3位は「おんな城主 直虎」、2位は「真田丸」、1位は…平成令和の「NHK大河ドラマ」ランキングベスト5
プレジデントオンライン / 2024年1月21日 11時15分
■独断と偏見だけでランキングを作成
新年早々、約10年の大河ドラマを振り返る暴挙。
日々つけているドラマ視聴ノートを読み返すと、2パターンに分かれることに気づく。ひとつは、途中でメモすることを諦め、面白くない……と書いてある「断念型」。もうひとつは最終話まで欠かさず無駄にメモをとり続けた「熱中型」。すっかり忘却の彼方だったが、意外と好きな作品もあって自分でも驚いた。
今回は21項目を設けて点数をつけた。項目でベスト1には倍の加点を。今年もやるよ、独断と偏見しかない大河ベスト5。
■ドラマを盛り上げた「コンプレックスの妙」
5位 暴君にも帝にも「モノ申す&空気読む」の明智光秀が新しかった
「麒麟がくる」(2020年) 130点
エリカがアレでわやだったり、麒麟がくる前にコロナがきちゃって、明智光秀の呪いとまで言われたが、懐かしくて新しくて美しくて哀しい、形容詞が羅列できるくらい面白かった。
勇猛果敢でも華麗でもない、深謀遠慮の明智を演じたのは長谷川博己。主君・斎藤道三(本木雅弘)から審美眼や大局観を学び、若き暴君・織田信長(染谷将太)に仕え、人間の本性を見定める難しさを見事に体現。庶民にも主君にも武将にも帝にも、そして女にも好かれちゃう“人たらし感”は適役だった。
また「兄弟コンプレックスの妙」は高く評価したい。明智の幼馴染・斎藤高政(伊藤英明)は優秀な弟たちとは異なり、不出来かつ嘘つき。謀って弟たちを殺しただけでなく、父・道三の命も奪う。
信長も同様、母に溺愛される弟・信勝(木村了)を殺害した話は有名だが、もうひとり、比叡山僧侶で帝の弟・寛如(春風亭小朝)の容貌コンプレックスも根深くて、妙に印象に残っている。きょうだいの美しさや聡明(そうめい)さに嫉妬し、承認欲求が歪んで「化け物」になってしまう悲しさ。
人間関係の接着剤となった架空の女たち(門脇麦&尾野真千子)の存在がご都合主義と言われるかもしれないが、これはこれでグッジョブ。
■大河史上最も攻めた内容
4位 超絶話芸・落語と物語の協奏・五輪の裏話暴露には快哉(かいさい)を叫んだ
「いだてん」(2019年) 190点
観る側にも演じる側にも脱落者が多く、総じて袋叩きだったが、現代の汚れた五輪ビジネスとは異なる「スポーツに対する純粋で厄介な熱情」を描いた超大作でもある。
主要人物の多さ、展開の複雑な交錯が敬遠されたようだが、中村勘九郎・森山未來・阿部サダヲが汗(走る)と唾(しゃべる)の躍動感で魅了した、私を。いや、主役級だけではない。目を閉じても大勢のキャストが脳内で蘇(よみがえ)る。
黒島結菜や北香那のおしゃんな女子学生っぷり、寺島しのぶと菅原小春と杉咲花と仲野太賀がこぞって涙腺を刺激してくる。なんかわからんけどモップ持ってきた佐藤真弓に膝を打ち、右往左往する松重豊や松坂桃李に失笑。憎たらしい千葉哲也や浅野忠信の表情も忘れないし、勝地涼や古舘寛治が時々ちらちら視界に入ってきやがって、役所広司に至っては霊障として映り込む。脳内は騒々しいことに。
特筆すべきをまとめちゃうが、「落語と物語の絶妙な協奏」「1番にならない人をより鮮明に」「時代劇という許容範囲の中で最大限の差別的描写や毒舌揶揄(やゆ)」「スポーツを悪用する政治家や軍部への強烈な皮肉」「NHKの出自」……大河史上最も攻めた内容だ。4年に一度、五輪のたびに再放送してもいいと思うのよね。
■惜しくもランク外になった「どうする家康」
圏外についてもちょっとだけ触れておこう。
6位「どうする家康」(2023年)120点、7位「西郷どん」(2018年)100点、8位「軍師官兵衛」(2014年)80点、9位「青天を衝け」(2021年)50点、10位「花燃ゆ」(2015年)・「八重の桜」(2013年)同点40点。
見どころはあったはずだが、ほぼ「断念型」だ。中盤から後半で急速に興味を失い、最終話だけは確認した作品も多いため、多くを語ってはいけない。
「どうする家康」の点数が予想以上に高いのは記憶が新しいこと、「道化・救世主」項目で山田孝之と松本まりかの奮闘を評価したから、かな。
■これは脚本の勝利といえる作品
3位 理不尽&辛酸の第一部、愛と犠牲の第二部、お家継承の第三部、ずっと熱中
「おんな城主 直虎」(2017年) 210点
諸説ある人物・井伊直虎が主役でしかも尼。ヒロイン大河の多くが苦戦する中、柴咲コウが演じた直虎(おとわ)は記憶に残る名演だった。ほぼ頭巾姿の単純美にキャラクターとしての芯の強さ、なんつっても読経が美声で聞き惚れた。女を捨て、愛する人を失い、井伊家と井伊谷の民を守り抜いた姿は神々しかった。
今川家に虐め倒される井伊家が妙案と奇策で耐える第一部、家臣や朋輩と結束してビジネスモードで井伊谷を盛り上げるも、新たな覇権争いに巻き込まれる第二部、そして直系嫡男の奮闘を描く第三部。
タイトルは名作・名画・話題作のタイトルをもじった制作陣の遊び心で、物語が見事に融合。井伊家を支え続けたトリッキー侍女のうめ・たけ・まつ(梅沢昌代が三役)に、「つづく」の一言を多彩に表現したナレーションの中村梅雀など、細部も含めて最後まで飽きさせず。
徹底した偽悪と密かな思慕で井伊家への忠誠を貫いた小野政次(高橋一生)の最期は号泣の名場面だったし、彼の本質を誰よりも理解して支えた兄嫁のなつ(山口紗弥加)の心情描写も切なかった。
天下をとるために虎視眈々(たんたん)と風を読む徳川家康(阿部サダヲ)と、猛烈な負けん気で草履番から小姓へと出世し、井伊家を継承した井伊直政(菅田将暉)の蜜月も愛おしかった。
数字の上では3位だが、「恋・情・義」を茶化さずコミカルにもせず、真剣に切なく狂おしく描いた大河という意味ではナンバーワンである。森下佳子脚本の勝利。
さあ、もうおわかりでさぁね、トップのワンツーは。以前「三谷幸喜大河の魅力」も書いたし。やっぱ面白いもの。
■やっぱ三谷大河は面白い
2位 だまし討ちに小芝居、劇団真田の一族が繰り広げるサバイバル処世術
「真田丸」(2016年) 220点
食えない人物があの手この手で小芝居をうち、戦国の世を泳ぎ渡る。その小賢しさと痛快さ。
劇団真田の一族、団長は父・真田昌幸(草刈正雄)。その図々しさや適当さ、風を読みとる狡猾さに振り回されるのが、長男・信幸(大泉洋)と次男で主人公の信繁(堺雅人)。
兄弟が互いに慮(おもんぱか)っているのに、父・草刈の「もらえるものは病気以外もらっとけ!」という台詞が象徴したように、父ちゃんがまあ食えない。
筋金入りのほら吹きは、祖母(草笛光子)も、公家の娘と詐称していた母(高畑淳子)も同様。そんな真田家に生まれた兄弟の困惑顔が今でも目に浮かぶ。
また、劇団を支えた女優陣にも拍手喝采を。信幸の、妻から下女に降格されるも健気かつ逞しくなるおこう(長野里美)と、政略結婚で不満を抱えて真田家に嫁いできた稲(吉田羊)の最終的な連係には膝を打った。
ヒロインといえば、余計な一言で場の空気を凍らせ、信繁の尻を叩いたり背中を押したりする幼馴染・きり(長澤まさみ)ね。イラっとしつつも、最終話で思いが報われて安心した。
信長(吉田鋼太郎)は瞬殺、秀吉(小日向文世)は残虐で矮小(わいしょう)、コンプレックスの塊、家康(内野聖陽)はビビりの割にオスとしては自信過剰。石田三成(山本耕史)はまったく人望がないし、伊達政宗(長谷川朝晴)には田舎生まれを愚痴らせる。
武将を雄々しく描かないことで、人間臭さを濃縮還元させる一方、農民や庶民の本音を随時&適宜すくいとって、戦の馬鹿馬鹿しさや権力闘争の無意味さを言霊にのせる。そこに良心と矜持を感じるわけで。
■心を打たれた鎌倉武士たちの「死に様」
さて、1位の前にふと気になって調べたのは今回のベスト5作品で最多出演の俳優。
3作品に出演したのは片岡愛之助、野添義弘、前原滉、横田栄司、春海四方、芹澤興人そして杉本哲太だった。名作を支える名優たちを密かに称えておこう。
1位 生々しい愚かさ、失笑と鳥肌のバランス、主人公の変貌、すべてが優勝
「鎌倉殿の13人」(2022年) 260点
北条さんちの凄絶(せいぜつ)な悲劇に、最初から最期まで虜だった。
牧歌的で平和主義、出世欲も皆無だった一人の青年・北条義時が残虐非道な粛清の政治を経験し、人の心を失いながら上り詰めていく。
主演の小栗旬が全48話で驚きの変貌を遂げ、最終話で見事な死に様を魅せた。人それぞれの名場面があると思うが、姉・北条政子(小池栄子)に見下ろされて絶命した最終話を上げる人も多いのではないか。
私の好きな場面は、サザエさん式にまとめるなら「広常、畳の上で無念の粛清」「政子、後妻打ちで矜持を知る」「全成、安請け合いで非業の死」かな。
上総広常を演じたのは佐藤浩市。「武衛」の意味を知らず、字も超下手(一所懸命練習する姿が哀しい)。浅学だが人望は厚く情も深い。クセのある豪族を統率する力もあり、脅威と判断した源頼朝(大泉洋)が見せしめに粛清。武衛が頼朝の尊称と知らぬまま、皆の前で斬殺される。広常の無念の死は、義時が人の心を失うターニングポイントでもあり。
■「光る君へ」の面白さはこれから
ふたつめは、仕組まれた「後妻打ち」を機に、頼朝の正妻が妾と対峙(たいじ)する場面。漁師の妻だったが夫をさっさと捨て、頼朝の妾となった亀(江口のりこ)は、野卑で強欲と思いきや! 時の権力者に添うために教養を身に付け、想像を超える努力をしていたことがわかる。
正妻・政子もお人好しというか素直で、喧嘩するどころか亀に教えを乞う。御台所から尼将軍へと、意に反して上り詰めてしまった北条政子の基礎がここにあったと思う。
最後は、義時の妹(宮澤エマ)の夫・阿野全成(新納慎也)の理不尽な死。NOと言えない心優しい全成があれよあれよと追い込まれて、非業の死を迎える。しかも義父母(坂東彌十郎・宮沢りえ)の企みのせいで! 呪術も占いも外れっぱなしの禅師が、絶命寸前に奇跡を起こすという皮肉もまた悲しくて号泣した記憶が。
今月始まった「光る君へ」は、ちょい遡って平安時代中期。まひろ(紫式部)と三郎(藤原道長)の因縁と運命の出会いが描かれ、仕掛けは上々。
初回は最低視聴率と報道されたが、千年たっても変わらない人間の生臭さを大石静が描ききるはず。「平安時代のセックス&バイオレンスを描きたい」と語ったようなので期待している。
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ライター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。
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(ライター 吉田 潮)
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