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地方議員にカネを配るなんて当たり前…安倍派の「組織的な裏金作り」で自民党関係者が語る根本原因

プレジデントオンライン / 2024年1月17日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

自民党の派閥の政治資金パーティーの問題で、安倍派に所属する池田佳隆衆院議員が逮捕された。フリージャーナリストの宮原健太さんは「自民党内には『裏金作りは文化』という歪んだ認識が根付いている。選挙の裏で現金が飛び交うような『完全アウトなお金の使い方』を土台から正していくべきだ」という――。

■現職国会議員の逮捕で政治の信頼が失墜

能登半島地震や羽田空港衝突事故など、年始から不安が広がった2024年。

中央政界ではさらなる激震が永田町を襲っている。

自民党派閥の政治資金パーティーに端を発する裏金事件のことだ。

1月7日、東京地検特捜部は、池田佳隆衆院議員と政策秘書を、共謀して政治資金収支報告書に嘘の記載をし、約4800万円の裏金を作っていたとして政治資金規正法違反容疑で逮捕した。

政治資金規正法違反容疑で逮捕された衆議院議員の池田佳隆容疑者
写真=時事通信フォト
政治資金規正法違反容疑で逮捕された衆議院議員の池田佳隆容疑者(=2018年3月22日、国会内) - 写真=時事通信フォト

同じく、多額の裏金作りをしていたとして、大野泰正参院議員と谷川弥一衆院議員を立件する方針も、検察は固めているという。

これは昨年から既に報道されている通り、議員個人による「政治とカネ」の問題ではない。

自民党の安倍派が政治資金パーティーを開く中で、各議員がパーティー券を、ノルマを超えて販売した際に、収支報告書に記載をせずにノルマ超過分をキックバックすることが常態化していたという、組織的な違法行為のたった一部分に過ぎない。

国民の政治不信は高まり、自民党では政治刷新本部が設置され、二度とこのような問題が起きないように改革するための議論に入っている。

■「選挙にお金がかかる」は理由になっていない

そもそも、どうしてこのような裏金作りがシステム化され、横行してしまったのだろうか。

よくテレビや新聞の報道では、「政治活動や選挙にお金がかかるから」という自民党関係者の声が紹介されているが、実はこれは裏金作りの理由にはなっていない。

この自民党裏金事件について勘違いしている人も多いが、この事件の問題点は、派閥から各国会議員にお金がキックバックされていたところにあるのではなく、記録をつけずにキックバックされていたというところにある。

キックバック自体は派閥の政治団体から議員の政治団体への寄付という形をとって、しっかりと記録をつければ、政治資金規正法に抵触することなく合法的にできるからだ。

そもそも、派閥の存在意義の1つは所属議員に餅代や氷代(冬や夏の政治活動重点時期に向けて配られる政治資金)などを配ることにあるため、派閥から所属議員の政治団体にお金が渡されることは日常的に行われている。

そして、そのように合法的に議員の政治団体に配られたお金は、政治資金として記録をつけた上で政治活動や選挙に使うことができるため、「政治活動や選挙にお金がかかるから」というのは、裏金作りの理由にはならないのだ。

■どこまでが「政治活動」になるのか

なぜ、キックバックをするときに、議員の政治団体に入れて収支報告書に記載をするということをせず、使途が記録されて透明化された政治資金から、記録されずに何に使われたか分からない不透明な裏金へと変えられてしまったのか。

複数の自民党関係者を取材すると、「記録をつけると面倒だから」、そして「収支報告書に書けないお金の使い方をするため」という答えが返ってきた。

まず、「記録をつけると面倒だから」とは一体どういうことか。

キックバックが合法的に議員の政治団体に寄付された場合、その政治資金から政治活動として支出する際には全て記録をつけなければならない。

この支出はポスターやビラの印刷代から議員事務所の賃貸料、私設秘書の人件費などまで多岐にわたるが、一体どこまでを政治活動として支出して良いのかが、政治資金規正法に明確に書かれているわけではない。

「どこまで政治活動と捉えて支出して良いのか、政治資金規正法を所管する総務省に問い合わせても『条文に書いてある通り』としか言ってもらえない。正直、判断に困る」と自民党関係者はこぼす。

選挙演説中の候補者
写真=iStock.com/imacoconut
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imacoconut

■マスコミから問われる「モラル」という線引き

一方で、こうしたお金の使い道は、後からマスコミが収支報告書を調査することによって問題となる場合もある。「国会議員が交際費に○万円使っていた」などと指摘するような記事を皆さんも見たことがあるだろう。

つまり、政治資金としてどこまで使ってよいのか、法律での区切りは明確ではないが、マスコミが収支報告書を調べて問うてくるモラルという線引きによって、後から支出の適不適が判断されるのだ。

「そんな曖昧な基準で見られてしまうなら、いっそ裏金にして記録に残らない形でお金を使ったほうが楽」(自民党関係者)というのは、実際に事務を担う担当者の本音でもあるという。

ただ、それは国民に対して「政治活動に使った」と明確に言えるものに絞って、自制的に政治資金を使えば済む話である。

少なくとも、政治資金規正法を違反して裏金を作って良い理由には一切ならない。

■裏で現金が飛び交う選挙の実情

そして、もう1つの「収支報告書に書けないお金の使い方をするため」というのはもっと悪質だ。

その典型例が地方議員に渡す裏金だという。

各国会議員が選挙で戦うとき、それぞれの地元に普段から根を張って活動している地方議員の存在は非常に重要だ。

江東区長選を巡る公職選挙法違反事件で逮捕された前法務副大臣の柿沢未途容疑者
江東区長選を巡る公職選挙法違反事件で逮捕された前法務副大臣の柿沢未途容疑者(写真=法務省/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

彼らの存在なくしては、国会議員は十分な選挙運動をすることもできないわけだが、地方議員にきちんと動いてもらうためには、裏でお金を渡さなければならないということが、地域によっては現在進行形で横行しているようだ。

直近では、昨年4月の江東区長選で、木村弥生候補の応援に入った柿沢未途衆院議員が区議らに現金を配ったとして、公職選挙法違反(買収など)容疑で逮捕された。

とある自民党関係者は「こんなものは氷山の一角。ほかにも当たり前のように地方議員に裏で現金を渡している地域はたくさんある。そうしないと地方議員が動いてくれないからだ。大抵の場合は渡した側も受け取った側も黙っているのでバレないが、今回の柿沢氏のように、江東区のゴタゴタした政局が絡んでくると、裏で検察の捜査に協力する関係者が現れ、事件として露呈することになる」と声を潜める。

■柿沢未途衆院議員が逮捕された背景

柿沢氏は2021年の衆院選を経て、これまで野党系議員として活動していたところから自民党に入党したばかり。江東区では柿沢家、木村家、元江東区長の故・山崎孝明氏などがいた山崎家が政争を繰り広げる中、柿沢氏は木村氏につくことで江東区長選を乗り切っていた。

こうした背景のもと、柿沢氏は何者かに背後から矢を放たれ、逮捕に至ってしまったという見方もできるわけだ。

収支報告書に書けないお金の使い方は他にもある。

例えば、選挙カーに乗るウグイス嬢の日当は公職選挙法で1万5000円と決まっているが、人気のウグイス嬢だとそれでは受けてくれない人もおり、裏で色をつけてお金を渡している場合もあるという。

また、本来ならばボランティアとして集めなければならない、選挙中の電話掛けの人員などにも、裏で日当を渡しているケースもあるそうだ。

こういったお金の使い方は、資金の多寡によって選挙結果が左右されないように定めている公職選挙法に明確に違反することになる。

しかし、実際の選挙では裏で現金が飛び交っていることもあり、そうしたカネは記録が残る政治資金から支出するわけにはいかず、裏金が使われているわけだ。

■「文化」を土台から正していく必要がある

つまり、裏金は「政治活動や選挙にお金がかかるから」仕方なく作られるのではなく、政治活動や選挙をするうえで、マスコミに後からモラルが指摘されるようなグレーなお金の使い方、あるいは公職選挙法に触れてしまうような完全アウトなお金の使い方をしているからこそ、作られているのである。

このように考えると、今回の自民党裏金事件の悪質性がより明確になるだろう。

自民党安倍派に所属し、裏金問題で辞任した鈴木淳司前総務相は、当初キックバックを否定していたが、12月15日に新旧大臣の引き継ぎで総務省を訪れた際、キックバックを一転して認め、「この世界では文化と言っては変だが、そういう認識があったのかなと思う」と報道陣に言い放った。

自由民主党本部
写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

この発言について、自民党関係者は「地方で議員にお金を渡すことまで含めて、カネの流れが全て文化になっている。この文化そのものをなくさなければ、政治とカネの問題を根本から解決することはできないだろう」と解説する。

「令和のリクルート事件」とも呼ばれるような大騒動を受けて、単なる小手先だけの対応にとどまるのか、それとも、国会議員と地方議員の関係、選挙におけるお金の使い方などの文化を全て土台から正していくことになるのか。

それが今まさに自民党に問われていると言えるだろう。

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宮原 健太(みやはら・けんた)
ジャーナリスト
1992年生まれ。2015年に東京大学を卒業し、毎日新聞社に入社。宮崎、福岡で事件記者をした後、政治部で官邸や国会、政党や省庁などを取材。自民党の安倍晋三首相や立憲民主党の枝野幸男代表の番記者などを務めた。2023年に独立してフリーで活動。YouTubeチャンネル「記者VTuberブンヤ新太」ではバーチャルYouTuberとしてニュースに関する配信もしている。取材過程に参加してもらうオンラインサロンのような新しい報道を実践している。

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(ジャーナリスト 宮原 健太)

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