プライベートを守る覚悟が日本人とは全然違う…デンマーク人が"超効率的で生産性が高い"仕事ができる理由
プレジデントオンライン / 2024年1月28日 16時15分
※本稿は、針貝有佳『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■プライベートライフを守る「覚悟」をもてるか
プライベートライフを守るためには、それなりの「覚悟」が必要だ。
片っ端から真面目に仕事に取り組んでいると、やってもやっても終わらない事態が発生する。何とか切りのいいところまで片を付けようとした結果、帰宅時間が遅くなり、プライベートライフがなくなってしまう。
そんな事態を避けるために必要なこと。
それはプライベートライフを守るという「覚悟」である。
デンマークでは、仕事を理由にプライベートを犠牲にすることが常態化すれば、簡単に離婚の危機に陥ってしまう。夫婦共働きで、家事育児も夫婦で力を合わせてすることが前提になっている社会だからだ。
どちらかの仕事が忙しいときは、夫婦で話し合って調整する。その代わり、忙しい時期を乗り越えたら、その分、家族と過ごす時間をたっぷりつくる。
子どもがいる家庭の真ん中にあるのは、いつも家族みんなで過ごす時間である。その傍らで、夫婦がお互いの仕事を尊重し合い、それぞれの仕事の波に合わせて労働時間を調整する。
仕事ばかりしていると、パートナーに別れを切り出されてしまう。デンマーク人男性のなかには、じつはそんな微かなプレッシャーを感じている人もいるかもしれない。
そう思って尋ねてみたのだが、私が取材した大半の男性は、パートナーからのプレッシャーというよりも、自分自身が家族との時間を大切にしたいから早く帰宅するのだと話してくれた。
プライベートライフを守るという覚悟があるからこそ、勤務時間を最大限有効に使う覚悟が生まれる。なんとしても仕事を効率良く終わらせる方法を考えざるを得なくなるのだ。
■「午後○時までに退社する!」
デンマーク人は午後3時を過ぎると、帰宅モードに入る。女性だけでなく、男性もである。これは、ある意味、「過酷」である。少なくとも、私にはキツい。
デンマーク人が効率的に働くのは、終了時刻がキッカリと決まっているからだ。しかも、終了時刻は、午後4時。子どもの習い事などもあるので、場合によっては、午後2〜3時だ。
朝出勤して、午後2〜4時という「終わり」を意識して、1日の時間の使い方を考える。
「終わり」が決まっているから、その時間までに終わらせる方法を考える。「〆切」があるから、エンジンがかかる。
その意味では、午後2〜3時とは言わずとも、デンマーク人のように、無理やりでも、「○時に帰宅する」と決めてしまうのは、生産性を上げるための良いアイデアである。
■ランチは30分! 勤務時間中は集中
帰宅時間が早いから、ゆっくりランチをしている時間はない。基本、ランチタイムは30分である。
こんな感じのイメージだろうか。
日本人の勤務時間は午前と午後に分かれているから、その間にゆっくりランチ休憩をとってエネルギーを充電する。デンマーク人は、1日1回だけ一気に働くので、ランチ休憩は最長30分で切り上げる。その代わり、早く帰宅して、しっかり休息をとる。
味気ないように感じるかもしれないし、実際に味気ないところもあるのだが、これは「仕事モード」を崩さないためには、有効だ。
気の利いたランチの選択肢があまりに少ないことも、この傾向に拍車をかける。日本のように、安くて美味しいランチが至るところにある誘惑だらけの環境では、ランチを選ぶ必要も出てくるし、ゆっくり味わいたくなってしまう。
ちなみに、デンマーク人のランチタイムは日本よりも少し早く、11時半〜12時半頃のイメージだ。
社内に食堂がある職場も多く、ランチタイムには、職場の人とプライベートの近況報告や仕事の情報交換をする。上司も部下も関係ない。
ランチの席に役職は関係なく、ひとりの人間として、あるいは家庭のパパ・ママとして、管理職もインターンもごちゃ混ぜになってカジュアルに会話を楽しむ。
そして、30分経つと、あっさりと仕事に戻っていく。1日の仕事の「終わり」を意識して。
■午後4時までに終わらなかった仕事は夜片付ける
さて、家族との時間を過ごすために午後4時には帰宅するデンマーク人だが、じつは、隠されたカラクリがある。
ここまで読んできて、本当に午後3〜4時までにすべての仕事を片付けられるのか? それで国際競争力ナンバーワンなんて、あまりにも出来すぎではないか? と、感じられた方もいるだろう。
そうなのだ。じつは、ここがミソなのだ。
結論から言うと、本当に午後4時までにすべてを終わらせて切り上げる人もいれば、終わらなかった仕事を家に持ち帰り、夜、子どもの就寝後に1〜2時間仕事をする人もいる。
夜ではなく、早朝、家族が寝ている間に仕事をする人もいる。
なんだ、いくら効率的なデンマーク人でも、やっぱり午後4時には終われないのか。読者の皆さんをガッカリさせてしまったかもしれない。
だが、私はむしろ、だからこそ、国際競争力ナンバーワンのリアルな説得力があるし、日本人も勇気づけられるものがあると思っている。
デンマーク人は、けっこう勤勉なのだ。日本人とは少し違う意味で真面目だし、自分の役割をしっかり果たそうとする。だからこそ、どうしても終わらせなければならないと感じるタスクは家に持ち帰って、その日の夜か、翌日の早朝に終わらせる。
仕事を持ち帰るかどうかは職種によるところが大きく、現場で完結する職種の場合は、家に仕事を持ち込むことはない。だが、管理職の人はとくに、夜や早朝に1〜2時間仕事して調整している人が多い。
デンマークに駐在する日本人は、デンマーク人を決して怠け者だとは言わない。それは、午後4時には家族を優先させて帰宅するにもかかわらず、プライベートタイムをしっかり取った後、夜9時頃から深夜にかけて再びメールが活発に飛び交うからだ。
とくに管理職などの責任ある仕事をしている人は、日中にはできないタスクを夜や早朝に片付ける。
こんなデンマーク人の姿に、あなたは何を感じるだろうか。
私はその姿に、デンマーク人がプライベートライフと仕事の両方を本気で大切にしようとする責任感の強さを垣間見る。
デンマーク人が午後4時に帰宅するのは、家庭でも仕事でもきちんと自分の役割を果たそうとするからだ。
デンマーク人だって、みんながみんな午後3時や4時にすべての仕事を終えられるわけではない。それでも、家族との時間をしっかり持つために、午後4時に帰宅する。そのうえで、処理しきれなかった業務を、ファミリータイムの後に片付ける。
たしかに、責任のある管理職や自営業をしていて、本当に家族と仕事の両方を大切にしようとしたら、このルーティーンになるのかもしれない。家族だけを選ぶのではなく、仕事だけを選ぶのではなく、両方とも選ぶ。そのために、午後4時に帰宅するのだ。
■仕事は社会的責任を果たしていくことを通じた自己成長
その意味で、デンマーク人も「残業」はする。しかも、管理職や自営業の場合、残業代は無しだ。
しかし、一部の職種を除いて、一般的に、デンマーク人の残業にはそれほど悲壮感が漂っていない。それは、誰かに強制されているわけではなく、自ら選び取っているからだろう。
「夜、家で仕事をすることはある。でも、誰かに指示されているわけではない。そんなこと、強制なんてできないよ」
会社に指示されているわけではない。自分がやった方が良いと思うからやっているのだ。
インタビューでは、大半の人が、誰かに強制されているわけではなく、自分が働きたいから働いているのだと言っていた。
もちろん、ストレスフリーではないだろう。だが、彼らの言葉には「追われている感」がそれほど感じられない。「追われている感」がまったくないとは言わないが、同時に「追っている感」がある。自分が納得できるように仕事をしたいから、あるいは、翌日の仕事をスムーズにしたいから、フリータイムに仕事をして調整している。
フリータイムを使って仕事をするのは、自分の役割をきちんと果たしたいからだ。
デンマーク人にとって、仕事とは、単にお金を稼ぐ手段ではない。仕事とは、自分が関心のある分野への知識や経験を深めることであり、その役職を通じた社会貢献であり、社会的責任を果たすことである。また、社会的責任を果たしていくことを通じた自己成長である。
デンマークには、午後3〜4時に帰宅後は一切仕事しない人もいるし、夜や早朝にもう一仕事する人もいる。やりがいのある仕事、喜びを感じる仕事、使命だと思える仕事には、残業してでも立ち向かう。ただし、プライベートも同時に大切にしながら。
仕事が好きな人は、プライベートも仕事も、両方とも取ればいいのだ。あとは、バランスだ。
■「妻にも仕事をして、ありたい自分でいてほしい」
デンマーク人といえども、働く人は働く。仕事への関心と責任感の強さがそうさせるのだろう。
ハッセは管理職に就いてから長時間働くようになった。基本的にずっと仕事のことを考えていて、本当に仕事のことを忘れられるのは長期休暇のときだけだ。
休日でもスマホをチェックし、仕事の電話が来れば、電話に出る。家ではスマホを玄関に置いておくようにしているが、それでも、通るたびに気になって確認してしまう。休日も、別の活動をしながら、頭では仕事のことを考えている。
そんなハッセは、妻から働きすぎだと忠告され続けてきた。また、子どもたちが大きくなると、子どもたちからも、働きすぎだと注意された。
子どもには「自分たちや家族の生活への関心が欠けている。パパが近くにいる感じがしない」と指摘され、とても悲しくなった。子どもが反抗期を迎えた頃、ハッセは自分のライフスタイルを変えなければならないと思った。
現在ハッセは、平日は午後6時に帰宅する。夜もときどき仕事をするが、金曜日は午後4時に仕事を切り上げて、妻と一緒に過ごす。一緒に散歩することもあれば、ミュージアムやコンサートに出かけることもある。
だが、じつは、ハッセの妻も仕事が好きで、仕事をしすぎるタイプだと言う。現在は大学でコンサルタントの仕事をしている彼女もまた、ずっとフルタイムで働いてきた。
仕事人間のハッセは、妻がフルタイムで働くことについてはどう思っているのか尋ねてみた。もしかしたら、妻には家のことをしてほしいという気持ちがあるのだろうかと思って尋ねてみたのだが、まったく違う回答が返ってきた。
「僕が仕事を通じて社会貢献したいように、妻だって仕事をしたい。僕に自分が理想とする人生を追いかける権利があるのと同じように、妻にも自分が生きたいと思う人生を生きる権利がある。
だから、僕は、妻にも自分がしたいことをしてほしいと思ってる。僕は仕事をすることで、自分が好きになれる。妻にも仕事をして、ありたい自分でいてほしい」
仕事を通じた社会貢献に喜びを感じるハッセは、妻にも仕事を通じて喜びを感じられる人生を送ってほしいと願っている。
じつは、夫婦揃って仕事が大好きで2人とも働きすぎてしまうというデンマーク人は、私が取材した人たちにはけっこう多かった。だが、それで、家事育児の分担について喧嘩しているかというと、必ずしも、そうではない。
そこには、お互いの仕事へのリスペクトがある。また、自分が持っている権利と同じ権利を、パートナーも持つべきだという考えがある。
仕事はお金を稼ぐだけでなく、社会貢献を通じた自己実現でもある。パートナーにも、自分の人生を生きる権利がある。そう考えるからこその、夫婦共働きのフルタイムなのだ。
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デンマーク文化研究家
東京・高円寺生まれ。早稲田大学大学院・社会科学研究科でデンマークの労働市場政策「フレキシキュリティ・モデル」について研究し、修士号取得。同大学・第二文学部卒。2009年12月に北欧のデンマークへ移住して、デンマーク情報の発信をスタート。首都コペンハーゲンに5年暮らした後、現在はコペンハーゲン郊外のロスキレ在住。
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(デンマーク文化研究家 針貝 有佳)
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