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「このままではクビになる…」ノルマ未達で苦悩する外資系社員に産業医が語る"意外な事実"

プレジデントオンライン / 2024年1月17日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wutwhanfoto

仕事のパフォーマンスに関する不安を解消する方法はあるのか。外資系企業を中心に年間1000人以上の社員と面談を行う産業医の武神健之さんは「仕事のノルマ未達成などの不安を抱える社員には、雑談をしながらいくつかの質問をして、状況を整理していく。場合によっては、あえて流れに身を任せてみることを勧めることもある」という――。

■医療受診をすべきかの判断、状況の整理整頓

こんにちは。産業医の武神です。私のクライエントの外資系企業の多くは、毎年11~12月頃にパフォーマンスレビュー(個人の業績評価)があり、その年のボーナスの金額が決まります。ちょうどこの頃に産業医面談で増えてくるのが、自分のパフォーマンスに関する不安や悩みの相談です。昨年末もいろいろな悩みが寄せられました。

今日はそのような時に、どんな話をして、どんな質問をするかについて、解説させていただきます。

このような面談において私は、いきなり質問をするのではなく、まずは社員の訴えに共感を示すことを意識しています。

そして、不安を抱える社員たちの緊張をほぐしながら、2つのことをやっていきます。

1つめは、何らかの症状の有無の確認と、症状があれば専門医にかかるべきか否かの判断です。相談者の多くは、医療受診するほどの症状がないことがほとんどです。

2つめが状況の整理整頓です。これが、産業医としての面談の中心となります。何がわかっていて、何がわかっていないのか。いずれも主観(感情)なのか、ファクト(事実)なのか。不安の根拠は感情的なものなのか、それとも何か原因となることがあったのか。過去に似たようなことはあったか、あったならばその時はどう対処したらうまくいったのか。最悪のシナリオは? そしてそれへの対処は? などを確認します。

質問ばかりしていると尋問みたいな雰囲気になってしまいますので、そうならぬよう雑談をしながら、このようなことを確認させていただいています。

■「先生、やばいです。今期のノルマに届かないんです」

では具体的なやりとりを解説させていただきます。

面談者:「先生、やばいです。今期のノルマ(達成目標)に届かないんです」

このような時、まず確認することは、これが本人の主観(気持ち)だけなのか、実際に数字など客観的データとしてそういえるのか、です。

気持ちの問題であれば、その不安や恐れはどうして出てくるのかを探っていきます。

数字としてノルマに届かない場合は、目標に対して現在何%くらいなのか、達成の期限はいつか、今から達成するのは非現実的なのか、などを面談者と一緒に確認します。

この時に大切なのは「同僚たちはどうなのか」です。同僚たちは達成している中で自分だけがダメなのか、それとも、マーケット(景気)が悪くてある程度は仕方ないことなのか。

■「過去」を手がかりに対処法を探す

現状が把握できたあとは、対処できるかを考えるのですが、産業医の私が対処方法を知っているわけはありません。そこで産業医の質問は、相談者の「過去」の経験に向かいます。

今の状況は、過去の経験と比べてどうなのか。過去は達成できていたのか。達成できていない時はどうやって挽回したのか、または、どのようなことになったのか。過去に、達成できないことはあったのか。その時はどのようなペナルティがあって、どうやってクリアしたのかなどを聞いていきます。

一緒に過去を振り返り、少し前向きに考えられるようになる方が多いですが、中には初めての経験で、不安や悩みから抜け出せない人もいます。

すると産業医は、「未来」へ目を向けてもらおうと考えます。今期はダメだったけれど、来期(来月/来年)の見通しはどうか。どうすれば同じことを繰り返さないですみそうか。うまくやっている同僚は、どうしているのか。などなど、自分だけでなく、周囲に目を向けることもお勧めします。

過去、現在、未来の3方向を示す標識
写真=iStock.com/R-J-Seymour
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/R-J-Seymour

■「最悪、どうなってしまうのか」

それでも、明るく前向きになれない場合はこの質問です。

「最悪、どうなっちゃう可能性があるのか。ノルマが達成できないと何が嫌なのか、不安なのか」

産業医が聞いてきた答えはさまざまです。上司に叱られたり小言を言われたりするのが嫌な人が多いですが、他にボーナスが減ることを恐れる人、プライドが許さない人、単にノルマ未達成ということが嫌な人、同僚たちに負けるのが嫌な人、クビの可能性があるから不安な人などもいます。

「その不安へは何か対処していますか?」

多くの人は、どうして不安なのかあまり考えておらず、ゆえに対処もしていません。もちろん、対処できるものは対処をお勧めしていますが、ほとんどの不安は数週間以内には実現しないこともお伝えしています。

■「私、チームに貢献できていません」

面談者:「先生、私、あまりチームに貢献できていません」「私、ローパフォーマーかもしれません」

このような時、まず確認することは、それが本人の主観(気持ち)だけなのか、実際に上司に注意や指導を受けたのか、ということです。

実際に上司に注意されたのであれば、それが初めてなのか否かは大切なポイントです。昨年のパフォーマンスレビュー(人事評価)でも言われているのであれば、“できていない”状態が長く続いていて、上司も痺れを切らしてきている可能性があります。自分で改善努力するだけでなく、具体的に何をどうすればいいのか、注意をしてくれた上司にしっかり指導を仰ぎ、上司や人事を巻き込む形で対処していくことをお勧めすることもあります。

もし、注意されていないけれど、相談者本人がそういう気がしてしまう場合は、しばらくは仕事ではなく趣味などにエネルギーを向けて様子を見ることを提案しています。

例えば、右ひざを怪我している時に、右足に体重をかける人はいません。杖を使ったり、使わなくてもしばらくはそこには体重をかけず、健康な左足に軸足を置いて生活します。そうしているうちに、自然と怪我も治ってくるものです。

歩いている人の足元
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

■「流れに身を任せてみる」のも一つの対処法

職場でも同じように、なんだか仕事がうまくいっていないとか、同僚たちとの関係性が少し最近ギクシャクしてしまっているとか、社内で少し逆風が吹いてしまっているときなどは、そこで何かを取り繕おうとジタバタしても、うまくいかないこともあります。その結果、ますます不安になったり悩みが大きくなってしまうこともあります。

それよりも、しばらくは流れに逆らわず身を任せているといいことがあります。何もしていないと気になってしまうから、しばらくの間は仕事以外にエネルギーを向けてみた結果、いつの間にか潮の流れが変わっていたという経験、みなさまもお持ちではないでしょうか。

医療の世界には「経過観察」という言葉があります。何もしないという意味ではなく、自然治癒力で治ることを積極的に待つという趣旨で、研修医時代の私に、ベテランのS先生が教えくれました。経過観察は、このような場合にも効果がある方法です。

■「復職前のように働けている実感が持てません」

メンタル休職から復職した面談者の場合はどうでしょうか。

面談者:「先生、私、復職して3カ月たちますが、まだまだ全然以前のように働けている実感が持てません」

このような時は、上司に具体的に言われていても言われていなくても、積極的に上司とお話をすることをお勧めしています。しかし、その前に、以下の数字を面談者に聞いています。

1.休職前に比べて、今は何%くらいの仕事量を任せられていると感じているか。

2.任せられた量を100%とすると、そのうち何%くらいをちゃんとできていると感じているか。

3.周囲の同僚たちと比べて、今の自分は何人前か。

面談者には、上司とのミーティングの時には、上記の質問をまずはしてみて、その数字と自分の思っていた数字の差をもとに、より具体的な話をするようにお願いしています。

面談
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■「数字」に落とし込むことで見えることがある

もちろん、仕事量を数字に落とし込むことが難しい場合も多々あります。しかし、感覚的でいいので、数字に落とし込むことによって、見えてくることがあるのです。

例えば、上司は以前に比べて50%程度の仕事を任せていると思っている時、面談者本人が、以前に比べて80%が任されていると感じているならば、いっぱいいっぱいなのだろうと推測されます。以前に比べて30%程度しか任されていないと感じているのであれば、面談者は上司が思うより回復してきているのでしょう。もちろん、ベストは両者が同じ(近い)数字にあることです。

任せた仕事の何%をちゃんとできているのかという点については、両者が同じ(近い)数字にあることが産業医としては一番安心です。上司の答えの数字が、面談者の答えの数字よりもだいぶ上の場合、面談者自身の自己評価が低い(すなわち自己肯定感が低い)のかと心配になります。上司の答えの数字が低いにも関わらず、面談者の答えの数字が高い場合、面談者はきっと客観的に自己評価をできておらず、このままでは職場でのサポートも受けにくくならないか心配になります。

■「漠然としている=わからない」から不安になる

不安とは、未来における恐怖という感覚です。そして、漠然としている=わからないからこそ、不安なのです。人に話してみると、問題そのものは解決できなくても、不安や悩みの正体がわかったり、自分の中でこんがらがっていた糸が解けたりすることで、「ラクになった」経験を、皆さんも持っているのではないでしょうか。

ですので、ほとんどの場合、産業医からは特にアドバイスなどはしません。なるべく本人が自分で気がつくような質問を心がけています。そして、たくさんお話を聞きます。

質問ばかりしていると尋問みたいな雰囲気になってしまいますので、そうならぬよう雑談をしながら、このようなことを確認させていただいています。

この記事をお読みの皆さんも、ぜひ産業医とたくさん雑談をしてくださいね。

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武神 健之(たけがみ・けんじ)
医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ、ムーディーズ、ソシエテジェネラル、フォルクスワーゲングループ、BMWグループ、エリクソンジャパン、テンプル大学日本校、アドビージャパン、テスラ、S&Pといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。公式サイト

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(医師 武神 健之)

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