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なぜネトフリはいまさら「幽遊白書」をドラマ化したのか…日本マンガの実写化が相次いでいる本当の理由

プレジデントオンライン / 2024年1月29日 14時15分

画像提供=Netflix

ネットフリックスが日本の往年のマンガ作品を次々と実写化している。なぜアニメ化ではなく、実写化なのか。テレビ業界ジャーナリストの長谷川朋子さんは「原作としての質が非常に高く、世界中にファンがいる。巨額の制作費を投資しても手堅くリターンを得られるとみているようだ」という――。

■実写版「幽☆遊☆白書」のほんとうの評価

世界的な日本のマンガ人気にあやかると、実写ドラマも世界で評価される……。机上の論ではうまくいきそうな話であっても、現実はそう単純なものではない。

そんな中、冨樫義博による伝説的大ヒットマンガの実写版「幽☆遊☆白書」は作品ファンから多少の不満の声が上がりつつも、ビジネス的には限りなく理想に近づいた作品と言える。

実写化したのはNetflixだ。主人公の不良少年「浦飯幽助」役に若手俳優の北村匠海を起用。

日本人キャストによる日本発Netflixドラマシリーズとして「幽☆遊☆白書」(全5話)が2023年12月14日から世界配信が開始されると、Netflixが公式発表する週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)で初登場1位、英語を含めた全言語シリーズでは全世界2位を獲得し、出だしから好成績を収めた。

国別の内訳も文句ない結果だ。日本をはじめアジア諸国だけでなく、世界的ヒットの鍵を握るアメリカでもTOP10入りを果たし、初登場で世界92の国・地域でランクインした。

2週目(2023年12月18日~24日)も勢いはとまらなかった。週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)で1位、英語を含めた全言語シリーズで全世界2位を維持した。

■2023年に配信された日本発の作品ではダントツ

さらに国別ではナイジェリアやカタール、ドミニカ共和国など日本の実写ドラマがこれまでほぼ響かなかった国でも週間「TOP10」1位を獲得した。さすがに4週目(2024年1月1日~1月7日)以降は落ち着いてきたが、全世界配信から約1カ月間で約7560万時間視聴されている。

世界中で再生された実写版「幽☆遊☆白書」の初動の成績は、Netflixにとって満足できる結果を残したのではないか。2023年に配信された日本発の実写作品(映画/ドラマ)は計11本に上ったが、その中でも断トツだった。

再生数だけでは測れない作品の中身に対する評価も気になるところ。辛口の批評サイトで知られる米Rotten Tomatoesではオーディエンス平均スコアは82%(2024年1月15日時点)と、まずまずだ。

「幽☆遊☆白書」を語る上で欠かせない人間界と魔界と霊界の三つが交錯する世界観とキャラクター同士のバトルの描かれ方は第1話から引き込まれ、確かに満足感を得ることができる。

■「これはすごい」と唸ったシーン

セットや撮影技術など目につきやすい部分で製作費を省かないNetflixクオリティが保たれたことが大きい。

マンガの実写化で議論されがちな再現度という観点では、キャラクターたちの髪型の作り込みにおいて多少甘い部分もあるが、作品の良さを大きく左右するほどのことでもない。175話ある原作を今回は3分の1程度のストーリーにうまくまとめている。

最も評価したいのは、北村の浦飯幽助をはじめ、志尊淳の「蔵馬」や本郷奏多の「飛影」、上杉柊平の「桑原和真」、滝藤賢一と綾野剛の「戸愚呂兄弟」など主要登場人物たちのバトルシーンだ。

VFXやCGを使いつつも「人間の肉体によるバトル」をメインに表現していた。
画像提供=Netflix
VFXやCGを使いつつも「人間の肉体によるバトル」をメインに表現していた。 - 画像提供=Netflix

「幽☆遊☆白書」ならではの暴力性とエモさを意識した映像が作り出されていた。『君の膵臓をたべたい』が代表作の月川翔監督が中心となり、ドイツを拠点とする世界トップクラスの制作会社であるスキャンラインVFXの協力も得て、俳優とCGクリーチャーを映像加工する高度なVFX技術が駆使されたという。

撮影からポストプロダクション(撮影後の作業)の期間だけで約3年もかけて、完成に至っている。

■「ONE PIECE」と「幽☆遊☆白書」の違い

一方で、同じくNetflixが手掛け、原作ファンが世界中にいる点でも共通する「ONE PIECE(ワンピース)」の実写版と比較すると、「幽☆遊☆白書」は惜しい点がある。

実写版「ONE PIECE」の場合はNetflixアメリカ本国発の英語シリーズとして作られているため予算規模は大きく、制作環境も異なる。単純に双方を比較できないが、実写ドラマの観点からみると、「ONE PIECE」にはあって、「幽☆遊☆白書」には足りない部分があった。それは生身の役者が演じることによって生まれる意外性だ。

例えば、実写版「ONE PIECE」では主要キャラクターの「ナミ」に現実世界に存在するようなリアリティ性を持たせている。

容姿こそ原作のイメージとは離れているものの、「ナミ」というキャラクターの本質を理解しやすいものにしていた。製作側の意図的なものだというから、リスクがありながら最適な表現を追求した、攻めの姿勢が潔くも感じた。

実写版「ONE PIECE」のナミを演じた、エミリー・ラッド。彼女の演技に納得した原作ファンも多かった。
画像提供=Netflix
実写版「ONE PIECE」のナミを演じた、エミリー・ラッド。彼女の演技に納得した原作ファンも多かった。 - 画像提供=Netflix

実写ドラマとして勝負するには原作ファンだけでなく、ドラマ好きも囲い込むようなアレンジ力が時には有効であることを証明したように思う。

実写版「ONE PIECE」は全世界配信後、週間グローバルTOP10(英語シリーズ)1位を3週連続で達成し、これまで6300万時間以上視聴されている。このまま伸びていけば、Netflix歴代人気TOP10入りも見込めそうだ。

唯一の日本人俳優として起用されたゾロ役の新田真剣佑がこの作品をきっかけに世界的に人気を集めるなど話題も作り、これも予想以上のこと。こうした意外性が実写版「ONE PIECE」にはある。

■ドラマ作品としてはまずまずだが

実写版「幽☆遊☆白書」はと言うと、何よりVFX技術による映像表現で十分に挑戦しているが、それはドラマ作品として成功するために必要な条件である。

攻めてほしかったのは、主役の「浦飯幽助」と人気を二分する「蔵馬」や「飛影」の描き方だ。現在放送中のNHK大河ドラマ「光る君へ」で登場シーンからインパクトを残すほどの本郷奏多なので、彼の俳優としての実力をもっと引き出しても良かったのではないかと思ってもしまう。

もっと良くなったはずの「飛影」
画像提供=Netflix
もっと良くなったはずの「飛影」 - 画像提供=Netflix

キャラクター設定から俳優の起用までドラマ作品としては平凡に映り、世界的にも話題が広がるような突き抜けた要素が見当たらない点がもったいなかった。

とはいえ、実写版「ONE PIECE」に続いて実写版「幽☆遊☆白書」も手堅く数字上の実績を残したことで、日本のマンガ原作ドラマに価値があることを印象付けたのではないか。

■映像化を見据えて作られている韓国マンガ

そこで思うのは、Netflixがそもそも日本のマンガ原作を実写化する理由だ。

これまでマンガやアニメの原作を実写化することに否定的な意見が多かったことは事実にある。Netflixでも過去に実写の英語シリーズとして作られた「カウボーイビバップ」が期待外れに終わったこともあった。

日本のマンガやアニメ原作ドラマから確実なヒットがなかなか生まれてこない間に、韓国発のウェブトゥーン(タテ読みウェブマンガ)を原作にした実写ドラマが台頭もした。

ゾンビドラマ「今、私たちの学校は…」やサバイバルホラー「Sweet Home 俺と世界の絶望」などNetflixで次々とヒット作品が生まれている。

こうした流れを受けて、Netflixのコンテンツ取得部門アジア担当バイスプレジデント(インドを除く)キム・ミニョン氏は2023年12月13日に開催したアジアのプレス向け説明会「APACショーケース」で韓国ウェブトゥーン発ドラマに今後も注力していくことを明かしている。

ウェブトゥーンは映像化を見据えて作られていることが特徴の1つにあり、実写化との相性が良いのは当然だろう。

■日本のマンガ実写化にある「強み」

日本のマンガやアニメはそうではないから、原作の世界観やキャラクターをいかした新たなクリエイティブとして捉える必要がある。むしろそれが、新たな価値を生み実写化の障壁を超えると考えたからこそ、Netflixは実写化を進めているのだ。日本のマンガやアニメのファンマーケットが既に世界で確立されていることも大きい。

Netflixジャパンのコンテンツ部門バイスプレジデント坂本和隆氏の発言からもそれを裏付けることができる。個別に今後の方針について聞いた時だった。

「日本のマンガ文脈がある作品はポテンシャルがあるマーケットの1つだと思っています。たくさんの魅力的な作品があり、ファンベースで広がっていくことも強みにあります」と語っていた。

実際にNetflixシリーズ「ONE PIECE」と「幽☆遊☆白書」がヒットしたことで確信しているはずだ。

実写版「ONE PIECE」
画像提供=Netflix
実写版「ONE PIECE」 - 画像提供=Netflix

■オリジナルのストーリーという道

2024年以降のNetflix日本発作品のラインナップをみると、話題作の中心はマンガやアニメ原作の実写版であることがわかる。

鈴木亮平が冴羽獠役の「シティーハンター」が2024年に全世界配信を予定し、またシーズン1&2を合わせた全世界の視聴時間が3億6800万時間に上る「今際の国のアリス」の最新作の撮影も始まっている。

シーズン3も山﨑賢人と土屋太鳳がW主演を続投し、原作マンガの世界観をいかしてオリジナルのストーリーが展開されるという。

これらもまた成功事例となれば、日本のマンガやアニメ原作を活用した実写マーケットはきっと作られるはずだ。

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長谷川 朋子(はせがわ・ともこ)
テレビ業界ジャーナリスト
コラムニスト、放送ジャーナル社取締役、Tokyo Docs理事。1975年生まれ。ドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、国内外の映像コンテンツビジネスの仕組みなどの分野で記事を執筆。東洋経済オンラインやForbesなどで連載をもつ。仏カンヌの番組見本市MIP取材を約10年続け、番組審査員や業界セミナー講師、行政支援プロジェクトのファシリテーターも務める。著書に『NETFLIX 戦略と流儀』(中公新書ラクレ)などがある。

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(テレビ業界ジャーナリスト 長谷川 朋子)

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