だから「真面目で努力家」のプレゼンは上達しない…一流コンサルが「上司の助言を聞くな」という深い理由
プレジデントオンライン / 2024年1月23日 7時15分
※本稿は、古谷昇『コンサル0年目の教科書 誰も教えてくれない最速で一流になる方法』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■プレゼン能力を一気に引き上げる驚きの方法
プレゼンの上達に細かなテクニックは必要ない。だが、これは半分正しくて半分は間違っている。というよりも、半分は正確ではない。
というのは、すでに合格ライン以上のプレゼン能力のある人がさらに上のレベルを目指そうとする場合には、個々のテクニックを身につけていくことが一転して有効な手段となるからである。そのあたりの考え方を、上達法(1)、上達法(2)として図表1にまとめてみた。
上達法(1)が一般的な教え方、すなわち細かなテクニックをいちいち教えていくやり方であり、上達法(2)がいま書いたコツで覚えるやり方である。
図表1をざっと眺めてもらうとわかるように、(1)はすでにプレゼン能力を身につけた上級者がさらに上達するのに適したやり方だ。しかもこれは、「70点を80点に」とあるように、10点幅の能力アップを狙う方法でもある。
対して(2)は「40点を70点に」だから、一気に30点のアップを狙う。具体的には、プレゼン能力がまだ50点にも達していない一人前以下のレベルから、50点以上の一人前はもちろん、一流の域も間近な70点まで引き上げようというのが狙いだ。
同じ時間をかけても、(1)では10点しか上達しないが、(2)ならその3倍の30点も上達する。
■優秀な人でもプレゼンが下手な理由
半人前レベルはなるべく早くクリアしないと、新入社員は仕事の面白さも知らないうちに脱落してしまいかねない。だから、この段階を(1)の方法でやっていたのは、まったく理にかなっていなかったということになる。新入社員にしてみたら、なかなか先が見えない難行苦行に感じたことだろう。(2)の方法に転換すれば、そんな不合理はなくなる。
幸いにも私は、(1)の方法のようなかたちで、いわゆるプレゼンの練習をいっさいしたことがない。それでも、BCGに入社して1年くらいすると、周りから「おまえ、急にプレゼンがうまくなったな」といわれるようになった。
そのきっかけは何だったか、あまりよく覚えていない。しかし、その手がかりになりそうな一連の経験には、少し覚えがある。
まずBCGに入って間もないころ、大手化学会社の仕事についていって、ある先輩コンサルタントのプレゼンテーションを見た。仮にBさんとする。このBさんのプレゼンが、新人の私から見ても下手だった。あんなに優秀な人がなぜこんなに下手なんだ、と信じられない思いで見ていたものだ。
頭の良し悪しとプレゼン能力とは、どうもあまり関係ないらしい。ということは、何か他の資質なり工夫が必要なわけだが、それはいったい何なんだ? すぐにそう感じはしたものの、それが具体的に何なのか、最初はさっぱりわからなかった。
その私の疑問にヒントらしきものをくれたのは、それから何回かセミナーで見ることになる堀紘一のプレゼンテーションだった。
■コツの正体は気づきによって学んでいくこと
実は堀と私はBCGでは同期入社である。
とはいえ年齢も経験もまったく違っていて、堀は最初から日本事務所の幹部候補生、こちらは単なる新入社員だった。
堀は、そのころから現在に至るまで実にプレゼンがうまい。
もっとも、どこがどううまいかというのは、言葉では言い表しにくいところがある。とにかく、見ていて、聞いていて、グングン引き込まれていくのだ。
うまい要素を一つひとつ分析してピックアップしてみても、さしたる意味はないのである。部分部分ではなく、全体として捉えておくことが大切なのだ。
ただ、堀のわかりやすい特徴を1つだけ挙げておくと、ある講談師がテレビに出ていた彼の喋りを聞いて、「この声はカネになる」と感心したそうである。これは、前述したプレゼンの3つのコツのうち、声を大きく、その実は声のハリ、に通じている。
また、堀のプレゼンを何回か聞いたのと並行してもう1つ、きっとあれがよかったんだなと思う経験をした。
ある航空会社での仕事がそれである。あのときは、同じパッケージのプレゼンをいろんな部署の何人もの人に、繰り返し繰り返ししなくてはならなかった。そして毎日のように、十回、二十回と反復して同じ内容のプレゼンをしているうちに、自然と何か見えてくるところがあったのだ。
これも、具体的に何がどう見えてきた、とは言葉では言い表しにくい。
私は、堀のプレゼンを何回か聞いているうちに、また同時並行で自分でも繰り返し同じ内容のプレゼンをしているうちに、何らかの手応えをつかんだのだ。少なくともこうしろと教えられたのではなく、明らかに自ら気づいたのである。
こういう感じをあえて言葉にするなら、それは「気づき」だということになる。
これがコツの世界の学び方なのだ。要するに、テクニックや手法のようにお勉強形式で身につけるのではなくて、気づきによって学んでいく、わかっていくのがコツというものなのである。
■上司や先輩のアドバイスは無視しなさい
図表1に戻れば、上達法(2)に「感覚(?)」と記してあるのがこれだ。
当時の私がこのとき悟ったのは、やはりプレゼンも自分で発見していく学び方が大事なんだよな、ということだった。
この気持ちはいまも変わらない。
堀というデキる人と一緒にいて自ら感じ取ったことを信じる。その航空会社の仕事も同じで、自分でやってみて気づいたことを大切にする。こちらのほうが、人から教えられるよりも格段によく身につくし、仕事の役にも立つ。
たとえばゴルフなどもそうで、中途半端にうまい人からアドバイスされても、ほとんど役に立たないことが多い。もし、ものすごく上手な人が非常にうまくコツの部分だけ教えてくれるなら話は別だろうが、そんなことはなかなか望めないのがふつうだ。
また、これは教えてくれる人のせいというよりも、こちらのほうがまだそれを吸収できる段階にないせいだったりもする。プレゼンでいうなら、コツがわかっていない人が、周りのアドバイスに従って説明のなかに冗談を交える練習をしても、それは空しい努力に終わってしまうことになる。
自分では気の利いた冗談を織り込んだつもりでも、本番で大きく外して冷笑されるハメになることが実際によくある。したがって、ここでミもフタもない結論をいってしまうと、「上司や先輩のアドバイスは聞いてはいけない」のだ。
しかも、あなたの上司や先輩がデキる人かデキない人か、その如何にかかわらず、である。
■デキる人をしっかり観察すると「耳ができる」状態になる
私も、プレゼン能力がついたと周りから認めてもらえたころ、堀から「おまえ、オレのやり方を盗んだだろ」とからかわれた。
そのとき私は、「いや、そんなことはありません」と答えたと思うが、これは、個々のテクニックを盗んでいるわけではないという意味である。
その代わり、身近にいてただひたすら、いろんなことを感じ取らせてもらった。
そういう自分なりのさまざまな気づきが、あるとき突然にといったふうにして、一気に実になってくれる瞬間があるのだ。その瞬間が訪れた人は、世間一般でいう「耳ができる」状態になる。
いったん耳ができると、あとはもう楽なものだ。
いちいち意識して、このテクニックを盗もうとか、こういうのは練習して身につけたほうがいいな、と考えなくてもよくなる。
上手な人のプレゼンを聞いているだけで、いままで見えなかったことがどんどん見えてきて、テクニックもノウハウもコツも、いわば勝手に向こうのほうから飛び込んでくるといった感じで、面白いように身についていくのだ。
手本になるようなデキる人をしっかり観察し続けているうちに、それまで蓄積したさまざまな「気づき」が一気にブレークしたごとく、あなたの学習能力にグンと加速度がつく瞬間が訪れる、という言い方をしてもよいかもしれない。
およそプレゼン能力は、とくに意識して鍛えようとしなくても、ただお手本と接しているだけで自然にアップするものなのだ。そのうえにタイミングよく、耳ができたり、あるいはできはじめたときに反復して練習してやると、加速度的に能力アップしていく。
プレゼンに限らず、すべてのことはこの力学に沿って学ぶのがいい。
そのときのポイントは、お手本を一つひとつ細かな要素に分割して考えずに、全体のイメージで捉えて学ぶこと。知識として学ぶのではなく、自分の気づきから学ぶこと。この2点である。
■「強みの補強」と「弱みの転換」の違いについて
自分にはこの要素が足りないとか、このテクニックがマスターできていないとか、いちいち細かなことまで気に病む必要はないのだ。自分に何が足りないかは、自分がいちばんよく知っているんだと割り切って、やがて自分に耳ができるときを待つことである。
なお図表1に示したように、全体のイメージで捉えて身につけたノウハウは、汎用性を持つことが多い。対して、お勉強形式で学ぶテクニックなり手法のほうは、ある具体的な事例や特定の業界だけに限ってしか使えない場合がほとんどだ。
プレゼンの上達法(1)のほうを、私は「強みの補強」と呼んでいる。
すでにある程度までのプレゼン能力があって、その強みをさらに補強していくには、こちらの方法がいい。
一方、コツで学ぶ上達法(2)のほうは、「弱みの転換」となる。
新入社員のようにまだプレゼン能力を身につけていない人たちを短期間で一人前に育てる、あるいはもっと欲張って、立派なスキルとして通用するまでに高めていく。弱みを補強するのではなく、いきなり強みに転換してしまうという意味を込めた。
これを可能にするのは、70点を80点へと10点だけアップする上達法(1)ではなく、40点を70点へとたちまち30点アップする上達法(2)のほうなのである。
ビジネスマンとしてでき上がったあとからはごくオーソドックスに、細かなテクニックを一つひとつ学んでレベルを上げていけ、新入社員はそれでは間に合わないから、コツで学んで短期間のうちに一人前のレベルにまで飛躍しろ、というわけだ。
早く一人前になれば、それだけ早く耳もできてくる。そのときは、コツで学んできたことによってプレゼンを基本から捉えているから、細かなテクニックもほんとうの意味で血となり、さらに肉となってくれる。
これが最強のプレゼン上達法だと思うのだが、いかがだろうか。
■「真面目で努力家」はかえって伸びない
以上、プレゼンテーション能力をアップするのは、私の経験からはさして難しいことではなかった。
しかし現実には、いつまでたってもプレゼンがうまくならないビジネスマンが、あちこちにゴロゴロしている。これはやはり、教え方が間違っている、学び方を知らない、という以外に考えられないだろう。
こうしてみると、もっと広く「何を学ぶか」と「どうやって学ぶか」というのは深く関係してくるようだ、ということも身にしみてわかってくる。
先ほど、プレゼンが上達するためには上司や先輩のいうことを聞いてはいけない、と書いたのもしかりである。プレゼンの基礎さえ知らない人に「気の利いた冗談の1つも交えるといい」と教えるのと一緒で、何事にも、そのときどきのその人のレベルによって、もらってはいけないアドバイスがいっぱいあるのだ。
これはつまり、新入社員がプレゼンを学ぶときには、上司や先輩のアドバイスを参考にしても上達しない、そういう学び方は間違っている、ということになる。
たとえば、前出のBさんは非常に真面目な方で、上司のアドバイスなどに真剣に耳を傾けていた。プレゼンが終わったあとで、あそこはこうしたほうがいい、ここはこんなふうにしてみろといわれると、素直にそれを取り入れて練習する。
「おまえ、落語を聞け」といわれると、さっそく寄席に行く。前の日に十回練習してこいといわれたら、そのとおりにキッチリと十回練習してくる努力家であった。
真面目で努力家が悪いわけではないが、現実にはこれではダメなのである。
こういう覚え方をしていたら、プレゼンは一向に上達しないのだ。
■意外なビジネスの現実
繰り返すが、すでに自分なりのコツをつかんだ人が、もう耳ができている状態でアドバイスを聞けば、先輩の助言のうちここだけを参考にしようか、ということがよくわかるからいい。
しかし、自分なりのコツをつかむ前にあれこれいわれて、それを素直にそのまま受け入れていく人は、つぶれていってしまうことが多いのである。当然これはプレゼンだけにとどまらない話である。
それはともかく、アドバイスを聞くにもタイミングがあるということ。それに、もしかしたらそれが二流のアドバイスかもしれないということ。この2点からいって、周りからのアドバイスを聞き流すのもプレゼンがうまくなるための重要なコツだ、といわざるをえないのである。
もう1つ、真面目で努力家はかえってプレゼンがうまくならない。この意外なビジネスの現実も、ここで忘れずにつけ加えておくべきだろう。
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経営コンサルタント
1956年、東京都生まれ。1981年、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了(計数工学修士)。1987年、スタンフォード大院経営工学修士(MS)。1981年、ボストンコンサルティンググループ(BCG)入社。1991年、同社ヴァイス・プレジデント就任。同社シニア・ヴァイス・プレジデントを経て、2000年、株式会社ドリームインキュベータ(DI)設立、代表取締役に就任。現在、参天製薬(株)、(株)ジンズホールディングス、サンバイオ(株)、(株)メドレーの社外取締役を務める。また、PEファンドのアドバイザーやベンチャー企業へ投資、経営アドバイスなども行っている。
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(経営コンサルタント 古谷 昇)
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