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3000万インプでも収益は1万円…まったく儲からないのにSNSに「デマ投稿」を繰り返す人たちの精神構造

プレジデントオンライン / 2024年1月24日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ViewApart

元日に起きた能登半島地震直後から、X(旧Twitter)では多数のデマがみられた。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「Xの仕様変更によって、インプレッションを稼ぐ目的のユーザーが増えている。それに加えて承認欲求を満たしたいだけの愉快犯もいるので、根絶することは難しいだろう」という――。

■バズった投稿をパクる外国人ユーザーたち

Xで「津波到達になった瞬間NHKのアナウンサーがすごい怒鳴ってる! 危機感の伝わってくるアナウンスなので北陸新潟能登半島の方逃げてください」と調べると、200件以上の投稿が見つかる。

最初の投稿は、地震発生直後の1月1日16時17分に投稿されており、320以上のリプライ(反応)、5600以上のリポスト(拡散)、3万3000以上の「いいね」がつけられている。この投稿には、「急いで逃げて!」「これくらい強い口調にしないと伝わらない」などの日本人ユーザーからのリプライが並ぶ。

ところが、途中から、外国人ユーザーによるリプライが増えてくる。あるアラビア語圏ユーザーは、この投稿にリプライする形で本文をコピペ投稿。さらに、他のユーザーからの日本語のリプライもコピペ投稿している。その後もリプライの中には、さまざまな外国人ユーザーからのコピペ投稿や無関係な投稿が増えていく。

他のコピペ投稿を調べると、その多くには動画も付けられている。ただし内容はコピペを繰り返す中で変わっており、テキストとはあまり関係のない土砂崩れ動画や商品が崩れ落ちた店内などのこともある。

外国人ユーザーによるコピペ投稿の一例。土砂崩れ動画がついている
外国人ユーザーによるコピペ投稿の一例。土砂崩れ動画がついている(筆者提供)

車を押し流す黒い大津波動画もあるが、これは東日本大震災時に撮影した動画の転用とみられる。つまりこのほとんどが、日本語がわからない外国人ユーザーが、バズった投稿をコピペしてインプレッション目的で投稿したと考えられるのだ。

津波の動画を付けてコピペ投稿する別の外国人ユーザー
津波の動画を付けてコピペ投稿する別の外国人ユーザー(筆者提供)

インプレッションとは、Xへのポスト(投稿)が他のユーザーのタイムラインに表示された回数のこと。今回の能登半島地震では、こうした「インプレッション稼ぎ」の投稿がリアルの世界に悪影響をもたらしている。

■救助要請コピペで被災地は大混乱

「母親と娘が下敷きになっています。誰か助けてください」という旨の石川県の住所を付けた救助要請投稿は、2000万以上のインプレッションとなっている。通報が殺到した結果、無事に救助されたようだ。しかし、これも外国人ユーザーたちが自分の投稿としてコピペ投稿を繰り返した。中には、日本人ユーザーも混じっている。

「生き埋め助けて 妻だけでも」――。石川県の住所からポストされたこの投稿は、電話がつながらない中、救助を求めて必死に投稿されたものだ。その後、助かるまでの様子や現状などの報告もされており、非常に生々しく痛々しい。この投稿でさえも、コピペして自分の投稿としてポストするユーザーがいる。

救助要請をコピペ投稿していたある日本人ユーザーは、他のユーザーから責められて、「住所はそのままポストしているのだから問題ないはず。むしろ役に立ったのでは」と言い訳をしていた。

しかし、このようなポストは救助後も拡散され続け、複数のユーザーから同じ通報が寄せられ続けることにもなる。通報が来たら警察や消防も対応しないわけにはいかず、限られたリソースが本当に救助が必要な人のもとに届かない原因にもなってしまう。

■有名人のアカウントは「混沌状態」に

意味のないリプライが急増した背景には、2023年7月に開始したXでの収益化プログラムの影響が大きいと言われている。Xでは、フォロワー数500人以上、3カ月以内のインプレッション数が500万件以上などの条件を満たすと、広告利益の一部を得られるようになった。

その直後から、フォロワーが多い著名人のアカウントに外国人ユーザーが集まるようになった。たとえば、フォロワー数770万人超の有吉弘行氏は、2023年9月に「コメント欄は謎の外国人で荒れています。ブロックはあきらめました。混沌(こんとん)状態をお楽しみください。」と投稿している。

外国人ユーザーたちは投稿と無関係なリプライを付けており、有吉氏の熱心なファンというわけでもなさそうだ。意味のない英文コメントや絵文字などを連投したり、宣伝を投稿したり、日本人ユーザーのリプライをコピペ投稿している例もある。プログラムで自動投稿している例も多いようだ。

インプレッションを稼ぎたい外国人ユーザーたちが、人目につこうとフォロワー数の多いユーザーや投稿にリプライを繰り返すことで、荒れた状態となっていたというわけだ。

■東日本大震災から続く災害時のデマ

災害時は、電話は輻輳(ふくそう)状態となってほとんどつながらなくなる。しかし、インターネット回線を使うSNSではやり取りが可能だ。

2011年の東日本大震災でTwitterの価値が見出され、それ以来、災害時用にアカウントを作る人が急増した。総務省の「熊本地震におけるICT利活用状況に関する調査」(2016年)によると、情報収集にSNSを利活用した割合は、東日本大震災では0.9%だったのが、2016年の熊本地震では47.6%にまで増えている。

2011年版の情報通信白書によると、東日本大震災当時から、Twitterでのデマは確認されている。コスモ石油のコンビナート火災に伴う「有害物質の雨が降る」というデマは震災発生直後に急増、翌日からはこれをデマとして打ち消す投稿が増えたという。その頃に比べてスマホの普及率やSNSの利用率が上がっていることも、デマが増えた要因となっているのだ。

熊本地震では、Twitter上に多くの救助要請が投稿された。大分県では、SNS投稿のテキスト・画像から判断し、AIで大分県の災害に関するものを抽出。SNSの画像が過去に撮影されたものかをネット上で検索し、同じ画像が見つかれば、その投稿はデマの可能性が高いと判断した。加工したフェイク画像もAIは見抜くことができ、その後、人の目でチェックもして判断したという。

■3000万インプレッションで1万円まで減少か

YouTubeなど、投稿が多く見られることで収益が得られるSNSは多い。しかし他のSNSとXとの大きな違いは、Xでは自分のオリジナル投稿でなくてもよく、投稿の質は問われないということだ。

先ほどの例で見れば、どれほど意味がないものや迷惑なものでも、有吉氏のポストにリプライしたことでインプレッションが数万以上となっているものもある。残念ながら、彼らの期待通りに成果が得られてしまっているのだ。

こんな投稿に広告を出しても企業にメリットはないだろうし、実際、Xへの広告出稿は激減している。2022年は四半期あたり10億ドル以上得られていたものが、23年は一年で約25億ドルまで減少している。

23年9月、フォロワーを247万人抱えるひろゆき氏は、「九月は998ユーロだったので、15万7000円」とXでの収益を明かしていた(ちなみにこの投稿のインプレッションは190万以上)。しかし、広告出稿の減少により事情は変わってきているようだ。

TOKYO MXの番組で24年1月、堀潤氏はXでのインプレッションが約3000万だったが収入は約1万円だったことを明かしており、収益は大幅に減少していると考えられる。そうなると、他人に迷惑をかけたり、罪に問われるリスクを犯す意味はまったくないのではないか。

■愉快犯が手軽に承認欲求を満たせる場所

災害時は、不安から人々は情報を求めるが、そもそも情報が錯綜(さくそう)しているため、不確かな情報にも飛びついてしまう。それ故、災害時はデマが多くなる傾向にある。

そしてこの時期は、承認欲求を満たすための愉快犯も多く現れる。たとえば熊本地震における「動物園からライオンが逃げた」というデマ投稿は、会社員の男が神奈川県にいながら投稿したものだ。男は「悪ふざけでやってしまった」と答えている。

2022年の台風15号による静岡県の水害を巡って、画像生成AI「Stable Diffusion」で作成した画像によるデマが広がったこともある。デマを投稿した男は、「『見た人がだまされたら面白いな』という軽い気持ちだった。画像を拡大してよく見れば偽物だと分かると思った。こんなに多くの人が信じるとは思わなかった」という。

非常時には、承認欲求を満たすために、軽い気持ちで悪ふざけをする愉快犯が、簡単に欲求を満たすことができてしまうのだ。

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写真=iStock.com/akinbostanci
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/akinbostanci

■正しいかわからない場合はシェアしないこと

Xでは、他のユーザーの投稿に注釈を付けられる「コミュニティノート」機能がある。今回のデマ投稿の一部にはきちんと付けられていたが、もちろん全てではなく、とても十分に機能しているとは言えない。インプレッション目的でのデマ投稿が多いことを考えると、コピペやデマなどでは収益が得られないようにするなど、X側がもっと有効な対策を講じるべきだろう。

災害時など、電話がつながらずインターネット回線しかつながらない状態の場合は、SNSで救助要請することも必要だ。しかし、インプレッション目的のユーザーたちによって自分の名前や住所がさらされ続けてしまうリスクもある。その場合、たとえば友達限定でつながっているFacebookやLINEなどで友達に自分の状況と救助要請を依頼する方法もあるのではないだろうか。

一方、情報を得る側は、発信源の信頼性を確認し、必ず一次ソースを確認する必要がある。その際、必ず情報が最新のものかどうか確認し、複数の信頼できる情報源で確認することも大切だ。情報が正しいかどうか確認できない場合は、少なくとも自分はシェアしないようにするといいだろう。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。

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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)

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