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アマゾンで売るなら広告は絶対条件…人気ラーメン店AFURIが自社商品のない「とんこつ」にも広告を出す理由

プレジデントオンライン / 2024年1月29日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyonntra

2028年にテレビ広告市場を「リテールメディア」が超えると予測されている。その中でも特に注目度が高いのが「アマゾン広告」だ。セブン&アイ・ホールディングスの望月洋志さんと日経クロストレンドの中村勇介さんの共著『小売り広告の新市場 リテールメディア』(日経BP)より、アマゾンの最新事例を紹介する――。

■成長が鈍化するデジタル広告市場

これまで急成長してきたデジタル広告プラットフォームの雲行きが怪しい。新型コロナウイルス禍という“特需”が終わりを迎えようとする中、業績が振るわない。2023年4月25日の米グーグルの持ち株会社である米アルファベットの23年第1四半期(23年1~3月)決算発表では、主力の広告全体は0.2%減の545億4800万ドル(約8兆2000億円)となった。

動画広告プラットフォームのYouTubeの広告売上高が約2.6%減と3四半期連続で減少したことが大きな要因だ。デジタル広告支援会社の電通デジタルの瀧本恒社長は「この3年間の間にデジタル広告市場の伸び率が少しずつ鈍化しているのは事実だ」と言う。

日本国内でも、事業成長の鈍化を理由に大手広告プラットフォームに大きな動きが見られる。Zホールディングス(ZHD)、ヤフー、LINEの3社は23年10月に合併した。「22年度後半に入り、急速に市場環境が悪化。業績をけん引してきた広告では、収益が急激に減退」(ZHD)したことがその理由。「広告商品としての競争力の低下も(広告収益悪化の)一因となりつつある」(同)と危機感は強い。

■電通デジタルは「アマゾン専門チーム」を設置

既存の広告プラットフォームの成長が鈍化する一方で、台風の目となっているのが米アマゾン・ドット・コムが手掛ける広告サービス「Amazon広告」だ。アマゾンの22年の年間広告売上高は377億3900万ドル(約5兆6000億円)で、前年から21.1%増と引き続き好調。EC事業者ならではの独自性の強いデータを用いた広告サービスの展開で、急速に広告市場での存在感が高まっている。先行する米グーグルや米メタを猛追する。

日本でもECサイト「Amazon.co.jp(以下、Amazon)」が多くの企業にとって既存の小売業と並ぶ重要な販売チャネルとして規模が拡大するにつれ、メーカーなどがAmazonでの販売を拡大するための広告活用を活発化させている。

急速に需要が高まるAmazon広告の活用支援の体制を底上げするため、電通デジタルは「Amazonルーム」と呼ばれる専門チームを設置。18年1月の設置時点では5~6人が所属するだけだったが、この5年で30人を超える規模にまで拡大した。「広告商品の販売を始めてから、毎年、取扱高は上昇している。他のプラットフォームは伸び率が頭打ちになりつつある中、肌感覚では1.5倍のスピードで成長している。こうした中、Amazon広告支援への人的なリソースの投下が加速している」と電通デジタルのコマース部門Amazonルーム第1グループ志賀靖氏は説明する。

■注目を集める「リテールメディアの本命」

それほどAmazon広告が脚光を浴びているのは、リテールメディアの本命として注目度が高いからだ。近年、日本国内でも新たな広告市場として関心が高まっているリテールメディアだが、日米では市場の趣がやや異なることは第2章で解説した。米国リテールメディアの主戦場はECだ。米ウォルマートや米ターゲットといった大手小売りもEC事業に投資を強化しており、そのECサイト上で広告事業を展開する。そのためAmazonとウォルマートなどの既存小売りの広告事業は、機能やサービスの特徴が極めて近い。

「Amazon広告がリテールメディアの本命」という表現に、やや違和感を持たれる読者もいるかもしれないが、日米の市場の違いにあることをご理解いただきたい。むしろ、ECという強力な武器を持ち、売り場直結型の広告プラットフォームであるアマゾンは、日本の小売企業よりも収益性の高いリテールメディアをすでに実現できていると言える。日本の小売企業が手掛けるリテールメディアにとっても、将来的にECは欠かせない。アマゾンに学ぶことは多い。

2024年1月18日、スイス、ダボス:ダボスのアマゾンパビリオンの前を歩く人々。
写真=dpa/時事通信フォト
2024年1月18日、スイス、ダボス:ダボスのアマゾンパビリオンの前を歩く人々。 - 写真=dpa/時事通信フォト

また、広告が売り上げと直接的に結びつきやすく、広告効果が明快だからこそ、広告主の投資を促しやすい傾向にある。Amazonで商品を販売する企業は、Amazon広告の仕組みを理解することで、より成果に結びつきやすくなる。まずはAmazon広告の強みを2つに分解して解説していこう。

■「アマゾン広告」にある2つの強み

デジタル広告サービスの開発には「広告の配信面」と「広告配信の仕組み」の両方を備えている必要がある。まず、ECサイトがそのまま広告の配信面になるのはEC事業が本業であるAmazonの強みだ。Amazonのトップページはもちろん、Amazon内での検索結果一覧や商品ページ、決済完了画面など、さまざまな箇所に広告枠を設けている。さらに動画配信サービス「Prime Video(プライムビデオ)」や、買収したゲーム動画サービス「Twitch(ツイッチ)」など、動画広告の配信面の開発にも積極的に投資をしている。

「認知・(商品の)発見から、運用型、リマーケティング(追従型)などのパフォーマンス広告までを組み合わせた(Amazonの)広告戦略が、長期的に(広告主の)ブランドに大きな効果をもたらすケースが増えている」と米アマゾン・ドット・コムのグローバル広告営業担当副社長であるアラン・モス氏は説明する。

広告在庫も潤沢だ。デジタル広告の在庫は、利用者のアクセスごとに発生する。検索キーワードに連動して広告を表示する「検索連動型広告」はその代表例。多数の利用者を抱え、頻繁に検索行動が行われなければ、広告の表示回数は少なくなる。その観点では、Amazonの利用者はすでに主要な広告プラットフォームと比肩する規模になっている。

■膨大な「購買データ」を用いた販促

ネットの利用動向データ事業のニールセンデジタル(東京・港)が提供する、モバイル端末でのサービス利用データ「ニールセン・モバイル・ネットビュー」によれば、国内のAmazonの月間利用者数は約6388万人(22年12月時点)。その規模は国内では「Twitter(現X)」や「Instagram」といった主要なSNSよりも多い。それだけの利用者を抱えているため、メディアとしての力は先行するデジタル広告プラットフォームとそん色がない。だからこそ十分な広告在庫を確保できる。

そして、小売りが手掛けるサービスとして、もう1つの重要なポイントが「購買データ」だ。「広告配信の仕組み」自体は技術の汎用性が高く、プラットフォーム間の競争力にはなりにくい。競争優位性は広告配信に使える独自性の強い顧客データと、広告主の成果に結びつきやすいように広告配信を最適化するアルゴリズムによって決まる。「Amazon広告を利用することで、ブランド(広告主)は購入履歴や閲覧行動など、数十億の顧客インサイトデータを用いて販売を促進できる」(モス氏)のが強みだ。

コンピュータを操作する日本人男性
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

■広告配信の自動最適化アルゴリズム

そうした独自性の強いデータを基に、配信のアルゴリズムにも磨きをかける。Amazon広告には広告予算を設定するだけで、AIが商品ページの情報に基づき、売り上げ増加が期待できそうな検索キーワードに広告を入稿し、最適化する「オートターゲティング」という仕組みがある。膨大な購買データと購入に至るまでの利用者動向を蓄積しているAmazonだからこそ、購買に結びつきやすい広告配信の自動最適化のアルゴリズムを組み立てられる。

IoT製品を中心としたスマート家電ブランド「+Style(プラススタイル)」を展開し、Amazonで販売するBBソフトサービス(東京・港)プラススタイル事業本部販売推進部の川茂昌平氏は「Amazon広告のオートターゲティングは特に活用の序盤で重要になる」と言う。ただ、オートターゲティングも万能ではないため、より効果を出すためには人間が介在することも重要だ。

■「アマゾン広告」のメニューを徹底解説

ここからはアマゾンが提供する広告商品を詳しく解説していく。リテールメディアの広告商品の開発などに、参考になるはずだ。

Amazon広告は大きく3つの方法で出稿することになる。「検索連動型広告」「商品連動型広告」「データ連動型広告」の3つだ。主に前者の2つがAmazon内での広告配信、後者はAmazon外での配信、つまりAmazonのデータを用いた、外部の広告枠への配信に活用することが多い。

まず、検索連動型広告では「スポンサープロダクト広告」と「スポンサーブランド広告」という2つのメニューが主な広告商品となる。いずれも、Amazon内での検索結果一覧ページに表示される。Amazonの検索フォームに商品名や商品カテゴリーなどを入力して検索すると、対象となる商品一覧が表示される。このうち、「スポンサー」という表記がついている最初の4商品が広告だ。

【図表1】検索連動型広告
Amazon広告の検索連動型広告は目的に応じて、2種類の広告サービスを使い分けることができる(出典=『小売り広告の新市場 リテールメディア』)

Amazonスポンサープロダクト広告でキーワード広告を出稿する場合、販促したい商品に関連するキーワードを指定して、広告を出稿する。例えば、ビールであれば、「ビール」「酒」といったキーワードを指定して、広告の入札単価を設定する。Amazon利用者が対象のキーワードで検索したときに、そのキーワードに入札している広告主間で競争が行われ、上位の4商品が広告として表示される仕組みになっている。

■売り上げを立てるなら、広告運用は絶対条件

そうした仕組み上、例えば「掃除機」などの検索ボリュームの大きい、いわゆる「ビッグワード」と呼ばれるキーワードは競争が激しくなる傾向にある。そのため、より商品の機能やカテゴリーを具体的に表す「掃除機 コードレス」「掃除機 1人暮らし」といった関連キーワードを組み合わせて出稿するのが一般的だ。また、広告配信の仕組み自体は「Google」などの検索連動型広告と同様だが、配信ロジックに特徴がある。

人気ラーメン店「AFURI」をチェーン展開するAFURI(神奈川県厚木市)は、スポンサープロダクト広告を活用する一社。同社は新型コロナウイルス禍の影響で店舗営業がままならない中、人気商品の「柚子塩らーめん」をはじめとした冷凍ラーメンのネット販売を始めた。Amazonも重要な販売チャネルの1つだ。スポンサープロダクト広告では「冷凍ラーメン」「柚子塩」といった、AFURIの商品が直接的に想起されるキーワードに加えて、例えば「とんこつ」「しょう油ラーメン」といった、一般名詞にも出稿することでAmazon利用者への商品認知度の拡大を狙う。

Amazonの「らーめんAFURI公式通販サイト」
Amazonの「らーめんAFURI公式通販サイト」より

「Amazonできちんと売り上げを立てるなら、運を頼りにしない限り、広告運用は絶対条件としてやらなくてはいけないものだと認識している。広告で売れるきっかけを自分たちでつくらない限り、自社の商品を見つけ出してもらえる可能性はほとんどない」とAFURIの専務取締役EC事業責任者の平田展崇氏は話す。

■「カートボタンの直下」や「関連商品一覧」に掲載

もう一方の「スポンサーブランド広告」も同様に検索キーワードに連動して表示される広告だが、こちらは検索結果の最上部に一社独占で表示される広告サービス。スポンサープロダクト広告は商品ページにある商品名や価格、レビュー数などをそのまま広告クリエイティブに組み替えて配信するのに対して、スポンサーブランド広告は、任意の画像や動画と複数の商品を組み合わせられるのが特徴。新商品の認知拡大や、動画を活用した理解促進などを目的に活用されるケースが多い。

2つ目の商品連動型広告はAmazonならではの広告だ。広告を出稿したい特定の商品を指定して、出稿する。前述のスポンサープロダクト広告や「スポンサーディスプレー広告」がこの出稿方法に該当する。広告の掲載面は商品ページのカートボタンの直下や、関連商品一覧となる。よく活用される方法としては、競合商品を狙う方法だ。自社商品と比較検討されやすい競合商品を指定して、広告を出稿する。

【図表2】商品連動型広告
商品連動型広告はAmazon広告ならではのサービスだ。競合商品などを指定して、関連商品に広告として自社商品を掲載できる(出典=『小売り広告の新市場 リテールメディア』)

当然、そうした活用法は競合も実施してくる。そこで、自社の商品ページの広告枠を守るために、自社商品を指定して出稿することも、競合に狙われやすいトップブランドほど重要になる。攻守のバランスを求められるわけだ。

■外部メディアにも配信できる「アマゾンDSP」

データ連動で出稿する広告は、スポンサーディスプレー広告と「Amazon DSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)」が対象となる。いずれも、Amazonでの購買データや利用データを用いて、配信対象者を絞り込んだり、一度商品ページを訪問したものの、購入に至らなかった層に対してリターゲティング広告を配信したりできる。

【図表3】Amazon DSP
「Amazon DSP」は、Amazonの関連サービスや外部の広告枠に広告を配信できるサービス。一般的な広告ネットワークと同様の仕組みだが、Amazonのデータに基づいて配信できるのが特徴(出典=『小売り広告の新市場 リテールメディア』)
望月洋志、中村勇介『小売り広告の新市場 リテールメディア』(日経BP)
望月洋志、中村勇介『小売り広告の新市場 リテールメディア』(日経BP)

最大の特徴は、システム連係する外部のメディアの広告枠に対しても、広告を配信できる点にある。Amazon外からAmazon内の商品ページや自社サイトへと集客できる広告サービスとなっている。例えば、日ごろから美容商品を購入している層に対してYouTubeで動画広告を配信したり、閲覧履歴のある商品を再訴求して購買を促したりできる。

ただし、Amazon内での広告配信ではないため、広告接触する層が必ずしも買い物をしたいマインドになっていない可能性もある。そのため、スポンサープロダクト広告やスポンサーブランド広告などの、Amazon内に配信される広告に比べて、直接的な購買にはつながりにくい可能性もある。家電ブランドを複数展開するアンカー・ジャパン(東京・千代田)は、セール時期に外部集客を強化するために活用するなど、用途を絞って利用する。そのように目的に応じて広告商品を柔軟に組み合わせて活用することが肝要だ。

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望月 洋志(もちづき・ひろし)
セブン&アイ・ホールディングス グループ商品戦略本部 ネットサービス開発 シニアオフィサー 兼 イトーヨーカドーネットスーパー オペレーション本部 副本部長
セブンネットショッピングにてイトーヨーカドーのネットスーパーとネット通販の立ち上げに従事。その後、博報堂プロダクツに入社し、大手流通グループのデジタルマーケティング支援や博報堂プロダクツのデータ分析組織の立ち上げ、スーパーマーケット向けのアプリ開発の社内ベンチャーの設立に携わる。食品卸の日本アクセスに入社し、リテールDXの新規事業を担当。IT子会社のD&Sソリューションズの取締役共同CEOとしてリテールメディアのプラットフォーム事業を立ち上げた。2023年10月1日より現職。

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中村 勇介(なかむら・ゆうすけ)
日経クロストレンド 副編集長
『日経ネットマーケティング』を経て、『日経デジタルマーケティング』編集に在籍。特集「日本交通はグーグルになれるか」「電通不祥事はパンドラの箱か」など、イノベーションの先端企業やネット広告業界の課題点を示す特集の執筆を手掛けた。『日経トレンディネット』編集を経て、2018年2月から『日経クロストレンド』編集に所属。22年4月より現職。デジタル広告の新市場、デジタル技術を活用したサービス開発やマーケティング活用の先進事例など、マーケティングDX領域を中心に執筆・編集を担当。

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(セブン&アイ・ホールディングス グループ商品戦略本部 ネットサービス開発 シニアオフィサー 兼 イトーヨーカドーネットスーパー オペレーション本部 副本部長 望月 洋志、日経クロストレンド 副編集長 中村 勇介)

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