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牛乳がご飯と合わないのはわかっています…それでも私たちが「給食に牛乳」をかたくなに続けている理由

プレジデントオンライン / 2024年1月12日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Milatas

なぜ給食の飲み物は牛乳なのか。管理栄養士の松丸奨さんは「文部科学省が定める『学校給食摂取基準』のカルシウム基準値を満たすためには、どうしても牛乳を添える必要がある」という――。(第2回)

※本稿は、松丸奨『給食の謎』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

■「献立作りのルール」に書かれていること

献立の根拠となるルールとして、文部科学省が定める「学校給食摂取基準」があります。厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準」の基準値を参考に作成されたものです。

「学校給食摂取基準」は「学校給食実施基準」の一部であり、その「学校給食実施基準」に従いなさい、ということが学校給食法の第八条に書かれています。ちょっとややこしいですね。

第八条(中略)2 学校給食を実施する義務教育諸学校の設置者は、学校給食実施基準に照らして適切な学校給食の実施に努めるものとする。 「学校給食法」

ただし、「学校給食摂取基準」の値は絶対にこの通りにしなさいというものではなく、あくまで目安として、自治体ごとに弾力的な運用をしてよいということになっています。

献立作成に大きく関連するルールはほかにもあります。たとえば、令和3(2021)年2月に通知された「学校給食実施基準の一部改正について」では、このようなことが書かれています。

各地域の実情や家庭における食生活の実態把握の上、日本型食生活の実践、我が国の伝統的な食文化の継承について十分配慮すること。さらに、「食事状況調査」の結果によれば、学校給食のない日はカルシウム不足が顕著であり、カルシウム摂取に効果的である牛乳等についての使用に配慮すること。 「学校給食実施基準の一部改正について」文部科学省(令和3年2月12日)

つまり、「和食の献立をしっかり続けていくように」ということです。栄養価や食品摂取量が完璧でも、洋風や中華風の献立ばかりに偏らないよう気を遣わなければなりません。

■和食と牛乳が合わないのはわかっている

子どもたちの好みに合わせると、パンやパスタやラーメンなどの洋食や中華を多用したくなりますが、この基準があるため、和食を中心に提供する必要がある、というわけです。言わずもがなですが、和食はごはんを中心にした構成です。

主食、主菜、副菜、汁物の配置で、旬の食材を楽しむことを大切にし、かつおぶしや昆布から出汁を取り、旨味を出します。豊富な発酵食品や乾物を使用し、時には行事食も取り入れます。給食で美味しい和食を提供することを、国も地方自治体も重要であると捉えているのです。

また、引用箇所にあるように、カルシウム不足を解消するために牛乳を活用することが求められています。

「牛乳は和食に合わない」「給食ではなぜ牛乳を毎日出すのか」、そんなことがよく話題にのぼります。

私たち栄養士も、和食と牛乳が合わないのはわかっています。しかし「学校給食摂取基準」のカルシウム値、「学校給食の標準食品構成表」で規定される牛乳の必要量、どちらも飲用牛乳がなくては達成できないのです。

給食のない日のカルシウム摂取量が、推定平均必要量以下を示す小学生は60~70%、中学生では70%以上も存在するという調査結果*1もあります。

*1――「学校給食摂取基準の策定について(報告)」学校給食における児童生徒の食事摂取基準策定に関する調査研究協力者会議(平成23年3月)

■牛乳の代わりは小松菜1束

戦後の学校給食のスタンダードとなった「完全給食」は、主食・おかず・ミルクで構成されると第3章でご紹介しました。

学校給食法の施行時に作られた「学校給食法施行規則」にも、「完全給食」の内容はこのように定義されています。

第一条(中略)2 完全給食とは、給食内容がパン又は米飯(これらに準ずる小麦粉食品、米加工食品その他の食品を含む。)、ミルク及びおかずである給食をいう。 「学校給食法施行規則」(昭和29年文部省令第24号)

昭和29(1954)年の学校給食法施行段階で、そもそもミルク(当時は脱脂粉乳)が含まれているのが完全給食ですから、栄養素や食品摂取量の基準値は、牛乳を飲むことを前提として算出されているのです。

「栄養価を満たすためなら、ほかの食材でカルシウムを摂ればいいのでは?」と思われるかもしれません。しかし栄養計算をしてみると、たとえば小松菜なら毎日1束ぶんを食べなくては足りません。ちりめんじゃこなら1パックです。

小松菜
写真=iStock.com/Hanasaki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hanasaki

小松菜を一人に1束では予算がパンクしますし、ちりめんじゃこ1パックでは、タンパク質や塩分が一瞬で基準値をオーバーします。そもそもそんなに食べられないでしょう。どうやっても牛乳がなくては成立しない、牛乳ありきの摂取基準になっているのです。

■牛乳なしの日があってもよいのでは

米どころで知られるある地域では、和食と牛乳は合わないという考えから、「2時間目と3時間目の間の20分休みに牛乳を飲んで、給食の時間は水を飲む」という取り組みをしたことがありました。しかし、急いで牛乳を飲んで、すぐに校庭や体育館で全力で遊ぶため、吐いてしまう子もいたそうです。

また「そもそもどこで牛乳を飲むのか」「飲む前の手洗いは?」「飲んだあとにどうやって片付けるのか」「休み時間に行なうには忙しすぎる」などの意見が噴出しました。

牛乳の温度管理の問題も懸念されますし、衛生的な観点からも運用が難しかったようです。この取り組みは、現在廃止となっています。

そもそも給食のルールは、学校給食法を踏まえつつ、細部は自治体で決めてよいことになっているのは前述の通りです。そこで、文京区の栄養士が集まる会議で、「思いきって牛乳なしの日を作ってもよいのでは?」と議論をしたことがあります。

それで何かが大きく変わったわけではないのですが、区としても和食給食の推進を行なっていたこともあり、年に一度、11月24日「いい日本食の日」に区内すべての公立小中学校で、牛乳の代わりに日本茶を提供するということになりました。

ただし、急須でいれるわけではなく、パック入りの緑茶をストローで飲むというスタイルです。「これでは日本茶を出す意味がないんじゃない?」という意見もあり、提供日を増やすことにはなっていません。

給食の牛乳は、今が過渡期なのかもしれません。

■なぜ給食に地域差があるのか

みなさんは給食で「冷やし中華」や「冷やしうどん」など、冷たい麺類を食べたことがありますか? 「夏の定番だった」と答える方がいらっしゃるかもしれません。しかし、私の勤務する文京区の学校では冷たい麺類の提供は禁止されています。

松丸奨『給食の謎』(幻冬舎新書)
松丸奨『給食の謎』(幻冬舎新書)

その理由は「温度を下げる(冷ます)間に食中毒のリスクがある」というものです。給食について「そんな給食のメニュー、自分の地域では出なかった」「私の学校ではよく出ていたよ」という話で盛り上がることがありますが、その地域差は、自治体の定める安全基準の差に起因している場合もあるのです。

ある小学校のサバから腸炎ビブリオという食中毒菌が検出された場合、その自治体内の学校すべてでサバの使用が少なくとも数年は禁止になる、ということがよくあります。

たとえ契約している水産加工業者が違っていたとしても、「念のために」というわけです。

川や道路を挟んだだけの近い距離であっても、県境や市境など行政区分が違えば「東側の地域は給食でサバが出る」「西側の地域では出ない」という一見不可解な現象が起こるのは、このような理由からです。

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松丸 奨(まつまる・すすむ)
管理栄養士、栄養教諭
1983年千葉県生まれ。専門学校卒業後、栄養士として千葉県内の市立病院に勤務。2009年より、東京都の小学校で学校栄養士として勤務。給食の献立作成や調理指導、食育の授業などを行っている。2013年には、実際に提供されている給食の美味しさなどを競う「全国学校給食甲子園」(第8回・応募総数2266校)で優勝。フジテレビ系ドラマ『Chef~三ツ星の給食~』(2016年)で給食の監修・調理指導を担当。日本テレビ系「世界一受けたい授業」をはじめ、メディア出演も多数。著書に、最新刊『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎新書)のほか、『給食が教えてくれたこと』(くもん出版)、『日本一の給食メシ 栄養満点3ステップ簡単レシピ100』(光文社)、『子どもがすくすく育つ 日本一の給食レシピ』(講談社)などがある。

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(管理栄養士、栄養教諭 松丸 奨)

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