンプルな判断を可能にするために、自分をリセットする手段です。
それでもニュートラルになれないときもあります。たとえば、何かにすごく怒っていたり、疲れていたりという場面です。そういうニュートラルじゃないときには、結論は出さないことが大切です。
お酒を飲みながら出す結論なんて、ろくなものではありません。会食で何か約束するのもやめておきましょう。盛り上がって意気投合するまでにして、実際に結論を出すのは、ニュートラルな状態になるまで待ったほうがいい。
また、「今すぐ決めてください」と迫られると「それは脅(おど)しだから無理」と僕なんかは言いたくなります。決断は即座に出すべきだと思うけれど、それはあくまでも自発的な行為でありたい。相手から迫られた決断には、インスピレーションが働きにくいものです。
決断は自分自身の余白の中で、自分が主体のタイミングで行うことが大切です。
■他人に任せるときの許容範囲を決めておく
経営者として、そして他人に仕事をまかせる立場の人間として、僕が決めているポリシーがあります。
それは、
・ 常に最高のパフォーマンスを求めること。
その一方、
・ 最低の場合を想定してリスクヘッジをしておくこと。
この両方を同時に持つことが重要で、これができないとマネジメントはうまくいきません。最高のケースだけしか考えないのはさすがに楽観的すぎますし、最低の場合のヘッジばかりしているのでは進歩もイノベーションも起こらない。それではまったく面白くありません。
この二つを両極端に「張る」のが、決断の鉄則です。どこまでその距離を広げられるか。ここが、その人の器うつわが問われる部分です。
最高と最低を同時に視野に入れる。そしてその間は余白として曖昧に、他者が介在できる領域にしておく。経営の場面に限らず、あらゆる決断において、とても重要です。
最高と最低のラインを決めると、当然、すべての決定はこの範囲の中で行われることになります。これは、舞台の右の袖から左の袖までの長さと奥行き、そして天井の高さまでが決まった、ということ。その舞台から外れさえしなければ、好きなように行動していいよ、と舞台に立った人たちに決定権をゆだねることができます。
■常に最高を目指すのは息苦しい
経営者である僕が考えるべきことは、舞台をつくること。
そして、それはできるだけ大きなものにしたい。すぐに転がり落ちてしまうような、あるいは姿が隠れてしまうような小さな舞台では、のびのびパフォーマンスができません。メンバーには「(この範囲の中なら)好きに決めて動いていいよ」と伝え、「それはダメ」という言葉はなるべく言いたくない。
そのために、ダメなことがほとんどないという舞台、つまり前提をつくる。それが、最高と最低のラインをなるべく離して、その間に余白地帯をつくるということです。
これは、経営だけじゃなく人生においても同様なのではないかと思っています。最高と最低のラインの間を広く持つだけで、自分自身の動ける範囲も自由度も格段に広がります。
常に最高だけを追い求めるというのは、一見、とてもかっこいいことのように思えますが、僕にとっては、それは息苦しい。絶対にやらなくてはいけないという一点を決めて、計画をつくり、毎日努力してそこに向かって突き進むこともすてきだと思いますが、やりたいことがその都度変わるような寄り道の多い生き方も楽しいと思いませんか。
■自由に働けて、出入り自由な会社をつくる
僕の正直な気持ちをいえば、なるべく楽しいことだけをやって生きていきたい。なるべくストレスなく自然体で過ごしていきたい。そのためには、できるだけ大きな水槽、つまり余白があったほうが、自分もみんなも自由に泳ぐことができます。
泳ぐ方向も、「こちらを目指せ!」という矢印があるわけではなく、水槽の中でさえあればどちらを向いて泳いでもOK。結果的に最高のパフォーマンスにつながれば、それでいいのです。
もちろん、中には「水槽から飛び出たい」という人もいます。その場合は、組織であれば、「それは今の組織にいないほうがいいんじゃない?」というだけの話。どうぞ飛び出てください。
水槽、つまり会社は、あくまでも器です。個人が社会と戦うための器。自分らしく戦うために、最大限利用すべきだと思いますし、その器の中では泳ぎにくいと感じるのであれば、無理せず出ていくべきだと思います。
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アートディレクター、アーティスト
株式会社セイタロウデザイン代表。3児の父。株式会社JMC(東証グロース)取締役兼CDO。株式会社プラゴCDO。ブランディングを中心に、グラフィック、WEB・空間・プロダクトなどのアートディレクションを手がける。「社会はデザインで変えることができる」という信念のもと、各省庁や企業と連携し、様々な社会問題をデザインの力で解決している。グッドデザイン賞金賞や日経MJ広告賞最優秀賞など、国内外の受賞歴多数。各デザインコンペ審査委員や省庁有識者委員を歴任。2018年より国外を中心に現代アーティストとしての活動を開始。TBS「情報7daysニュースキャスター」、日本テレビ「真相報道 バンキシャ!」にコメンテーターとして出演。主なプロジェクトに、東京2020オリンピック・パラリンピック表彰式、旧奈良監獄利活用基本構想、JR西日本、Starbucks Coffee Japan、広瀬香美、代官山ASOなど。
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(アートディレクター、アーティスト 山﨑 晴太郎)
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