「金曜日は午後2時に帰宅」がスタンダード…"不要なものはバッサリ"日本人には驚きのデンマーク人の人生観
プレジデントオンライン / 2024年1月26日 14時15分
※本稿は、針貝有佳『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■「人生で一番大事なことは、楽しむこと。新しい人に出会うこと」
午後4時に帰宅するのに、国際競争力が高いデンマークの人びとは、いったいどんな働き方をしているのか。「効率的な働き方」とは、いったいどんな働き方なのだろうか。
という本題に入る前に、ひとつだけ確認しておきたいことがある。
私たちは、何のために働くのか、というテーマだ。
皆さんは、何のために働いているのだろうか。仕事が好きな人も、仕事が嫌いな人も、一度立ち止まって考えてほしい。
あなたは、なぜ今日も働き、明日も働くのだろうか?
お金を稼ぐことの目的、働くことの目的を突き詰めて考えていくと、「私たちがこの人生で大切にしたいものは何か」という、ひとつの根本的な問いに辿り着く。
ここで、私がインタビューしたデンマーク人の声を聴いてみよう。人生で大切なものは何か、という質問への回答だ。
「人生で一番大事なことは、楽しむこと。新しい人に出会うこと。僕はそのために一人旅にも出る。あと、健康でいたい。自由を感じられる経済的ゆとりも必要だね。大切なのは、お金そのものではなくて、お金があるからこそ感じられる自由の方だ」(ヴィンセント・男性)
「そうね。昔は働いてばかりだったことを、今、後悔している。私はキャリアの階段を上るために、長時間、夜遅くまで働いていた。でも、もうそんな働き方はしたくない。今、子どもは大きくなって、自分が何者なのかを見極めて進路を決定する大事な時期にいる。子どもがこの家を出て行く前に、できるだけ一緒に過ごして対話したい」(カトリーネ・女性)
「最期の瞬間には、自分の人生に満足していたい。お金持ちになる必要はない。偉くなる必要もない。ただ、満足感があればいい。友人や子どもが僕の喜び。子どもが元気で、いいパートナーに出会って、嬉しそうに過ごしている姿を見るのは嬉しい」(イェンス・男性)
「人生で大事なことは、僕自身が元気でいること。健康な身体で、喜びを感じて過ごしたい。だからスポーツをしている。あと、一緒にいて気分が上がる人たちと一緒にいたい。一緒にいて憤りを感じる人や、ネガティブな気分になる人とは、一緒にいたくない。お互いの幸せを喜び合える人たちと過ごしたい」(カーステン・男性)
■「時間を忘れて」喜びを感じるひとときはいつ?
さぁ、あなたにとって大切なものは何だろう。
人生は「時間」でできている。つまり、どんな人生を生きたいかは、どんな時間を過ごしたいか、ということだ。
あなたは、どんな時間を過ごしたいのだろう。
もっと言うと、あなたが「時間を忘れて」喜びを感じるひとときとは、どんな時間だろう。誰と、どこで、何をしているときだろう。
あなたは、身体中から嬉しさが込み上げてくる瞬間、お腹の底がかっと熱くなるような瞬間を体感したことがあるだろうか。あったとしたら、それはどんな瞬間だったのだろう。何が嬉しかったのだろう。なぜ嬉しかったのだろう。
あるいは、日常生活で自分の機嫌が良いと感じるのは、どんなときだろう。機嫌が良いときは、なぜ機嫌が良いのだろう。機嫌が悪いときは、なぜ機嫌が悪いのだろう。
自分の機嫌を丁寧に見ていくと、その奧底に、自分が本当は何を大切にしたいと思っているかが見えてこないだろうか。
■「友達に会ったりする時間はほとんどない」
ところで、デンマーク人にインタビューをしていて感じたことがある。
「芯」があるのだ。
大半の人が、どんな質問も「わからない」では終わらせない。きちんと言語化しようとする。正直、インタビューに回答してくれた人たちのレベルの高さに驚いた。
インタビューをしていて、こんな人たちが集まっているから国際競争力が高いのか、と妙に納得してしまった。
自分にとって大切なものが何かをわかっている。大切なものを守るために、優先順位をハッキリつけて、優先順位の低いものはバッサリ切る。その切り方が潔くて、カッコいい。
大企業で管理職をする夫とともに3人の子育てをしながら、コペンハーゲン市のアートホールの運営統括をしている女性ヘリーネも、私がカッコいいと思った一人だ。
私の1時間にわたるインタビューには、犬の散歩をしながら応じてくれた。
最初はビデオ通話でお互いの顔を見て始まったインタビューだったが、ヘリーネは私に、インタビュー中に声さえ聞こえれば問題がないことを確認すると、サングラスをかけ、スマホのビデオカメラを切り、スマホをポケットに入れて、犬の散歩を始めた。
こうして音声のみのインタビューが始まった。
私がまず、ヘリーネに聞きたかったことは、「組織のトップとして仕事をしながら3人の子育てをするのは、大変ではないのか」という率直な疑問だった。
フリーランスという自由な働き方をしているにもかかわらず、2人の子育てで手一杯になっている私には、そんな重責を担えるとは思えないからだ。しかし、ヘリーネは軽やかにこう答えた。
「そうね。そんなことないわ。日常生活には、ゆとりがある。私はいい日々を送ってる」
■「日常生活には、ゆとりがある。私はいい日々を送ってる」
3人の子どもがいて責任ある仕事もしていて大変、という回答を想定していたので、ヘリーネの答えは拍子抜けだった。ヘリーネは続ける。
「今こうして犬の散歩をしながらあなたと話しているのも、とても贅沢なひととき。
私はきっと優先順位をつけるのが上手いの。第一優先は家族。第二優先は仕事。三番目が娯楽や、自分がしたいこと。この優先順位はいつも変わらない。
私は大好きな仕事をしているから、家族と並んで、仕事の優先順位もすごく高い。職場でいいチームに恵まれて仕事しているから、社交的な欲求はそこで満たされているのだと思う。
だから、友達に会ったりする時間はほとんどない。SNSも一切使わない。SNSを見ると、ものすごくエネルギーを消耗するから。ときどきそんな自分に罪悪感を抱くこともあるけど、でも、やっぱりそこに使う時間はないわ」
なんてカッコいいのだろう。多くの人が人付き合いやSNSに振り回されている今、彼女はSNSを見る時間はないときっぱりと言う。世間に流されない、自分の価値観を持っている。
家族を大切にして3人の子育てをし、大好きなアートの仕事でスタッフに恵まれ、組織のトップとして責任のある仕事に取り組んでいる。そして、こう言うのだ。
「日常生活には、ゆとりがある。私はいい日々を送ってる」
彼女の言葉に、あなたは何を感じるだろうか。
1時間のインタビューが終わった頃、ヘリーネは家の近くに戻ってきたようだ。スマホのビデオカメラを再びつけてサングラスを外し、「いいひとときだった。ありがとう」と、爽やかな笑顔でお別れの挨拶をしてくれた。
祝日の午前中。
彼女のおかげで、私もとても清々しい気持ちで1日を迎えた。
■時間を取り戻せ!
「テイク・バック・タイム(TAKE BACK TIME)」という名前の会社を経営しているのは、ペニーレ・ガーデ・アビルゴーだ。デンマークで週休3日を提唱し、企業やコミューン(市)に対して週休3日制の導入をサポートしている。
(もともと午後4時に帰宅する国民なのに、さらに休む必要があるのだろうか?)
興味を持った私は、ペニーレに連絡した。
SNSを通じて連絡すると、即OKしてくれたものの、「今後はSNSではなくて、メールで連絡して」とお願いされた。
この言葉に、私はペニーレ自身のSNSとの付き合い方を垣間見た気がした。
ペニーレの活動は、社名「テイク・バック・タイム(時間を取り戻せ)」そのままだ。
ペニーレに会社を立ち上げた理由を尋ねてみると、こんな回答が返ってきた。
「私たちの時間は奪われてる。色んなことに時間を奪われていながら、そのことに無自覚でいる。あっちからも、こっちからも、色んなことに意識が向けられて、振り回されてる。だから、私たちは時間を取り戻さなきゃいけない。
時間を意識的に使わないと、あっという間に年をとって死んでいくことになる。それって悲しいことじゃない? だから、時間の使い方を意識するのは、とても大事なこと」
どうだろう。今、この本を手にしているあなたは、時間を意識して使っているだろうか。
次項では、「タイパ」の話をする。
自分の時間も、相手の時間も大切にするのが、真の「タイパ(タイムパフォーマンス)」だ。
■プライベートタイムにまで「タイパ」を持ち込まない
「ヒュッゲ」という言葉を聞いたことがある人もいるかもしれない。「ヒュッゲ」とは、デンマーク語で「心地良さ」を意味する。デンマーク人が大切にしているのは「ヒュッゲなひととき」。つまり、心地良い時間である。
夏、親しい友人を自宅に招いて、太陽の光を浴びながら、ゆったりとワインを飲んで語り合う時間。家族と一緒に湖に行って、美しい景色を眺めながら泳ぐ時間。森に散歩に行く時間。芝生に寝転がって読書をする時間。
みんなで焚き火を囲んで、木の枝にくるくると巻いたパンの生地を焼く時間。冬、暖炉やロウソクの火を眺め、手作りのケーキを食べながら、おしゃべりを楽しむ時間……。
身体も心もリラックスし、大切な人と一緒にゆったりとしたひとときを過ごす。そんな時間が日常の宝物だ。
ここで何を伝えたいかというと、本当に大切なプライベートタイムにまで「タイパ」を持ち込んではいけないということだ。大切なひとときまで時間を意識していたら、せっかくの贅沢なひとときが台無しになってしまう。
そうではなくて、本当に大切なひとときを存分に満喫するために、徹底的に仕事の「タイパ」を考えるのだ。
自分が心から喜びを感じられる時間は、それ自体に価値がある。だから、喜びを感じられる時間は削ってはいけない。喜びを感じられる時間をたっぷりと確保するために、そのほかの時間を「タイパ」を意識して効率的に使うのだ。
大事なことがもうひとつ。会社の同僚も部下も取引先の人もプライベートライフを大切にできるように、お互いの「タイパ」を意識すること。
自分の大切なプライベートライフを守る。他人の大切なプライベートライフを守る。
そのための「タイパ」なのだ。
■「付き合い」はしない、させない
そんなデンマークの人びとは「仕事の付き合い」はしない。
フリータイムを大切にするデンマーク人は、同僚や部下を飲みに誘ったりしない。良かれと思って誘ったところで、あっさり断られるのがオチだろう。
もちろん、業界によって例外はある。クリエイターやメディア業界で働く人は、仕事とフリータイムの区別があまりない。趣味も、人間関係も、仕事とプライベートが混ざり合っている。こういった人たちは、勤務時間外でも交流を楽しんでいる。
ただ、彼らは純粋に交流を楽しんでいるだけであって「仕事の付き合いだから仕方なく」という理由で参加しているわけではない。
仕事は午後4時に終了で、その後はフリータイム。この認識が一般的だからこそ、午後4時以降は、きっかりとプライベートモードに切り替えられる。
お互いのプライベートを大切にするからこそ、仕事の付き合いにダラダラと時間を費やさない。
誘われないし、誘わない。ドライといえばドライに聞こえるかもしれないが、デンマーク人は基本的に「仕事よりも大切なものがある」と思っている。
自分にも上司にも同僚にも部下にも、仕事とは別の、大切なプライベートタイムがある。その認識を前提として、お互いの暮らしを守るためのマナーをわきまえている。
■金曜日は午後2時に帰宅
市の管理職を務めるハッセは、金曜日の午後のインタビュー中にこんなことを言っていた。
「今、午後2時半だけど、部下はもうみんな帰宅してる。残ってるのは僕だけだよ。部下には部下の暮らしがあるから、もちろんそれでいい。部下が僕より先に帰ることには、なんの問題も感じないよ」
これがデンマークの現実だ。午後4時どころではない。金曜日には午後2〜3時に帰宅するのがスタンダードで、オフィスは早々に閑散とする。
じつは今、私がいるシェアオフィスも金曜日の午後2時。残っているのは、私を含めてほんの数人だ。
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デンマーク文化研究家
東京・高円寺生まれ。早稲田大学大学院・社会科学研究科でデンマークの労働市場政策「フレキシキュリティ・モデル」について研究し、修士号取得。同大学・第二文学部卒。2009年12月に北欧のデンマークへ移住して、デンマーク情報の発信をスタート。首都コペンハーゲンに5年暮らした後、現在はコペンハーゲン郊外のロスキレ在住。
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(デンマーク文化研究家 針貝 有佳)
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