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家賃が高すぎて借り手がいない…カナダの67階建てタワマンが不気味な「ゴーストホテル」に化したワケ

プレジデントオンライン / 2024年1月5日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/A&J Fotos

■世界中から民泊施設がどんどん消えている

世界の街角からAirbnbなどのいわゆる民泊が、一つまたひとつと姿を消している。無造作に増えすぎた民泊施設は、現地の住宅供給を圧迫し、家賃高騰で地元の人々が住む場所を失う状況を作り出してしまった。

また、一般の民家に国内外から観光客が押し寄せることで、本来住宅地では起き得ないはずの問題が発生。施設への不当な居座りや銃による脅しへの発展など、数々の問題を引き起こしている。

天井知らずの住宅価格を問題視したニューヨーク市では9月5日、新規制(地方法18条)を施行。短期ステイ用のリスティング(物件)をすべて届け出による許可制とした。

無許可で短期ステイを提供したホストは最大1500ドル(約22万5000円)、再犯の場合は最大5000ドル(約75万円)の罰金が課される。複合用途の建築物では認められづらいなど審査要件があり、事実上の「Airbnb禁止法」と受け止められている。

従来も市内では、30日未満の短期ステイ用途で部屋を提供する場合、ホストの同居が義務づけられていた。ゲストやホストの部屋に鍵を設けることは禁止され、完全にルームシェアのような形態となる。一度に2人以上のゲストが滞在することも認められない。

■ニューヨークでは許可制に変わり7割が消えた

しかし、不正が横行していた。ニューヨーク・タイムズ紙によると市当局は、短期ステイ用の違法なリスティングがニューヨーク市内だけで1万800件存在すると推定している。Airbnbが昨年市内で計上した売上8500万ドル(約12億円)の半分以上が、違法なリスティングからもたらされていたという。Airbnbは反論している。違法なリスティングが住宅不足を深刻化させ、騒音や衛生面の問題を招くと指摘されてきた。

法廷闘争を経て市は今年9月5日、前掲の新たな規制法を施行。これを受けてAirbnbの掲載リスティング数は激減した。米テックメディアのワイアードは、8月から9月にかけ、短期ステイ用の全リスティング数のおよそ70%に相当する約1万5000件が掲載リストから消えたと報道。Airbnbの「アポカリプス(大惨事、黙示録)」であるとしている。多くは短期ステイから長期ステイに用途を変更して再掲載しているが、30日以上の宿泊条件は一般的な観光客にとって利用しづらい可能性がある。

新制度に基づく許可を申請しているオーナーもあるが、ニューヨーク地元メディアのゴッサミストによると、申請数は4624件に留まる。大半はまだ審査待ちであり、受付が始まった今年3月から9月までに許可が出たリスティングは405件と、申請の1割に満たない。Airbnbは訴訟を通じ新規制を止められると確信していたため、Airbnbオーナーらに対し申請を積極的に推奨してこなかった。8月8日の敗訴を受け急に申請を奨励しだしたことで、審査のペースが追いついていないのだという。

■地元の住民から住処を奪っている

Airbnbなどの民泊は限られた住宅市場を圧迫し、世界の都市で家賃の高騰を引き起こしていると指摘される。アメリカだけでなくヨーロッパでも、規制論が勢いを増している。英ガーディアン紙は、ニューヨーク市のような規制が「ヨーロッパ本土やイギリスじゅうの都市を、本当にそこに住む人々の手に取り戻すことができるよう、その先例を示してくれる」ことが期待されていると報じる。

ロンドン南部の高級マンションに住む住民は、同紙に対し、「私たちの建物にはAirbnbがたくさんあります」と語った。「具体的に何件かはわかりませんが、見知らぬ人が出入りするのをよく見かけます。セキュリティー上の問題もありますし、騒音もひどいです」と心配を隠さない。

Airbnbの出発点は本来、ホストが自宅の空き部屋を旅行者に貸し出して有効活用し、同時に交流を楽しむところにあった。しかし近年では完全に営利目的の運営や企業による複数部屋の運用が目立つようになっている。ホスト不在で部屋を貸し出す「プロ化」が進んでいると記事は指摘する。

バルセロナ、マドリード、ロンドン、プラハなどの都市は、年間の短期ステイの宿泊日数に上限を設けている。例えばパリでは120日までだ。

だが、規制を遵守するホストばかりではない。ガーディアン紙は、「しかしながら、これらの都市での規制の監視が厳しくない場合、ホストは制限を破ることが一般にみられる」と指摘する。例えばロンドンでは、年間上限を90泊までに制限している。だが、ロンドン中心部に位置するカムデン・タウンの評議会は昨年行われた調査の結果、4400件の宿泊事例のうち、4分の1以上が規制を超過していたと突き止めた。

カナダ・トロント中心部にあるICE Towers
カナダ・トロント中心部にあるICE Towers(写真=Caontrt/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

■騒音のクレームを入れると、仕返しに拳銃を持った男が現れた

観光客の流入によるトラブルと治安の悪化に、住民たちは危機感を募らせる。米中西部ミズーリ州のセントルイス市では、短期ステイに反対する抗議の立て札が至る所に見られる。

反対運動が起きるのも無理はない。地元紙のリバーフロント・タイムズ紙によると、数々の事件が起きているようだ。ある住民の自宅前に、わずか2軒先のAirbnbに泊まっていた男が現れ、ピストルを振りかざした。騒音にクレームを入れた仕返しではないかと、この住民は怯える。

おなじ物件では、近隣宅へのゴミの放置、騒音、毎週末のように開かれる大規模なパーティーに、スピード違反や暴力沙汰など、あらゆる問題が起きている。オーナーは住んでおらず、深夜の騒音にクレームを入れたところで対応しようがない。問題はこの物件に限らないようだ。同紙は「セントルイスの至る所で、短期レンタル近隣の住民から、同様の問題が報告されている」と指摘する。

物件オーナーが短期ステイの収益性に心を奪われた結果、同じ物件にもとから住んでいる住人に対し、対応がおざなりになる例も出始めた。同市に済む37歳女性は、8年間住み続けたマンションをいたく気に入っていた。しかし、オーナーが短期レンタルの収益性に味を占めたことで、自宅として長期で借りている住民への対応が悪化した。今では引っ越し以外に選択の予定がなくなってしまった、とこの女性は嘆く。オーナーは一方的に家賃を値上げした挙げ句、修繕の依頼を無視し続けているという。

「5戸のマンションを(Airbnb向けに)改築し、家具を揃えるだけの時間と資金はあるというのに、(私の部屋の)屋根の雨漏り、割れて雨水の染みこむ窓、そしてうるさいだけで効きの悪い空調を直してほしいというメンテナンスの依頼は無視しているのです」

彼女はやむなく現在のマンションを出て、新しい家を購入しようと考えている。だが、Airbnbの影響で値上がりした地元の住宅市場は「恐ろしい」状態になっており、住み慣れた地区では物件を手に入れられそうにない。

ドアをノックする女性の手
写真=iStock.com/brizmaker
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/brizmaker

■短期ステイの方が儲かるから…大家の対応がおざなりに

短期ステイの旅行者は、ときにオーナーにとってさえ頭痛の種だ。米ABC系列ロサンゼルス局が10月に報じたところによると、あるAirbnb利用者はロサンゼルスのリスティングに、宿泊料を払わずに1年以上も住み続けているのだという。

オーナー男性は2019年にゲスト女性を迎え入れたが、滞在4カ月目ごろに実施した工事でこのゲストからクレームを受け、滞在期間を無料で延長することに同意した。だが、女性は昨年4月に宿泊費を支払ったのを最後に、いまだに無料で居座り続けている。17カ月、家賃を払わずに滞在していることになる。

善意で延長したAirbnb外での取引となるため、Airbnbはこの件に関知せず、ホストとして受けられるはずだった補償は適用されない。男性は現在この件で係争中だ。「このような悪夢のような生活のなかで、市からも警察からも守られていないと感じることは、恐ろしいことです」と男性は述べ、同じ思いをほかのホストに味わってほしくないと語った。

ビジネスとして営むAirbnbは、ホストに利益をもたらすとは限らない。カナダの民放局であるCTVは、ブリティッシュ・コロンビア州では来年5月1日から施行される新たな規制法を前に、「数十万ドル(数千万円以上)」の損失を覚悟しているという男性ホストの例を報じている。

規制法は短期ステイを制限し、より多くの物件を長期ステイに振り向けるよう意図されている。だが、男性がレンタル収入で住宅ローンを賄えると期待して購入した物件は、400平方フィート(約37平米、日本の1LDK程度)のサイズだ。短期ステイには十分との目算だったが、カナダの長期ステイ向け物件としては明らかに需要がない。月3000ドル(約33万円)のローンを賄うことはできず、「GIC(定期預金)にお金を預けたほうがまだよかったです」と男性は肩を落とす。

カナダ・トロントの高層ビルがある風景
写真=iStock.com/DoraDalton
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DoraDalton

■67階建てのタワマンが「ゴーストホテル」になった

問題の絶えない短期ステイは、世界の都市で禁止や規制の動きが広がっている。カナダ放送協会によるとトロントでは、住宅がホテルのように運用されている「ゴーストホテル」の事例が問題化。きちんとしたホテルのようなフロントもなく、スタッフも常駐せず、オーナーも宿泊者も多くはネット上でしかやり取りしないことから、いつしか「ゴースト」の名が付いた。

短期ステイ問題に取り組むNPO団体の「フェアーbnb・カナダ」がトロント市のデータを新たに分析したところ、10月時点で市中心部にある3棟の高層マンションだけで、計600件のリスティングが掲載されていた。

市中心部にある高層マンション「ICE Towers」(67階建て743戸、57階建て600戸の2棟。計1343戸)には236戸、「300 フロント・ストリート・ウェスト」(52階建て、684戸)には195戸、「The Parade Towers」(44階建てなど4棟からなる。計1758戸)に166戸の短期レンタル物件があった。

「ゴーストホテル」として特に問題視されているのが、ICE Towersだ。Airbnbはサイト内で詳細な住所を確認できないが、ICE Towersとみられる物件が1泊2日で3万7000円ほどでリストアップされているのが確認できる。

ちなみにICE Towersの販売価格は39万9000~119万カナダドル、賃貸は2200~6000カナダドルとなっている。

■民泊で破壊される住民の暮らし

同団体のエグゼクティブ・ディレクターであるトルベン・ウィーディッツ氏は、「住宅として計画され、認可され、建設された住宅が、ホテル用に転用されている」と指摘する。

近隣コミュニティの結束に影響し、雰囲気を悪化させ、住宅市場を高騰させているとウィーディッツ氏は警戒する。トロント市は規制を設け、9人の条例担当を配置しているが、対応が追いついていないのが現状だ。9月以降だけで22件の告発が寄せられ、苦情は1100件以上に上っているという。

ゴーストホテルについてカナダ民放局のCTVは、2020年にはマンションの壁を2発の銃弾が撃ち抜く事件が発生。違法な短期賃貸が明らかになり、ゴーストホテルが問題視されるようになったという。

賃借人が賃貸物件を転貸(いわゆる又貸し)することで、「多額の利益を得ている」と指摘。トロント市がパンデミック中に禁止の方針を打ち出したが、観光業の復調にともないゴーストホテルも復活を遂げたと報じている。このほかCTVは過去に、民泊滞在者が35階からボトルを地面に投げ捨てたり、騒音トラブルで近隣住民が引っ越しを余儀なくされたケースもあったと報じている。

規制は欧州でも進んでいる。オンラインメディアのユーロ・ニュースによると、イタリアのフィレンツェでは今年、Airbnbなど短期ステイの新規掲載が禁止された。オーストリアのウィーンは来年7月以降、宿泊日数を年間計90日までに厳しく制限する。

パリではすでに年間120日以上の営業に対して正式な申請を義務づけており、違反者を探す専門の部署が存在する。ドイツのベルリンとミュンヘン、オランダのアムステルダムも宿泊数上限や罰金を設けており、アジアではマレーシアのペナン島がAirbnbなどの短期ステイを全面的に禁止している。

ほか、イギリスのスコットランド、北部アイルランド、カナダのバンクーバーにアメリカの各都市など、規制の導入が進む。日本では民泊新法により、消防法などの規定を満たした物件に限り届け出制で運営が認められており、さらに年間の宿泊日数が180日に制限されている。

住宅地の空撮
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■民泊が「手軽に経営できるホテル」になってしまった

Airbnbなどの短期ステイはもともと、現地の本物の生活を体験したいゲストに愛用されてきた。地元の人々が実際に暮らしている家の一室を間借りし、交流を楽しみながらその土地の暮らしに溶け込む。丁重にお客様扱いしてくれるホテル暮らしとはまた違った魅力が、Airbnbのステイには存在した。

ホストとしても、当然幾ばくかの収益は魅力だが、一室を貸したところで収入は限られる。それよりも何よりも、空き部屋を有効活用しながら、国際交流を楽しめる点に輝きを見出す人々が多かったことだろう。

ところが近年、ガーディアン紙が「プロ化」と形容するように、手軽に経営できるホテルとして手を出すホストが増えてしまった。チェックインの際も暗証番号による解錠で済ませるなど、ゲストとの接触はほぼ皆無にし、滞在中はノータッチという運営形態が目立つ。ゲストのプライバシーを重視できる反面、万一の近隣トラブルの際に迅速な対応は期待できない。

Airbnb自体が絶対的に悪であるというわけではない。例えばかつては、ホテルより比較的安価に宿泊できる利点があった。限られた予算で世界を見て回りたい学生や若者を中心に、ずいぶんと世界中の旅人の役に立ち、Airbnbなしでは不可能だった冒険を可能にしたことだろう。

■地元との共存を図らない限り、民泊の将来は暗い

しかし「プロ化」が進んだ現在、家賃高騰や騒音問題の引き金となり、都市の本来の住民からそっぽを向かれる状態に成り果ててしまっている。地元住民の信頼を失った結果、世界の都市で規制がどんどんと導入されている。これでは未規制の地域のオーナーとしても、いつ事業性が音を立てて崩れるとも知れない。自宅の有効活用から出発したAirbnbは、いまや危険なビジネスになってしまった。

Airbnb社としてもある程度事態を受け止めており、パーティー禁止のリスティングを明示的に表示するなど一定の対策を取っている。だが、問題が絶えないのが現状だ。地域との共存に本腰を入れない限り、短期ステイのビジネスとしての継続は、将来的に非常に難しくなる可能性がありそうだ。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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