1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

なぜ「プリウスの次」が出てこないのか…中国に「世界一の自動車大国」を奪われた日本が今からやるべきこと

プレジデントオンライン / 2024年1月9日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Robert Way

■BYDの躍進で中国が「世界一の自動車大国」に

2023年、世界の自動車市場の構図が大きく変化した。自動車市場のEVシフトは鮮明化しつつある。ついに昨年、中国はわが国を抜き世界最大の自動車輸出大国の地位に就いたようだ。昨年1月から11月、中国の輸出台数(中国汽車工業会の速報)は前年同期比58%増の441万2000台。わが国は同15%増の399万台(日本自動車工業会)。通年でも中国の輸出台数はわが国を上回る見通しだ。

中国の輸出増加を牽引したのは比亜迪(BYD)、米国のテスラなどEVメーカーだ。中国政府はEVメーカーに補助金の供与などを行ったこともあり、中国の電気自動車メーカーの競争力は急速に上昇した。EVのパーツ分野でも、世界最大の車載用バッテリーメーカーである寧徳時代新能源科技(CATL)などがシェアを大きく伸ばした。

■主要先進国を中心にEVシフトは加速する

そうした中国自動車メーカーの動きに対し、米欧の政府は警戒を強めはじめた。欧州委員会は中国の補助金政策に関する調査を開始した。中国など海外製EVを購入補助の対象外とする国もある。自国企業などへの補助政策を強化する主要先進国は増えるだろう。

今後、主要先進国を中心にEVシフトは加速するとみられる。重要な懸念は、わが国自動車企業の戦略だ。主要メーカーは、エンジン車からEVまで“全方位型の事業戦略”をとり続けている。その戦略で、中国のEVメーカーの動きに対応することは難しそうだ。わが国の自動車産業界がEV分野で中国勢に対抗できる体制を確立するか否か、わが国経済の中長期的な趨勢に大きく影響することは間違いないだろう。

■BYD、テスラ…“EV専業”の成長がめざましい

2023年、世界の自動車市場は車載用半導体供給の正常化、米国の個人消費の強さ、EVシフトの加速などを背景に全体として成長した。ただ、日米欧の主要メーカーは、為替レートの変化、ストライキ、EV開発費の負担増などで業績が分かれた。注目されるのは、BYDやテスラのようなEV専業メーカーの成長は加速したことだ。

2023年4月~9月期、トヨタ自動車は増収増益を達成した。円安の影響は大きかった。世界販売は前年同期比9%増の517万台、電気自動車(EV)は約5万9000台だった。4年連続でトヨタは販売台数世界1位を守ったようだ。

一方、2023年1月~9月期、独フォルクスワーゲンの売上高は増えたが、営業収益が前年同期の実績を下回った。主たる要因は、EVの開発・製造コストの上昇だ。不動産バブル崩壊による中国経済の減速も大きかった。足元で欧州の自動車メーカーは、人員削減などリストラを進めつつ、中国のEVメーカーに出資するなど収益力を立て直そうとしている。

■中国メーカーは約500社→100社前後に激減

9月、米国では全米自動車労組(UAW)のストライキが起きた。それは、GMとフォードの業績懸念を高めた。10月下旬、GMとフォードは、ストライキによる生産の減少などを理由に通期の業績見通しを撤回した。EVや自動運転技術の開発費用増加も収益を圧迫した。

一方、中国や欧米を中心に“EVシフト”は加速した。特に、BYDなど中国主要メーカーの成長は目覚ましい。2023年7~9月期、米テスラの世界販売台数は43万5059台、BYDは43万1603台で差は3456台に縮小した。2023年10~12月期にBYDはテスラを上回る世界最大のEVメーカーになる見通しだ。中国の上海汽車集団、吉利控股集団(ジーリー)も成長が著しい。

そうした状況下、中国では破綻するEVメーカーも急増した。2019年に約500あったEVメーカーは、2023年夏場に100社前後に減少したとの報道もある。販売補助金の削減、製造技術面の未熟さなどは重要なファクターだ。そうしたEVの負の部分はあるものの、高スペックのEVをより低価格でより迅速に開発し、世界トップシェアを獲得する中国EVメーカーの野心は手ごわい。

現状、中国はEV(完成品)、バッテリー、駆動装置、セパレーターなどの部材・部品の分野で競争を優位に進めている。その結果、2023年、EV輸出台数の増加によって中国はわが国を抜き、世界第1位の自動車輸出国に成長した。

■欧州に拠点を広げる中国勢をEUは警戒

高い成長の実現に向け、中国のEV及びバッテリーメーカーは海外進出を強化した。2023年12月、BYDはハンガリー南部のセゲド市に工場を建設すると発表した。2024年、タイでBYDはEV生産を開始する予定だ。2024年後半、ブラジルでもBYDはEVやバッテリーの生産を予定している。

CATLも、欧州やアジアなどで直接投資を積み増した。テスラ、メルセデス・ベンツ、ボルボなどが同社からバッテリーを調達する。2023年、車載用バッテリー市場でも、中国企業と日韓メーカーのシェアの差が拡大した可能性は高い。

それに対し欧州委員会は警戒を強めはじめた。2023年10月、欧州委員会は中国から輸入されるEVを対象に、制裁関税の賦課を視野に入れた反補助金調査を開始した。12月、フランス政府は、中国で生産するテスラの“モデル3”などアジア製のEVを販売補助金の対象外とした。補助金への懸念に加え、輸送距離が長く脱炭素に反するとの見解だ。

自動車工場で車を組み立てるロボットアーム
写真=iStock.com/onurdongel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/onurdongel

■米大統領選前に「EV貿易戦争」が勃発する?

イタリアも同様の措置を検討している。欧州各国は中国などで生産されEVを締め出すことを目論んでいるようだ。域内や経済安全保障上重要な関係を持つ国のEVメーカーに補助金などを支給し、サプライチェーンの強化に取り組むことになるだろう。

米国は、中国産の鉱物や部材を用いて生産したEVを税優遇策の対象外とする。2024年からバッテリー部品、2025年からはニッケルやリチウムなどのレアメタルへ基準は引き上げられる。

米国企業の事業戦略にも影響が出ている。ミシガン州でフォードは、CATLと合弁でリン酸鉄系のバッテリー工場建設を予定していた。しかし、中国企業による対米直接投資が経済安全保障上のリスクを高めるとの懸念により、計画を4割縮小せざるを得なくなった。

2026年にフォードは工場の稼働を目指すが、当初よりも雇用創出の効果は小さくなる。大統領選挙が近づく中、バイデン政権はエンジン車の生産工場をEV向けに転換するため助成策を拡充するという。EV、バッテリー、関連部材などの“脱中国”を強化することになりそうだ。11月の大統領選挙を控え、EV分野で貿易戦争が勃発する恐れもある。

■中国勢は日本車メーカーの“得意先”も狙っている

今後、主要先進国の新車販売市場で、EVシフトはさらに加速するだろう。欧米諸国は自国の企業を最優先にしつつ、友好国の企業に直接投資を呼び掛けてEVサプライチェーンを強化すると予想される。影響は自動車だけでなく、洋上風力(エネルギー)などにも及ぶ。

新興国でのEVの位置づけも急速に変化している。アジア新興国では、EV普及策を強化して工業化、産業育成を促進しようとする国が急増している。“アジアのデトロイト”と呼ばれ、わが国の自動車メーカーが高いシェアを誇ったタイなどで、中国EVメーカーなどの進出は急増した。

「エンジン車からEVへ」、わが国が経験したことのない世界の自動車業界の変化は勢いづく。問われるのは、その変化にわが国の自動車産業が対応できるか否かだ。大手自動車メーカー、サプライヤーの総力を結集し、中国勢や専業メーカーに負けないEVを作ることは喫緊の課題である。

■ハイブリッド車の成功をEV戦略に生かせるか

わが国の自動車メーカーは依然としてエンジン車、HV、PHEV、EV、さらには燃料電池車(FCV)をカバーする全方位型の事業戦略をとっている。わが国の自動車メーカーには、多くの部品を精緻にすり合わせ、安全で高耐久の自動車を作る製造技術へのこだわりは強い。EVに集中するBYDやテスラなどと、事業戦略の差は明らかだ。

過去数年間のEVシフトの急加速を見る限り、わが国の自動車産業の対応は遅れた。ダイハツなどで認証申請時の不正行為も発覚した。日本製の自動車に対する世界の消費者の不安が高まれば、EVシフトへの対応は難しくなるかもしれない。

1990年初頭にバブルが崩壊して以降、わが国経済のかなりの部分は自動車産業の成長に支えられた。特に、ハイブリッド車の成功は大きかった。2024年、世界経済の成長率はいくぶんか低下する恐れが高い。その中でわが国の自動車産業が、先進国を中心に優秀なEVを供給できるか否か、わが国経済の今後の展開に重要な影響を与えることは間違いない。

----------

真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

----------

(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください