この前まで大量閉店していたのに…バーガーキングが一転して急成長している「2つの要因」とは
プレジデントオンライン / 2024年1月13日 14時15分
■日本マクドナルド創業者・藤田田の「宣言文」
29年前の12月、マクドナルドの全社員に向けて、「宣言文」が公開された。以下のタイトルが記されている。
冗談ではない。文を書いたマクドナルド社長(当時)藤田田(ふじたでん)氏は大まじめだ。内容を要約すると、
「この先10年以上続くデフレに対応すべく、『価格破壊』すなわち大幅値下げを敢行する」
というもの。マクドナルドは、デフレの進行に合わせ「宣言」を忠実に実行していく。
400円のバリューセット、130円――いや平日は65円――のハンバーガー。
「価格破壊砲」に直撃されたバーガーキングは撃沈、かすめたロッテリアは大破、価格競争に参戦しなかったモスバーガーが漁夫の利を得る。以降、圧倒的なシェアを獲得したマクドナルドが盤石になり、2位にモスバーガー、3位にロッテリアという業界構造が、現在まで続いている。
日本を撤退したバーガーキングは、2007年に再上陸するも、上位3社の牙城が崩せない。19年には23店の大量閉店を実施している。全体のおよそ2割、1カ月で12店というスピード閉鎖に、
「また撤退か」
という憶測が広がる。しかし、この「大量閉店」こそ、バーガーキング逆襲の始まりだった。
■4年半で2.7倍に急増、売上は前年比130%超
当時、バーガーキングの運営は2社が混在していた。ひとつは、フランチャイズ契約が終了していた「バーガーキングジャパン」。もうひとつは、17年にフランチャイズ契約を締結した「ビーケージャパンホールディングス」である。
大量閉店の対象は、前者「バーガーキングジャパン」運営店舗だ。「ビーケージャパンホールディングス」は、古い運営店舗を一掃し、新たなプロモーション戦略のもと、新店舗を毎年30店のペースで出店していく。
19年時点で76店まで減少していた店舗数は、21年には141店、22年には177店、そして、今年度末(23年)には207店へ。4年半で2.7倍に急増したことになる。店舗増に伴い、売上も3年連続で前年比130%超を達成し、今期売上は200億円を見込む。
売上219億円、業界3位の「ロッテリア」の背中が見えてきた(※)。
※売上=21年度実績ロッテリア「フランチャイズ契約の要点と概説」より
■「ファンを増やす」商品プロモーション
バーガーキング急成長の背景には、2つの要因がある。
ひとつは、巧みなプロモーションだ。これは、19年に入社したマーケティングディレクター野村一裕氏(現社長)の影響が大きい。氏がプロモーションで意識しているのは「ファンを増やすこと」「店舗への来店を喚起すること」「ブランド認知を拡大すること」の3つだという。
「ファンを増やす」ため、重点を置いているのが商品プロモーションである。
同社の商品の「とてつもない大きさ」(主力商品「ワッパー」の意味でもある)と、直火焼きの美味しさを、将来のファンに訴える。それもかなり極端に。
その極端さは、同業界でプロモーションを得意とするハンバーガーチェーン「ドムドム」と比較するとわかりやすい。
ドムドムのプロモーションには、女性社長である藤﨑忍氏のセンスが色濃く反映されている。X(旧ツイッター)やプレスリリースには、商品はもちろん、自社のロゴをあしらったアクセサリーやグッズ、コラボ企業と制作したTシャツやパーカーなど、カラフルな画像が並ぶ。
■打ち出しているのは「肉」
バーガーキングはどうか。肉が並ぶ。X(旧ツイッター)やプレスリリースの色は2色。茶色と黄色。肉とチーズだ。この2色のビジュアルを、カロリーや重量など「スペック」中心のキャッチコピーが支える。例えば、以下のように。
他の商品にも
「チーズバーガー界を見おろすラスボス!」
「ゲレンデの雪を彷彿とさせるたっぷりのホワイトチーズソース」
など、カロリーの高そうなキャッチコピーが並ぶ。
「ポテトでもない。ナゲットでもない。今、食べたいのは『ハンバーガー』」
そんなときに来店してくれる人たちこそ、バーガーキングが理想とするファンだ。SNSには
「一度知ったら、もう戻れない」
「直火焼きの香ばしさがクセになる」
など好意的な投稿が少なくない。ファンはさらに増えつつある。
■「ブランド認知を高める」店頭プロモーション
商品プロモーションで「ファンの増加」を図る一方、「ブランド認知拡大」には店頭プロモーションを活用している。
野村社長はプロモーションについてメディアから取材を受けることが多い。そこでは、「広告予算が限られている」「潤沢な原資がない」といった言葉が頻出する。カネがないから、アタマを使う。
その好例が、19年1月のバーガーキング下北沢店の開店告知だ。使ったのは「紙」だけ。X(旧ツイッター)で寄せられたファンの出店要望と自社の返信を、巨大な紙に印刷し、開店工事中の店舗の窓一面に貼りつけたのだ。
「作ってんで! オープン初日にお待ちしています」
これを工事中の店舗に貼ることで、ファンの要望に即座に応え、「いま作っている」という臨場感を演出した。店舗周辺の人通りが多い時刻を調べ、貼り付け作業終了とリツイート時刻を、それに合わせた。この告知に関するX(旧ツイッター)の投稿は、3時間で10万を超えたという。
1人のファンの投稿からはじまったこのプロモーションは、自社から発信するのではなく、SNS投稿やメディア掲載を誘発させたものだ。古くからある口コミの基本である。この基本を徹底し、独特の工夫を凝らすところにこそ、バーガーキングの強みがある。
このプロモーションは、ADFEST2021(アジア太平洋広告祭)において「アウトドアロータス部門 シルバー賞」を受賞している。
■「賛否両論」の縦読み広告
同広告祭で、バーガーキングが受賞したプロモーションが、もうひとつある。21年1月、閉店する近隣のマクドナルド店に向けて発した、垂れ幕メッセージだ。
私たちの2軒隣のマクドナルドさんが今日で最終日を迎えます。
たがいに良きライバルとして、アキバを愛する仲間として
ちかくにいたからこそ、私たちも頑張ることができました。マクドナルドさん
のいないこれからを思うと寂しさでいっぱいです。どうかみなさん、
勝手なお願いですが、今日は彼のところに行ってください。ずっと背中を追い続けた
チャレンジャーの私たちから、スマイルを込めて。お疲れさまでした。
このメッセージは、横に読むと「ねぎらいと感謝」の文章だが、左の1文字ずつを縦に読むと「私たちの勝チ」となるように作られていた。
閉店するマクドナルドを揶揄している。そう受け取られかねないプロモーションには、賛否両論あった。その「賛否」こそ、野村社長の狙いだった。「賛」と「否」、両方の層で話題となれば、「バーガーキング」を知る人が倍ふえる。知名度が低く資金もない。なりふり構っていられない。そんな切迫感がバーガーキングにはある。
このプロモーションも、ADFEST2021(アジア太平洋広告祭)において「PR ロータス部門 ブロンズ賞」「アウトドアロータス部門 ブロンズ賞」の2つを受賞するなど、高い評価を得ている。
「ファンを増やす」「店舗への来店を喚起する」「ブランド認知を拡大する」。そのためにはまず「話題になること」だ。プロモーションを、その目的に特化したことが、バーガーキング急成長の要因のひとつである。
■なぜ好立地に好条件で出店できたのか
急成長の2つ目の要因は、「コロナ」によるものだ。
バーガーキングは、23年11月に都立大学駅前店をオープンしている。
ここは、サンマルクカフェの跡地だ。サンマルクカフェはコロナ以降店舗数が急減している。20年3月期に405店あった店舗は、23年3月期には333店に。さらに70店以上の閉店を予定している。カフェだけではない。居酒屋・ファミレスなどでも閉店が相次ぎ、好立地が空いて、出店しやすくなった。
コロナ禍の影響で、出店条件も有利となった。バーガーキングが積極的に出店した20~21年上期について、日本不動産研究所は、「総じて空室が多くテナント側が有利な状況にあることから、今後の賃料水準がダウンすることが懸念される(店舗賃料トレンド2021春)」と評している。
好立地に好条件で出店できるようになったため、出店ペースが早まった。これがもうひとつの急成長要因だ。
つまり、バーガーキング急成長の要因は、コロナ禍で撤退店舗が増え、出店しやすくなったという外部要因。そして、話題になるプロモーションを打ち、認知度を高めたという内部要因である。いわば「運」で店舗を増やし、「努力」で売上を増やした。この2つの要因があったからこそ、急成長できたのではないだろうか。
■店舗当たりの月商はモスバーガーを上回る
ここから、現状と今後の課題について考察する。
上位2社(マクドナルド、モスバーガー)との差はどれくらい詰まったのか。
現在のバーガーキングの売上は200億円。対して、マクドナルドは7000億円、モスバーガーは1189億円。差はまだまだ大きい。
一店舗当たり月商(1カ月の売上)で比較すると、バーガーキングは840万円弱。対して、マクドナルドは2000万円。差は圧倒的だ。「私たちの勝チ」とは、とても言えない。一方、モスバーガーの767万円を超えたことは、今後に期待を抱かせる。
※バーガーキング=当期見込より算出、マクドナルド・モスバーガー=22年度実績
しかし、資金面には、やや不安がある。
流動資産(現預金など)が減り、流動負債(近々に返す借金など)が増えた。結果、短期安全性の指標「流動比率(※)」は40.9%という低い値に。業界にもよるが、一般的には100%を切ると、危険水域だ。大量出店のための手持ち資金不足を、借入で賄ったものと思われる。急成長の負の側面が出てきたわけだ。一言でいえば「カネがない」。よって、今後の出店は「フランチャイズ」に依存することになる。
※464百万円(現金預金・売掛金など=流動資産)÷1136百万円(仕入の買掛金や1年以内に返さなければならない借入など=流動負債)。値が小さいほど短期安全性が低い。(ビーケージャパンホールディングス 2022年12月31日 第6期決算公告より算出)
■米国ではマクドナルドの次、韓国ではマクドナルド超え
フランチャイズなら、加盟者(フランチャイジー・オーナー)が出店資金を負担するため、自社の負担を軽減することができる。
野村社長は、23年6月の「ビジネスチャンス」のインタビューで
「28年までに500店舗に拡大し、フランチャイズ店を300店舗にする」
としている。既存の約200店の大半が直営であるため、これから出店する300店の大半はフランチャイズだ。目標を達成するには、年間で60店をフランチャイズで出店しなければならない。一方、これまでのフランチャイズ出店ペースは年間4店舗程度(23年6月時点)。15倍に加速する必要がある。
では、それだけのフランチャイズ加盟者を獲得できるか。
これも難しい。加盟基準が厳しいからだ。3年以上の事業実績を持つ法人であること。そして、複数店舗での事業展開を計画することが求められる。少なくとも「脱サラ」レベルでやれるフランチャイズではない。
ビーケージャパンホールディングスは、まだ創立7期であり、フランチャイズノウハウが豊富とは言えない。加盟検討者に、どこまで優位性を訴求できるかが課題となる。
一方、海外のバーガーキングの店舗数を見てみると、米国ではマクドナルドに次ぎ、韓国ではマクドナルドを超えている。日本での伸びしろもまだまだあるはずだ。
野村社長はバーガーキングの理念を「本物のハンバーガーを伝えること」だと言う。
本物とは何か。「バーガーキングこそ本物」。そう思うファンをどれだけ増やせるか。それが、今後の成長継続の鍵となるだろう。
----------
経営コンサルタント、中小企業診断士
企業診断を実施する傍ら、ライターとしてビジネス記事を執筆している。
----------
(経営コンサルタント、中小企業診断士 関谷 信之)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
モスが始動「5年で100店舗」狙う新業態の"懸念点" 駅ナカにジューススタンド、味も普通に良い、が…
東洋経済オンライン / 2024年10月5日 9時40分
-
フランチャイズの配達注文と店舗での販売価格はなぜ異なるのか…韓国で増える「二重価格制」
KOREA WAVE / 2024年9月26日 9時0分
-
「新生・バーガーキング」がブレイクできた理由。「初上陸時の失敗」を分析し、独自のポジションを築くまで
日刊SPA! / 2024年9月25日 8時52分
-
手軽なので、毎日「牛丼定食」や「ハンバーガー」を食べています。自炊に切り替えたら、年間費用はどれだけ浮くでしょうか?
ファイナンシャルフィールド / 2024年9月19日 4時10分
-
ハンバーガーの「セット販売」が一番安い大手ハンバーガーショップはどこ? カロリーについても教えて!
ファイナンシャルフィールド / 2024年9月10日 2時40分
ランキング
-
1セブン&アイHD、イトーヨーカ堂株売却の狙い 各地での閉鎖ラッシュは止まるか カナダのコンビニ大手による買収提案も背景
zakzak by夕刊フジ / 2024年10月5日 13時7分
-
2助かる! 撤去予定だったANA「自動チェックイン機」復活へ その概要は? 来年秋頃から新型に
乗りものニュース / 2024年10月5日 11時12分
-
3日立、国際鉄道見本市に「10年前の車両」なぜ出展? イタリア鉄道の高速列車、何が変わったのか
東洋経済オンライン / 2024年10月5日 7時0分
-
4旅の新形態「アドベンチャートラベル」とは 海外で人気、市場規模は70兆円超に
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年10月5日 17時36分
-
5石破政権の誕生は「日本経済正常化」の第一段階だ 真の経済発展政策「社会資本・主義」が始まる
東洋経済オンライン / 2024年10月5日 9時30分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください