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なぜファミマのレジ上には巨大画面があるのか…ファミチキが飛ぶように売れた連動企画のすごい効果

プレジデントオンライン / 2024年1月25日 14時15分

コカ・コーラ3種とファミチキのセットで100円を割引くキャンペーンを告知するデジタルサイネージの動画とアプリ「ファミペイ」内のバナー広告(右下)(出典=『小売り広告の新市場 リテールメディア』)

2028年にテレビ広告市場を「リテールメディア」が超えると予測されている。参入するうえで、比較的ハードルが低いのが店舗内に設置したデジタルサイネージを活用する方法だ。セブン&アイ・ホールディングスの望月洋志さんと日経クロストレンドの中村勇介さんの共著『小売り広告の新市場 リテールメディア』(日経BP)より、ファミリーマートの最新事例を紹介する――。

■ファミマが進める「店舗のメディア化」

小売企業の店舗は販売促進を目指したポスターの掲示や棚に設置したPOPなど、もともとメディアとしての側面を持っていた。これをさらに推し進めるのがデジタルサイネージの活用である。ここに強力に投資をしているのがコンビニエンスストア大手のファミリーマートだ。店舗に設置したデジタルサイネージ「FamilyMartVision(ファミリーマートビジョン)」を軸に、“店舗のメディア化”を推し進めている。

ファミマは2019年以降、この領域へ集中的に投資を続けてきた。19年7月にバーコード決済を組み込んだ自社アプリ「ファミペイ」のサービスを開始したファミマデジタルワン(東京・港)に約200億円、購買データなどに基づいてデジタル広告を配信するデータ・ワン(東京・千代田、20年10月設立)に約50億円、ファミマ各店へのデジタルサイネージの設置とコンテンツ配信を手掛けるゲート・ワン(東京・港、21年9月設立)に約200億円と、「3年間で合わせて500億円近い金額を、他社に先駆けて投じた」(ファミリーマートの細見研介社長)。

その結果、ファミペイのダウンロード数は1500万件(23年3月末)に達している。広告配信に利活用できる購買データは、小売業者が抱えるファースト・パーティー・データとしては国内最大級の3000万件超に増えた。FamilyMartVisionを設置した店舗は4600店(23年6月末)となり、年内には1万店に達する予定だ。

そうしてリテールメディア戦略を推し進めるための布石を打ったファミマは、リテールメディアの効果を検証するため、23年に入ってからタッチポイントとなるメディアを連動させた「売り場連動企画(キャンペーン)」を連打している。

■サイネージとPOPの連動で売り上げ11%アップ

第1弾は、23年3月21日~4月3日にコカ・コーラ ボトラーズジャパン(CCBJ、東京・港)と実施した日本コカ・コーラ(東京・渋谷)のコーヒー「ジョージア」ブランドの店頭プロモーション。ファミリーマート店頭で展開したPOP中心の販促施策に、デジタルサイネージを連動させて動画を配信した。

その結果、デジタルサイネージ未設置店に比べて設置店のほうが、ジョージアの売り上げが11%増えた。「デジタルサイネージを連動させることで、顧客を購買に向けてさらに踏み込ませることができると分かった」とゲート・ワン取締役COO(最高執行責任者)の速水大剛氏は語る。

デジタルサイネージを連動させるとなぜ売り上げが増えるのか。速水氏はその理由を2つ挙げる。

1つは顧客に商品を認知してもらうだけでなく、「おいしそう」「飲みたい」と思わせるには、「静止画よりも動画のほうが、効果が高いから」(速水氏)。もう1つは、デジタルサイネージに寄せる顧客の期待に関係する。22年8月に実施した調査によれば、顧客が店内のデジタルサイネージで最も見たい内容は「お薦めの商品」についての情報だった。すなわちデジタルサイネージで商品の情報を配信すれば、「店舗全体でこの商品をお薦めしているという印象を多くの顧客が抱き、購買へとつながる可能性が高い」(速水氏)というわけだ。

また、POP中心の販促施策とデジタルサイネージを連動させたことで、キャンペーン対象商品の売り上げ増以外にも、別の大きな効果が3つ確認できたという。

■キャンペーン後も売り上げ増が継続

1つ目は、デジタルサイネージと連動させることで、「キャンペーン後も継続して売り上げ増の効果が認められた」ことだ。

通常のキャンペーンだと、期間中は対象商品の売り上げが増加しても、キャンペーン終了とほぼ同時に、売り上げがキャンペーン実施前の水準に戻ってしまったり、下回ってしまったりすることが珍しくない。しかし、今回、キャンペーン終了後2週間を経過した時点でも、デジタルサイネージ未設置店に比べて設置店のほうが、ジョージアの販売本数は約9%高かった。しかもその購入者のうち6割以上が、キャンペーン期間中に1回以上ジョージアを購入していたという。

ファミリーマート デジタル・金融事業本部 デジタル事業部長の国立冬樹氏は、「デジタルサイネージをうまく使えば、キャンペーン期間中に動画を配信しているときはもちろん、その後も継続して商品を顧客に購買してもらえる可能性が高いことを示せた」と話す。

デジタルサイネージに配信されたコーヒー「ジョージア」の動画。「シズル感」たっぷりの動画で、視聴した顧客の多くに「飲みたい」と感じさせた
デジタルサイネージに配信されたコーヒー「ジョージア」の動画。「シズル感」たっぷりの動画で、視聴した顧客の多くに「飲みたい」と感じさせた(出典=『小売り広告の新市場 リテールメディア』)

■動画によって「パイ(=市場)」全体が膨らむ

得られた別の効果の2つ目は、タッチポイントを連動させたキャンペーンを展開することで、対象商品だけでなく、「対象商品を含むカテゴリー全体の売り上げも増えた」ことだ。今回のキャンペーン期間中、ファミマ全店におけるコーヒーカテゴリー全体の売り上げは、前年同期比で17%増えたのだ。市場が停滞気味のコーヒーカテゴリーにかかわるメーカーや店にとって、カテゴリー全体の拡大は朗報だろう。

速水氏は「『ジョージア』をおいしそうに飲む動画をデジタルサイネージで見たことで、コーヒーを飲みたいと感じ、購買した顧客が多かったのだと思う。動画を見せることで、対象商品を含む『パイ(=市場)』全体を膨らます可能性のあることが分かった」と言う。今後は、対象商品の売り上げを特に伸ばしつつ、その商品を含むカテゴリー全体の底上げを図るような施策を模索するという。

得られた別の効果の3つ目は、「新規顧客の獲得」だ。今回のキャンペーン期間中にジョージアを購買した顧客の約50%が、「これまで『ジョージア』を購買したことのない新規顧客だった」(速水氏)という。

メーカーにとって、顧客を絞って広告を配信し、態度変容を促す施策は、費用対効果が高いとされる。だが、やり過ぎると同一の人に類似の広告が次々と配信され、メーカーの思惑とは逆の効果をもたらしかねない。そうならないためにも、メーカーにとって新規顧客の獲得は大きな課題である。今回のキャンペーンは、店頭の販促施策とデジタルサイネージを連動させることで、「新規顧客までも獲得できる可能性が高いことを示せた」(速水氏)のである。

■「コカ・コーラ」と「ファミチキ」のセット販促

23年4月25日~5月8日には、タッチポイントとなるメディアを連動させた売り場連動企画(キャンペーン)の第2弾も実施した。日本コカ・コーラの「コカ・コーラ」ブランド(コカ・コーラ、コカ・コーラ ゼロ、コカ・コーラプラス)の飲料とファミリーマートの「ファミチキ」のセット販売プロモーションだ。

コーラ3種のいずれかとファミチキを同時に購買した場合、100円を割り引く。第1弾からさらに商品訴求力を高めるべく、第2弾ではファミペイアプリ内のバナー広告とも連動させ、マーケティングを展開した。

その結果、キャンペーン期間中はファミチキとコカ・コーラの併買率が、施策前と比較すると全店ベースで約6~7倍になった。また、デジタルサイネージ未設置店に比べて設置店のほうが、ファミチキとコカ・コーラ3種の売り上げが18%増えた。

さらに、店頭の販促施策、ファミペイアプリ内のバナー広告、デジタルサイネージの接触状況別で購買件数の上昇率を検証したところ、3つのタッチポイントのすべてに接触したグループの購買件数の上昇率が、どれにも接触しなかった顧客のグループと比べて268%と最も高い数値を示した。

店頭の販促施策、デジタルサイネージ、アプリを連動させることで、「より効果的に商品訴求力を高めることが実証された」と国立氏は話す。

■5つの「顧客との接点」をフル活用する

今後も、リテールメディアの効果を検証するため、ファミマは売り場連動企画(キャンペーン)を毎月のように連打していく計画だ。23年夏に実施するという第3弾以降は、店頭の販促施策、デジタルサイネージ、ファミペイアプリ内のバナー広告に加え、「YouTubeやLINE、スマートニュースといったデジタルメディアへ出稿するデジタル広告」と「FacebookやInstagramなどのSNS(交流サイト)」も連動させ、購買へとつなげる効果が高まるかを検証する。加えて、来店前や来店中の顧客だけでなく、来店後の顧客にも働きかけて再来店を促し、購買を積み増せるかどうかも検証していく考えだ。

望月洋志、中村勇介『小売り広告の新市場 リテールメディア』(日経BP)
望月洋志、中村勇介『小売り広告の新市場 リテールメディア』(日経BP)

「従来のマーケティングファネル(見込み客から成約へと徐々に人数が絞り込まれていくこと)の考え方は『認知』から始まって『購入』がゴールだった。これに対して私たちは、店頭の販促施策やサイネージ、アプリ、デジタル広告、SNSといった5つの“顧客との接点”、つまりタッチポイントをまずはフル活用し、購入前はもちろん購入後も顧客に働きかけて、再度の購買やクロスセルによる売り上げの向上、そして顧客のロイヤルティー化も狙っていく」と国立氏は語る。

「私たちが進めるリテールメディア戦略の根底にあるのは、店舗の再定義。店舗を再定義し、デジタルを取り込み、顧客といつでもどこでもつながることのできる『カスタマーリンクプラットフォーム』として構築していく」と細見社長は意欲的だ。

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望月 洋志(もちづき・ひろし)
セブン&アイ・ホールディングス グループ商品戦略本部 ネットサービス開発 シニアオフィサー 兼 イトーヨーカドーネットスーパー オペレーション本部 副本部長
セブンネットショッピングにてイトーヨーカドーのネットスーパーとネット通販の立ち上げに従事。その後、博報堂プロダクツに入社し、大手流通グループのデジタルマーケティング支援や博報堂プロダクツのデータ分析組織の立ち上げ、スーパーマーケット向けのアプリ開発の社内ベンチャーの設立に携わる。食品卸の日本アクセスに入社し、リテールDXの新規事業を担当。IT子会社のD&Sソリューションズの取締役共同CEOとしてリテールメディアのプラットフォーム事業を立ち上げた。2023年10月1日より現職。

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中村 勇介(なかむら・ゆうすけ)
日経クロストレンド 副編集長
『日経ネットマーケティング』を経て、『日経デジタルマーケティング』編集に在籍。特集「日本交通はグーグルになれるか」「電通不祥事はパンドラの箱か」など、イノベーションの先端企業やネット広告業界の課題点を示す特集の執筆を手掛けた。『日経トレンディネット』編集を経て、2018年2月から『日経クロストレンド』編集に所属。22年4月より現職。デジタル広告の新市場、デジタル技術を活用したサービス開発やマーケティング活用の先進事例など、マーケティングDX領域を中心に執筆・編集を担当。

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(セブン&アイ・ホールディングス グループ商品戦略本部 ネットサービス開発 シニアオフィサー 兼 イトーヨーカドーネットスーパー オペレーション本部 副本部長 望月 洋志、日経クロストレンド 副編集長 中村 勇介)

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