「幸福度の50%は遺伝、10%は環境で決まる」では残り40%は…心理学の研究が明かす驚きの"幸福度の円グラフ"
プレジデントオンライン / 2024年1月23日 8時15分
※本稿は、ソニア・リュボミアスキー『新装版 幸せがずっと続く12の行動習慣』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
■「ポジティブ心理学」の研究者と話し合ってわかったこと
2001年1月、私はメキシコにある「アクマル」という、カンクンから車で2時間ほどの静かで美しいリゾート地へ旅しました。そこは暖かなそよ風が吹く場所で、「パラパ」と呼ばれるヤシ葺き屋根の小屋に6人ほどが集まりました。「ポジティブ心理学」という、当時はまだかたちになり始めたばかりの分野の研究者たちが、お互いの発見を共有し、アイデアを出し合うためです。
このアクマルで交わしたいくつかの会話は、私の仕事のかたちや方向性に大きな変化を与えるきっかけとなりました。その1つに、同僚の教授であるケン・シェルダンとデイヴィッド・シュケイドと交わした会話もあります。
私は旅の前に彼らを含む研究者たちにEメールを送り、「人々が幸福を追求するさまざまな方法を分類した論文を執筆することについて話し合いたい」と伝えていました。けれども、いざ話し合ってみると、このテーマに関する実証的な研究がほとんど存在しないことに私たちはたちまち気づいたのです。
■大半の心理学者は「ずっと続く幸せなんてない」と思っていた
より幸福になるために人々がどんな方法を用いているかを、ほとんどの研究者は知りません。さらに、大半の心理学者は「ずっと続く幸せ(持続的幸福)」という概念そのものに対して悲観的だということがわかりました。
当時、学界が関心を寄せていたのは2つの発見でした。1つ目は、幸福は遺伝するもので、人の一生を通じてほとんど変化しないこと。2つ目は、人生におけるどんなポジティブな変化に対してもいずれ慣れてしまう、驚くべき能力を人は備えていることでした。そのような理論からすれば、人は「ずっと続く幸せ」を手にすることはできない、ということになります。
どんなに幸せを感じようと、それは一時的なもので、長期的に見れば、もともとの状態、いわばそれなりに満足できる状態に戻らざるをえないというわけです。
■「幸福」を決める要素は円グラフで表せる
同僚の研究者であるケンとデイヴィッド、そして私は「ずっと続く幸せなんてありえない」という結論には懐疑的でした。
そこで、私たちはその説がまったく見当違いであることを証明しようと決心しました。数年にわたって私たちは研究を続け、なんとその結果、「ほんとうの幸せ」を発見することができたのです。さらに、幸福を決定づける最も重要な要素も特定できました。それは図表1のようにシンプルな円グラフとして表わすことができます。
この円グラフを十分に理解していただくために、「100人の観客で満員になった映画館」を想像してみてください。この映画館にいる100人それぞれが、あらゆる幸福度を体現しています。つまり、とても幸せな人もいれば、まあまあ幸せな人もいて、ひどく不幸な人もいるわけです。円グラフの右下の部分は、意外にも、人それぞれの幸福度の違いのうち50%程度が、遺伝で決定づけられた設定値に起因することを示しています。この発見は、一卵性双生児と二卵性双生児に関する研究から生まれたものです。その研究によって、次のような結論が導かれました。
■幸福度の50%は遺伝である
人はそれぞれ特定の幸福度の設定値をもって生まれてきます。その設定値は生物学上の母親か父親、あるいは両方の親から受け継いだものです。それは幸福の基準になるもの、または幸福になれる可能性であって、たとえ大きな挫折を経験したり、または大成功を収めたりしたあとでも、人はその基準点(設定値)に戻っていきます。
つまり、もしも魔法の杖があって、映画館にいた100人全員を遺伝的な「クローン」(または一卵性双生児)に変えられたとしたら、遺伝による設定値分の50%は同じレベルの幸福度ですが、それ以外の部分で彼らの幸福度には違いがあるということです。
これは体重の設定値と似ています。たとえば、ほっそりとやせている恵まれた状態の人は、何もしなくても楽々と体重を維持できます。その一方で、望ましいレベルに体重を維持するためには途方もない努力をしなければならない人もいます。ほんの少しでも気をゆるめたとたん、体重がもとに戻ってしまうのです。幸福度の設定値にもこれと同様のことがいえます。
■生活環境や状況は幸福度の10%程度に過ぎない
では、この研究で明らかになったことは、幸福になるためにどんな意味をもつのでしょうか? それは、知性やコレステロールにおける遺伝子と同じように、人が生まれつきもっている設定値の大きさ――つまり、高い(7段階中で6)か、低い(7段階中で2)か、中程度(7段階中で4)か――が、人生を通じてどれくらい幸せなのかを決定するということです。
そしておそらく、最も意外に思われるであろう結論をこの円グラフは示しています。「裕福か、貧乏か」「健康か、病気がちか」「器量がいいか、人並みか」「既婚者か、離婚経験者か」などの生活環境や状況による違いは、幸福度のわずか10%程度しか占めない、ということを。
魔法によって、例の映画館にいた100人全員を同じ環境(同じ家に住み、同じ配偶者をもち、同じ場所で生まれ、同じ顔をして、同じ痛みを感じる)においてみた、という状況をイメージしてみてください。そのような状況だと、その後に変化があったとしても、彼らの幸福度はせいぜい10%分しか違ってこないのです。
この結論にはしっかりとした科学的な根拠があります。とてもよく知られた研究結果で、「年収1000万ドル以上のとりわけ裕福なアメリカ人の幸福度は、彼らが雇っている労働者の幸福度と比べて、やや上にすぎなかった」ということが報告されています。
■結婚が幸福度に与える影響
また、既婚者は独身者よりも幸せだと一般的には思われるかもしれません。しかし、個人の幸福度に結婚が与える影響はじつのところかなり小さなものだ、ということもこの結論からわかっています。これは別のデータも物語っています。
10カ国で調べたところ、既婚者の25%と独身者の21%が、自分は「とても幸福だ」と述べているそうです。このような収入や配偶者の有無など「環境の要因」が、じつは幸福度の決定にはあまり影響しないという発見に、驚く人はかなり多いでしょう。
幸福度に影響を与える要素として、富や美しさ、健康などは影響が小さいものだとは、なかなか信じられないかもしれません。けれども、これにも強力な研究結果があります。その研究結果について、のちほど興味深い説明をいくつかしていきます。まずは「生活環境は幸福になるための最大の鍵ではない」ということが真実だと受け入れられれば、幸福を追い求める力はより大きくなるのです。
■可能性は40%の「意図的な行動」にある
ここで、またさきほどの円グラフに戻ってみましょう。例の映画館にいた100人全員が一卵性双生児で、誰もがそっくり同じ生活環境にあったとしても、幸福度にはなおも違いがあるでしょうか? その質問には、次のように答えられます。「遺伝的に決定される性格や生活面でのさまざまな環境を考慮に入れても、幸福度における40%の違いがまだ残る」と。では、この「40%」をつくりあげているものとは何でしょうか?
遺伝子や、環境のほかに、重要なものが1つ残っています。それは私たちの「行動」です。つまり、幸福になるための最大の鍵は「私たちの日々の意図的な行動」にあるのです。遺伝子の性質を変えること(不可能ですが)にあるのではなく、「環境を変えること」(つまり、富や魅力、もっといい同僚を求めること)にあるのでもないのです。それを頭に入れると、あの円グラフが表わしているのは、幸福度が高まるために、私たちが40%ならコントロールできるということです。その40%とは、日常生活での行動や考え方を通して幸福度が高まる余地やチャンスがたくさんあるという意味でもあるのです。
これはじつに素晴らしい情報です。つまり、とても幸せになっている人々が自然にどんな行動をとり、どんな考え方をしているかを注意深く調べれば、誰もがいまよりずっと幸せになれるのです。
■幸福な人の考え方や行動パターン
これまで誰も踏み込んでこなかった幸福度が高まるための潜在的な可能性こそ、私が研究の大半を捧げてきたものです。「非常に幸福な人々」と「不幸な人々」を系統的に観察し、比較し、実験を行なってきました。次にあげるのは、私たちが観察したなかで、「最も幸福な人々の考え方や行動パターン」です。
・かなりの時間を家族や友人とすごし、その人間関係を大切にして楽しんでいる
・誰に対しても感謝を表わすことが苦にならない
・同僚や通りすがりの人にまっ先に支援の手を差し伸べる場合が多い
・未来を考えるときは、いつも楽天的である
・人生の喜びを満喫し、現在に生きようとしている
・毎週、または毎日のように身体を動かすことを習慣としている
・生涯にわたる目標や夢(たとえば、世の中の不正行為と闘うこと、自分が強く信じている価値観をわが子に教えること、戸棚をつくることなど)に、全力を傾けている
・最後に、これは重要な点として、最も幸福な人々にも、当然、ストレスや災難はあるし、悲劇さえ起こり得るのです。普通の人と同様に、つらい環境におかれると落ち込み、感情的になるでしょう。しかし、彼らの秘密兵器は「困難に直面したときに対処する考え方や強さ」にあります。
■できそうな方法を1つ試してみればよい
この「最も幸福な人々の考え方や行動パターン」については、「自分は、ふだんできていない……」「できそうもない……」と腰が引けてしまうかもしれません。でも、ここにあげたすべてを実行しようとする必要はないのです。何もかもできる人などいませんし、大部分をやり遂げられる人もまれでしょう。
まず、いまの自分に役立ちそうな方法を1つ(できれば2つか3つ)選びだすことから始めましょう。それだけであなたは今日からとても効果的な方法を手にし、自分の人生をコントロールでき、幸福度によい影響を与えることができるはずです。
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米国カリフォルニア大学リバーサイド校の心理学教授。社会心理学とポジティブ心理学のコースで教鞭をとっている。ロシア生まれ。ハーバード大学で学士号を取り、スタンフォード大学で博士号を取得した。2002年度のテンプルトン・ポジティブ心理学賞などさまざまな賞を受賞している。また、現在は『ポジティブ心理学ジャーナル』の編集に携わり、米国国立精神衛生研究所から数年にわたって助成金を受けて、「永遠に続く幸福の可能性」について研究を続けている。テレビやラジオの番組にも多く出演し、多数の講演も行なっている。家族とともにカリフォルニア州のサンタモニカに在住。
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(心理学教授 ソニア・リュボミアスキー)
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