とりあえずこの2つを押さえれば十分…一流経営コンサルが教える「戦略的思考」を最短で身に付ける方法
プレジデントオンライン / 2024年1月25日 7時15分
※本稿は、古谷昇『コンサル0年目の教科書 誰も教えてくれない最速で一流になる方法』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■戦略で本当に覚えるべきたった2つの要素
世に戦略論の本はいっぱい出回っている。
いろんな人が書いていて、内容もそれぞれ微妙に違う。
そうした本にも何冊か目を通してみて、それ以上に私自身の経験則から思うに、戦略の基本は次の2つに尽きる。
②戦略とは資源配分である
戦略論をいち早く身につけるためには、この二大要素以外のことはとりあえず考えないほうがいい。
もちろん、戦略には他にもいろんな要素があるが、そんなものをいちいち覚えていたら、あれこれ混乱するだけで、肝心のコツがさっぱりつかめないことになる。繰り返しておくが、単純で、しかも誰にもできるものをコツという。
まず①の差別化である。
これだけを見れば実に当たり前の話にすぎないが、案外そうではない。ここを誤解している人がたくさんいる。覚えるのは上の二つだけでいいのだから、逆にこれらはキチンと押さえておいていただきたい。
ここで知っておいてもらいたいことは、自分がいかに努力したか、あるいはどんなにすごい商品を開発したかということは、「利益」とはまったく関係がないということである。
どんなにすごい商品をつくったとしても、モノマネの後追いであれ何であれ、それと同じものをほかの人がつくれるのだったら、決して利益は出ない。これはビジネスの世界は競争社会である、という認識からきている。
その商品がどんなにすごくて、どんなに人手やコストがかかって、どんなにアイデア満載で、いくら世のため人のためになるものであっても、そんなことは関係ない。
同じようなもので競争すれば、必ず叩き合いになって利益がなくなるというのが、ビジネスの世界の常なのである(ちなみに、これも前出のBCG創業者ブルース・ヘンダーソンの基本コンセプトだ)。
■ビジネスで大事なのは売上げか利益か
逆に、どんなバカバカしいようなものでも、他の人がつくれないものであれば利益は出る、というのがビジネスの現実。この基本中の基本が意外と見過ごされている。
というのは、これが利益ではなくて「売上げ」になると、話がぜんぜん別だからだ。
売上げというのは、要は世の中にたくさんのニーズがあるかどうかで決まるから、努力して世のため人のためになる商品を開発すればいい。そうすれば、その商品は非常に広く普及して、当然のこと売上げも大きくなる。
しかしそれを他でもつくれたとしたら、いつか必ず「儲からない」という事態に陥ってしまうのが、競争原理というものなのである。
これは当たり前のことなのだが、世の中でかなり優秀な経営者とされている人たちであっても、どうしても最後のところで誤解、あるいは錯覚していることが多い。
設備投資をして、社員たちが努力してすごい商品を開発したのに、どうして儲からないんだと嘆く。気持ちは痛いほどよくわかるけれど、それは他の会社もやっているから、こと利益となると難しいですね、と答えざるをえないのである。
したがって、戦略を考えるときには、相対性というものが重要になる。
実際、戦略論を勉強してみるとすぐわかるが、どんなテキストにもみな「自分の力」の他に、必ず「競争の中での自分の位置づけ」や「環境の変化」や「時間の経過」などを見なさい、戦略はこういうものを見ることでできるんです、と教えている。
書き方としては、〈5つのFに注目せよ〉などと著者によっていろいろ工夫されているが、いいたいことは同じ。効果的な戦略を立てるためには相対性重視の視点でいけ、ということなのである。
ビジネスは売上げではなく、ほんとうは利益が大事だということ。そのためには商品の質ではなく、あくまで差別化要素が必要だということ。ほとんどの戦略論がここを出発点にしていて、私もそれで正解だろうと思っている。
■捨てる技術といっても間違いではない
そして②の資源配分だ。
これもごく当たり前の言い方で、部分的にはいろんなところに出てくるが、なかなか理解されにくいところがある。
たとえば、戦略からは発明は生まれてこない。戦略は万能ではないから、戦略を立てたからといって、それだけで会社の資金力が増したり、技術者の商品開発能力がアップしてくれるわけではないのである。
しょせん戦略というのは、いま会社が持っているものをどう組み合わせるか、でしかない。どこかから手を抜いて、そのぶんをどこかに集中させることで、結果としてより大きな成果を得る。いってみれば、戦略の本質はこれだけのことなのだ。
そういえば、少し前のベストセラー本に『「捨てる!」技術』というのがあった。戦略の要諦もまた、一面では捨てる技術だといっても間違いではない。
だから、何かをするためにそこにヒトやカネを当てたら、必ず他のどこかを捨てなければならなくなる。よくありがちな、アイデア満載で、あれもこれもみんなやりましょう、というのは戦略ではないのである。
ということは、企業体力がない、人がいない、お金がないというなら、そういう会社ほどより戦略が必要になるわけだ。
これが大企業だと、戦略をある程度までルーズに考えていても、結果オーライということがありうる。
■日本のほとんどの会社には戦略がない
そして、ここでビジネスの現実をいっておくと、現状ではベンチャー企業も大企業も、日本のほとんどの会社には戦略がないに等しい。
いちばんの典型が、たとえば企業の「中期計画」なるものだ。これは、生産部門はコストを1割削減しましょう、商品開発部門は新商品の比率を2割アップさせましょう、営業部門は販促費を抑えて売上げの3割増を、などと書いてあり、それを足し合わせると、わが社の業績は今年からこういう上昇カーブを描いて伸びていきます、というものである。こういう部門別計画をただ足し合わせてつくった中期計画を、「ホッチキス中計」という。
もちろんこれを戦略とは呼べない。
ウチには中期計画がありますというのと、戦略がありますというのとは違うのだ。この種の中期計画は単にやりたいこと、やるべきことを足し合わせてつくっただけの「努力目標」にすぎず、戦略にはなっていないのである。
別の言い方をすれば、ウチは生産部門にはお金をかけないで、営業部門に徹底的にカネとヒトを投入して勝っていくんだ、という資源の傾斜配分、偏った資源配分をするのが戦略だといえる。
これまで日本の企業は何事にも平等が大好きで、とくに人事面などは頑なに「公平」ならぬ「平等」を旨としてきた。仕事の能力に明らかな差があっても、同期入社の人たちはまあだいたい同じペースで主任から係長、課長、部長と昇進していく。
■いまだからこそ「戦略的思考のススメ」
もし、若い社員が主任から課長に二階級特進なんて抜擢人事があったとしたら、社内からは間違いなく「いくらアイツが会社を儲けさせているからって、あまりに不平等だ。許せん」と声が上がるだろう。
こういう企業風土だと、生産部門の予算を大幅に削って営業部門に回そうといった戦略的な発想は、あまり期待できない。
しかし時代は変わって、抜擢人事も当たり前に行われるようになっている。これまでの日本企業がどこか間違っていたのである。
経営戦略もこれと同じだ。説得力のある根拠とその説明は必要になるが、削減対象部門からの不平等だ不公平だ云々の声はあえて無視してでも、思い切った戦略的思考をしていくべきである。
それでこそ、会社を大きく儲けさせるために役立つ、すばらしい知恵も生まれてくることになる。
■戦略づくりの5大ポイント
いま挙げた2大要素を正しく理解しておくと、非常によく戦略が見えてくる、あるいはわかってくるはずなのだ。
そのうえに次の5ポイントをマスターするといい。これで、あなたの戦略的思考を申し分ないレベルにまで高めることができる。しかも、いち早く、である。
②切り口の選択
③競争
④トレードオフ
⑤定量化
これらは戦略的思考をフルに働かせる際の最重要ポイントであり、「戦略づくりの5ポイント」であると考えておいていただければよい。
もとより戦略を立てるポイントは、挙げていけばきりがないほどある。しかし、やはり例によって他のポイントには、ここでは意を用いる必要はない。
とりあえずこの5つだけに絞って、まず理解し、それが経験を経てこなれていわゆる「耳ができる」状態のところまでいったとき、あなたは戦略的思考法を自然にマスターできているのである。
戦略づくりの5つのポイントの詳細を本書には掲載している。是非ご一読いただきたい。
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経営コンサルタント
1956年、東京都生まれ。1981年、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了(計数工学修士)。1987年、スタンフォード大院経営工学修士(MS)。1981年、ボストンコンサルティンググループ(BCG)入社。1991年、同社ヴァイス・プレジデント就任。同社シニア・ヴァイス・プレジデントを経て、2000年、株式会社ドリームインキュベータ(DI)設立、代表取締役に就任。現在、参天製薬(株)、(株)ジンズホールディングス、サンバイオ(株)、(株)メドレーの社外取締役を務める。また、PEファンドのアドバイザーやベンチャー企業へ投資、経営アドバイスなども行っている。
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(経営コンサルタント 古谷 昇)
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