これができないと会議がカオスになる…誰もが好きな意見を言えるデンマークの組織が破綻しない「4つの秘訣」
プレジデントオンライン / 2024年1月29日 16時15分
※本稿は、針貝有佳『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■人間関係ができれば、「仕事完了」も同然
仕事の生産性を高めるカギとなるもの。それは、上司・部下・取引先・顧客との「円滑なコミュニケーション」である。
もっとわかりやすく言えば「人間関係」である。
お互いの時間を尊重してタイパを高めるために、上司が部下をファシリテートするために、社員が自分の意見を言いやすい職場環境をつくるために、すべてにおいてカギを握っているファクター。それが「人間関係」である。
信頼に基づいて、お互いを尊重する「人間関係」があれば、自然にお互いのタイパに配慮するようになるし、適切な形で部下をファシリテートできるようになる。また、社員が安心して自分の意見を伝え合えるようになる。誠実で建設的なコミュニケーションが可能になるのだ。
逆に、「人間関係」ができていないと、疑心暗鬼になって、お互いの探り合いをすることになってしまう。不信に基づいた邪推は、負のスパイラルを生み出す。一旦そんな関係になってしまうと、何をしても、誤解が生じ、話が噛み合わず、仕事を効率良く進められなくなる。お互いに嫌な感情に呑み込まれてしまうと、ますます仕事の効率は下がる一方である。
結局のところ、仕事の生産性のカギを握っているのは「人間関係」なのである。
デンマークのメーカーで海外のセールスを担当するデニスも、人間関係がすべてであると指摘する。
「カギとなる人物と、個人的な良い関係を築くことが一番大事。それができれば、仕事はほぼ完了したようなもの」
■関心と適性を見極めてチームを編成する
円滑なコミュニケーションで会社の生産性を高くキープできるためには、適切な人材を採用する必要がある。メーカーでセールスを担当するデニスは、適切な人材とは、その職種に相応しい関心と適性を持ち合わせている人材であると指摘する。
つまり、仕事内容そのものに興味を持ち、責任感を持って仕事に取り組める人材である。
そもそも、私たちは、まったく関心がない物事については、なかなか吸収することができない。デニスはその人の仕事への関心度を測るバロメーターとして「記憶力」を挙げる。
「覚えられないってことは、関心がないってことなんだ」
この言葉を聞いて、私はちょっとドキッとした。
あなたも心当たりがないだろうか。
自分が好きなことなら自分で積極的に調べるし、忘れる方が難しいほど記憶に深く刻み込まれる。それなのに、つまらない仕事や興味のないことについては、いくら説明されても頭に入ってこないし、すぐに忘れてしまう。
記憶力から関心の度合いを測れるというのは、あながち間違いではなさそうだ。
さらに、今の時代、専門知識は必要だが、それよりも大切なのは「知識の応用力」である。
知識はネットで検索できる。大切なのは、豊富な知識よりも、知りたい情報を検索して見つけ出して、実際に使える力。やはり、関心がないと仕事は始まらない。
また、関心はあっても、仕事への適性がない人もいる。スケジュール管理や状況に合わせた適切な判断ができない人とは、一緒に仕事をするのは難しい。
デニスによれば、デンマークでは信頼をベースにしたマクロマネジメントで動けない人は難しい。自分が細かく管理しないと仕事が前に進まない場合は、部下の適性がその職種に合っていない可能性が高い。
メンバーの関心や適性を見極め、違うと思う場合は、メンバーを入れ替える。そうすることで、チームの競争力を高くキープすることができる。高い生産性を維持するためには、関心や適性に合わせたメンバーの入れ替えは必須なのだ。シビアだと感じるかもしれないが、向かない仕事をムリして続けるよりは、長期的には本人のためになる。
■多様な個性をまとめるための「必須アイテム」
ケネットは、独自のマネジメント哲学を持っている。
専門性も大切だが、採用の際には「組織にダイバーシティを生み出せるか」を意識する。
たとえば、外国人や障がい者を雇用すれば、組織に新しい視点やメソッドを取り入れられる。彼らの社会へのインクルージョンやキャリア形成のサポートにもなるし、職場には多様性を受け入れる寛容さが生まれる。
職場に寛容さが生まれれば、異質な個性を受け入れてリソースとして活かし合える職場カルチャーができる。
会社とは、ミッションを共有するメンバーが、そのミッションを果たすために「多様な個性をリソースとして活用し合う場」である。
そう考えると、メンバーは、似た者同士ではなく、異質な個性を持っていた方がいい。
デンマークの職場は基本的に「多様な個性」で成り立っている。
なぜなら、一人ひとりが役割ベースでその分野のプロとして雇われているからだ。
専門性の異なる多様な個性を持つメンバーが集まって組織が成り立っている。
しかし、多様な個性だけではバラバラでまとまりがつかなくなってしまう。会社のミッションを達成するために、多様な個性をリソースとして活用するには「あるもの」が必要だ。
「あるもの」とは何だろうか。
多様な個性を、さまざまな形をした部品だと考えてみればいい。色んな形をした部品は、それだけではバラバラの部品にすぎない。部品は他の部品と組み合わせることによってはじめて、その部品ならではの「役割」を果たすことができる。
そして、多様な部品が組み合わさった機械をスムーズに動かすためには「あるもの」が必要だ。
大きな機械を思い浮かべてみよう。歯車と歯車がピッタリと上手く噛み合い、大きな機械がスムーズに動くために必要なものは何だろうか。
それは「オイル」である。
それぞれの部品に「オイル」をさしてあげなければ、せっかく部品が組み合わさっても、ギギッと軋んだ音を立てるだけで、なかなか作動しない。作動したところで、それぞれの部品が擦れ合ってブレーキがかかり、再び機械が止まってしまうかもしれない。
「オイル」は、色んな形の部品が組み合わさった機械をスムーズに動かし、フル稼働させるための必須アイテムなのだ。
では、職場において「オイル」とは何なのか。
それは「社会性」である。
デンマークの職場において肝になるのは、じつは良好な人間関係を築くための「社会性」である。
■お互いを上手くナビゲートし合わなければ、たちまちカオスになる
形がバラバラな個性的な部品に「社会性」という共通のオイルがさされているから、部品と部品がスムーズに噛み合って高速でフル稼働できるのだ。デンマークの組織の生産性が高いのは、オイルをさした一つひとつの部品がきっちりと噛み合って連動するからである。
「デンマークの職場において『社会性』の重要性を侮ってはいけない」と指摘するのは、建築家のソーレンだ。
「デンマーク人が小さな頃からの教育で身につけてきた『社会性』は、機械を動かすオイルのようなもの」
インタビュー取材でソーレンがこう口にした瞬間、私の視界が開けるように、デンマークの組織に隠された「ヒミツ」が明らかになった。
そうだ、コレだ。「オイルとしての社会性」なのだ。
デンマークのように、ヒエラルキーのないカジュアルな人間関係がある職場は、お互いを上手くナビゲートし合わなければ、たちまちカオスになる。
上手くナビゲートできている職場では、「社会性」というオイルがさされた社員がスムーズに機械を動かしているのだ。
では、デンマークの職場で求められる「社会性」とは何なのか。
その正体を突き止めれば、デンマークの組織の生産性が高い理由がわかるのではないか。
■デンマークの職場で求められる「社会性」4つのポイント
生産性の高い職場で求められる「社会性」とは、具体的にどういったものなのだろうか。
それは私たち日本人が思い浮かべる社会性とはちょっと質が異なる「社会性」である。
それは決して、他人に合わせることではない。
ここに生産性の高いデンマークの職場にあるデンマーク式の「社会性」の4つのポイントをまとめる。
第一には、解決志向で、誠実に率直にコミュニケーションをする力だ。
デンマーク人は、何でもストレートに話をする。我慢を美徳とはせず、何か気になることがあれば、課題として取り上げ、解決策を提案する。「臭い物に蓋をしない」カルチャーなのだ。
問題があれば、オープンに問題を共有し、解決策を模索する。
何か疑問を感じたら、ストレートに質問をする。意見があれば、率直に伝える。
社会性のまずひとつめは、解決志向の率直なコミュニケーションだ。
ストレートに意見を言い合う環境で、疑問や反対意見をいちいち個人的に受けとめていたら気がもたない。
デンマーク人がストレートに疑問や意見を伝えるのは、決して、悪意からではない。相手を傷つけようとする気持ちはない。
むしろ、相手を信頼し、一緒に問題に対峙(たいじ)して解決策を見つけられると思っているからこそ、率直に疑問や意見を伝えるのである。
そこで重要なのが、率直に疑問や意見を伝えられたときに「個人的に受けとめないチカラ」だ。
批判しているのは仕事の仕方であって、その人の存在ではない。相手が否定しているのは、自分の意見であって、自分の存在ではない。
何か批判をされたときに、課題と自分を分離して捉える必要がある。
自分の疑問や意見を相手に伝えるときも同様である。
反対意見を述べることと、相手の存在を否定することは別である。相手を尊重しながら、反対意見を述べることもできる。相手を尊重しながら、仕事の仕方に疑問を投げかけることもできる。
自分の意見を伝えるときも、他人の意見を聞くときも、「それはそれ、これはこれ」。自分という存在と切り離して捉える必要がある。
意見の相違を伝え合うことは、お互いの存在を否定し合うことにはならない。
意見が違うからといって、批判されたからといって、相手を否定する必要はないし、自分を否定する必要もない。
問題解決志向になって、問題と自分を切り離し、批判を「個人的に受けとめないチカラ」を身につければ、誠実で率直なコミュニケーションが可能になる。
■自分の意見も伝えるし、相手の意見も聞く
では、なんでも言える環境があるからといって、お互いにどんなことにも意見を言い合っていたら、どうなるだろうか。細かいことについてもいちいち意見を言い合っていたら、なかなかスムーズに物事が進まないのは、想像に難くない。
だから「戦場を選ぶ」のだ。
細かいことは気にしない。すべてにこだわる必要はない。
自分にとってそれほど重要ではないことについては「戦いから降りる」のだ。
細かいことにこだわって頑張れば、その部分で多少成果は出るかもしれない。だが、それ以上にお互いのエネルギーの浪費になってしまう可能性がある。
だから、それほど重要ではないほとんどのことについては、妥協して折り合いをつける「妥協するチカラ」が必要になってくる。
もちろん、妥協ばかりでもいけない。
自分のコアな部分に関わる重要なことに関しては、立ち上がって戦う。自分のコアな部分に関わる重要なことについては、自分の意見をハッキリと伝えるのだ。
いざというとき、自分がどうしても妥協できない重大な局面では、立ち上がらなければならない。そこでは、誠実に、率直に、自分の意見を伝えるのだ。
立場に関わらず、みんなが平等に自分の意見を述べる権利がある。
デンマークの職場はヒエラルキーがなくカジュアルだが、みんなが平等に自分の意見を述べられるようにしなければならないという「民主的なルール」がある。
いつ誰が話すのか。自分の番はいつか。自分が話したら、次は他の人にバトンを渡す。みんなが意見を言えるように、守るべきマナーを守る。
誰でも対等に意見を言えるカジュアルなカルチャーがカオスにならないのは、みんなが自分の意見を伝えつつ、それぞれの人の話に対等に耳を傾けるという基本的な姿勢があるからだ。その姿勢があるから、意見の相違を受け入れ、解決志向で穏やかに議論を進めることができる。
自分の意見を伝える。他人の意見も聞く。自分を犠牲にして他人に同調するわけでもなく、他人を差し置いて自分が前に出るわけでもない。競い合うのではなく、お互いを尊重して耳を傾ける。
自分の意見に耳を傾けてくれる信頼できる上司・同僚・部下に囲まれていることは、心身ともに健康に働くうえで、とても大切なことだ。
デンマークの職場では、自分の意見も伝えるし、相手の意見も聞く。そのうえで問題があれば、対話によって妥協点と解決策を模索する。
■「適材適所」×「社会性」が最強!
ここで、今まで述べてきたデンマークの組織の強みを簡単に整理しよう。きっと、日本の組織にも応用できるはずだ。
第一に、重要なのは「適材適所」である。
デンマークはジョブ型雇用なので、会社に入社するというよりは、特定の「役職」を担うというイメージだ。もともとその分野の知識があり、仕事内容に関心がある人が応募してくるため、採用の段階から「適材適所」になっている可能性が高い。希望していない部署に配属されることは基本的にはない。
つまり、ひとりの社員は、最初から特定の役割に特化して採用された人材なのである。ひとりの社員がマルチな才能を発揮する必要はない。特定の部品として、ほかの部品と組み合わさることによって、組織における「役割」を果たせればそれでいい。
そこで、第二に重要になるのが「社会性(オイル)」である。
②個人的に受けとめないチカラ
③「戦場」を選ぶ意思──コアな部分以外では妥協するチカラ
④デモクラシーのマナー──みんなの意見を平等に聞く
この4つの「社会性」を兼ね備えることで、人間関係が円滑になり、コミュニケーションがグッとスムーズになる。
「適材適所」×「社会性(オイル)」が組織の高いパフォーマンスを引き出すのだ。
■最高のパフォーマンスは、「いいエネルギーの循環」から生まれる
最後に、ここまでの総括をしたい。
なぜデンマークは国際競争力ナンバーワンなのか。
それは、「社会性」というオイルを兼ね備えた各メンバーが、個性と関心に合った「適材適所」の役割を担い、全力でフル稼働しているからだ。
そこには「ムリ」がない。
適材適所の役割を担っているから、チーム内のメンバーが、お互いにムリせずに働ける。
ジョブ型雇用で各自が適材適所の役割を担うことによって、チーム内に役割分担としての「ムリのない関係」が生まれる。そして、ムリのない関係があるからこそ、お互いにいいエネルギーをキープして仕事に取り組める。
ムリしない、ムリさせない。
自分もムリしない、他人にもムリさせない。
適材適所のみならず、デンマークの組織は「ムリしない、ムリさせない関係」で成り立っている。
たとえば、こんな感じだ。
・自分も休むから、みんなも休んでほしい。
・自分も好みの服装で仕事をするから、みんなも好みの服装で仕事をしてほしい。
・自分もやりやすい方法で仕事をするから、みんなもやりやすい方法で仕事をしてほしい。
・自分も失敗するかもしれないから、みんなの失敗も受け入れよう。
・自分も率直に意見を言うから、みんなにも率直に意見を言ってほしい。
・自分もムリはしないから、みんなにもムリをしないでほしい。
どうだろう。デンマークの組織は「ムリしない、ムリさせない人間関係」で成り立っていると言えないだろうか。
ムリしない、ムリさせない。
これは、お互いにラクな方に合わせた「平等」だ。
つまり、「自分もムリするから、みんなにもムリしてほしい。自分も我慢するから、みんなにも我慢してほしい」という下方修正の平等ではない。
そうではなく「自分もムリしないから、みんなにもムリしないでほしい。自分も我慢しないから、みんなにも我慢しないでほしい」というお互いにラクな方を向いた「上方修正の平等」なのだ。
ムリしない、ムリさせない。
こうして、自分にも、組織のメンバーにも、ムリを強いないことで、いいエネルギーの流れをキープできる。
メンバー一人ひとりがお互いのいいエネルギーをキープして、内側から湧き出る情熱に突き動かされて仕事に取り組むことで、いいエネルギーが循環し、最高のパフォーマンスを発揮できるのだ。
だから、自分もムリしないし、他人にもムリさせないようにしよう。
「ムリしない、ムリさせない人間関係」から、いいエネルギーの循環が生まれ、最高のパフォーマンスが生まれるのだ。
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デンマーク文化研究家
東京・高円寺生まれ。早稲田大学大学院・社会科学研究科でデンマークの労働市場政策「フレキシキュリティ・モデル」について研究し、修士号取得。同大学・第二文学部卒。2009年12月に北欧のデンマークへ移住して、デンマーク情報の発信をスタート。首都コペンハーゲンに5年暮らした後、現在はコペンハーゲン郊外のロスキレ在住。
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(デンマーク文化研究家 針貝 有佳)
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