1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

「3歳から英語を習わせる」は百害あって一利なし…「詰め込み式教育」がわが子にもたらす怖すぎるリスク

プレジデントオンライン / 2024年1月16日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan

「子どもの将来のために」と早期教育をする親が増えている。文教大学の成田奈緒子教授は「『からだの脳』がしっかり育つ前に『おりこうさんの脳』を育てようとすると、脳全体がアンバランスな状態となってしまい、中長期的に悪影響が出るリスクがある」という――。

※本稿は、成田奈緒子『誤解だらけの子育て』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

■エリート家庭ほど早期教育に熱心になる

英語やリトミックに算数……。小学校就学前の幼児を対象にした早期教育が今、過熱しています。知育DVDなどの家庭用教材から教室まで、いわば一大ビジネスの様相です。

私が主宰する「子育て科学アクシス」には、最近では比較的高い学歴をもつ親御さんも多く相談に来られますが、特にエリート家庭ほど、その傾向が顕著だと感じます。

彼ら彼女らは、自身が学業に力を入れ、努力して学歴を手に入れてきたからこそ「わが子が成功するには、自分が与えられたのと同じような教育環境を用意してあげなければ」と考えがちです。そして、その過程では常に競争に晒されてきたため、わが子のこともつい周囲の子どもと比較してしまいます。

「ウチの子は3歳から○○を習わせている」などという話をネット上で、はたまたママ友から見聞きしようものなら、「わが家も早いうちから手を打たなければ」「負けていられない」などと、気が気ではなくなってしまうのでしょう。

■いまの子育ては「絶対に失敗できない」

逆に、自分に学がないことをコンプレックスに感じているような親御さんの中にも、「わが子には同じ轍を踏ませまい」と早期教育に躍起になるケースが少なくありません。いわゆる「リベンジ型の教育」です。

いずれにしても、少子化が進み、ましてひとりっ子ともなれば、そこに向けられる教育熱は「絶対に失敗できない」という強迫観念と表裏一体になり、一身に注がれます。共働き世帯が増えた結果、子ども一人あたりにかけられる教育費が増加していることもあり、こうしたニーズに応える早期教育ビジネスが今や花ざかり、というわけです。

しかし、巷の早期教育プログラムで謳われている「脳が柔らかい3歳までに言葉の学習を進めるべき」「小学校で学ぶ内容を先取りすれば、子どもに自信がつき、学ぶ意欲にもつながる」といった言説は、脳育て理論的には間違っています。

■人間の脳は育つ順番が決まっている

というのも、人間の脳には育つ順番があります。

図表1は、人間の脳の断面を左側から見た図です。脳と聞くとシワシワの部分を思い浮かべる人が多いかと思いますが、それは脳の外側部分でしかありません。外側のシワシワに包まれる形で、脳の中心には大脳辺縁系、脳幹、間脳、中脳などが存在します。

この中心部は、姿勢・睡眠・呼吸・食欲・自律神経・情動(危険が迫ったときなどに、恐怖や不安を感じること)といった、生命の維持に欠かせない機能をつかさどっています。

一方、外側にあるのは大脳皮質と小脳で、記憶・思考・微細運動(指先を細かく使う運動)・知覚・言語・情感をコントロールしています。

【図表1】脳が育つ順番
出所=『誤解だらけの子育て』

■「おりこうさんの脳」は「からだの脳」の次

中心部は原始的な動物にも備わっている生きるために必須の部分なので「からだの脳」、外側部分は人間に進化する過程で発達した人間らしさの機能なので「おりこうさんの脳」と私は呼んでいます。

生まれたばかりの赤ちゃんは、「からだの脳」と「おりこうさんの脳」のどちらも、きちんと機能していません。0〜5歳くらいまでは「からだの脳」。続いて1歳頃からは、「おりこうさんの脳」。そして10歳くらいから、「からだの脳」と「おりこうさんの脳」を前頭葉につなぐつながり=「こころの脳」が発達し、論理的に物事を考えたり、衝動性を自制したりすることができるようになります。人間の脳は、この順番で、バランスよく発達していくのです。

以上の3段階で子どもの脳は育っていき、その順序が変わることは絶対にありません。

■順番を間違えると脳がアンバランスな状態に

では、この脳が育つ順番を考えずに、幼い頃から詰め込み式の教育ばかりを行うと、どうなるでしょうか。

小学校に上がる前は大人の言うことをよく聞き、年齢の割に受け答えもしっかりしていて、「賢くておりこうさん」「将来が楽しみね」という周囲の評判に親も鼻高々。ところが小学校高学年〜中学生くらいになると、不登校や摂食障害、不安障害など、さまざまな問題を抱えて子育て科学アクシスのもとに相談に来るケースが、実によく見られるのです。

これは、「からだの脳」がしっかり育つ前に「おりこうさんの脳」を育てようとすると、脳全体がアンバランスな状態となってしまい、やがてこころの問題として表面化してしまうことを示しています。

子どもの脳を一戸建ての家にたとえると、「からだの脳」が全体の土台となる1階部分、「おりこうさんの脳」が2階部分ということになります。1階部分ができあがっていないうちに2階部分を完成させようとすれば、家全体が崩れてしまうのは明白です。

黒板に頭をつける小さな男の子
写真=iStock.com/Imgorthand
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Imgorthand

■早期教育で「将来の幸せ」が崩れるかもしれない

子どもの数が減っている今、教育産業も生き残りをかけて必死です。それにまんまと釣られた親御さんの不安や焦りは子どもに伝わり、不安感の大きな人間が育ってしまいます。

それでもなお、早期教育は本当に「将来の幸せのため」になっていると言えるでしょうか。人生100年時代、子どもの一生は私たちのそれよりも長く続いていきます。

「周りよりもよくできる子」という評価で、親御さんが短期的な安心を得られるからといって、中長期的には問題を抱えるかもしれないリスクを冒してまで早期教育をする必要があるとは、とても考えられません。

早期教育は、「からだの脳」より先に「おりこうさんの脳」を育てることになり、中長期的にはこころのバランスを崩すリスクがある

■「お受験は子どものためになる」は本当か

中学受験をする子どもの数は、ここ10年ほどで増え続けています。2023年、首都圏の中学受験者は推定5万2600人(全体の17.86%)と、過去最多にのぼります。

中学受験をする子どもが増えた結果、受験のための塾に入ることさえ椅子取りゲーム状態となり、小学校1年生から塾に通わせるケースも珍しくありません。

さらに遡る形で「中学受験のために低学年のうちから塾通いさせるのはかわいそう。だったら早いうちにエスカレーター式の学校に入っておくほうが、そのあと伸び伸び過ごせるだろう」と、幼稚園・保育園で小学校受験の塾に通わせるご家庭まであります。

もはや「かわいそう」の基準がどこにあるのか疑問ですが、とにもかくにも「受験をしていい学校に入れば、それだけ就職先の門戸も開ける。子どもの将来の選択肢が広がるはずだ」と考えている方が多いようです。

■ハードな塾通いは「からだの脳」に悪影響

しかし、幼少期からのハードな塾通いは、子どもの脳を育てるのに必須である「早寝早起き」の生活リズムを乱します。子育て科学アクシスにも、不眠や頭痛、腹痛といった症状に悩まされている、受験組の小学校4、5年生たちがたくさん相談に訪れます。

将来のためにと、毎晩遅くまで勉強に励んで志望校に合格できたとしても、それによって「からだの脳」に悪影響が及んでいれば、不安からくる摂食障害や不登校といった形で、大きなしっぺ返しに見舞われることになります。これでは本末転倒です。

また「あなたの偏差値であれば、この学校になら入れる」と塾から示唆された通りに受験し、いざ通ってみたけれど校風が合わないとなれば、その環境をつくった親を子どもは攻撃するようになります。

仮に大きなトラブルなく学校に通えたとしても、それが親の意志である以上、「お父さん、お母さんの言うことを聞いていれば、間違いない」という刷り込みがなされます。その結果、どんなに目の前に選択肢が広がったとしても、子どもが進む道を自分自身の意志で選び取ることは難しくなってしまうでしょう。

高校に入るには受験する必要がありますが、義務教育段階である中学受験までは子ども自身がそれを望み、親に「塾代や受験料を出してください」とお願いして初めてするものだというのが筋だと考えます。

■「中学受験をしたい」娘が決めた選択

わが家でも、娘本人から「中学受験をしたい」という申し出があったのですが、その際には私から次のように説明しました。

成田奈緒子『誤解だらけの子育て』(扶桑社)
成田奈緒子『誤解だらけの子育て』(扶桑社)

「わが家から電車で1時間以内くらいで通える範囲には、このくらいの私立中学があります。その中で、あなたが地元の公立中学校よりも本当にいい学校だな、行きたいなと思える学校があるなら、そのための費用を出すことはやぶさかではありません。しかし、受験しても必ず行けるとは限らない。不合格となる可能性があることも、重々承知するように」

加えて、「中学受験をするにあたっては、塾に通う人も多い。塾は学校とは別で、夜の6時から9時くらいまで勉強するところだけれど、どうする?」と。幼い頃から早寝早起き生活を叩き込まれていた娘は「冗談じゃない!」という反応でした。そして、いろいろな学校を見て回った結果、「ある学校を目指して受験はするが、塾には通わない」という選択をみずから下したのです。入試直前のお正月期間だけ、私も娘と一緒に集中して試験対策に寄り添いましたが、そのほかは一切ノータッチでした。

■親は自分の選択肢を押しつけてはいけない

自分で決めた学校に、自分で決めた方法で合格した娘は、その後の中高6年間、心から楽しんで通うことができました。ちなみに、いわゆる偏差値、という観点からは決して高い学校ではありませんでしたので、受験勉強は、学校で習った学習にほんの少しプラスアルファで十分でした。しかしその学校は自由な校風、豊富な課外活動など彼女にぴったりあった場所で、本当に幸せに過ごせました。

親は、自分がいいと考える選択肢を子どもに押しつけるのではなく、あくまでロジカルに説明をすること。小学校高学年ともなれば、その上で「どの学校に通いたいか」「そのために塾に通うのか、通わないのか」などを自分で考え、決断することができます。

本人が納得した上であれば、仮に不合格だったとしても親子関係にヒビが入ることはあり得ません。もし通った先でつまずくようなことがあったとしても、自分の意志でここにいるのだから、と踏ん張りが効き、不登校に陥るリスクも低くなるのです。

どんなに親が素晴らしいと考える選択肢でも、子どもの意志がなければ、少しのつまずきでポッキリ折れてしまう。子ども自身に決めさせることが大切

----------

成田 奈緒子(なりた・なおこ)
文教大学教育学部 教授、「子育て科学アクシス」代表
小児科医・医学博士。公認心理師。子育て科学アクシス代表・文教大学教育学部教授。1987年神戸大学卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。2005年より現職。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)、『子どもにいいこと大全』(主婦の友社)など多数。

----------

(文教大学教育学部 教授、「子育て科学アクシス」代表 成田 奈緒子)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください