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オランダの英語教育事情 ~小学校卒業までに英会話をマスター

プレジデントオンライン / 2012年11月18日 13時0分

英語の授業を受けはじめて間もない6、7歳の子供たち。

「みんな、英語は得意かい?」「イエース!」

「マイ ダッド イズ ノット ジーニアス バット ギフテッド!(僕のお父さんは、天才じゃないけど、才能があるんだ!)」

「ヒー マスト ビー クール アンド ヒップ!(カッコいい!)」

「インディード!(そのとおり!)」

朝、8時すぎ。ごく普通の公立小学校に通うオランダの子供たちが、わいわいと話に花を咲かせながら、通学路を歩いてゆく。小学校高学年生だろうか、彼らの会話を注意して聞いてみると、ほとんどが英語だ。

多少、発音にオランダ語なまりが混じるようだが、かなり滑らかだ。彼らに対して「英語は得意?」と質問すると、みんなで威勢よく手を上げ、「イエース!」と元気に返答してくれた。

オランダ人のほとんどは公用語かつ母語であるオランダ語同様のレベルで、英語を話す。どちらも西ゲルマン語群に属する兄弟言語で類似した単語が多いこともあるが、それだけが理由ではない。

オランダでは、「脳」の働きに着目した最新メソッドを組み合わせた早期英語学習が行われている。正式名称はまだ定まっていないが、それは「脳活性化学習法(ブレーン アクティベーション ラーニング)」とも呼ぶべき、目からうろこの内容。

それらをいち早く日本のみなさまに紹介しよう。

■脳細胞が多い5歳から始める!

休み時間も、映画を見ながらシャドーイングの練習中。

オランダでは、今年の新学期(8月)から文部省の通達により、英語の授業受講開始年齢がそれまでの7歳から義務教育開始年齢の5歳(小学1年生)に引き下げられた。

脳細胞は幼児期に形成され、その後は年齢とともに減少する。よって、脳細胞が最も多く活発な小学校低学年時に、英語を学び始めるべきだと考えられているからだ。

現在11歳のタゥンくんはそれよりもさらに前、2歳のころから、イギリスのBBC放送の幼児番組を録画したものをほぼ毎日見てきた。その結果、4歳のときにはオランダ語と英語との完全なバイリンガルになった。

タゥンくんは現在、週末と毎年の夏休みを利用し、イギリスのウェールズ地方を家族と訪れている。現地の子供たちに混じってサッカーをしたり、釣りをしたりして過ごすが、もちろん会話はすべて英語だ。

「自分から教えない限り、僕がオランダ人だって最初は誰も気づかないんだよ。英語は完璧だからね」

英語習得はまさに、“The sooner, the better.”(早ければ早いほど良い)だ。

ちなみに現在オランダの文部省が定めるカリキュラムでは「毎日1時限」と定められている。毎日触れることも重要なのだ。

■イラスト教材で右脳をフル回転!

イラストが中心の英語教科書。日本でも似た物は購入できる。

英語の授業で使われる教材は、小学1年生用から最高学年の7年生用まで、どれも100ページほどの教科書。文字よりもカラフルなイラストが目立つ。この絵を見ながらの音読が徹底的に繰り返される。これは、右脳と左脳の働きに注目して編み出された習得法だ。言語をつかさどる左脳のみならず、視覚や聴覚をつかさどる右脳も同時に活性化させることにより、脳をフル回転させる。

例えば暗記の達人が、ランダムに並べられた数字を記憶する際、数字をそのままではなく、絵やイメージに置き換えて覚えるのと同じ。文字だけを追うよりも、格段に覚えがよくなるのだ。オランダではこれを、「関連付け法」と呼ぶ。

■大声で音読させて吸収力アップ!

小学校の教師陣。歌を歌いながら覚える授業もある。

さて、その「音読」だが、「声量」によって効果が異なることもわかってきた。オランダのラドバウト大学とユトレヒト大学の共同調査報告によると、若い脳を活性化させるには、横隔膜を振動させることが最も効果的。そして横隔膜を振動させるには、「大きな声」を出すことが重要であることが判明したのだ。

つまりボソボソと小声で読むのではなく、「大きな声で音読すれば、学習意欲も吸収力も高まる」ということ。ただし「大きな声」といっても、基本的には耳障りでないくらいの程度が望ましい。

低学年生は、簡単な英語の歌を教師と一緒に、大声で歌うことから始め、教科書も大きな声で音読する。高学年生の授業でも、基本は同じだ。教科書やコンピュータソフトを使い、教師に従って、生徒全員が大声で音読。学校で習った箇所を「大声音読」する宿題もあり、きちんとやっているか親がチェックする。

■8歳になったら速く読むトレーニングを

Buut小学校。ドイツとの国境に近い地方都市にある。

大声で音読する際、そのテンポも重要視される。例えば“Today, I'm going to see the movie.”程度の簡単な文章を、最初はゆっくり音読し、慣れたら、少しずつテンポを上げていく。

最終的な目標スピードは「英語のラジオ放送のニュース」程度。つまり、かなり速いテンポだ。もちろん、低年齢の子にはむずかしいので5~7歳の子は「大声音読」まで。「速音読」を始めるのは、オランダの小学4年生にあたる8歳くらいからだ。

「速音読」を繰り返すことで、脳がリズミカルに刺激される。愛唱歌をいとも簡単に覚えられるのと同様、無理なく英語が頭に入る。3カ月間、毎日20分ほどこの方法を続けると、いつの間にか、英語が口をついて出てくるようになるという。

東南部ナイメーヘンにある公立小学校basisschool de Buutの英語担当教師、ジョビータ先生も「速音読」の信奉者。速音読こそが英語ペラペラへの近道と考えており、授業時間40分の半分を費やすこともある。

「音読は、誰でもできます。そして繰り返せば、誰でも暗唱ができるようになります。それで子供たちは『なんだ、英語なんて簡単じゃないか』と思うようになる。この自信と自己暗示も英語学習には重要なのです」

英語の担当教師ジョビータ先生と生徒たち。

ジョビータ先生の生徒の中には、こんな面白いことを言う子もいる。「オランダ語を話すことができるのは、ほとんどオランダ人だけ。でも英語は世界の共通語。世界のたくさんの人があたりまえのように話しているんだから、オランダ語まで使える僕たちがしゃべれないはずないじゃないか」

「英語は好き? と、生徒たちに聞いても、反応がないんです」と先生は笑う。

「英語は彼らにとって外国語ではないのです。そこにある空気みたいなもので、気がついたらしゃべれるようになっていたので、好きとか嫌いとか、そういった感覚がないのでしょう」

■集中させる練習は1回5分間まで

YouTubeを見ながら、シャドーイングに取り組んでいる。

ジョビータ先生の授業では、冒頭に「速音読」をすることでウオーミングアップを終えたら、次に「シャドーイング」に移る。「教材ソフトから流れる英語をヘッドホンで聞きながら、まるで『影(シャドー)』のようにぴったりと追いかけるように口に出す」手法だ。

教材ソフトの音声を聞いた後、同じことをリピートする従来の方法とは違い、かなりの集中力が要求される。日本の大人向けの英語教材でも見受けられる方法だが、オランダではこれを8~9歳のころから徹底的に繰り返すのだ。

「シャドーイング」は、1セットで5分間までと決められている。それ以上続けると、集中力を欠いて効果が上がらなくなるから。脳を活性化させるのにダラダラ続けるのは逆効果なのだ。1セットが終わったら10分ほどの休息を入れ、さらに1セットのシャドーイング……と続けていって、一度の授業では最大3セットまでになる。

低学年の子の毎日の宿題は「大声音読」だが、高学年になるとこの「シャドーイング」。アメリカのティーン向けテレビ番組(ドラマ、コメディー、『スポンジ・ボブ』などのアニメ)を見ながら行うことが課せられる。

シャドーイングの特に優れている点は、どこで区切って話すかがわかり「英語の自然なリズムが身につく」こと。そして聞き取ろうと努力することで、「英語への集中力・注意力が高まる」ことなどだ。

■英語で話し、すぐに母語で言い直す訓練

高学年の授業風景。スライドを使ったり、議論したり。

高学年からは「セルフ・インタープリティング」(自己通訳)で、英語力とオランダ語力の両方に磨きをかける子も多い。まず、短い英語の文を話したら、すぐに母語に訳して話す方法。例えば“Today, I go skating.”と英語で言ったら、“Vandaag ga ik schaatsen”(ファンダーグ ハー イック スハーツェン)と、オランダ語に「逐次通訳」するのだ。

これは「英語は英語、オランダ語はオランダ語」ときちんと区別する訓練だ。いわゆる「バイリンガル」の中には母語の中に英語が混ざってしまう人もいる。

例えば「今週のSaturdayに、Movieを見に行こう」といった具合だ。そのような「母語と英語のチャンポン語」を使わないようにするために、両者をきちんと区別する「セルフ・インタープリティング」は非常に有効なのだ。

■オランダ式はつまり、「文法後回し」

「オランダ式脳活性化学習法」では常に口と耳を使うことが重要とされる。日本で語学学習の際に不可欠だと思われている「辞書」「参考書」「単語帳」のようなものは、小学生の段階では一切使用しない。

さらに「文法」もまったく習わない。誰かとコミュニケーションを試みる際、頭で文章が構築できても、話せなくてはどうにもならないからだ。

イェット、アンナ姉妹と母親のアネミークさん。

しかし、疑問を持つ親もいる。2人の娘を持つアネミークさんも、その1人。アンナちゃんとイェットちゃん姉妹は9歳と11歳だが、家で特別に文法を学ばせているという。2人は2年前、カナダで現地の子のための4週間のサマーキャンプに参加。終了するころには、ひと通りの会話ができるようになったが、アネミークさんは不満を感じたことが原因だ。

「現地の子供たちと過ごすと、簡単な言い回しやスラングばかり覚えます。きちんとした英語を身につけるためには、文法という基礎工事が必要です」

小学校では一切文法を学ばないオランダだが、ハイスクール(13歳からの6年間)では「英文法」の授業がしっかりある。小学校の時期にいきなり文法を学んでも興味も湧かなければ、何をやっているのか理解もできない。とりあえず話せるようになってから、「ああ、なるほど。そういうことだったのか」と理論的な裏付けを与えるべきだというのが、オランダの考え方だ。

■磨き上げは大学卒業後の半年間で

ロイヤル・ダッチ・シェル、ユニリーバ、イケアなど、現在、オランダに本社を置く世界の大企業は多い。シェルとユニリーバは英国とオランダとの合弁だが、なぜ、スウェーデン生まれの国際企業イケアがここに本社を置くのか。ほとんどの人がネイティブレベルの英語を話せるオランダに本社を置けば、イギリスと同様の英語力の人材が集められるからだ。

「他の欧州諸国へのアクセス」という点を考えれば、ドーバー海峡を隔てたイギリスよりも、地続きで「Crossroad of Europe(欧州の交差点)」と呼ばれるオランダに軍配が上がるのは当然だろう。

オランダ生まれの企業でも、Oilily(オイリリー)やG-Starなど、社内の公用語は100%英語というところも増えてきた。Oilily広報担当者は言う。

「オランダの若者たちは大学を卒業後、イギリスやカナダ、アメリカなどで半年ほど暮らします。国内で完璧に学んでも、基本的にはオランダ人の先生や児童・生徒と話すだけ。だから、ネイティブやオランダ以外のなまりで話す人たちとたくさん接する機会を持つために、英語が母語の国に行って実地訓練するのです。そういう国に、世界各国からいろいろな英語を話す人が集まってきますからね。現地で語学学校に入る人もいますが、多くはYMCAやボーイスカウト、その他青年団体などの活動に参加し、よりカジュアルな形で、多くの国々の英語に自然に接します。それにより、どんな英語でもドンと来い、と思えるようになる。こうして国際企業で諸外国の人と働くうえでの『自信』を身につけて帰ってくるのです。まあ、最後の仕上げとでもいうべきものですね」

小さいころから、興味がそそられる方法で無理なく楽しく、かつ科学的理論を土台に英語を学べば、ほぼ全員をネイティブレベルまで高める「オランダ式脳活性化学習法」。日本という国全体でも、そしてわが子という個人単位でも、取り入れるべき点は多い。

(稲葉 霞織 稲葉 霞織=撮影 マルセル・クノップ=撮影 白名伊代(海外書き人クラブ)=編集協力)

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