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パナソニックCEOが今だから明かす「30年間成長しなかった会社が、これまで持続できた本当の理由」

プレジデントオンライン / 2024年1月6日 11時15分

出所=『ブランディングという力 パナソニックはなぜ認知度をV字回復できたのか』

2022年、パナソニックHDのCEOに就任した楠見氏は、60年ぶりに、同社の経営基本方針を改訂した。そのうえで、新しいブランドスローガンを作成。自ら「30年間成長しなかった」と表明する会社を建て直すのに、数字よりも会社の存在意義を最優先したのはなぜか。ブックライター上阪徹氏が楠見CEOにその真意を聞く――。(第2回/全2回)

※本稿は、上阪徹『ブランディングという力 パナソニックはなぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■従業員には「上を見るな」、経営陣には「任せて任さず」

――事業会社化による「自主責任経営」や、従業員向けの「社員稼業」といったキーワードもインパクトがありました。

弊社の自主責任経営というのは、もともと従業員一人ひとりが自主責任経営をしないといけない、ということだったんですよ。

一方、事業会社とか事業部という単位に求める自主責任経営というのは、上を見るな、ということなんです。上に指示を仰いで経営すんのとちゃうで、と。自分で経営すんのやで、と。

ただし、上に対しては、逆にいうたら、事業会社や事業部に対してほっとくんじゃない、と伝えてあります。任せて任さず。そういう意味なんです。任せて任さずやけれども、財務規律という意味では、しっかり手綱を引いておかないといけない。

儲けてないのにどんどん拡大する、みたいなことは許されないですね。あてもないのに投資をするとか。

社員稼業も、すべて共通している話なんですよ。一人ひとりが個人商店の店主のようになるということ。歴史館でもエピソードが書かれていますね。でも、これは結局、一人ひとりの社員が、経営基本方針(編集部注:2021年、パナソニックHDは楠見CEOのもと、約60年ぶりに経営基本方針を改訂)を実践するということなんです。

事業のベクトルという話と、一人ひとりの行動という話があって、もちろんある事業に従事している社員は、その事業のベクトルに沿ってやらないといけません。

その中には多様な意見や多様な経験が生かされるというのはあるんですが、一人ひとりということに着目したときには、そこに共通の価値観であるとか、行動指針みたいなものがあって、それが本当に高いレベルで個々人に実践されている状態になったら、それは企業として一番強い状態ですよね。

個々人が常に自分の能力以上のパフォーマンスを発揮している状態って、すごくないですか? 個々人が常に能力を高める、そういう機会が得られる。普遍的な行動指針があって、その行動指針にのっとって行動レベルが上がっていく。そしてパフォーマンスを発揮するということになったら、これはすごい会社になれると思うんですよ。

人ということに着目した指針というのは、私は一番大事だと思っています。それはブランドというものを語る上でも、他社のパートナーと仕事をするということにおいても信頼が得られるでしょうし、またあの人と一緒に仕事がしたいな、ということになる。そうなったら、最高じゃないですか。

楠見雄規 パナソニック ホールディングスCEO
写真提供=パナソニック ホールディングス
楠見雄規 パナソニック ホールディングスCEO - 写真提供=パナソニック ホールディングス

■この体たらくでも30年会社がもった理由

――やはり原点というのは、大事ですね。人に着目することもそうですし、会社は何のためにあるのかということもそうです。

物心一如の繁栄です。これ、わかりにくいんですけど、250年通用する存在意義ということになったら、このレベルのものになるんだと私は納得したんです。

逆にいえば、その長いスパンからこの先50年ほどを切り取ったら、と考えると、一人ひとりの生涯の健康安全・快適、地球環境問題の解決ということになるわけです。

【図表2】Panasonic GREEN IMPACT
出所=『ブランディングという力 パナソニックはなぜ認知度をV字回復できたのか』

ただ、こんなことを言っていたところで正直、アナリストの評価が上がるわけでもない。それでも、そうであっても、私は曲げるつもりはありません。

そもそも、この体たらくでも30年会社がもったのは、結局、根底にこういう思想があったからだと思っています。その意味では、機関投資家の理解はありますね。

そして、トップがどんなことを発信していくのか、発信の比率も大事だと思っています。財務諸表や財務面での目標に偏重してしまうと、心の部分がおろそかになりかねない。

これは、なかなかうまくいっているとは言い難いんですが、財務的なところでは、私は営業キャッシュフローとROIC(投下資本利益率)以外は数字見ないよと言っているんです。営業キャッシュフローですら結果指標なんですよね。そうしたら、非財務の指標って、どう見ますか、という話です。

非財務の指標で、例えば生産性がわかりやすいですが、トヨタ生産方式だと労働生産性と設備生産性と材料生産性を見るんですね。そこには、景気や不景気は関係がない。自分のパフォーマンスを上げるということにおいては、何も変わらない、と。

だから、コスト競争力にしても、設計の面で部品点数を下げていくこともあれば、生産性を限りなく上げて効率良くモノが作れるというのもある。

こういうことをやっていくんだという発信と、経営基本方針的な発信で、私の発信の8割くらいになります。利益や販売や営業キャッシュフローというのは、全体に対する発信の中ではほとんどない。結果の報告はしますが、なんぼ目指しましょうなんていうことはしない。もちろん、事業会社はそういう発信をするんですけれども。でも、営業利益の目線は低いやないか、みたいな話は、事業会社の責任者レベルの人間との間でしかしないようにしているんです。

■パナソニックらしくないブランディングをしてはいけない

――そして、原点に立ち戻り、心に着目するところから、「幸せの、チカラに。」というブランドスローガンが出てきたわけですね。

当初はあまりいいアイデアが出てこなかったんで、突き放していたんですが、最後にこの「幸せの、チカラに。」が出てきた。これはいいなと思いました。物心一如の繁栄ということを、そのまま表しているということからしたら、ありだと。

こういうアイデアは、私、センスがないので、私自身がこれを思いつくことはあり得ない。ようやってくれたと思います。

――楠見さんご自身のnoteでも、このブランドスローガンについては熱くお書きになっていました。

読んでくださって、ありがとうございます。もっとフォロワーが増えないかな、と思ってるんですけどね(笑)。

――上場会社の社長自らが、あんなふうに発信するケースはあまりないと思います。

私が言い出したわけではなく、ブランドのグループからやりませんかと言われて、えー、とか言いながら始めたんです。

――30年間、成長してません、なんて話もズバッと書かれていて。

だって、事実ですもん。これは、対外的に、ということ以外に、従業員に読んでもらうという意味もありますから。外にもこう言っているよ、と。

――反応はありますか。

他社の幹部の方が読んでおられたりして、驚きました(笑)。

――これから、パナソニックグループのブランドをどうしますか。

ブランドをどうするか、ということではないと思っているんですね。ブランドの価値でいえば、発信を強化していく側面はあります。ですが、嘘をいったって信じてもらえないだけですから。ファクトを積み上げていくしかない。

根底にあるのは従業員一人ひとりの行動があって、その結果、よいものができて、それが発信できるということになって、結果としてブランドが強化されていく、と。

あんなことやりたい、こんなことやりたいと発信ばかりをするのではなくて、きっちりと守れる約束を発信しないことには。そうでないと、パナソニックグループらしくないですから。

例えば、生活が多様化する中で、それぞれの人に合わせた利便性の新しい形をご提供する。今後のことを考えて、環境負荷のない形や資源循環を考えた上でモノづくりをしていく。

最近なら、おひとりさま用の食器洗い乾燥機なんて、今までにあまりなかった発想だと思います。炊飯器でも、自動的に計量して水とお米を入れて炊飯するというのも、これまでなかった発想です。今どきの利便性ですよね。

■ブランド価値で高いポジションをとることが目的ではない

ブランドの強さという議論があります。商品を通じたブランドという意味で言ったら、そのときに多くの人に使われている商品で、しかも単独の商品でそれが達成できているところが一番強いんです。スマホは典型例で、二大ブランドがありますね。

ただ、こういう形だけがブランドではないと私は思っているんです。もっといえば、ブランド価値評価で高いポジションをとることが目的ではない。

上阪徹『ブランディングという力 パナソニックはなぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)
上阪徹『ブランディングという力 パナソニックはなぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)

そうではなくて、私たちの企業として、あるいはグループとして進めている活動にとって、価値ある形でブランド認知をしていただくことを優先すればいいと思っています。

一方で、生活が多様化しているわけですから、商品を通じて認知してもらう地域があってもいい。ヨーロッパだったら、ヒートポンプ式温水暖房機がいい、とか。アメリカなら、車載電池がいい、とか、パソコンのタフブックがいい、とか。

それぞれで、違っていいんですよ。ブランドランキングの上位になるというよりも、それぞれのステークホルダーに、いかに「パナソニックだったら大丈夫」と思ってもらえるか、です。

コングロマリットですから難しいんですが、やっぱり最後は一人ひとりの行動に尽きるんです。

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楠見 雄規(くすみ・ゆうき)
パナソニック ホールディングス 代表取締役 社長執行役員 グループCEO
1965年生まれ。奈良県出身。89年京都大学大学院工学研究科応用システム科学専攻博士課程前期(修士)修了。同年松下電器産業入社。松下電器産業 コーポレートR&D戦略室 室長、パナソニック常務執行役員 オートモーティブ社社長などを経て、21年パナソニックCEO、22年パナソニック ホールディングス代表取締役 社長執行役員 グループCEO、グループCSO。23年より現職。

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上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。雑誌や書籍、Webメディアなどで執筆やインタビューを手がける。著者に代わって本を書くブックライターとして、担当した書籍は100冊超。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット』(三笠書房)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)、『JALの心づかい』(河出書房新社)、『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?』(あさ出版)など多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。ブックライターを育てる「上阪徹のブックライター塾」を主宰。

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(パナソニック ホールディングス 代表取締役 社長執行役員 グループCEO 楠見 雄規、ブックライター 上阪 徹)

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