なぜ新築住宅の営業マンは「300万円の値引き」を言い出せるのか…事情通も口をつぐむ「初期費用の闇」
プレジデントオンライン / 2024年1月19日 14時15分
※本稿は、平松明展『住まい大全 ずっと快適な家の選び方、つくり方、暮らし方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■家の本体価格だけでは適正な選択はできない
私の会社は工務店です。工務店とハウスメーカーの違いって知っていますか? 役割としては大きな違いはありません。ともに住宅工事を請け負う会社ですが、工務店の場合は特定の地域に限定して運営しています。ハウスメーカーも工務店も規模、事業範囲、営業エリアはさまざまで、その間に位置しているビルダーという業態もあります。
実は、どの業態のどの会社を選ぶかは、目的の住まいを手に入れるための重要ポイント。まずはみなさんが気にされる費用について比較してみましょう。
坪単価で比較します。坪は畳2畳の広さで、建物の費用を坪数で割った額を一般的には坪単価といいます。坪単価を100万円とした場合、30坪の家なら3000万円となるわけです。この坪単価が業態や会社によって違うのです。
坪単価の明確な定義はなく、ルールもそれぞれの会社によって違います。それが落とし穴になることも。家の本体価格だけの比較では適正な選択ができません。そこで業態の傾向をまとめた数値をもとに解説していきます【図表1】。
■耐久性や耐震性の低さからメンテナンスコストが高くなる
業態を「ローコストのハウスメーカー」「高性能の工務店」「大手ハウスメーカー」の3つに分けて説明します。坪単価は50万円、80万円、100万円に設定すると、30坪の家の場合、1500万円、2400万円、3000万円と大きな差が出ました。
初期費用のみを見ると、当然ローコストのハウスメーカーに魅力を感じますよね。
では表の下の部分を見ていきましょう。
まず性能ですが、ローコストだと性能にこだわる余裕がありません。高性能な住宅をつくれる工務店と大手は同等の性能を担保できると考えてよいでしょう。これに連動するようにランニングコストは、ローコストがほかの2倍も要することになります。
耐久性や耐震性の低さからメンテナンスコストが高くなり、断熱性や省エネ性の低さから光熱費が高くなるのです。
トータルコストを見ると、4500万円、3900万円、4500万円となります。長期的に見た坪単価も150万円、130万円、150万円と初期費用とは異なる評価になるわけです。
■大手は広告費も建設費用に含まれている
ここで「工務店と大手は同じ性能なのになぜ坪単価が違うか」という点が気になるかと思います。大手の場合は営業エリアが広いため人員が多く、広告・宣伝などの費用もかかります。それらは建設費用に含まれることになるため割高になるのです。
坪単価を比較するだけでも高性能の利点を理解できたかと思います。また、住む快適さはお金ではあらわせないもの。冒頭で坪単価の明確な定義もルールもないとお伝えしましたが、例えばキッチン設備が坪単価に含まれておらず、あとから予想外の支出を要したということが実際にあります。
坪単価はあくまでも住宅会社を選ぶひとつの要素として捉え、住宅会社とのやり取りから感じられる信頼を大切にしたいものです。
■騙されてはいけない「営業トーク」10選
住宅会社とのやり取りは営業担当者が多いでしょう。住宅に限ったことではありませんが、会社や人によって違いはあります。残念ながら営業担当者の巧みな言葉に惑わされて後悔する人も少なくないのです。
見極めのポイントは、すべてにおいて根拠があるかどうかです。また、営業担当者の目的が“売ることのみ”か、“お客さんを助ける”という目的が含まれているかという点も重要。当然後者を信頼できますよね。これらを踏まえて注意すべきことを10点お伝えしていきます。
①ライフプランの信憑性
例えば5000万円の住宅を気に入っているけれどローン返済が計画している額を上回ってしまう場合、その家をあきらめるか、ライフプランを見直すかの選択に。そのときに営業担当者が、「老後の生活資金が1カ月で20万円かかるところを10万円にしましょう」と提案してきたら、みなさんはどう思いますか。
ライフプランを変更する場合は根拠がなければ意味をなしません。勝手にライフプランを変更してしまう悪質なケースもあるそうです。“ライフプランを修正するたびに納得できるか立ち止まる”ことを覚えておいてください。
■初期費用の大幅な値引きは欠陥住宅のリスクも
②値引きの良し悪し
値段交渉で200万円、300万円も値引きされるケースがあると聞きます。では値段交渉をしなかった人はどうなるでしょう。不平等が生まれますよね。会社の姿勢を疑いたくなります。
また初期費用はあらゆる要素を計算して算出されるもので、それが適正なら大きな値引きはできないはずです。どこかの部分で条件を変えられているのかもしれません。欠陥などの後悔をしないためにも、値引きの根拠を確認してください。
一方で、自身の家を見学先として協力することに対する値引きや、規格住宅の場合に設計を検討する時間を短縮した分の値引きなど、根拠のある値引きもあります。良心的な値引きといえるでしょう。
③契約の決断を急かされる
今すぐ契約しないと、ほかのお客さまに先を越されてしまうというような営業があります。実際に人気物件であれば嘘ではないでしょう。ただ、どんな物件でも契約を急せかされるような場合は注意が必要です。
本来であればお客さまの希望をヒアリングし、それを叶(かな)えられる住宅を提案するのが営業です。その部分をすっ飛ばされることは、“売れた”という結果だけを目的にしているとしか思えません。ただし、本当に人気の土地や住宅はあるので、冷静に見極めてください。
■断熱性を強調するのは謳い文句に過ぎない
④断熱性だけを強調する
高性能住宅のひとつの特徴に断熱性があります。性能が優れていることは喜ばしいことですが、それだけを強調する場合は謳(うた)い文句にすぎません。断熱性は気密性(隙間相当面積※)や換気方式、日射の兼ね合いなどさまざまな要因がセットになって高められ、快適な室温を実現できます。
すべてを事細かく説明し、なおかつデータや資料を提示してくれる場合は信憑性(しんぴょうせい)が高いといえるでしょう。
また、寒い時期や暑い時期にモデルハウスに見学にいき、エアコンの稼働状況を確認するのもひとつの方法です。
※隙間相当面積:建物が持っている隙間すべての面積を延床面積で割った数値で、C値という単位で気密性を示す指標となる。
⑤初期費用が低いことだけを強調する
トータルコストで考える重要性はお伝え済みです。メンテナンスや光熱費などのランニングコストを理解しておけば、初期費用だけで判断することのリスクはわかるはず。よって初期費用だけを強調する営業には疑いの目を持ちたいものです。
⑥不確かな情報を提供する
例えば住宅の周辺環境について「治安がいいですよ」「近隣はいい人ばかりですよ」と教えてくれることがあります。では、その担当者は周辺環境をどこまで調べているのでしょうか。
もちろん確かな情報を持っていることもあるでしょう。ただあらゆる仕事には専門性があり、住宅営業の管轄ではない情報があることも確か。周辺環境については不動産会社のほうが詳しいです。
■契約書を提示されたら、必ず見るべき項目
⑦断定的な説明が多い
物価変動をあらゆるデータから予測する経済専門家もいますが、住宅の営業担当者が「この物件は将来、高値で売れます」という言葉にそこまでのデータ的な根拠はないと思います。
不動産には将来的な不確定要素が多々あるものなので、少なくとも断定的にいえるものではありません。
⑧トータルでの見解を示さない
全館空調を例にしてお話しします。家の中の温度差を最小限にする高性能設備です。これを提案される際、初期費用だけを示すことがあるようです。
しかし、実際は維持管理、メンテナンスのランニングコストが発生し、故障した際のリスクもあります。これらをきちんと説明しないで提案する会社には、責任感を問いたくなります。何事にもメリットとデメリットがあり、総合的に見てこそ判断ができるものです。
⑨書面化されていない
住宅会社から提示された契約書を見て「こんなものかな」と思う人もいるかもしれません。そこに落とし穴がありますよ。
例えば金額は記載されているけれど、仕様がなにも書かれていない契約書は危険です。キッチンの仕様が書かれておらず、あとから予定外の費用が発生したというケースもあります。専門的な知識がなければ見抜くのは困難なので、わからないことは逐一質問してください。それに対して事細かく説明してくれる営業担当者は信頼できるでしょう。
■根拠のない話を鵜呑みにしてはいけない
⑩感覚での営業トーク
世間話の延長のような営業トークもあるようです。「太陽光パネルの価格が下がっているので待ったほうがいいですよ」など。実際にそうだったとしても、費用対効果など違う側面からの意見もあって当然のことです。まずデータの提示なく話してくる内容は参考にとどめましょう。検証してみたら違った結果になるようなことも多々あります。
注意したいことは山ほどあります。例えばお客さまの要望になんでも応(こた)えるような営業担当者は、どこまでリアリティのある家づくりを目指しているのだろうかと疑いたいです。当初の予定より希望が増えたり変わったりすれば、ほかに影響が出てきますから。
ここまでネガティブな視点で解説してきましたが、逆にみなさんの目利きの力が優れると、目的以上の家づくりができるかもしれません。
家づくりは人生づくり。運任せではなく、自ら動いてよい人生をつくっていきましょう。
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職人社長
平松建築株式会社代表取締役。建築歴23年。19歳から大工として10年間で100軒以上の住宅を解体、修繕し、住宅の性能の特徴を理解する。2009年創業。会社経営を行いながらもドイツを訪れて省エネ住宅を学ぶほか、地震後の現地取材を行い、気候風土に合った家づくりの研究を行う。YouTube チャンネル「職人社長の家づくり工務店」(登録者数は9万人以上)も配信中。
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(職人社長 平松 明展)
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