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だから稲垣、草彅、香取はテレビから消えた…SMAP独立騒動が示した「忖度とバーター」というテレビ業界の病

プレジデントオンライン / 2024年1月19日 7時15分

パラリンピック聖火到着式で、聖火を持って走る都内最終ランナーで国際パラリンピック委員会(IPC)特別親善大使の(左から)稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さん=2021年8月24日午後、東京都渋谷区 - 写真=時事通信フォト

なぜジャニー喜多川氏の性加害問題は長年放置されてきたのか。元テレビ東京社員の田淵俊彦さんは「ジャニーズ事務所にたてつけば痛い目にあうという長年にわたる『刷り込み』がマスコミ各社に浸透し、自然と『はれ物』に触るような対応が習慣化した。テレビ局は忖度をすることで大きなメリットを得ていた」という――。

※本稿は、田淵俊彦『混沌時代の新・テレビ論 ここまで明かすか! テレビ業界の真実』(ポプラ新書)の第3章『病症Ⅱ:異常なまでの「忖度」をするという「だらしなさ」』の一部を再編集したものです。

■テレビが「ジャニー氏の性加害」を黙殺した背景

1999年1月、世間を驚かせた記事が写真雑誌『FRIDAY(フライデー)』に掲載された。現在でも続いているこの雑誌は、当時は有名人のスクープをすっぱ抜くゴシップ雑誌として気炎を吐き、業界から恐れられていた。

そこに「スクープ‼ 女子短大生たちが衝撃の告白・ジャニーズJr.4人が溺れた乱痴気パーティー写真」と題して未成年であったジャニーズJr.の飲酒・喫煙が大々的に報じられ、社会的に大きな話題となったのである。

この問題は「ジュニアスキャンダル」と呼ばれたが、その真相は決して語られることはなかった。ジャニーズ事務所が徹底的な箝口令(かんこうれい)を敷いたからである。その裏事情をこの場で明かしてゆく。

実はこの問題にはテレビ東京が関係している。発端は当時、テレビ東京で放送されていた『愛ラブB.I.G.』という番組であった。この番組の担当者のところにある日、ジャニーズ事務所の広報担当から電話がかかってきた。

「メリーさんが呼んでいる」

メリーさんとは、ご存じのようにジャニー氏の姉のメリー喜多川氏のことである。当時はジャニーズ事務所の副社長として経営全般を取り仕切っていた。同時に、トラブル処理係でもあった。

何事かと慌てた担当者がジャニーズ事務所に向かったところ、3時間も待たされた挙句(問題の対応で大わらわだったことが後で判明する)、「FRIDAYに抜かれる。あなた、何してたの!」とメリー氏にえらい剣幕で怒鳴り散らされたという。

■メリー氏が打ち切りを強要、それを拒否したら…

聞けば、番組のスタイリストのそのまたアシスタントである男性が、ジャニーズJr.の4人を忘年会と称して喫煙や飲酒の場に連れまわし、その様子を写真に撮られ、それがFRIDAYに掲載されるというのだ。

担当者は「スタッフにどんな教育してるの!」とメリー氏から責められ、突然『愛ラブB.I.G.』の番組打ち切りを言い渡された。

すると今度は、それを察知した東スポが「J横暴! スポンサー、テレビ局、ファンが継続望む番組を事務所が中止要請、前代未聞!」といった記事をすっぱ抜き、さらに怒り心頭となったメリー氏が要求してきたのは、「テレビ東京は社長会見を開いて、『Jr.の4人は何も悪くない。彼らは犠牲者で、単にその場に連れていかれただけだ。悪いのはテレビ東京がスタッフをちゃんと管理していなかったからだ』と謝罪しなさい」ということだった。

そして番組打ち切りについても「あくまでも局の都合と言うように」と強要してきた。

テレ東は「うちのスタッフがしたことに関しては謝るが、FRIDAYにスクープされた場に社員がいたわけでもないのでそんな会見は開けない」と返したところ、メリー氏から即座に呼び出しがあった。

そのときの記憶が鮮明によみがえったのか、情報提供者の男性は一瞬、苦虫を噛みつぶしたような顔をした。そして、そのときのメリー氏の言葉には耳を疑ったと話を続けた。

「そういう対応をするなら、今後、テレビ東京とはつき合えない。メリーさんにきっぱりとそう言われたんです」

複数の大型照明が設置された撮影スタジオ
写真=iStock.com/sippakorn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sippakorn

■数年間続いたテレ東出演禁止

テレビ東京とはつき合えない。

そう宣告されたテレビ東京はその後、数年間にわたり「ジャニーズ事務所のタレントはテレビ東京に出演禁止」というお仕置きを受けることになる。

出演禁止は、“徹底的に”誰一人としてだ。私は何度もSMAPにドキュメンタリー出演の依頼をしたが、いつも「ジャニーが許してくれないから」という理由で断られ続けた。これはテレ東内で、「ジャニーズ冬の時代」と語り継がれている。

さらにジャニーズ事務所のテレビ局への影響力、強制力をまざまざと見せつけられた問題が、「SMAP独立騒動」である。

■いつまでも残る「SMAP独立騒動」の遺恨

前述した「FRIDAY事件」の例でわかるように、「ジャニーが許さない」「ジャニーが怒っている」と先方から告げられるそのほとんどはメリー氏が指図していた。ジャニー氏はそういういざこざやトラブルが大嫌いな人だった。

しかし、何かの強制力が発動されるときは必ず「ジャニーが……」となる。それは「ジャニー氏=ジャニーズ事務所」ということを誇示する目的と、もうひとつはメリー氏がジャニー氏の名前を笠に着ていたということもある。

当時のメリー氏の夢は、自分の娘・藤島ジュリー景子氏をジャニーズ事務所の後継者にすることだった。だから、事務所内でめきめきと力をつけていたSMAPのマネージャー・飯島三智氏が邪魔だったのだ。

何とか飯島氏に難癖をつけて辞めさせる算段だったのだが、SMAPのメンバーが異を唱えたことが誤算となった。その結果、集団退所という事態を招いたことは読者のみなさんも周知の事実である。

2016年に起こったこの独立・解散騒動から7年も経ったいまでも、その影響は尾を引いている。それほどまでに、この騒動は遺恨を残したのである。

当時はもちろんのこと、その後ずっとテレビ局はジャニーズ事務所への忖度(そんたく)のせいで、旧SMAPのメンバーである「新しい地図」の稲垣、草彅、香取の三氏を積極的に使うことは避けてきた。

私は青春時代をともに過ごしたSMAPへの思い入れが人一倍強かった。だから、ことあるごとに自分のドラマに「新しい地図」のメンバーを出演させたいと社内で提案し続けていた。

SMAP 2008 超現代芸術パフォーマンスツアー(写真=リア・シャン/CC BY 2.0/Wikimedia Commons)

■ジャニーズ事務所の報復を恐れて報道しなかった

あるとき幹部から言われた言葉は、いまでも忘れない。

「そんなことをして、お前は責任取れるのか?」

新しい地図を出せばジャニーズ事務所を怒らせることになる。そういう意味だ。

またある編成社員がジャニーズ事務所のテレビ東京担当のマネージャーに「新しい地図を起用したら、事務所はどう思うか?」とやんわりと聞いてみたことがあった。

するとこう答えたという。

「止めはしませんが、ジュリーはあまりいい気がしないでしょうね」

静かな恫喝だ。

看板が撤去された東京・港区のジャニーズ事務所本社
看板が撤去された東京・港区のジャニーズ事務所本社(写真=Dick Thomas Johnson/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

以上のように、ジャニーズ事務所にたてつけば痛い目にあうという長年にわたる「刷り込み」がテレビ局どころかマスコミ各社に浸透し、自然と「はれ物」に触るような対応が習慣化してしまったのである。

今回のジャニー氏の未成年者への性加害に関する問題は、これまでにも何度か発覚している。暴露本が出されたのも1度や2度ではない。裁判沙汰にもなっている。これらの出版の際も、裁判でジャニー氏が敗訴したときも、テレビ局とほとんどのメディアはジャニーズ事務所の報復を恐れて報道しなかった。

このように「テレビ局の倫理観」というのは一般的な倫理観と大きくかけ離れ、ゆがみきっているのである。

■有名芸能プロダクションへの「忖度」は本当にあるのか

誰かにそう聞かれると、私は「ある」と答える。

2023年の3月にテレビ局を辞めるまでの私であれば、「あるかもしれない」と答えただろう。だが、テレビ局からフリーな立場となったいまははっきりと頷く。

では「忖度」と一言で言うが、それはどういったものなのか。また、なぜ忖度がおこなわれるのか。それを解明していこう。

忖度は、広辞苑では「他人の心中をおしはかること。推察」と解説されている。つまり忖度は“一方的に”おこなわれることで、そこには本来、「ウィンウィン」といった“相互的な”利害関係はないはずである。

しかし、テレビ局と芸能事務所の間には、れっきとした利害関係が存在する。そのことが、さまざまなゆがみや腐敗を生んでいる。

テレビドラマは通常「ワンクール」と言われる3カ月単位で番組が入れ替わる。昔はもう少し長いスパンだったが、時代の流れで放送も時短化した。そして各局が目玉としているドラマ枠の主演俳優は、ほとんどが数年先まで決まっている。

「決まっている」と言ったが、もちろん、これは公表されていないし一部の当事者しか知らない。暗黙の了解である。いわゆる「握り」というもので、「では、○○年の○月クールは誰々さんで宜しく」的なテレビ局と芸能プロダクション間の慣習的な約束事である。

■テレビはあくまでも宣伝媒体

みなさんは決まった主演俳優が局を違えて立て続けに出ているのを目にして、「なんかおんなじ出演者ばかり見るなぁ」と感じたことはないだろうか。あるとしたら、その感覚は正しい。

ドラマの内容や脚本家、共演者などのいわゆる「座組み」。時間帯や時間枠などの「枠組み」。それら2つの「組み」がまったく決まらないうちに主演俳優を「ベタ置き」するから、そういう現象が起こるのだ。

実はテレビに出ている有名人が食べてゆくための収入源は、テレビではない。番組の出演料など、たかが知れている。テレビはあくまでも宣伝媒体に過ぎない。タレントや俳優、アーティストやその事務所にとっては、自らを宣伝できる「場」を提供してもらっているだけなのだ。

スタジオに設置されたテレビカメラ
写真=iStock.com/smutnypan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/smutnypan

例えば音楽番組の場合、フジテレビの『ミュージックフェア』の番組制作費は1100万円くらい、テレ朝の『ミュージックステーション』でも1800万円止まりとそんなに高くない。

あれだけたくさんの豪華なアーティストが出ているのに、どうしてそんなに制作費が抑えられるのか。それは、アーティストにとってテレビ出演は楽曲売上のためのプロモーションと考えられているため、出演料が高くないからである。

■CM契約を取るための手段

では、有名人の生活の糧はどこにあるのか。

そう、CMだ。テレビ局がおもにスポンサー企業のCMを流す枠を売って収益を上げているように、CMなどの宣伝には莫大な金銭が動く。タレントやその事務所にとっても、CM契約を獲れるかどうかということが死活問題であり、そのタレントの価値を決めると言っても過言ではない。

事務所はCMを獲得しようと躍起になる。それはそうだろう。契約が一本取れれば、数千万円の世界である。

企業がCMにそのタレントを起用するかどうかという「バロメーター」は、番組に“よく”出ていて視聴者の認知度が高いタレントである。言い換えれば、人気番組に出演している、もしくは視聴率が獲れている(=たくさんの視聴者がその番組を見ているであろう)ドラマに出演しているような俳優なのである。

知らないタレントが宣伝をするよりなじみの深い俳優が宣伝したほうが、商品や企業の訴求力が上がるのは明白だ。したがって、CM契約を獲るための一番手っ取り早い方法は「常にテレビに出ていて、露出が多い」ということになる。だから事務所側もずいぶん先の予定まで所属俳優の出演を決めようとするのである。

■流行の俳優をいち早く抑えられるテレビ側のメリット

俳優やタレントの賞味期限は限られている。その賞味期限は、本人どころか事務所にも計り知れない。いま売れている俳優であったとしても数年先はわからない。だが、そのタレントに先行投資をしていた場合には回収をしなければならない。

そんな理由から、局への影響力がある事務所はよい放送枠があればそこに自社タレントを「ベタ置き」することでリスクヘッジをするというわけだ。

テレビ局側にとっても制作が決まるたびに毎回頭を悩ませる主演俳優のキャスティングの手間が省けるばかりか、CMにも出演している“流行りの”俳優をいち早く押さえられるメリットは大きい。

担当のプロデューサーは自分自身が安心感を得られるのと同時に、そういったネームバリューのある俳優を押さえられる実績を社内外に誇示できる。

そこで登場するのが、「バーター」というシステムである。

メディアを支配する人のイメージ
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

■「バーター」というシステムが生み出す功罪

バーターはビジネスでは「交換条件」といった意味で使用されることが多く、「Give and Take」の関係に近い。

例えば、売れている俳優のバーターは何だろうか。事務所は人気のある俳優を差し出す代わりに、交換条件として「売り出し中の俳優」や「これから売り出したい俳優」を出演させるようにテレビ局に要求する。これがキャスティングにおけるバーターである。

よほど詳しい人でないと、普通の視聴者はどの俳優がどの事務所に所属しているかなどわからない。しかし、もしそれを知っていたら、主演俳優という「太陽」を取り巻く「惑星」のようにひとつのドラマのなかに同じ事務所の俳優がちりばめられていることに気がつくだろう。

ときには、事務所からの要求がなくても局側や制作会社のほうから出演者事務所への忖度がおこなわれ、「○○さんもどうでしょうか?」とか「○人くらいは何とかできます」などという提案によってバーター契約は効率よく進められてゆく。そのようにして、局や制作会社のプロデューサーと芸能プロダクションの蜜月関係は構築されてゆくのである。

「忖度の権化」とも呼ぶべきバーターというシステム。一見不必要で不純に思えるこの悪習も違った視点から観ると次のように考えられないだろうか。

テレビ番組は人間が作り出すものである。そしてそこには必ず人の「業」や「欲」が絡んでいる。だからこそ人間関係というものが重要になる。

つまり、バーターをしようがしまいが、いいキャスティングをできるということはその人間が優れた人間関係を築くことができているという証拠でもある。

■「忖度」が効果的な武器になった

「テレビ=サービス業」と考えれば、「視聴者が喜ぶ」もの、「視聴者が望む」ものこそが正解だ。視聴者は誰しも豪華なキャスティングのドラマを見たいに違いない。いいキャスティングをして作品のクオリティを上げて、視聴者に喜んでもらうのに越したことはない。

テレビはやはり第一には「世間=視聴者」のためにあるべきだと、テレビから離れて改めて強く感じる。

昔、フジテレビのキャッチフレーズに「楽しくなければテレビじゃない」というのがあったが、これなどはその最たるものではないだろうか。

「楽しい」はまず創り手にとって番組を作っていて楽しくなければならないが、それは視聴者を楽しませるためである。そしてそれを突き詰めるためには手段を選ばないという「がむしゃらさ」や「ひたむきさ」が、かつてのテレビにはあった。それがテレビを活気づけてもいた。

田淵俊彦『混沌時代の新・テレビ論 ここまで明かすか! テレビ業界の真実』(ポプラ新書)
田淵俊彦『混沌時代の新・テレビ論 ここまで明かすか! テレビ業界の真実』(ポプラ新書)

バーターも然り、忖度も然り、それらは「トレンド=視聴者が求めているもの」を的確に提示しようとする、テレビのサービス精神のあらわれなのである。

そしてそのことで結果的にクオリティがいいものが生まれ、視聴者にとってもメリットとなっていることが、テレビが文化であることの証なのではないだろうか。

また事務所への忖度をおこなうことで関係が強固になってゆけば、それはテレビが配信に勝てる優位性にもなるだろう。忖度もうまく使えば効果的な武器となる。

忖度から生まれるのは、デメリットだけではないのである。

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田淵 俊彦(たぶち・としひこ)
元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授
1964年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、テレビ東京に入社。世界各地の秘境を訪ねるドキュメンタリーを手掛けて、訪れた国は100カ国以上。「連合赤軍」「高齢初犯」「ストーカー加害者」をテーマにした社会派ドキュメンタリーのほか、ドラマのプロデュースも手掛ける。2023年3月にテレビ東京を退社し、現在は桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授。著書に『弱者の勝利学 不利な条件を強みに変える“テレ東流”逆転発想の秘密』(方丈社)、『発達障害と少年犯罪』(新潮新書)、『ストーカー加害者 私から、逃げてください』(河出書房新社)、『秘境に学ぶ幸せのかたち』(講談社)など。日本文藝家協会正会員、日本映像学会正会員、芸術科学会正会員、日本フードサービス学会正会員。映像を通じてさまざまな情報発信をする、株式会社35プロデュースを設立した。

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(元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授 田淵 俊彦)

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