まさかの大迷惑モノ"放置竹林"でガッチリ稼ぐ…竹を飼料・肥料にして「3年で年商2.5倍爆増」企業の大逆転発想
プレジデントオンライン / 2024年1月12日 11時15分
■祖業は石油の地下タンク検査、今は竹で稼ぐ
伐採後に粉砕されて間もない生竹の山に手を入れると、ほんのり温かい。もう発酵が始まっているのだ。
「竹に含まれる乳酸菌効果ですね。パンダが笹を食べてあんなに大きく育つのにも影響しているかもしれません」
そう話すのは、大和フロンティア(宮崎県都城市)の専務・田中裕一郎さん(45)。IT関連企業勤務から、2005年に兄・浩一郎さんが創業した大和フロンティアに入社した。
「創業時は、ガソリンスタンドや運送会社などにある、石油の地下タンクの検査事業がメインでした」
現在も宮崎県内の約6割の地下タンクの検査を手がける大和フロンティア。創業当初こそ新規顧客を順調に獲得したが、ほどなく地下タンク検査業だけでは事業性が厳しいことに気が付いた。
「地下タンクの検査は3年に1回のところが多いうえに、補助金の関係で作業が毎年秋から冬に集中します。創業時に、検査で使うダンプカーを購入したのですが、春から夏の閑散期に何かできないかと考えました」
都城市は霧島連山のふもとに盆地が広がる、全国有数の畜産や林業が盛んな地域だ。そこで田中さんは、杉の鋸屑(のこくず)を仕入れて飼料に加工し、畜産業者に販売する事業に参入した。事業は軌道に乗り、自社で杉の粉砕機を導入するまでになる。しかし保有するトラックが20台を超えたころ、今度は杉が調達困難になった。
「さまざまな業界でバイオマス燃料の需要が増え、杉の価格が2倍以上に高騰しました。さらに中国への輸出も進み、林業が盛んな都城でさえも杉の供給量が足りなくなったのです」
■増えるのは竹ばかり
2010年代のことだ。折しもガソリンスタンドの廃業が続き、地下タンク検査の取引先も減る一方。田中さんが地元の山を見渡しても、杉が減って、目立つのは竹ばかりだった。
「竹か……」
ちょうど「放置竹林」が、都城でも問題視され始めたころだった。高齢化などで地主が管理しきれなくなった山林を、繁殖力の強い竹が侵食していく。竹は浅く根を張るため、土壌をしっかりホールドせず、降水量が増えると竹林ごと地滑りを引き起こすリスクがあった。また、放置竹林は日当たりが悪く、竹が腐って倒れる危険もある。さらに竹は繊維質が多いため、伐採しようにも通常のノコギリやチェーンソーでは刃が欠けたり目詰まりを起こしたりと、とにかくやっかいな存在だった。
竹は温暖な地域でよく育つ。林野庁の「森林資源現況総括表」によると、竹林の多くは九州にあり、宮崎の竹林面積も増え続けていた。
そんなとき、兄で社長の浩一郎氏が耳寄り情報をキャッチした。
県の畜産試験場が、放置竹林を伐採して飼料や肥料に加工した「竹葉(笹)サイレージ」を開発したというのだ。サイレージとは、牧草などの原料をサイロや特殊なビニールなどで密封して発酵させたもの。放置竹林であれば原料はタダ同然だし、地域の困りごとも解決できて一石二鳥に思われた。
「うちで事業化できないかと、兄が畜産試験場に通って笹サイレージの製法を学びました。その後、竹専用の伐採用重機や粉砕機を購入し、いよいよ自分たちでやってみることになりました。ところが商品化のハードルは高く、思わぬエラーが続出したのです」
■「レシピ通りにやったのに」続くトライアル&エラー
大和フロンティアが畜産試験場から笹サイレージの製法を学び、自社で製品化にトライし始めたのは2015年。製造工程は、大まかにこうだ。
【笹サイレージの製造工程】
1.生竹(孟宗竹が最適)を伐採する
2.伐採した生竹を粉砕する
3.粉砕した生竹に糖蜜・乳酸菌・水を加える
4.攪拌(かくはん)する
5.圧縮する
6.ロール状に成型する
7.特殊なビニールで包装し密閉する
8.保管して発酵させる
「畜産試験場のレシピ通りに製造したところ、うまくいきませんでした。畜産試験場の粉砕機は目が粗く、同じ粗さで粉砕すると、竹の繊維がビニールを破り、そこからカビが生えてきたのです」
ならばと細かく粉砕したところ、今度は細かすぎて圧縮しても崩れてしまう。さらにレシピ通りの糖蜜を加えると量が多く、またもカビが発生した。
「今思うと、実験的なサンプルと量産用の製法は大きく異なりました。細かく粉砕した竹が、成型できずに目の前でボロボロと崩れたときは、『これは商品化できないかもしれない……』と思いましたが、エラーが出るたびに兄と話し合ったり、畜産試験場や宮崎大学の研究者に相談したりして、一つひとつ解決していきました。私たちも、既に重機を導入していたので必死でした」
身銭を切って学ぶ田中兄弟の姿に、地元の有識者たちは協力を惜しまなかったという。投入する糖蜜の量や撹拌のタイミング、圧縮時の機械の調整などを細かく見直し、ついに商品化に成功した。製造に関する特許も取得し、2016年に笹サイレージの販売を開始した。ところが……。
「餌を変えて、大切な牛に何かあったらどうする」
2016年に発売した笹サイレージは、販売先が見つからなかった。
「まずは飼料として使ってもらおうと、鋸屑の取引先に打診しましたが、ことごとく断られました。『餌を変えて、大切な牛に何かあったらどうする』と言うのです。肥育農家は主に中国産の稲わらを使っており、値段は1kg当たり30円台でした。笹サイレージは350kgのロールを1万円、つまり1kg当たり28円ほどで価格設定をし、『乳酸菌が豊富で栄養価が優れている』という畜産試験場のデータも紹介したのですが、だめでした」
肥育農家が、餌の切り替えに抵抗を示すのも無理はなかった。特に牛は2年近くかけて育てるため、餌を変えることで大切に育てた牛の食欲が落ちたり、肉質が変わったりするリスクを恐れたのだ。
販売ルートがなければ、すべては無駄骨だ。だが、そんな窮地の田中さんたちに思わぬ助っ人が現れる。
「同じころに地元の都城市が放置竹林対策支援事業を立ち上げて、補助金を設定してくれました。放置竹林を活用した飼料や肥料の購入に対して、3年間半額を補助するというものです。このおかげで、少しずつ肥育農家が笹サイレージを使ってくれるようになりました」
■乳酸菌効果で牛・豚の腸内環境が改善
しかも、笹サイレージが飼料に使われると、畜産試験場のデータ通りの効果が表れた。
「乳酸菌効果で、牛や豚の腸内環境が改善しました。特に子牛が下痢をしなくなり、肥育がよくなったのです。肉質も、うまみ成分であるオレイン酸が増え、臭みのないおいしい肉になりました。2022年の、ロシアのウクライナ侵攻による輸入飼料価格高騰でも笹サイレージの普及が進みましたね。酪農においても、乳牛が餌を残さず食べるようになったり、乳量が増えたりしています」
豚にも同様の効果が出た。なかでも都城の「観音池ポーク」は、笹サイレージの導入以降、2年連続で宮崎県のグランドチャンピオンに輝き、2022年には農林水産大臣賞を受賞した。さらに肉質の向上だけでなく、腸内環境の改善で栄養素の吸収率が上がり、1頭当たりの飼料が330kg→280kgに減少。会社全体で年間4000万円ものコスト削減につながった。
飼料だけではなく、農作物の肥料としての効果も絶大だった。竹の繊維質の多さは、伐採時はやっかいだが、笹サイレージになると水はけのよさに寄与するという。空気の層ができて土壌も柔らかくなる。そこに農作物がしっかり根を張ることで栄養を吸収し、収穫量や糖度が向上した。
「さらに、サツマイモの基腐病(もとぐされびょう)に対する予防効果も確認されました。地元企業や大学と連携した実証実験が進んでいます」
■防災無線が聞こえるように 自治体と連携協定も
笹サイレージの原料となる放置竹林の伐採を無償で引き受ける大和フロンティア。田中さんは、最初に担当した地域が印象的だったと話す。
「初めは『無償で伐採します』と言っても地主から警戒され、なかなか伐採させてもらえるところが見つかりませんでした。やっと知り合いの紹介で都城市の近くにある、えびの市の放置竹林を伐採しました。竹林の隣が公民館で、日当たりが悪くなっていたうえに、伸びた竹が電波を遮り、防災無線が聞こえなくなっていたのです。伐採後は『無線が聞こえるようになった』『日当たりもバッチリ』と感謝され、そこから口コミで伐採を頼まれるようになりました」
一方で都城市には住民から、放置竹林に関するクレームの電話が年間40件ほど寄せられていた。そこで2020年に、都城市と大和フロンティアは放置竹林対策に関する包括連携協定を締結。市から紹介された放置竹林の伐採を引き受けることで原料の調達が安定したうえに、飼料や肥料の販売もスムーズに進み始めた。この活動は、放置竹林問題に悩む他の自治体からも注目され、視察や相談が絶えないという。
「都城市を皮切りに、これまで県内外の14の自治体と包括連携協定を締結しました。さらに都城市の他に、鹿児島県さつま町に第2工場(2022年)を、宮崎県新富町に第3工場(2023年)を立ち上げました。笹サイレージ事業の年商は、直近3年で約2.5倍に拡大しています」
■放置竹林問題解決のポイントは
今でこそ笹サイレージ事業が軌道に乗った大和フロンティアも、2016年の発売から5年間は赤字続きだったという。
「苦しかったですね。いくら放置竹林問題の解決につながる優れた商品ができても、出口(販売先)がないと事業が成立しないことを、身をもって経験しましたが、あきらめずに続けてよかったです。また、今や社会課題となった放置竹林問題に対しては、産官学の連携が不可欠だと感じました」
今後も九州を基点に事業拡大を目指す大和フロンティア。地域の放置竹林問題解決のために蒔いた種から芽が出て、しっかりと根を張りつつある。
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ライター
日系製造業での海外営業・商品企画職および大学での研究補佐(商学分野)を経て、2018年からライター活動開始。ビジネス、異文化、食文化、ブックレビューを中心に執筆活動中。
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(ライター 水野 さちえ)
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