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睡眠不足の人の脳は「日本酒を1、2合飲んだ人」と同じ…世界で最も睡眠時間が短い日本人を襲う"健康被害"

プレジデントオンライン / 2024年1月31日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

日本人は睡眠不足だ。OECDの調査によると平均睡眠時間は7時間22分で、先進国を中心にした世界33カ国のうち最も短かった。産業医の池井佑丞さんは「睡眠時間が5時間を切る日が続くと、徹夜明けや日本酒を1~2合飲んだのと同じくらい脳の機能が低下する。加えて、睡眠時間が短いと健康を害することが多数の研究で示されている」という――。

■日本人の67%は睡眠時間が7時間未満

日本人の睡眠時間は、世界的に見ても短い状態が続いており、深刻です。

経済協力開発機構(OECD)の調査「Gender Data Portal 2021」によると、日本の15歳から64歳までの男女の平均睡眠時間は7時間22分とされており、先進国を中心にした世界33カ国のうち、日本が最も睡眠時間の短い国であることが判明しました。一方、睡眠時間が一番長い米国は8時間51分で、日本人よりも1時間半も長く睡眠をとっていることが明らかになりました。[経済協力開発機構(OECD)「Gender Data Portal 2021」]厚生労働省の調査でも、睡眠時間が7時間に満たない人の割合は67.7%に上ることが示されています。(厚生労働省「令和3年度 健康実態調査結果の報告」2022年1月)

そもそも、なぜ睡眠を取ることが重要視されるのでしょうか。

慢性的な睡眠不足が続くと、疲労感や日中の眠気に加え、抑うつ、注意力や判断力の低下、作業効率の低下ばかりでなく、体内のホルモン分泌や自律神経機能にも影響するといわれています。また、睡眠不足が続くと食欲を抑えるホルモン(レプチン)が減少し、反対に食欲を高めるホルモン(グレリン)が強まり食欲が増大。加えて日中の活動レベルも低下するため、肥満のリスクが高くなります。

■慢性的な睡眠不足で脳は“日本酒を1~2合飲んだ”状態に

不眠症や睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害がある場合は、交感神経の緊張による血管の収縮、血糖を上昇させるホルモンの過剰分泌、代謝異常などが起こり、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の発症につながり、心筋梗塞、脳血管疾患などの非常に重い疾患を引き起こす危険性が高まります。

そのため、日常的に質・量ともに十分な睡眠を確保することで心身の健康を保持し、生活の質を高めていくことが重要視されています。(厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド 2023(案)」2023年12月21日)

睡眠不足だと、うまく頭が回らないと感じたことがある方も多いのではないでしょうか。これは決して気のせいではありません。睡眠時間が5時間を切る日が続くと、徹夜明けや日本酒を1~2合飲んだのと同じくらい脳の機能が低下するといわれています。それだけでなく睡眠不足が健康を害することを示す研究は多数に上ります。

■「睡眠時間9時間以上で健康に影響」寝過ぎもよくない

5万6953人の女性を対象にした海外の調査によると、睡眠時間が5時間以下の人は、睡眠時間が8時間前後の人と比較し、1.70倍肺炎になるリスクが高いことが判明しました。(Sanjay R Patel, et al. : A prospective study of sleep duration and pneumonia risk in women, Sleep. 2012 Jan 1;35(1):97-101.)

4419人の日本人男性を対象に調査した自治医科大学の研究では、睡眠時間が6時間未満の人は7~8時間の人に比べて死亡率が2.4倍高くなるという報告もあります。(Yoko Amagai, et al. : Sleep duration and mortality in Japan: the Jichi Medical School Cohort Study, J Epidemiol. 2004 Jul ;14(4):124-8.)

ただし、たくさん寝れば良いというわけでもなく、寝過ぎもまた身体によくありません。前出の肺炎リスクの研究では、睡眠時間が9時間以上になると睡眠不足と同様に肺炎リスクが上がることもわかっています。多くの研究でも、睡眠時間が9時間を超えると健康に影響が出る傾向が示されています。

目覚まし時計
写真=iStock.com/BrianAJackson
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BrianAJackson

■レム睡眠の不足と認知症発症リスクの関連が指摘されている

睡眠は疲労回復に必須です。人をはじめ哺乳類は、睡眠によって心身ともに完全な休養状態に入ります。睡眠中に脈や呼吸はゆるやかになり、血圧の低下や筋肉の緊張もほぐれます。体温が下がることで中枢神経も休憩し、身体は完全な休養状態となり疲労回復します。

睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠という2つの状態から構成されることは広く知られていると思います。寝入ってから1~1時間30分程度で完全な深い睡眠状態に入り、これをノンレム睡眠といいます。続いて目覚めているときと同じような浅い睡眠状態を呈するレム睡眠に移り、この2つの睡眠の型が一晩の間に2~3回交代します。ノンレム睡眠中のホルモン環境が疲労回復に欠かせないことは以前からわかっていましたが、夢が活発に生じるレム睡眠中の脳や体の回復への寄与は謎でした。

筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の林教授の研究によると、レム睡眠中に脳の毛細血管の血流が上昇することが確認されました。このことから、レム睡眠中は脳への栄養供給や老廃物除去などの物質交換が活性化している可能性が示唆されました。脳はレム睡眠によってリフレッシュされるので、レム睡眠が不足すると、こうした物質交換が正常に起こらず、脳細胞の機能低下や老廃物が蓄積するため、アルツハイマー病などの認知症発症リスクとの関連が指摘されています。(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構「睡眠中の脳のリフレッシュ機構を解明」2021年9月1日)

■睡眠の「質」を高める3つのポイント

厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023(案)」では、成人の適性睡眠時間は“6時間以上”を推奨しています。ただし、適切な睡眠時間には個人差があります。最低でも6時間以上とし、ご自身に合った睡眠時間を見つけましょう。長く寝たのに疲労が十分回復していなかったり、夜中に目が覚めてしまう場合は、睡眠の「量」ではなく「質」を高めることが必要です。最後に睡眠の質を高める3つのポイントをご紹介します。

入浴は就寝2時間前に済ませる

入浴の睡眠への効果は加温効果にあり、これは運動をしたのと同じように、就寝前に体温を一時的に上げることができます。深い睡眠をとるには、就寝の2~3時間前の入浴が理想で、38度のぬるめのお湯で25~30分、42度の熱めのお湯なら5分程度入浴することで、寝付きへの効果は認められています。

有酸素運動の習慣化

継続的に運動の習慣をつけるのも効果的で、有酸素運動(早足の散歩や軽いランニング)がおすすめです。特に高齢者や不眠がちな方に効果的で、寝付きの良さと深い睡眠が得られるようになります。ただし、激しい運動は睡眠を妨げるので就寝前は控えましょう。特に夕方から就寝3時間前くらいのタイミングでの運動が最も効果的で、脳の温度を一過性に上げることがポイントです。そうすることで、床に入るタイミングで脳の温度が下がり、快眠が得られやすくなるといわれています。(厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」)

眠る4時間前のアルコール摂取は控える

アルコールは寝つきが良くなると感じる一方、睡眠の後半において眠りが浅くなったり、睡眠が分断されたりするなど、睡眠に対して悪影響を与えることが明らかになっています。アルコールは一種の麻酔薬なので、高い濃度を摂取すると脳が麻痺したり意識をなくしたりします。一方、少量では本能や感情をつかさどる大脳辺縁系の活動を高めることもあり、酔いが醒めてくる段階ではかえって脳の活動が活発化し、睡眠を妨げるのではないかと思われます。

また、睡眠時無呼吸症候群の人は、お酒を飲むと喉や舌根の筋肉が弛緩(しかん)しやすくなり、気道を塞いで睡眠時の無呼吸発作が悪化する可能性があります。特に、飲んで寝た時にいびきがひどくなったり、無呼吸が実際にある人は要注意です。実際に男性の場合、1日の飲酒量が1杯増えるごとに無呼吸の発症リスクは25%以上増加するという研究結果も報告されています。無呼吸の自覚がある方は、少なくとも就寝前4時間以内の飲酒は控えるようにしましょう。(Paul E. Peppard, et al. : Association of Alcohol Consumption and Sleep Disordered Breathing In Men And Women, J Clin Sleep Med. 2007 ;3(3):265-270.)

赤ワイン
写真=iStock.com/Mick Koulavong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mick Koulavong

■「睡眠時無呼吸症候群」が隠れている場合もある

深い睡眠を得るためには、眠る前に心も体もリラックスしていることが大切です。仕事や家事でストレスを受けた心身を、入浴や軽い運動などでリラックスさせてから布団に入ることで、質の高い睡眠につながります。

睡眠時間はしっかり確保できているのに疲れが取れないという方は、アルコールの部分で少し触れましたが、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害の可能性も考えられます。治療が有効な場合もありますので、かかりつけ医に一度相談してみると良いでしょう。

心身ともに回復するためには、「十分な睡眠時間」と、「質の良い眠り」の両方が必要であることをぜひ意識していただければと思います。

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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