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「住民票を移せばフラット35でマンション投資できます」30代公務員が悪徳業者にコロッと騙された殺し文句

プレジデントオンライン / 2024年1月19日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

自宅用の住宅ローン「フラット35」をマンション投資に悪用する不正が相次ぎ、住宅支援機構が注意を呼び掛けている。住宅コンサルタントの寺岡孝さんは「借りた人にも当然落ち度はあるが、不正利用がバレないようにフラット35の規定を巧みに操った不動産会社はもっと悪質だ」という――。

■フラット35のメリットが悪用されてしまった

近年、不動産投資用の物件を購入するために、フラット35などの住宅ローンが不正に利用されていたことが明るみになりました。そもそもフラット35は住宅金融支援機構が民間の金融機関と連携して提供している住宅ローンを指し、自ら住む住宅を購入するための住宅ローンです。

投資用不動産を購入する際にフラット35が利用されたのにはいくつかの理由があります。

まず1つは、借りる側には大きな魅力である、長期返済かつ低利な固定金利という点です。投資用のローンの大半は変動金利で、しかも借りる側の属性によっては高い金利で貸し出されるため、収支内容が芳しくない場合もある一方、フラット35を使えば固定金利で収支計画が立てやすくなります。

また、過去のフラット35の規定では、アパートローンなどの賃貸用のローンを借りていても、他のローン返済を返済比率に加味していなかったために審査が通りやすかったという点もあります。

したがって、例えば、投資マンションを投資用ローンで4戸も購入していたとしても、表向きは「自宅を購入する」ということでフラット35を借りて、さらに新たな投資物件を買うことができてしまったのです。

■不動産投資物件は買えないはずだが…

しかも、フラット35では審査用のローン返済金利は毎月発表される実行金利で審査されるため、審査金利が高い通常の投資用ローンよりも多く借りられる場合もありました。

こうしたフラット35の規定を巧みに操り、「自己用の住宅を買います」という格好で不動産投資に体よく利用する事例が発生してしまったのです。

自動車購入費や消費者ローンの返済に充てる(いわゆるおまとめローン)など、住宅の取得費以外の費用を上乗せして借りてしまったという事例もありました。これは、不動産投資物件を売る不動産会社が一時的にカードローンなどを肩代わりして、投資物件をフラット35で買わせたという内容です。

例えば、200万円のカードローン残高があった場合、物件購入2500万円のところを200万円上乗せした2700万円で売買契約をしていました。当然ながら、こうした事例はフラット35の規定に反する行為で、一括返済の対象になってしまいます。ちなみに、この事例では融資用の売買契約書と本来の売買契約書の2つが存在していました。

■住民票を移すだけで「住んでいる証明」に

自己用の不動産購入に限って利用できるフラット35を、投資物件を販売する不動産会社はどうやって利用したのでしょうか?

フラット35の貸付条件のひとつが、「購入者自身が買った不動産に住む」というものです。

そのため、最終的には買った不動産に住んでいるという証明が必要で、例えば、住民票や公共料金の明細などが提出条件となります。万が一、この条件が満たされなかった場合には、融資契約の違反とみなされ、融資金の一括返済を求められます。

しかし、居住証明は住民票を提出すればいいという簡易的なもので、住宅支援機構が現地をわざわざ確認することはありませんでした。

不動産会社はその“穴”に付け込んで、借り手が一時的に買った物件の場所に住民票を移し、融資が実行された数カ月後に元の住所に再び住民票を戻すという禁じ手を指南していたのです。

また、住民票上では、借り手は買った不動産に住んでいることになっているので、住宅支援機構や銀行からの郵便物はその住所に届くことになりますが、借り手宛ての郵便物は郵便局止め扱いにして、差出人に戻らないようにも助言していました。

したがって、住宅支援機構や銀行にはこうした不正行為が見抜けなかったわけです。

マンションの模型を持つ男性の手元
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■調査の結果、150人が一括返済を求められる

これが、フラット35を不動産投資物件の購入に使ってもバレないというスキームでした。

この類いの不正行為が発覚してから、住宅支援機構は融資対象物件の全調査を行い、そのうち約150人の不正利用者に対しては一括返済を求めました。

私のところに相談に来られた30代前半の消防署に勤める公務員の方の事例をお話しましょう。

消防署に勤務するAさんは同僚のMさんから不動産投資の話を聞き、Mさんが「うまく簡単に不動産投資ができるから」と言われて不動産会社の人を紹介されました。この不動産会社はいわゆる投資マンションを専門に販売している会社で、投資マンションの購入を勧められ、初めに新築のワンルームマンションを2戸契約しました。

■新築ワンルーム3戸に加え、フルリノベ物件を購入

2戸のマンション価格は合計で約6000万円、賃貸借契約形態はサブリースの契約でした。この新築マンションを買った半年後に新たに新築のワンルームマンションを勧められてしまい、結果的には3戸の投資マンションを買ってしまったのです。3戸分のローン借入額は約8000万円、なかなかの借金です。

まあ、ここらあたりでやめておけば良かったのですが、翌年の4月頃に再び同じ不動産会社からセールスを受けました。ここでセールスされた物件はフラット35が使えるファミリータイプのフルリノベの中古マンションでした。間取りは昔の3DKタイプで専有面積は50平方メートル、販売価格は約3500万円、築23年、毎月の賃料は9万8000円という内容でした。

購入の資金調達にはフラット35による融資が約3200万円、約300万円がフラット35代理店のフリーローンという内訳でした。

Aさんには既に8000万円の投資用ローン借入金があり、投資用ローンではこれ以上は借りられないことを不動産会社は把握していたはずです。そこで既存のローン返済が加味されないフラット35に目を付け、フラット35が利用できる物件を探し当ててAさんに紹介したのです。

■住宅支援機構にバレないよう用意周到だった

このマンションはAさんが買った時点より以前に賃貸用として貸し出されており、入居者である借主が存在している賃貸マンションを、住宅支援機構には「居住用のマンションです」と偽ってAさんに販売したわけです。

この時点でAさんは買ったマンションに居住しないといけないとは全く聞いていませんでした。

マンション売主の不動産会社は、マンションの借主と一般管理形態で賃貸借契約を取り交わしており、所有者がAさんに変わった時点で賃料はAさんに支払う旨の変更の契約を取り交わし、Aさんに賃料が支払われる流れになったのです。

また、万が一のことも想定して、この不動産会社は賃貸借契約の特約として「所有者宛ての郵便物が送られてきた場合には所有者が住んでいる家に転送をするように」と借主に約束をさせていました。

Aさんは4戸目の物件もうまく買えたと思っていましたが、実は用意周到の不動産会社にまんまとカモられたわけです。

■年80万円の赤字より困った不正利用の後始末

Aさんの状況が変わったのは、フラット35の不正利用がマスコミで報道された後でした。自分もフラット35で投資物件を買っていたので心配になり、不動産投資の内容を精査してほしいと弊社に相談に来られました。

物件の収支状況は年間で約80万円の持ち出しで、とてもいい内容とは言えませんでした。一番の問題はフラット35で買った物件をどう対処すればいいのかという点でした。

仮に、不正利用が発覚して住宅支援機構から一括返済を求められても、とても返済する手持ち資金はありませんし、職場にもこのことがバレてしまうと最悪は退職せざるを得ないという状況です。

また、このマンションの実勢価格は2000万円程度の価格で、フルリノベして3000万円以上の売値で買っていました。つまり高値掴みをしてしまったわけで、マンションを売却できたとしても1000万円以上は手持ち金で充当しないといけないという状況がわかりました。

最終的には、借主には実情を説明して退去してもらいAさん自身が中古マンションに住むことで、とりあえずは一括返済を回避することができました。

■自分の希望に合わないマンションに住むはめに

ちなみに、借主の退去には賃料の6カ月分の違約金と引っ越し費用を渡して了承してもらったため、結果的には退去費用として約100万円を支払いました。Aさんは「まさか自分がこのマンションに住むとは思ってもみなかった」わけで、全く自分の希望に合った住まいではありませんでした。

残りの3戸の投資マンションは即売却というわけにはいかず、当面は保有することになりました。3戸分の収支は年間で約60万円の持ち出しという最悪の不動産投資となったのです。

ちなみに、Aさんに物件を買わせた不動産会社とその担当者とは現在、連絡が取れない状況だそうです。おそらく、この不動産会社はいわゆる「三為業者」で、少なくとも1500万円程度は抜いていたと思われます。

■カモられた公務員に落ち度はないのか?

住宅支援機構からフラット35の不正利用ということで一括返済を求められた人の中には、自己破産に追い込まれるオーナーもいるようです。

大抵の物件は実勢価格を大きく上回る価格で買わされていますので、当然、物件の売却金でのローンの残債額充当は難しく、中には1000万円以上の負債を抱える目に遭うオーナーもいると聞いています。

居住用の住宅ローンと一応は知りながら契約したオーナーにも落ち度はありますが、フラット35を意図的に悪用して利益を得ようとする不動産会社のカモにされたという側面もあるのです。

指南した不動産会社の触れ込みは「みんなやっているから大丈夫です」と言って買い手を信じ込ませてしまい、住宅支援機構から追及された場合には「本人が住むと聞いていたからフラット35を勧めた」と言い逃れをするでしょう。あくまでも、買った本人の意思であって、意図的にフラット35を悪用したわけではないと抗弁することが容易に想像できます。

■不動産投資で将来の不安は解消されない

投資は自己責任だと言われますが、お金や投資のリテラシーがないとカモられてしまうので自己研鑽は必要です。将来の生活不安が不動産投資で解消されると思われがちですが、実際にそうはなりません。

年金代わりになるからといって、月1万円程度の持ち出しであれば大丈夫だろうと高を括っているサラリーマン、公務員大家がいますが、実際にはローンで買っている物件は30~35年後でないと年金代わりの家賃が入りません。ローンを完済するまでにどれだけの経費がかかるかは、買わせた不動産会社も計算しません。

なぜなら、たかだか月8万円、9万円の家賃を35年後にもらうまで、ローンの金利や毎年の固定資産税などの経費が累計で数千万円も払うことがわかっているからです。これを話してしまうと物件は誰も買わないからです。

既に買ってしまったサラリーマンや公務員の方は、不動産投資で将来の不安は解消されないということに早く気付くことをお勧めいたします。

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寺岡 孝(てらおか・たかし)
住宅コンサルタント
1960年東京都生まれ。アネシスプランニング株式会社代表取締役。住宅セカンドオピニオン。大手ハウスメーカーに勤務した後、2006年にアネシスプランニング株式会社を設立。住宅の建築や不動産購入・売却などのあらゆる場面において、お客様を主体とする中立的なアドバイスおよびサポートを行っている。これまでに2000件以上の相談を受けている。NHK名古屋「ほっとイブニング」「おはよう東海」などTV出演。東洋経済オンライン、ZUU online、スマイスター、楽待などのWEBメディアに住宅、ローンや不動産投資についてのコラム等を多数寄稿。著書に『不動産投資は出口戦略が9割』『学校では教えてくれない! 一生役立つ「お金と住まい」の話』『不動産投資の曲がり角で、どうする?』(いずれもクロスメディア・パブリッシング)がある。

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(住宅コンサルタント 寺岡 孝)

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