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裁判に勝っても、もう笑えない…強気だった松本人志が「活動休止」を宣言した本当の理由

プレジデントオンライン / 2024年1月17日 17時15分

松本人志 お笑いタレント、「ダウンタウン」メンバー(日本テレビ「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで‼大晦日スペシャル‼」の制作発表に登場=2014年12月3日、東京都千代田区) - 写真=時事通信フォト

■その真意は「芸能界からの引退」か

松本人志は芸能界から引退するつもりだろう。

追い詰めたのは週刊文春の一連の告発記事ではなく、松本が思うままに操り、わが世の春を謳歌(おうか)していたと思っていた「時代」であった。

時代に“排除”された芸人は過去にも何人かいた。

私が、その芸をこよなく愛した横山やすしもその一人だった。

かつてビートたけしはやすしを評して、「雲の上にいるような人だった。やすしさんには芸も色気も敵わない」と語ったといわれる。

横山が一方的にしゃべり、相方の西川きよしの眼鏡を飛ばす「どつき漫才」は、茶の間にも受け入れられ、「コント55号」と並んで一世を風靡(ふうび)した。

だが、酒を飲んでの不祥事が多く、タクシー運転手と口論になって殴るなどの傷害事件をたびたび起こした。

その後も傷害事件やドタキャンを繰り返し、その度に、謹慎、復活したが、ついには所属する吉本興業から契約解除されてしまった。

速射砲のごとく畳みかけるヤクザっぽい口調や、現役のヤクザとの交際を公言するやすしを受け入れていたテレビ視聴者も離れ、それから数年後の1996年に肝硬変で寂しく亡くなった。享年51。

■#MeToo運動に始まり、ジャニーズにもメスが入った

その後も、警察による芸能人とヤクザの交際を排除しようという動きは強まり、2011年には全都道府県で「暴力団排除条例」が施行された。

当時、島田紳助は漫才コンテスト「M-1グランプリ」をプロデュースするなど、お笑い界の第一人者として多くの番組を持ち、人気絶頂だった。

その島田が暴力団との「黒い交際」があると週刊誌が報じた。警察からのリークではないかといわれ、島田は出版社を告訴したが、後年、東京地裁は「少なくとも記事の重要部分を真実と信じる相当の理由があった」と認め、島田側の主張を退けている。

2011年8月、島田は司会を務める「開運!なんでも鑑定団」放送終了後に吉本興業本社で記者会見を開き、暴力団関係者との交際を認め、潔く芸能界を引退すると表明したのである。

以後、島田は雑誌の取材は受けているが、テレビには一度も出ていない。

今回、文春が報じた「松本人志の性加害疑惑」も、今という時代を抜きにしては語れないはずである。

2017年に映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインによる性暴力告発を機に、世界中に広がった#MeToo運動は、遅ればせながら日本でも広がりつつあった。

そして昨年、英国のBBCが告発したジャニー喜多川の少年たちへの性的虐待問題が大きな広がりを見せ、男女を問わず性加害は絶対許さないという世論が形成されていったのである。

■告発したA子さんも「勇気をもらいました」

日本の芸能界には昔から「枕営業」なる言葉がある。地位や権力のある人間と寝ることで、いい役を得るという隠語で、いまだにそうしたことが続いているといわれている。

何人かの女性が「枕営業」の実態について告白したことはあったが、大きな問題になったことは、私が知る限り残念ながらなかった。

今回の松本人志のケースは、文春によれば、松本の取り巻き連中が、松本のために女性たちを飲み会に誘って、彼に“献上”していたというものだ。

ふた昔前なら、お笑い芸人の御乱行程度で終わっていたかもしれないが、時代がそうしたことに敏感になり、女性側も思い切って口を開くようになってきた。

文春で、松本との一夜を告白したA子さんも、「ジャニーズ問題では、二〇一〇年代半ばまで多くの方が性被害を受けていました。そして被害者が一斉に立ち上がり、大きな山が動いた。それを見て勇気をもらいました」と語っている。

文春は1月4日・11日号と1月18日号でこの疑惑を取り上げているが、A子さんのケースで考えてみたい。

法律事務所の弁護士立ち会いのもとでA子さんはこう話しだした。

■「この国は狂ってる。なんで嫁を何人も持てないんや」

「長い間、私は彼の仕打ちに苦しめられてきました。また彼に投げかけられた言葉は、今でも私の心に恐怖として残り続けています。後日知ったことですが、私の友人で、芸能人の卵だった女性も同じ被害を受けていた。芸能界の権力者である彼の怒りを買うと、どんな仕事上の報復を受けるか分からず、これまで口を閉ざしてきた子が数多く存在するのです」

2015年冬、A子さんのもとに、仕事関係の飲み会で知り合ったお笑いコンビ「スピードワゴン」の小沢一敬からLINEが届いたという。

〈○(日付)の夜ってどんな感じかしら?〉

さらに飲み会の当日、小沢からこんなLINEが送られてきた。

〈今日の場所なんだけど、先輩が写真とかに撮られるとまずいので六本木のグランドハイアットのスイートで部屋飲みって感じになりましたが大丈夫ですか?〉

その夜集まった女性はA子さんを含めて3人だったという。小沢の傍でせわしなくオードブルを並べていたのは、放送作家のXだったそうだ。

夜7時40分に松本が到着。

最初、松本は女性たちには一瞥もくれず、企画の愚痴をこぼしていたという。

しかし、酒を呷(あお)ると松本は次第に饒舌になっていった。

「日本の法律は間違ってると思うねん。日本は俺みたいな金も名誉もある男が女をたくさん作れるようにならんとあかん。この国は狂ってる。なんで嫁を何人も持てないんや」

■ボタン付きのシャツが「ビリッと破れてしまった」

さらに松本は3人の女性を凝視しながら、こう続けたという。

「俺的には三人とも全然ありやし。で、俺の子ども産めるの? 養育費とか、そんくらい払ったるから。俺の子ども産まん?」

10時過ぎに小沢が、

「さぁ、みんなでゲームを始めよう。グッパして」

女性3人と男性3人がグーチョキパーをして、寝室に松本、バスルームにX、メインルームのソファーに小沢が分かれ、同じ手のペアと組んで時間を過ごすというのだ。

女性たちの携帯電話は、松本が到着する前に小沢が没収している。

A子さんが寝室で松本と対面した時の恐怖をこう振り返る。

「いきなりキスされ、混乱していると、松本さんは『さっきの話や。俺の子ども、産めるの?』と迫ってきた。またキスされそうになったので、しゃがんで抵抗したところ、足を固定されて三点止めの状態にされてしまった。その日、私はボタン付きのシャツを着ていましたが、松本さんが無理やり上から脱がそうとしたため、ビリッと破れてしまった」

いつの間にか松本は全裸になり、体を押し付けてきたという。A子さんは唖然と佇立するしかなかったそうだ。

「松本さんは『俺の子どもを産めや』と呪文のように唱えてきて、それでも拒否していると大声で『なぁ! 産めへんのか!』と。恐怖で震えている私を見て、ますます興奮しているようでした。私は『このまま本当に殺されるかもしれない』とパニック状態になりました」

夜の寝室
写真=iStock.com/littleny
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/littleny

■文春の直撃には「もう好きに書いてくださいよ」

これが事実なら、松本の行為は弁解の余地のない性加害だが、文春の取材とのやりとりを読むと、松本がこのことをそれほど深刻に考えていたようには思われない。

――三人の女性とゲームをして性行為をされたと?
「うん、フフフ、知らないっすね(笑)」
――ありえない?
「いや、どうなんでしょうねえ」
――記憶にないと?
「(笑いながら)わかんないっすね。笑っちゃうくらいわかんないですね。じゃぁ、もう好きに書いてくださいよ」

余裕ありそうだったが、A子さんら複数女性に対する行為を問うと態度が一変し、声を荒げたという。

「いやもう、だって、そっち何も証拠を見せないで、聞かれたってわかんないじゃないですか! 証拠見せてよ」

事の重大性を認識していなかったということは、松本が所属する吉本興業の文春に対する抗議にも表れていた。

「当該事実は一切なく、記事はタレントの社会的評価を著しく低下させるもの。取材態様を含め厳重に抗議し、今後、法的措置を検討していく予定」

お笑い界だけではなく、吉本興業を実質的に動かしているともいわれる松本のスキャンダルにしては、抗議の姿勢がやや及び腰であった。

この文春の記事が出てから、どういう経緯か知らないが、性被害を訴えたA子さんのLINEが流出したのである。

■「いま思えば全て彼らの計画通りだったのです」

1月5日の週刊女性PRIMEは、A子さんが小沢に「お礼のメール」を送っていたと報じた。

「本当に素敵で…」「最後までとても優しくて」「今日は幻みたいに希少な会をありがとうございました」「松本さんも本当に本当に素敵で」

その記事を受けて松本がXに、「とうとう出たね」と投稿し、勝利宣言をしたのだ。

これだけ読めば、性加害を受けたはずのA子さんがなぜ? と思えるが、被害女性にはこうした行動がよくみられるそうである。

文春に対してA子さんは、

「なぜ、お礼LINEが“性的合意”の証明になるのですか。このメッセージを送った時はパニック状態にありました。全裸で高圧的に迫ってきた松本氏を拒否したため、男性陣が謝罪する姿を目の当たりにした直後であり、最後まで対応しなかったことをむしろ自分の非のように感じていました。

芸能人の卵だった私は『どうか穏便に見逃してほしい』と、反射的にお礼の文言を書いてしまいました。いま思えば全て彼らの計画通りだったのです。これまでどれだけの女性が同じ思いをしてきたかを想像するだけで吐き気がします。ここまで漕ぎ着けるのに八年もかかったことが悔しくて仕方ありません」

と語っているのだ。

NPO法人レイプクライシスセンター代表で弁護士の望月晶子氏は、「こうしたLINEを拡散することは、まさにセカンドレイプです」と批判している。

■松本への女性“献上”は福岡の高級ホテルでも

しかし、松本の番組を持つテレビ局の動きは、ジャニー喜多川問題のときと同様鈍かった。

動いたのは番組にCMを提供しているスポンサーだった。アサヒビールは10日の会見で、昨年12月29日に放送された「人志松本の酒のツマミになる話」(フジテレビ系)のスポンサーとしてCMは放送したが、社名表示は取りやめたと明らかにした。サントリーとアコムなども同様の対応をしたという。

文春が次の号でさらに追い打ちをかけた。SEX目的の女性集めは、ほかの取り巻き連中でも行われていて、「松本へのSEX上納システム」というべきものがあったと報じたのだ。

2016年6月、福岡の高級ホテル「グランドハイアット福岡」で、3人の女性たちを迎えたのは2009年M-1王者のお笑いコンビ「パンクブーブー」の黒瀬純だったという。

上階にある1泊約20万円の「グランドエグゼクティブスイートキング」で松本は、女性陣に自慢の大胸筋を触らせた後、結婚について次のような持論を展開したという。

「有名人と結婚して不倫すると嫁さんや相手の事務所にも迷惑がかかる。だから俺は素人と結婚したんや。有名人と結婚したら遊べへん。有名人と結婚する人は凄いわ」

■「訴訟のための活動休止」を表明したが…

その日のことをC子さんはこう語っている。

「キスをされ、抱き寄せられ、最後は性行為をしてきました。三十分ほどの行為の後、別々にシャワーを浴びて、リビングで五分ほど談笑しました。(松本は)黒瀬さんに連絡を入れたのか、彼らも部屋に戻ってきた。それから間もなく、黒瀬さんはチャックの付いた小さなポーチから『タクシー代』と言って、五千円を差し出してきました。

それを受け取ると、松本さんたちは『じゃあバイバイ』と。それを聞いたとき『松本さんって、いつもこんなことしてるんだ』と、心底虚しくなりました」

合意の上のようだが、松本たちの「女性を玩具のように扱う」態度は、女性たちの心を酷く傷つけたのである。

2019年10月、大阪随一のホテル、ザ・リッツ・カールトン大阪で、集めた女性たちを迎えたのは、吉本興業所属のお笑いコンビ「クロスバー直撃」渡邊センスと芸人のたむらけんじだったと文春は報じている。

大阪
写真=iStock.com/Sivakorn Panyaworakunchai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sivakorn Panyaworakunchai

文春が吉本興業に事の真偽を問う文書を送った約4時間後、吉本興業は松本の活動停止を発表したのである。

「訴訟に注力したいので、その期間は休む」と松本から申し出があったという理由だが、松本は何を争うつもりなのだろうか。

■「容認」していたのか、「性加害」と受け止めていたのか

女性たちを集め、松本に献上したといわれている「スピードワゴン」の小沢一敬は、最初は「一部週刊誌の報道にあるような、特に性行為を目的とした飲み会をセッティングした事実は一切ありません」と全面的に否定していたが、一転、所属事務所の「ホリプロコム」が、小沢から、「芸能活動を自粛したい旨の申し出があった」と発表した。

たむらけんじも日刊スポーツ(1月11日6時0分)によれば、

「たむらは飲み会については事実としつつ、性行為を目的としたものではないと主張。女性に好きな男性のタイプなどを聞いたことは認めた。(中略)被害を訴えた女性へ向けては『不快な思いをしたから、こういった話をしたんだと思う』とし、『そこに関しては謝りたい。すみませんでした』と謝罪。『何がだめだったのか、もう1度よく考えて反省すべきところは反省して次に向かいたい』と思いを語った」

というのだ。

そうであれば、彼らが松本との飲み会をセッティングしたのは間違いないようだ。

争点があるとすれば、女性たちが松本とのSEXを「容認」していたのか、「性加害」だと受け止めていたのかというところだろう。

■これを潮に「完全引退」を決めたのではないか

松本が告訴するとすれば、性行為の事実があったかどうかを争うことはできないから、文春を名誉毀損(きそん)で訴えるのだろう。そうなれば、文春側は女性たちを法廷に証人として呼び、いかに松本から性的加害を受けたかという話をさせるのではないか。

それが文春をはじめとした週刊誌やワイドショーで何度も報じられることになる。

松本は、そうしたことに耐えられるのだろうか。

また、名誉毀損裁判で松本が勝訴したとしても、テレビに復帰できるとは思えない。たとえ、これまでのようにテレビに出ても、茶の間の視聴者は、彼の言葉に素直に笑ってはくれないだろう。

明石家さんまはこの問題について、「松本の件は松本が決めたこと。子供のためが大きいような気がする」(スポーツ報知1月13日 22時43分)と話している。

これまで引退という言葉は松本の口から何度も出ているが、2023年3月に放送された「人志松本の酒のツマミになる話」の中でこう話していたという。

「しょっちゅう考えてるよ。今年還暦なんで。5年後65なのよ。娘もちょうどいい年齢になるのよ。18歳」

松本の本心は「時にあらずと声も立てず」、裁判のための活動休止ではなく、これを潮に、テレビの世界、お笑いの世界から「完全引退」する覚悟を決めた。そう私は見ている。

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元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。

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(ジャーナリスト 元木 昌彦)

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