「投資デビューしたい」若い世代が続々とカモにされる保険の罠…まっとうなFPが絶対NGという金融商品の種類
プレジデントオンライン / 2024年1月14日 11時15分
■「保険で貯めようとしている娘が心配で…」
今回相談に来たのは、都内で一人暮らしをしているケイコさん(仮名・24歳・会社員)。
父親(58歳・会社員)は以前、弊社の「実行支援プログラム」に通い、お金の使い方を見直して投資をスタートした経緯があります。その後、一人娘のケイコさんが就職して約2年経ち、「今度は娘の資産形成の相談に乗ってやってほしい」と連絡をくれました。
ケイコさんのお金の使い方は慎重派。住んでいる賃貸マンションはセキュリティを重視したため、手取り収入(24万円)の割にはやや高めの家賃(8万5000円)ですが、それ以外は堅実です。格安スマホを使い、お昼は手作りの弁当持参で食費を抑え、服や化粧品はプチプラ系を買う……などしっかり節約しています。
ところが、若い世代にしては突出して高い費目がありました。それは生命保険料の2万5000円です。24歳の独身で、なぜこれほど高額な生命保険に入る必要があるのか? 不思議に思う方もいるでしょう。
実は今、高額な生命保険料を払っていることを不安に思い、相談にくる若い世代が増えています。その多くが、保険会社に勧められるままに、「貯蓄目的」の外貨建ての終身保険や保険会社に運用を任せる変額保険に加入していたというケース。
ケイコさんもまさにこれで、それもドル建て変額終身保険に入っていました。変額保険とは、支払い保険料から諸費用を差し引いた金額を、保険会社が株式や債券、投資信託などで資産運用し、その運用実績に応じて、死亡保険金や解約返戻金、満期保険金が変動する生命保険のことです。
運用がうまくいけば定額型の貯蓄型保険よりも受け取る満期保険金額や解約返戻金額は多くなりますが、うまくいかなければ少なくなるというリスクがあります。
ケイコさんに対して知人の営業マンはこう売り込んできたそうです。
「今のインフレ時代、銀行に預けてもお金の価値は下がる一方。投資で運用しないとお金は増えない」
「円安の今、資産を円で持つよりドル建てで持ったほうがいい」
「投資より保険の方が、生命保険料控除で節税にもなるし、死亡保障もあるからお得な上安心感が大きい」
よくある営業トークでしたが、真面目で素直な性格のケイコさんは、「節約して余った数万円の一部を、資産形成に充てたい」と考えていたこともあり、それならばと、言われるままに加入。私からすれば、保険会社の常套セールストークにまんまと引っかかってしまったということになります。
実は父親がケイコさんを紹介したのも、変額保険に入ったことで「投資デビューができた」と思い込んでいる娘が心配だったから。「投資信託と、変額保険の運用、違いは分かる?」とケイコさんに聞いても、首を振る。「それなら、プロにちゃんと教えてもらったら?」とのアドバイスで、相談に来られたというわけです。
■なぜ「貯蓄・投資目的」で保険に入ってはいけないのか
果たして、「資産を増やしたい」と考えるケイコさんにとって、保険で運用しようとするのは、本当に効率的なのでしょうか?
答えは「NO」。
確かに、変額保険には「保険としてのメリット」はあります。運用が不調でも最低保険金が保証されていること、保険料免除特約が発動したとき、保険料の払い込みがあったものとして保障と運用が続くこと、生命保険料控除(上限額あり)があることなど。
しかし、「保障目的」ならまだしも、純粋に「貯蓄目的」だけなら、保険に入って運用するより、自分でiDeCoなり2024年から始まった新NISAなりで投資する方がムダはなく、実入りも圧倒的な差が生じます。ドルで資産を持ちたければ、自分でETFを買えばいい話です。
筆者がNOという最大の理由、それは保険で運用すると、想像以上に高い手数料を取られるから。販売手数料をはじめ、信託報酬手数料、運営費用など。毎月の保険料から、こうしたコストと保障に対する料金を引かれると、実際運用に充てられる資金は支払保険料のうち、ごく一部になってしまいます。
同じ月2万5000円を出すなら、自分で、非課税枠で投資した方が、投資に充てる母数が大きい分、リターンも大きい。大ざっぱに言えば、2万5000円を運用するのと、1万円を運用するのとどっちが増えますかという話です。
そもそも、24歳のケイコさんに死亡保障は必要かということもきちんと考えるべきです。死亡保障は、万一自分の身に何か起きたとき、遺された家族に生活費や教育費を使ってもらう、あるいは、自分の葬儀代などに充ててもらうことが大きな目的とされています。
現在、24歳独身のケイコさんが死亡する確率は極めて低く、両親も現役であることから、誰かにお金を残さなければいけない理由はありません。これが仮に男性であっても、この年齢で独身ならば、同じことが言えます。
■保険と投資、実入りが圧倒的に多いのは?
ケイコさんに限らず、貯蓄型生命保険を検討している人は、こうしたメリット、デメリットを天秤にかけて判断をすべきです。私の考えでは、保険は保障、投資はETFや投信と、区別する方がシンプルで、コスパもいい。
保障が気になるなら、別途、医療保険に加入すればよいことです。実際、ケイコさんは私どもの提案で、生命保険を解約し、掛け捨ての医療保険に入り直しました。
「保険を途中解約することで、これまで払ってきた保険料より解約返戻金が下回る“元本割れ”が起きて、数万円、数十万円の損失が出るのではないか?」
「生命保険控除が使えないのはちょっと惜しい」
――そう考えて、解約に二の足を踏む人もいるかもしれません。
それでも、保険より自分で投資して運用した方が利益率は高いケースが多い。金融庁の「資産運用シミュレーション」ツールで試算すると、NISAで毎月3万円を利回り3%、30年間積み立てた場合、元本は1080万円、運用収益は668万2000円という結果が出ています。
ましてやケイコさんの場合、まだ24歳で、残りの運用期間は40~45年近くあります。そうなると、時間を味方につけて自分で運用した方が圧倒的に実入りはいいですよね。実際私自身、投資信託を運用して20年以上経ちますが、コロナショックで一時期30%あまり落ちたときでも、「元本」と「収益」に分けて言えば、損失は「収益」の範囲内(一部)で済みました。
こうしたことも踏まえ、ケイコさんに「これまで生命保険に充てていた金額の一部に加え、家計を見直して積立額を増やせれば、もっと資産を増やしていける可能性があります」と提案しました。
すると、ケイコさんは取捨選択をして、これまでなんとなく使っていた被服費や交際費、推し活の娯楽費などを見直し、トータルで3万7000円を削減。毎月の黒字額は約2万3000円から約6万円へ増えて、iDeCo(2万3000円)とNISA(つみたて投資枠・3万7000円)をそれぞれ積み立てています。
■新社会人の子がいる親に知っておいてほしいこと
社会人になって2~3年経ち、貯金も少しずつ増えてきた頃、資産形成を考える人は少なくありません。そのタイミングを狙ってくるのが保険会社や金融機関の営業マンです。こうしたところに相談すると、言い方は悪いですが、ケイコさんのようなマネーリテラシーがやや乏しい一方、資産形成に意欲的な人は、カモになってしまう可能性が高いのです。保険会社や金融機関は犯罪行為をするわけではありませんが、加入するかしないかは慎重にならないと金をむしり取られるだけです。
もし、読者の中に、このケイコさん世代、もしくはケイコさん世代の子供からの資産形成の相談をされている親世代がいたら、どうか金融機関とは関わりのない中立的なFPなどからのアドバイスを受けてほしいと思います。
実際、私どもの事務所には、親御さんから紹介されて相談に来る20~30代の社会人が増えています。親子で一緒に相談に来るケースも多いです。
お金の相談に行くのはまだ早い? とんでもありません。今の世の中、マネーリテラシーは不可欠です。極端に言えば、偏差値の高い大学に入るのと同様、あるいはそれ以上に必要な知識かもしれません。
大企業に就職して高い給与をもらっていても、お金の知識がないばかりに、40代を過ぎても資産が全然手元に残らない人がいる一方で、手取りの給与が低くても毎月コツコツと賢いやり方で資産を形成する人もいます。どちらが生きていく力が高いかは明白です。
社会人になった子供にあれこれ口出しするのは無粋ですが、お金の作り方と守り方を教えることは現代の親の務めといえるでしょう。(構成=桜田容子)
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家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表
お金の使い方そのものを改善する独自の家計再生プログラムで、家計の確実な再生をめざし、個別の相談・指導に高い評価を受けている。これまでの相談件数は2万6000件を突破。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。著書は90万部を超える『はじめての人のための3000円投資生活』(アスコム)や『年収200万円からの貯金生活宣言』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を代表作とし、著作は171冊、累計380万部となる。
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(家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表 横山 光昭)
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