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成人しても「小学校の同級生を殺してやりたい」と憎む…発達障害の人が"いじめの記憶"にずっと苦しむ理由

プレジデントオンライン / 2024年1月16日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AlexLinch

発達障害の人はどんなことに苦しんでいるのか。精神科医の岩波明氏は「ASDの人はいじめの被害にあいやすい。そして記憶力が優れているせいで、いじめの記憶を忘れられず、成人しても苦しんでいる」という――。(第1回/全2回)

※本稿は、岩波明『発達障害の子どもたちは世界をどう見ているのか』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■ASDの子どもが集団生活でぶつかる壁

ASDのお子さんは、全体の中で自分の持ち分や役割を察知するのが苦手な傾向があります。グループの中で役割分担して作業をすることができなかったり、1時間で10人が発表する場で、1人で何十分も発表してしまったり……といった具合です。

私が担当していたASDの人が、以前こんな話をしてくれたことがあります。

「小学校の頃、みんなで文集を作る機会がありました。テーマを分担し、一人ひとりで調べて書いて、それを持ち寄って作る形式でした。自分は大好きな『電車』というテーマを与えられたので、大喜びでした。夢中になって調べて書いて、完成したものを学校に持っていったら、クラスメイトから大ひんしゅくを買いました。『なんで100ページも書いてきたんだよ!』って言われたのですが、どうしてそれがダメなのか自分ではよくわかりませんでした」

こういった場合も、先生やクラスメイトが本人の特性を理解して、他のクラスメイトとの間の「仲介役」あるいは「調整役」の立場に立ってくれれば、もう少しよい結果になったと思います。

■教室の中でグループに入らずぽつんとしている

「みんなと一緒にやる行動は、苦手で嫌い」「全体の中で自分の持ち分や役割を察知するのが不得意」という特性とも関連していますが、ASDのお子さんはいわゆる「場の空気」を読むことが苦手です。

小学校高学年になると、クラスにはいろいろなグループが形成され、そのグループごとに異なる空気を敏感に察知し、立ち回ることを求められるようになります。ASDのお子さんの場合、このような雰囲気を感じ取るようなことは苦手であるかほとんどできず、そもそもこういった要因すら意識していないケースも見られます。

たいていの場合、彼らはグループの輪に入らず、ぽつんといることが多いでしょう。周囲がそれを良しとしていれば何の問題も起こらないのですが、中に「あいつは何となく気に食わないからいじめてやろう」というクラスメイトがいると、いじめがクラス中にエスカレートしていくこともあります。

■ほかの子どものように遊んだ記憶がない男性

Iさん(男性)の診断はASDです。子どもの頃から1人でいることが多く、特定の事柄へのこだわりが強くありました。

幼児期に「公園の砂場にいた」「三輪車に乗った」というような、他の子どものように遊んだ記憶はありません。父の実家に連れて行かれたことがありましたが、相手をしてくれる人がいないので、1人で外を眺めてバスが通ると手を振っていたことを覚えています。

親に連れられて公園に行って電車を見たり、路線バスに乗ったりしたことはあったものの、両親は仕事で忙しく、一緒に出かけた記憶はほとんどありません。そのため他の家族をうらやましく思っていました。

幼稚園では集団行動には参加していましたが、1人でポツンといることが多く、親しい友だちはできませんでした。そそっかしい面があり、幼稚園の下駄箱の近くで転んで大泣きをしたことや、近所のアパートの部屋で手を振り上げたときに、棚からレコードやステレオを落として泣き叫んだこともありました。

■用水路に突き落とされ、1人で泣いていた小学生時代

Iさんは、小学校の就学時健診で、区の教育センターでの相談を指示されて、面接に行ったことを覚えています。小学校については、嫌な記憶しか思い出せません。消極的でおとなしかったため、いつもいじめに遭っていました。友だちからぶたれたり、用水路に突き落とされたり、集めていた切符を脅し取られたこともありました。

いじめられた後は誰にも相談できずに、常に1人で泣いていました。教科では、音楽や体育が苦手でした。

3年生でクラス替えがあり、それまでのいじめの加害者とは別のクラスになり、ほっとしましたが、消極的な性格に変化はなく、なかなか友だちができませんでした。

けれども4年生になる頃には、多少の交流はできるようになりました。

この当時、お母さんが内職をやめてパートに出るようになったため、1人で家にいる時間が増えました。家では、電車の時刻表を読みあさって過ごしました。休みのときには、1人で遠方まで電車に乗って出かけることもあり、「ただ電車に乗っているのが好きだった」と本人は話してくれました。電車のシートに足を乗せていたら、家出人と間違えられたこともあったそうです。フリー切符を使って途中下車を繰り返し、入場券を集めたこともありました。

■校舎の窓からバスをながめて休み時間をやり過ごす

高学年になると、電車は相変わらず好きでしたが、よく図書館に行くようになりました。大人の閲覧室から本を借りて読むことが多かったので、職員から子ども室の本を読むように注意されたこともありました。

中学生になっても、1人でいることが多かったそうです。小学校のときと同様に、周囲の生徒からいじめられることが多く、同級生からぶたれたり、女子生徒からもよくからかわれました。

教室のイメージ
写真=iStock.com/Milatas
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Milatas

中学2年生のときが、もっともいじめがひどかったそうです。教科書を隠されて小突かれたり、ズボンの上から性器を強く握られたり、賞味期限切れの牛乳を無理矢理飲まされたり……。休み時間はいつも1人で、校舎のすみでバスが通り過ぎるのを見て過ごしたことを記憶しています。このようにASDの当事者は、小児期に周囲の理解やサポートが得られずに、いじめの対象となることが珍しくないのです。

■記憶力が優れているせいでいじめの記憶を忘れられない

ASDのお子さんの場合、いじめの加害者になることはほぼありません。ほとんどが被害者の立場です。まれに爆発することはありますが、いじめられてもその場で激しく反応することは比較的少ないため、いじめた側はそのお子さんが受けた心の痛みを軽く見ているのかもしれません。

実際には、小学校の頃に受けたいじめの記憶が高校時代、あるいはそれ以降にフラッシュバックしてくるケースも多々見られます。また、映像も非常に鮮明で、細部まで覚えています。

私が診療している成人の患者さんでも、「今でも(自分をいじめた)アイツが許せない。殺してやりたい」などと、現在進行形で小学校時代の恨みを語る人がいます。クラスメイトだけでなく、教師の名前が出てくることもあります。忘れられれば楽になるのでしょうが、すぐれた記憶力を持っているため忘れられないのです。

■教師があえておせっかいな介入をすることも必要

では、ASDのお子さんに接する学校関係者は、どのような方針で接すると良いのでしょうか?

岩波明『発達障害の子どもたちは世界をどう見ているのか』(SB新書)

コミュニケーションにおいては、ASDのお子さんの「延々」「とことん」の部分に付き合うということが大事だと思います。

たとえば、大好きなことを延々としゃべりたい子がいたとしたら、別の教室にその子を連れて行って、その子が納得するまで誰かが話を聞いてあげることも重要でしょう。忙しい学校現場で、とことん付き合うのは難しいかもしれませんが、思いを発散する体験をすることで、そのお子さんのその後が変わっていく可能性もあると思いますし、信頼関係が強固となります。

また、学校の現場では、ときおり「少しおせっかいな介入」も必要かもしれません。たとえば、1人でいることを好むASDのお子さんがいたとして、その子をそのままの状態で見守るのも1つの選択肢です。

けれども、ときどきは先生方からお節介なことをしてあげてほしいのです。「もしかしたらこのグループとは相性が良いかもしれないな」というグループにあたりをつけ、機会を見つけて「よかったらこの輪に加わらない?」と声をかけてみる。結果として参加しないかもしれませんし、素っ気ない反応をするかもしれませんが、マイナスに作用することはないと思います。

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岩波 明(いわなみ・あきら)
精神科医、昭和大学附属烏山病院院長
1959(昭和34)年、神奈川県生まれ。東京大学医学部医学科卒。医学博士。発達障害の臨床、精神疾患の認知機能の研究などに従事。都立松沢病院、東大病院精神科などを経て、2012年より昭和大学医学部精神医学講座主任教授、2015年より昭和大学附属烏山病院長を兼務。著書に『発達障害』(文春新書)、『医者も親も気づかない 女子の発達障害』(青春新書)、『誤解だらけの発達障害』(宝島社新書)など多数。

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(精神科医、昭和大学附属烏山病院院長 岩波 明)

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