小池百合子都知事の「理念なきバラマキ」はもう許せない…元都知事が「続投なら東京は死ぬ」と警告する理由
プレジデントオンライン / 2024年1月16日 7時15分
■「3選出馬」を明言しない小池都知事
2016年6月に私が任期途中で都知事の職を辞した後、小池百合子氏が都知事選挙に勝利し、後任となった。今年の夏には2期8年間の任期を終えるが、3選を目指して出馬するか否かは明言していない。
これは邪推かもしれないが、小池氏が何も言わないのは、自民党の派閥のパーティ券問題による政界の激震を、国政への復帰のチャンスと見ているためかもしれない。
小池氏が都知事を続けるにしろ、国政に復帰するにしろ、この8年間の都政のかじ取りについてきちんと総括する必要があるだろう。
小池氏は公約を実行していない。「築地は守る」と言ったが、築地市場は解体され、豊洲に移転した。また、「情報公開は1丁目1番地」と言ったが、公開文書は黒塗りのままである。
さらに、2016年7月の都知事選の選挙公報では、①待機児童ゼロ、②介護離職ゼロ、③残業ゼロ、④都道電柱ゼロ、⑤満員電車ゼロ、⑥多摩格差ゼロ、⑦ペット殺処分ゼロ、という「7つのゼロ」を掲げたが、実現したのは⑦のみであった。
■東京のランキングが16位も低下
小池都政が東京から活力を奪い、その国際的地位を大きく低下させたことを示すデータがある。
イギリスのシンクタンクZ/Yenが昨年3月に発表した世界金融センター指数(GFCI)によると、国際金融センターとしての東京のランキングは21位に留まった。
ちなみに前回は16位、私が都知事のときは5位だった。小池都政の8年間で、東京の順位は16位も後退している。
私は都知事時代、「東京世界一」を目指して、様々な施策を展開した。その一つが「東京国際金融センター構想」であり、2014年5月に専門家からなるタスクフォースを発足させた。
バブルの時代には、国際金融はニューヨーク、ロンドン、東京の3都市を中心に展開されていた。だがバブルが崩壊した後、デフレの時代を迎え、国際金融における日本の地位は低下。日本の銀行や証券会社は、次々に海外支店を閉鎖していった。
■国際金融には興味がなかった?
そこで、私は、東京を国際金融都市として大きく飛躍させることを政策目標に掲げ、シンガポール、香港、上海からアジアの金融ハブ機能を東京に取り戻そうとした。
そのために、規制緩和、行政手続きの簡素化・迅速化、英語表記を増やすなど社会インフラの整備、外国人向け医療やメイドサービスの確保など生活環境の整備、空港の機能強化、能力の高い人材の供給、ファンド・マネジメント強化など、様々な政策を進めた。
私の辞任後も、タスクフォースの金融専門家は私の構想をもとに検討を続けたものの、私の構想としてではなく、全く新しい構想であるかのように小池新都知事に提案したようである。
どのような形であれ、国際金融センターとしての東京の地位を向上させることが重要であるので、タスクフォースの「悪知恵」は是としなければならない。
しかし、提案を受けたはずの小池都知事は、国際金融に関してはあまり興味がなかったようだ。アドバイザーがいかに頑張ろうとも、トップにその気がなければ前進するはずがない。小池氏に投票した結果、都民が払うツケは余りにも大きいと言わざるを得ない。
■「選挙のためのパフォーマンス」だったのか
小池氏の関心は、自身が権力を握り、大衆の喝采を浴びることにある、と私には見える。政策の勉強や新しい課題への挑戦などにはあまり関心がないのではないか。
もしそうであれば、小池氏はパンとサーカスで大衆を煽(あお)る、パフォーマンスだけ得意な亡国政治家だと言わざるを得ない。
視聴率と部数しか関心がない日本のマスコミはその共犯者である。
私が辞任した直後の知事選では、小池氏のそのパフォーマンス能力が猛威を振るう。そのおかげで当選した彼女は、都知事就任後もパフォーマンス政治を続けた。
その第1は築地市場の豊洲移転問題である。2016年7月に都知事に就任した小池氏は、豊洲市場の安全性に疑義を呈し、同年11月7日に予定されていた築地から豊洲への移転を延期した。
■豊洲の安全性は繰り返し確認してあった
しかし、豊洲新市場については、私の在任中に、安全性確保のために必要な工事を行い、法律で定められている以上に何度も繰り返し安全性を確認していた。
そうした努力を積み重ねた上で、築地から豊洲へ移転する日を決めた。なのに小池都知事はさしたる根拠もなく移転を白紙に戻したのである。最終的には小池氏も豊洲移転を決めたのだから、白紙撤回した目的はパフォーマンスだったと批判されても仕方がないだろう。
この時はNHKをはじめ、各マスコミも「小池応援団」になるという愚行に終始した。
■IOCも小池氏を蚊帳の外に置いた
第2は、東京オリンピック・パラリンピックである。
膨れ上がった経費を前に、私は森喜朗組織委員会会長と協力して、競技会場を埼玉県や千葉県の既存施設を活用するなどして、約2000億円の経費削減に成功した。
ところが、組織委員会とIOCと私で調査を繰り返して決定しているのに、ボート競技の会場を宮城県に移そうとするなど、パフォーマンスを繰り返した。
東京五輪のマラソンと競歩の開催地が、東京から札幌に変更になったのはその結果だ。
最終的にはIOCが決定したので、小池氏は完全に蚊帳の外に置かれてしまった。これは、開催都市の首長にとって最大の屈辱とも言える。IOCが小池都知事を無視したのは、彼女のパフォーマンスに辟易(へきえき)していたからである。
豊洲や五輪問題の詳細は、拙著『都知事失格』(小学館)に記したので、参照してほしい。
■コロナ禍で政府の足を引っ張る
2019年末に中国の武漢で新型コロナウイルス感染症が発生した。翌年の7月に都知事選を控えた小池氏は、これを最高の選挙キャンペーンの機会ととらえたかもしれない。
小池氏はコロナについて、「オーバーシュート」「ロックダウン」といった横文字を駆使し、必要以上に危機感を煽ってしまった。
そのため、都内のスーパーで商品が棚から消えてしまうなどの騒動が起こる。この騒動のあおりを受け、政府は、当初2020年3月末に予定していた緊急事態宣言の実施を、4月7日まで待つことになってしまう。
しかし、小池氏は連日のようにテレビに出て、自身のコロナ対策を説明することで、最大の選挙運動とした。
しかも小池氏は、「3密」を理由に、街頭演説も、公開討論も、ほとんど拒否した。
そのため、都知事選では1期目4年間の小池都政の功罪を検証する機会が奪われてしまった。
■いまだに答えていない「学歴詐称問題」
小池氏には週刊誌報道などで「カイロ大学を首席で卒業した」は嘘だという学歴詐称問題も浮上していた。だが、前回の都知事選では、他の候補がこの点を争点化することもできなかった。
ちなみに、作家の黒木亮氏はカイロ・アメリカン大学で修士号を取得しているが、彼は小池氏は嘘を連ねた履歴書を仕立てあげていると指摘している。
小池氏の経歴において、最大の売りが「カイロ大学首席卒業」であり、彼女はそれを武器にして、出世の階段を登っていった。
アラビア語を学んだり、エジプトに留学したりする日本人はあまり多くはないため、嘘を言ってもすぐにはばれない。だが、カイロ留学時代の元同居人も彼女の嘘について証言しているという。
ちなみに学歴詐称は、公選法違反に該当する。
こうした2期目の小池都政の問題点については、拙著『東京終了』(ワニブックスPLUS新書)に詳しく記してある。
■「太陽光発電義務化」は天下の愚策
小池都知事は都内の新築家屋に太陽光発電装置の設置を義務化しようとしている。だが、これはエネルギー問題の現実を無視した天下の愚策である。
多くの西側先進国は、地球温暖化や環境問題への対策として再生可能エネルギーを推進してきたが、太陽光や風力は安定供給という点で課題がある。
また、価格の問題も大きい。再生可能エネルギーは安価ではない。日本政府は、2012年に固定価格買い取り制度(Feed-in Tariff 、FIT)を導入し、太陽光発電を対象に電力を買い取っている。
太陽光6000万kW超の買い取り額は3兆8400億円にものぼり、その分を「賦課金」として一般家庭に負担させている。その額は平均的な家庭で年間1万円以上、製造業の企業では従業員1人当たり年間10万円にものぼる。
■アメリカは中国製太陽光パネルを禁輸
ちなみにこのFITのような制度は、再生可能エネルギー先進国であるドイツでは2014年に廃止している。
しかも、太陽光発電は、パネルの取り付けのみならず、老朽化したパネルの除去にも大きなコストがかかる。また廃棄物の大量発生という問題もある。
しかも太陽光発電パネルは中国から輸入することになる。中国の太陽光発電用結晶シリコンの世界シェアは約8割であり、しかもその半分以上は新疆ウイグル自治区で生産されているとも言われる。実際、アメリカは人権問題を理由に中国製太陽光パネルの禁輸措置を実施している。
また、ロシアのウクライナ侵攻は、これまでのような再生エネルギー至上主義ではなく、安定供給や価格も考慮したエネルギー政策の必要性を再認識するきっかけとなった。
■所得制限撤廃で高所得世帯を優遇
小池氏は、「018サポート」と称して、都内に住む18歳以下の子どもに対して、親の所得に関係なく、月額5000円(年額6万円)を支給する制度を今年1月から実施する。
また、「世帯年収が910万円未満」を対象としている私立高校の授業料支援制度について、所得制限を撤廃するという。
公立高校については、国の支援金制度で、所得制限が無くなっている。
この財源は税金でまかなうことになるが、結果的に高所得世帯を優遇することになる。
また、高校授業料無償化については、施設や設備に優れる私立高校の授業料が無償化されることで、公立高校の人気が下がり、定員割れが懸念される。
■人気取りのための「ばらまき」
いずれの施策もこうした問題点があり、今年の都知事選をにらんだ小池流のパフォーマンス、人気取りのための「ばらまき」の色が濃いように見える。
こうした「ばらまき」が可能なのは、東京都が地方交付税交付金を国から支給されずにすむ日本一豊かな都市だからだ。
しかし、その豊かさを維持するには、都市の活力を増し、世界中から最先端企業を集めるための投資が必要だ。ただ、冒頭に述べたように、小池都政は東京の地位を低下させている。
小池氏は都市計画についてあまり関心がないようだが、現在行われている渋谷の再開発事業は、私を含め先代の知事たちが残した「遺産」である。
次の再開発は新宿、さらにその次は池袋となるが、現在のところ、こうした問題に小池都知事がリーダーシップを発揮しているフシは皆無だ。
小池氏は自分が興味のない分野、あるいは人気取りのパフォーマンスの対象とならない分野については全て役人任せである。
ただ、役人としてはそういう都知事のほうがいいのかもしれない。私のように都庁の人事まで細かく指示し、課題解決のためにタスクフォースを設置するような知事は、役人としてはうるさくて仕方がない。
それよりは小池氏のように役人まかせの知事のほうが扱いやすく、騙しやすいのだろう。
マスコミも、小池氏をもちあげたほうが視聴率が取れるし、部数が伸びる。
東京も日本全体もすっかり「小池応援団」ばかりになってしまった感もあるが、その道は東京の地位がますます低下する「奈落への道」だと思われてならない。
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国際政治学者、前東京都知事
1948年、福岡県生まれ。71年、東京大学法学部政治学科卒業。パリ、ジュネーブ、ミュンヘンでヨーロッパ外交史を研究。東京大学教養学部政治学助教授を経て政界へ。2001年参議院議員(自民党)に初当選後、厚生労働大臣(安倍内閣、福田内閣、麻生内閣)、都知事を歴任。『ヒトラーの正体』『ムッソリーニの正体』『スターリンの正体』(すべて小学館新書)、『都知事失格』(小学館)など著書多数。
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(国際政治学者、前東京都知事 舛添 要一)
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