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なぜアメリカ人は「トランプ返り咲き」を待望するのか…インフレに苦しむアメリカ人にトランプが放った一言

プレジデントオンライン / 2024年1月14日 6時15分

「機密文書持ち出し」「不倫口止め料」などの容疑がかけられている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Katerina Sisperova

2024年11月にアメリカ大統領選が行われる。現職バイデン大統領の支持率が低迷する一方、トランプ元大統領が返り咲きを狙っているという見方もある。在米ジャーナリストの岩田太郎さんは「最も重要な民主党支持者の間でも、バイデン大統領の支持率は急降下している」という――。

■2024年大統領選で「トランプ返り咲き」の可能性

ドナルド・トランプ前大統領(77)について、米メディアが一斉に「2024年11月の大統領選挙で返り咲きを果たす可能性が高まった」と伝えている。

ここ数カ月の各種世論調査では一様に、選挙の勝敗を決する接戦州においてもトランプ氏が現職のジョー・バイデン大統領(81)に数ポイントの差をつけてリードしていることが伝えられる。

しかし、これはとても不思議な現象だ。これまでトランプ氏は2020年の大統領選におけるバイデン氏の勝利を覆そうとした「反乱」をはじめ、「機密文書持ち出し」「不倫口止め料」などの容疑により、4回の刑事起訴で合計91件の罪に問われており、山のような公判の泥沼にはまっている。

大統領の職にあった2017年から2021年の期間の仕事の評価も、歴代大統領と比べて特に高いわけでもないトランプ氏だが、なぜバイデン氏よりも支持率が高いのだろうか。

■多くの米国民が「トランプはひどい大統領」だと考えている

米西部コロラド州の最高裁判所は2023年12月19日、ドナルド・トランプ前大統領について、来年の大統領選の同州予備選に立候補することはできないとの判断を示した。

米憲法修正第14条は「憲法の擁護を宣誓して公職に就いた者について、米国に対する反乱や謀反に関わった場合は、再び公職に就くことを禁ずる」と定めている。

州最高裁は、トランプ氏が2021年1月の連邦議会襲撃に加わったと認定し、大統領選の出馬資格がないと判断した。

なお、トランプ氏本人は「反乱」への加担を否定している。

世論調査大手のユーガブがこの判決の直後に実施した調査 では、回答者の合計54%がこの判決を「支持する」と答えたのに対し、「支持しない」としたのは35%に過ぎなかった。

多くの米国民が、「トランプはひどい大統領であった」「不適格だ」と考えていることを示唆する結果である。

9月初旬に米ニュースサイトのビジネスインサイダーが行った世論調査 でも、回答者の58%が、トランプ氏は「公職に就くには不適格」と答えている。

■過半数が「経済政策ではバイデンよりトランプ」

ところが、ニューヨーク・タイムズ紙が10月から11月にかけて、大統領選の勝敗を決する激戦州6州で行った世論調査では、西部アリゾナ、西部ネバダ、南部ジョージア、中西部ミシガン、そして東部ペンシルべニアの5州で、トランプ前大統領がバイデン大統領を支持率においてリード。

特に、経済政策でどちらを信頼するかを尋ねたところ、トランプ氏が59%、バイデン氏が37%で、22ポイントもの差がついた。

この傾向は12月になっても変わっていない。ブルームバーグが12月に行った世論調査では、経済運営でどちらがより信頼できるかという質問に対し、トランプ氏が51%で、バイデン氏の33%に18ポイントのリードを保っている。

米国民は「トランプの方がマシ」と見ている(トランプ前米大統領、2024年1月5日)
写真=AFP/時事通信フォト
米国民は「トランプの方がマシ」と見ている(トランプ前米大統領、2024年1月5日) - 写真=AFP/時事通信フォト

ここに引用した世論調査の回答者はそれぞれ異なる。それに世論調査はあくまでも世論調査であり、実際に有権者が投票用紙を前にして行う選択とは必ずしも同じではない。

だが、各調査で同じ傾向が出ているのは興味深い。

■「バイデンのインフレ」よりトランプのほうがマシ

つまり、米国民の多くは、「トランプに大統領の資格はないが、経済政策の面で信頼できる」という一見矛盾した意見を持っているように見える。

しかし、これは決して破綻したロジックではない。

なぜ多くの米国民は、「不適格」のトランプ氏を大統領職に復帰させようとしているのか。2大政党制のアメリカにおいては制度上、大統領選挙では民主党員か共和党員のいずれかが当選する。

今回の選挙では無所属の有力候補者の出馬も見込まれるが、最終的には、民主党候補に指名されるであろうバイデン氏と、共和党候補になるのが確実視されるトランプ氏の一騎打ちの可能性が高い。

選択肢はバイデンかトランプだけである。

トランプ、バイデンのことがキライであっても、国民生活の苦境を改善するうえでどちらがマシかを考え、それを基準に投票しなければならない。

この点において、狂乱物価を効果的に制御できなかったと多くの有権者に見られている現職大統領のバイデン氏は圧倒的に不利だ。

逆に、トランプ氏は「バイデンのインフレはひどすぎる。こんなことならトランプの方がマシ」と見てもらえるわけだ。

■「バイデノミクス」が米国民の生活を苦しめている

事実、消費者が購入する各種のモノやサービスの小売価格の変動を調査・算出した米国の消費者物価指数(CPI)は、2015年12月から2023年12月までの間に累計で25%以上も上昇しており、その急上昇分のほぼすべてがバイデン政権下で起こっている。

この急激なインフレに賃金の上昇率が追い付けず、多くの米国人の実質賃金は目減りをしてしまった。そのため、消費を切り詰め、2つ以上の仕事を掛け持ちして何とか糊口をしのいでいる人が多い。

消費を切り詰め、2つ以上の仕事を掛け持ちしてしのいでいる(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/FluxFactory
消費を切り詰め、2つ以上の仕事を掛け持ちしてしのいでいる(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/FluxFactory

■トランプが人気というより、バイデンが恨みを買っている

にもかかわらず、バイデン政権は「失業率を歴史的な水準に低下させ、半導体・電気自動車・バッテリー・クリーンエネルギーなどの産業を振興し、2023年7~9月期の国内総生産(GDP)を前期比の年率換算で4.9%も上げるなど、着実な成果を上げた」として、バイデン大統領の経済政策である「バイデノミクス」を誇っている。

これでは、国民の間に意識の差が生まれるのは当然だ。多くの米国人にとり、GDPがどれだけ伸びても暮らし向きは全然楽にならず、逆に収入の目減りが続いている。ここ数カ月で実質賃金がインフレ率をわずかに上回るようになったものの、過去の目減り分を取り戻すにはほど遠い。そうした中でバイデン大統領が「経済が良くなった」と自慢しても反感を買うだけだ。

トランプ前大統領が人気なのではなく、バイデン大統領が国民から恨みを買っているからこそ、世論調査では「トランプは不適格だが、経済政策においてバイデンより信頼できる」という矛盾した結果が繰り返し表れるのだ。

■トランプの演説に心を動かされる

トランプ氏はそうした国民の生活上の不満をうまく利用している。12月のネバダ州における支持者集会では物価高に触れて、「バイデンのインフレの悲劇があなた方の貯蓄をむしばみ、夢を破壊している」と訴えた。この言説に心を動かされる人は少なくない。

実際に、バイデン大統領の国境管理・移民政策の失敗やイスラエルの対パレスチナ攻撃に対する軍事支援への反感も相まって、バイデン氏の支持率は民主党支持者の間においても急降下している。

特にバイデンの強固な地盤であったはずの白人労働者、黒人、ヒスパニックなどのグループの一部で、主に経済の面から支持を失っていることが、大きな懸念材料だ。

加えて、妊娠中絶問題や同性婚などで強い支持があった女性票や若年層も部分的に失う可能性がある。

白人労働者、黒人、ヒスパニックなどの一部で支持を失っている(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/BrianAJackson
白人労働者、黒人、ヒスパニックなどの一部で支持を失っている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/BrianAJackson

■2024年は「クーデターの必要がない」

最も重要な民主党支持者の間でも、バイデン大統領の支持率は急降下している。こうした中、ニュージャージー州のモンマス大学が12月18日に発表したバイデン大統領の支持率は史上最低レベルの34%、不支持が61%であった。

ニューズウィーク誌が12月26日に報じたところによると、2020年の大統領選でバイデン候補が8万票差でトランプ候補から奪ったペンシルベニア州で2023年に3万5589人の民主党員が共和党にくら替えし、2万908人の民主党員が無党派に転身した。一方で、共和党から民主党に所属を変えたのは1万5622人、無党派を選んだのが1万8927人で、民主党は差し引きおよそ2万人の有権者を失っている。

一連の流れを受けてニューヨーク・タイムズ紙は、「トランプ前大統領は、2020年の大統領選の結果をひっくり返そうとクーデターを企てたが、2024年にはクーデターは必要がないかもしれない」とする論評を掲載した。

あまりの不人気ぶりに、進歩派の「第3の候補」として大統領選への出馬を表明したプリンストン大学のコーネル・ウェスト教授は、「大統領選の本選で、私はバイデン氏の対抗馬ではなくなる可能性がある。彼はジョンソン大統領のように撤退するのではないか」と述べて注目を集めた。

■ジョンソンのように「大統領選撤退」もあり得る

民主党のリンドン・ジョンソン大統領(当時)は1968年の大統領選挙の年の3月、民主党が大統領候補を正式決定する全国大会のほんの数カ月前に不出馬を表明し、党を混乱の極みに陥れた。

ジョンソン政権はベトナム戦争において、大本営ばりの嘘をつき続けていた。その不満に加えて、「貧困との戦争」や黒人公民権の拡大など、ジョンソン政権の先鋭的な社会政策が次々と失敗し、支持率は30%台まで落ち込んでいた。

民主党内の対抗馬であったロバート・ケネディ上院議員(元司法長官)がベトナムからの撤退を主張して大統領選に立候補して人気を集める中、ジョンソン氏はあっさりと2期目の可能性を自ら断った。このケネディ上院議員が6月に暗殺されたことを受けて民主党の大統領候補となったヒューバート・ハンフリー副大統領は不人気で、共和党のリチャード・ニクソン候補と争って敗れることになる。

それは、その後およそ四半世紀にわたって米国が保守化した時代へのプレリュードとなった。

ベトナム戦争と規模は違うが、バイデン政権はアフガニスタン撤退作戦において失敗しているほか、ロシアのウクライナ侵攻を招いた弱腰、中東問題への対応、南米ベネズエラによる隣国ガイアナ侵略を呼んだとされる妥協的な外交など、失策が続いている。

■ジョンソン政権末期の状況に似ている

国民の生活水準の悪化はもとより、急進的なジェンダー・セクシュアリティ政策や、「開かれた国境」による無制限な難民・移民受け入れ、人種間の「結果の平等」政策は米社会の分断を深め、環境・エネルギー政策においても非現実的な電気自動車(EV)普及目標や再生エネルギー開発プロジェクトなど、挫折の連続だ。

これは、悲惨なジョンソン政権の末期の状況に似ていなくもない。

失敗がひとつやふたつであれば取り返せるが、大きな戦略の失敗は小さな戦術の成功でも取り返せない。

もちろん、トランプがなにかやらかして、そのオウンゴールによってバイデンが再選するというシナリオも残る。だが、トランプ前大統領は一連の公判に関して米連邦最高裁判所などを味方につけた引き延ばし作戦に成功しつつあり、逃げ切れる可能性が高まっている。ロイター通信が8月に実施した世論調査では共和党支持者の52%が、「トランプ氏が収監されるようなことがあれば、票を投じない」と回答しているが、有罪評決や懲役さえ回避できれば、より多くの票を確保できる。

そうした中、民主党支持者を含め米国民のバイデン氏の失政に対する怒りは積み上がっている。そのため、12月21日付の英フィナンシャル・タイムズ紙社説が指摘するように、「米国人をいくら脅かしてもトランプ嫌いにはならない」のである。

「不適格」のトランプ前大統領がバイデン氏よりも信頼と票を集め、返り咲く可能性は小さくない。

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岩田 太郎(いわた・たろう)
在米ジャーナリスト
米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。米国の経済を広く深く分析した記事を『現代ビジネス』『新潮社フォーサイト』『JBpress』『ビジネス+IT』『週刊エコノミスト』『ダイヤモンド・チェーンストア』などさまざまなメディアに寄稿している。noteでも記事を執筆中。

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(在米ジャーナリスト 岩田 太郎)

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