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理想のキャリアを歩めなかった人ほど仕事に幸せを感じる…オックスフォード大が発表した「寄り道」の重要性

プレジデントオンライン / 2024年1月16日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chinnapong

幸福になるためには何が必要なのか。脳科学者の西剛志さんは「『これをやりたい』と強く思いすぎると逆に実現は遠ざかる。人間の脳には視野狭窄を生む“注目バイアス”という特性がある」という――。

※本稿は、西剛志『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える「やりたいこと」の見つけ方』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■結婚願望が強すぎると婚活が長引く理由

「やりたいことを見つけたい思いが強すぎる」

やりたいこと探しにおける一番の落とし穴は、これかもしれません。

「やりたいことを見つけたい」という思いが強すぎると、やりたいことは見つかりにくい。

なんと、皮肉なことと思われるかもしれませんが、これは、理想のパートナー探しにも似ている部分があります。

世の中には、結婚相手がなかなか見つからず、婚活が長期化する人達がいます。私もそのような方を調べたことがありますが、その理由の1つが、これまで自分が経験してきた狭い思考の枠の中で「理想の相手はこういう人」と決めていた傾向がありました。

たとえば、「甘えられる女性で、食事を一緒に楽しめて、服のセンスのある人がいい」

「安定な上場企業、もしくは転勤のない公務員の男性で、一緒に趣味を楽しめる男性がいい」

自分がこれまでの経験の中で感じてきた思う理想像ばかりに「集中しすぎる」と、それ以外の相手の魅力を脳は見ようとしなくなってしまいます。もしかしたら、自分が予想もしていない「必要なことを的確に言ってくれる相手」や「自分の知らない世界を体験させてくれる相手」に本当は魅力があって、もっと幸せな人生を送れるかもしれないのに……。

これには、脳科学でいう「注目バイアス」が影響しています。(※1)

※1:Pool, E,.et.al.,“Attentional bias for positive emotetional stimuli: A meta-analytic investigation” Psychol. Bull. 2016, Vol.142(1),p.79- 106

■「これがしたい」と強く思いすぎると視野狭窄になる

人間は、特定のものを気にし始めると、視野狭窄(きょうさく)に陥り、それ以外が見えなくなる傾向があります。目の前に鼻毛が出ている人がいたら、つい鼻毛ばかり見てしまうのも、注目バイアスのせいです。やりたいこと探しにおいても、注目バイアスが働きます。

たとえば「芸能の仕事がしたい、芸能の仕事しかしたくない」と思うと、芸能関連の仕事の情報を脳はどんどんキャッチするようになります。

そうすれば、念願の芸能の仕事を手に入れられそうなものです。しかし、その人のやりたいことは、本当にその分野だけなのでしょうか?

私は5000名を超える人たちにインタビューしてきましたが、たとえば、芸能が好きな人には、いろいろなタイプがいます。

ある人は、芸能の仕事は「人を前向きな気持ちにさせる」からが大好きだといいます。ある人は「組み合わせてネタをアレンジできる創作がたまらない」と言います。また他の人は「自己表現できることが大きな魅力だ」という人もいます。

「芸能の仕事がしたい人」には、その仕事を通じて満たしたい感情があるはずです。しかし、その感情を満たす手段は、これを見ると決して芸能だけではないかもしれないことがわかります。

たとえば、「人を前向きな気持ちにさせたい」タイプの人は、それが本当に芸能だけなのか? ということを考えることが大切です。私も以前、何人もそのような方の相談にのってきましたが、意外と会話が好きで人と話す仕事で成功したり、同じエンタメであればメディアの仕事でもうまくいった人もいました。

それなのに、特定の仕事にばかりこだわると、注目バイアスが働きすぎ、やりたいこと探しの幅を狭めてしまうのです。

■赤いカバンを買いに出かけた人はおしゃれな青いカバンを見落とす

見つけたいという思いが強すぎると、やりたいことは見つからない。

では、どうすればいいのでしょう?

「ウィンドウ・ショッピング」がヒントになります。買い物というのは面白いものです。「こんなものがほしい!」などとはっきりしたイメージを持って買い物に行くと、なかなかいいものが見つかりません。

たとえば、「赤いカバンがほしい」と思うと、注目バイアスの働きで赤いカバンに関する情報がどんどん飛び込んできます。

その一方で、赤いカバン以外のものが見えなくなります。

そのせいで、赤いカバンの隣にある素敵な青いカバンが目に入りません。

反対に、ウィンドウ・ショッピングは、商品を眺めて回るだけで実際には買い物をするつもりがないことをいいます。

つまり、目的もなくブラブラするわけですが、そのおかげで注目バイアスが働かず、視野が広がっている状態です。

赤いカバンも青いカバンも、なんでも目に入ってくる。そのうちに、「これ、すごくいいな」と思えるカバンを発見できる可能性が高くなるのです。

私はこれを、「ウィンドウ・ショッピング効果」と呼んでいます。

赤と青のレディースバッグ
写真=iStock.com/JUN2
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JUN2

■理想のキャリアプランを辿っていない人ほど幸せを感じている

多くの人は、お目当て(目標)に向かって最短距離でお店に向かいます。ところが、やりたいことが見つかる人は意外にも「寄り道」が多いのです。

いわゆる「自分探しの旅」も同じです。

インドに行こうが世界一周をしようが、探そうと気負うと見つからないことが多かったりします。むしろ、なんの計画もなく、観光のつもりで行った先で、ふと「自分にはこんな適性があったんだな」と発見することが、非常に多いのです。

オックスフォード大学が発表した有名な理論「プランドハップンスタンス理論」は、この現象を裏づけるものです。

仕事に幸せを感じている人を調べてみると、あらかじめ思い描いたキャリアプランとは無関係に、ほとんど「偶然」にその仕事と出合っていることがわかったのです。(※2)

※2:オックスフォード大学「プランドハップンスタンス理論」/ Kathleen, E. Mitchell, S.AlLevin, John, D. Krumboltz, “Planned Happenstance: Constructing Unexpected Career Opportunities”, J. Counseling & Development, Vol.77(2), p.115-124, 1999

■「なぜこれが好きなのか」自分の感情を理解する

1つの傾向として、覚えておいてください。

意識(理屈)的に探そうとすると視野が狭くなり、感覚で探そうとすると視野が広くなります。

たとえば、素晴らしい景色を前にしたときのことを想像してください。視点は一点に集中せず、全体をぼんやりと見ているはず。

人は、感覚的になると視野が広がり、多くの情報をキャッチできるのです。逆に、理屈っぽい人は視野が狭くなります。

頭が良く、ロジカルな人は意識しないと感覚的になれないのです。

でも、安心してください。

普段は理屈っぽい人も、好きなことをしている時間は、自然と感覚的になれるからです。ただし、ここでも「自分の得たい感情にフォーカスする」考え方が重要になります。それをしないと、どんなに多くの情報をキャッチできても、何が自分のやりたいことにつながるのかわからず、スルーしてしまうでしょう。

逆にいえば、自分の得たい感情さえ理解しておけば、どんなことをしていても、やりたいこと探しに利用できます。

たとえば、サッカーが好きな人は、なぜサッカーが好きなのでしょう?

あるいは、なぜ野球が嫌いなのでしょう?

私のクライアントに「打順を待つのが面倒くさい」から野球はいやだ、という人がいます。その人は、もっと展開が速いスポーツが好きでワクワクする。だからバスケやサッカーが好きなのだといいます。

さらに、過去を振り返ってみると、その人は「スポーツに限らず、なんでも展開が速いものが好きだ」と自己理解が進んでいきました。

遊園地ではジェットコースターが大好き。映画も情緒的なものだと眠くなってしまうそうです。

仕事も、成果が出るのが遅いのはイヤだったとか。これとは少し違いますが、私にも似た部分がありました。

■成果が世に還元されるのに時間がかかるから大学を辞めた

これは私が若い頃、学術機関での研究職を辞めた理由の1つでもあります(15年ほどビジネスの現場で実証研究を積み重ねて、今は大学にも所属しています)。

基礎研究は数年かけて1つのテーマを研究しても、それが社会に還元されるのに10年以上かかることも、ざらです。

最初は気になりませんでしたが、長年研究するほど、自分は「人の笑顔を見ることが好きなのに、随分と長く待たされるな」と感じていました。

もちろん、じっくり時間をかけてやる研究も素晴らしい意義があるため、どちらがよい悪いではありません。

ただ、その人がそれを好きかどうかは、その人の役割にも関係してきます。

大切なので、何度も言います。

フォーカスするのは、仕事ではなく、自分の感情なのです。自分の感情を自覚しながら日常生活を送ると、少しずつ、しかし着実に、やりたいことに近づいていきます。

■人の笑顔を見るのが好きだから、銀行員から幼稚園教諭へ

最後に、私の知り合いの例を紹介しましょう。

西剛志『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える「やりたいこと」の見つけ方』(PHP研究所)
西剛志『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える「やりたいこと」の見つけ方』(PHP研究所)

ある幼稚園の有名な男性の先生で、もともと海外で銀行員をしていました。

その方は、手品は披露するし、ダンスもうまく、子どもたちに大人気です。今では、幼稚園の先生が彼の天職としか思えません。

しかし、銀行マン時代の彼は、多くの収入を得ていた反面、心身はボロボロ。彼の感情は、銀行の仕事では満たされていませんでした。

そんなある日、「人手が足りないから」と幼稚園にスカウトされたのです。普通に考えれば、「自分にはとても……」と辞退しそうなところです。

でも彼は、自分が「人の笑顔を見るのが大好き」で、「人の成長に貢献するのが好き」なことを知っていました。

幼稚園の仕事が、自分の感情を満たしてくれると直感しました。彼が幼稚園の先生になったのは「たまたま」です。

しかし、彼は自分を満たす感情を知っていました。そうでなければ、その「たまたまのチャンス」に気づくことも、つかむことも、できなかったことでしょう。

社会で成功するのも、幸せな生活を送ることができるのも、能力が高いからではありません。

自分の才能・特性・価値観をよく理解している。

こうした人が、自分の軸を見つけ、「やりたいこと」を通じて、成功や幸せをつかんでいくのです。

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西 剛志(にし・たけゆき)
脳科学者
1975年生まれ。東京工業大学大学院生命情報専攻卒。博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。テレビやメディアなどにも多数出演。著書に『脳科学者が考案 見るだけで自然と脳が鍛えられる35のすごい写真』『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』『世界一やさしい自分を変える方法』(以上、アスコム)などがある。著書は海外を含めて累計32万部を突破。

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(脳科学者 西 剛志)

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