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NHK紅白の目玉が「けん玉」で本当にいいのか…史上最低視聴率になった国民的番組が「脱ジャニ」の次にすべきこと

プレジデントオンライン / 2024年1月10日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

■「人権尊重のガイドライン」を提示したNHK

昨年大晦日の「第74回NHK紅白歌合戦」に旧ジャニーズ勢の姿はなかった。周知の通り、性加害問題を受けたうえでの判断だ。NHKは6つの項目からなる「第74回NHK紅白歌合戦の出演者に対する人権尊重のガイドライン」を提示し、その立場を強調している。12月20日の定例会見でも、NHKの稲葉延雄会長はSMILE-UP.(旧ジャニーズ事務所)や新会社に新規の出演依頼をしない姿勢の継続を重ねて表明した。

「紅白」は、視聴率以上に象徴性を帯びた番組だ。ある程度のフォーマットの一貫性を保ちながら70年以上続いてきたこともあり、その年のヒットを測ってみせる物差しとして機能しているとも言えるだろうか。ことに近年は、日本のエンタテインメント全体の大忘年会のような構成になっている。

そこでジャニーズ勢は長らく大きな存在感を示していた。一昨年は白組22組のうち6組(27%)を占めていたほどだ。過去の「紅白」でもっとも多かったのは2015年の7組だ。

だが、それがいきなりゼロになった。

■2000年代後半までジャニーズ枠は3組程度だった

ジャニーズ事務所のタレントがはじめて「紅白」に出演したのは、1965年のことだ。出場したのは、4人組グループのジャニーズ。事務所が創業して3年目のことだった。

その後、1970年から76年までフォーリーブスが7年連続で出場し、当時ジャニーズに所属していた郷ひろみも2回出場している。渡辺プロダクションとの業務提携を解消して法人登記をしたのは、この間の1975年だ。

だが、1977年から79年までは3年連続で不選出となる。この時期、フォーリーブスが解散し、郷ひろみは他社に移籍して、ジャニーズ事務所はかなり厳しい時代を迎えていた。

ジャニーズ事務所が芸能界で大きな存在感を発揮するのは、80年代に入ってからだ。田原俊彦と近藤真彦の大ブレイクをきっかけに、シブがき隊、少年隊、光GENJIとヒットグループを送り出し、90年代のSMAPに繋がっていく。

だが、それでも「紅白」の出場組数は限られていた。1986年と1988年は4組まで増えるが、その後は2008年まで1~3組で推移する。「紅白」は1989年から2部制となり出場歌手が増えるが、それでもジャニーズ枠は抑えられていた。1990年代にはV6とKinKi Kidsもデビューしているが、この時期には出場していない。

そうした状況に変化が訪れるのは2009年からだ。この年、それまで15回以上出場をしていたSMAPとTOKIOに加え、嵐が初出場し、さらにデビューしたばかりのNYC boysも出場した。そして、2015年には7組にまで増えていく。

【図表】1994〜2023年「紅白歌合戦」ジャニーズ事務所所属歌手・グループ出演回数(筆者作成)
1994〜2023年「紅白歌合戦」ジャニーズ事務所所属歌手・グループ出演回数(筆者作成)

■中居正広から嵐へ、司会が移行した2010年代

この背景として確実に押さえておく必要があるのは司会者だ。2006年から2009年までSMAPの中居正広が務め、そして2010年代のうち9年は嵐やそのメンバーが司会を担当した(2015年は井ノ原快彦)。出場歌手だけでなく番組に深く関与していったのである。

このとき、中居を押しのけるように嵐が司会に就任したことにも、留意が必要かもしれない。

というのも、先日公開されたTBSのジャニーズ問題の検証では、以下のような印象的な証言があるからだ。

当委員会のヒアリングに対して編成局と制作局を経験した社員は次のように語る。

「TBSは、数年前まではジャニーズ内の派閥対立に巻き込まれて忖度(そんたく)したり、圧力を感じてきた歴史だったと思う。同じジャニーズ事務所でありながら、全くの別会社のように連携を取らず、お互いを敵対視している争いに振り回されてきた。バランスを保つために右往左往する先輩たちを多く見てきた」

TBSホールディングス「旧ジャニーズ事務所問題に関する特別調査委員会による報告書」2023年11月26日

具体的に明記はされていないが、おそらくこれはTOKIOや嵐を手掛けた藤島ジュリー氏と、SMAPやKis-My-Ft2を手掛けていた飯島三智氏との派閥対立だと考えられる。

「紅白」にこの派閥争いがどのように影響したかはわからないが、Kis-My-Ft2がはじめて出場したのは、飯島氏がジャニーズを離れ、SMAPが解散した後の2019年だった。TBSと同様に、2010年代の「紅白」がこの派閥争いに強く左右された可能性はあるだろう。

■ジャニーズ依存を強めた10年間の視聴率

2010年代の「紅白」とは、状況的にジャニーズへの依存を強めていった10年間だったと言える。

それにどれほどの効果があったかはわからない。その10年間、視聴率はほぼ横ばいで推移しているからだ。もちろんネットメディアの浸透でテレビ離れが続くなかで、ジャニーズによって視聴率の低落を押し止めていた可能性もある。実際に、旧ジャニーズが不在だった今回の「紅白」は第1部は29.0%、第2部31.9%と過去最低の結果となった。

【図表】「紅白歌合戦」視聴率推移(世帯視聴率・関東/ビデオリサーチ)とジャニーズ事務所所属アーティスト出場数推移(筆者作成)
「紅白歌合戦」視聴率推移(世帯視聴率・関東/ビデオリサーチ)とジャニーズ事務所所属アーティスト出場数推移(筆者作成)

■音楽メディアの移行期に生じた混乱

この2010年代とは、音楽メディアに混乱が生じた時代でもあった。日本では2000年代後半に着うたや着うたフルといった独自の携帯電話向け音楽配信サービスが浸透しつつあったが、スマートフォンの普及によって一気に衰退した。

それもあって、日本の音楽業界はCD販売への依存を続けた。AKB48を中心に握手券をつけるなどの複数枚購入を目的とする特典商法が定着し、ジャニーズは配信に乗り出さないことでCDの売り上げに固執した。CDランキングの集計方法に変更を加えなかったオリコンランキングでは、ジャニーズとAKB48グループばかりが上位を占めて混乱状況に拍車をかけた。

そのため、2005年から2015年頃までは極めてヒットが見えにくい時期でもあった。ストリーミングサービスが日本に登場するのは2015年頃からだが、売り上げのシェアでCDを上回るのは昨年(2023年)か今年と予測される。グローバルでは2015年以降に音楽産業は回復基調に入るが、日本は昨年やっとその兆しが顕れた程度だ。音楽メディアの過渡期が、日本ではいまも続いている状況と言える。

ジャニーズはこうした混乱期・過渡期に「紅白」との関係を深めていった。いまだに一部を除けばストリーミングには乗り出しておらず、YouTubeでのミュージックビデオ公開も本格的に始めたのは2019年からだ。

つまり構図としては、ジャニーズは従来のメディアであるCDとテレビ(放送)を中心とするビジネスモデルから離れられず、「紅白」とレコード会社も低落傾向に歯止めをかけるべくジャニーズにすがった。

インターネット回線に繋がったテレビが全世帯の半分を超え、ストリーミングがかなり定着期に入った現在から振り返れば、2010年代の「紅白」とは古い芸能プロダクションと古いメディアとの“未来なき蜜月時代”だったといえるだろう。

が、その蜜月が昨年いきなり終わった。しかもかなりのハードランディングで。

■性加害問題を積極的に報じてきたNHK

報道においては、NHKはジャニーズの不祥事をもっとも積極的だったテレビ局だ。自局でレギュラー番組を持つタレントの強制わいせつ事件(2018年)も、公正取引委員会による注意(2019年)も、最初に報じたのはNHKだった。今回の性加害問題でも、テレビではTBSとともに相対的に早い段階から報じ、10月2日のジャニーズ事務所の会見後には「NG記者リスト」もスクープした。その翌週には、局内における過去の性加害もみずから報じた。

これらが可能だったのは、もともと報道を中心とする局であるのはもちろんのこと、制作部門と報道部門が別採用であり、両者の人的交流が民放局よりも少ないことがその背景にある。他局のように編成局が報道局に口を出したり、報道局が編成局を忖度したりするようなことが生じにくい組織になっているからだ。

■公正な競争が阻害された可能性はある

報道で毅然(きぜん)とした姿勢を見せるNHKだが、しかしこれまでの「紅白」におけるジャニーズとの不自然な関係はいまだに検証されていない。9月11日の「クローズアップ現代」では、2004年当時に「紅白」などを統括していた歌謡・演芸番組部長への取材もしているが、それは性加害についての認識を確認することにとどまっている。2010年代におけるジャニーズと「紅白」の蜜月の背景に何があったのかは、いまだにわからない。

「紅白」が不自然にジャニーズ依存を続けていたことは、視聴者からの受信料で運営される公共放送である以上、しっかりとしたさらなる検証が必要だろう。ヒットの物差しとという強い象徴性を維持している番組であるがゆえに、エンタテインメント全体への影響力も強いからだ。

実際、ポピュラー音楽の公正な競争が阻害された可能性もある。DA PUMPやw-inds.、JO1、BE:FIRSTなど競合グループをちゃんと出演させてきた実績もあるが、数でいえばジャニーズ枠の増加によって他のアーティストのチャンスが失われたのは間違いない。

NHKの中心は報道とはいえ、「紅白」も看板番組だ。そして、結局この2010年代の「紅白」とジャニーズの“蜜月”が棚上げにされたまま、旧ジャニーズ勢がいない昨年の大晦日は終わった。

■NHKが掲げる「紅白」出演者の選考基準

NHKは「紅白」出演者の選考基準として「今年の活躍」「世論の支持」「番組の企画・演出」の3つをかねて提示している。「今年の活躍」はCD売り上げやストリーミングの再生回数等、「世論の支持」はNHKが独自に行うアンケート調査に基づいており、これらのデータを参考にして“総合的に判断”しているという。しかしアンケート調査の結果は公表されておらず、制作側による「企画・演出」はどうにでも解釈できる。したがって、この基準は不透明だ。

たとえば、旧ジャニーズ勢だけでなく、例年「紅白」では演歌勢も一定の枠を占めている。「今年の活躍」「世論の支持」という点では疑問符がつくが、一昨年も7組が出場していた。そこにも旧ジャニーズとは異なる業界政治がかいま見える。今回でいえば三山ひろしはけん玉で、水森かおりはドミノで賑やかし役を務めており、NHKとしてはそれらは「番組の企画・演出」で必要だったということなのだろう。

■基準の明確化が芸能プロダクションとの健全な距離を生む

「紅白」に必要なのは、より明確な選考基準だ。近年の「紅白」はビルボードチャートと似た傾向を見せている。ビルボードがその年のヒットをポイント化して発表する「Artist 100」のうち、「紅白」に出演したアーティストは2021年は23組、2022年は29組、2023年は25組と出演者の半分程度で推移している(「Artist 100」の30位以内に限ると2022年は19組、2023年は11組)。ビルボードチャートがNHKの調査(「世論の支持」)と近い結果になったということかもしれないが、ならばいっそのことビルボードチャートを用いる形でより明確な基準を打ち出すこともひとつの手段として考えられる。

そしてそうした策が、芸能プロダクションとテレビ局の間にしっかりとした距離を作ることにもつながる。というのも、ジャニーズ事務所はバーター(抱き合わせ)を使いこなしてメディア露出をコントロールしてきたが、それはほかのプロダクションも大なり小なりやっている手法だからだ。

よって、たとえジャニーズが解体されても問題が根治されたわけではない。これまでの業界の慣習や構造を見直さないかぎり、類似の問題が生じるリスクは残ったままだ。公共放送であるNHKが、この構造にメスを入れるためにも「紅白」選考基準の明確化は欠かせない。

近年の「紅白」は、「芸能」と「音楽」のバランスを取ることに腐心してきた。演歌勢の余興的な賑やかしは、「芸能」の需要を満たそうとする最たる演出だ。しかし公正な基準で音楽と向き合うことで新たな扉が開くはずだ。

実際、その可能性は今回はっきりと見えた。それがYOASOBIのステージだ。

■YOASOBI「アイドル」のステージはインパクト大だが…

今回の「紅白」のハイライトは、間違いなくYOASOBIのステージだった。昨年日本でもっともヒットした曲「アイドル」を披露し、出演していた日韓のアイドルが勢ぞろいした。このステージに出演したのはSEVENTEEN、乃木坂46、NiziU、BE:FIRST、NewJeans、JO1、Stray Kids、櫻坂46、LE SSERAFIM、MISAMO、橋本環奈、anoだ。最後には全員でダンスを踊り、全員が「アイドル」としての姿を見せつけた。なかでも世界的に大ヒットしたNewJeansのメンバーが、ヴォーカルのikuraの横で楽しそうに踊っているのが印象的だった。

そして番組全体のテーマは「ボーダレス」だった。旧ジャニーズ勢のいない「紅白」において、NHKは日韓のアイドルを揃えてこのテーマに回答した。それは同時に、「旧ジャニーズを出さずにどのように『紅白』をつくるか」という問いへの回答でもあっただろう。たしかにそれは、ジャニーズの影を吹き飛ばすようなインパクトがあった。だが、それをもって「紅白」の「禊」としていいわけではない。

 

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松谷 創一郎(まつたに・そういちろう)
ジャーナリスト
1974年、広島市出身。文化全般について商業誌から社会学論文まで幅広く執筆。現在、『Nらじ』(NHKラジオ第1)にレギュラー出演中。著書に『ギャルと不思議ちゃん論』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)、『文化社会学の視座』(2008年)等。

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(ジャーナリスト 松谷 創一郎)

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