アルコール度数3%、5%、7%に「9%出ました」は全然ダメ…檸檬堂仕掛け人が作った秀逸キャッチフレーズ
プレジデントオンライン / 2024年2月3日 14時15分
※本稿は、和佐高志『メガヒットが連発する 殻を破る思考法』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
■コカ・コーラがアルコールを出すことのリスクはどの程度か
「檸檬堂」のプロジェクトにおける大きな難関は、アトランタのグローバル本社の最終許可を得ることでした。幸いにも日本コカ・コーラで、このシークレットプロジェクトを応援してくれていた戦略チームのヴァイスプレジデントがいました。
私の上司と同格の人物でしたから、私より少し上の立場になります。戦略チームで事業ポートフォリオ戦略を担っていた彼が「私がアトランタの承認を取る役割をするから、和佐さんたちは製品開発に全力を尽くして欲しい」と言ってくれました。なんとも心強いパートナーです。最終的にそのヴァイスプレジデントや日本コカ・コーラの社長が、アトランタ本社の承認を取ってくれたのです。
そこで我々が強調したのは、九州でテストマーケットをする、ということでした。コカ・コーラがアルコールを出して、どんなリスクが出てくるか。日本で何か起こらないか。それが海外に飛び火したりしないか。
本社が何より懸念していたのは、アルコールを出すことのリスクがどの程度なのか、でした。なので、九州でテストしましょう、と伝えたのです。
九州は日本の南端にあって、日本全体の10%ほどのマーケット。それなら、まずは大丈夫だろう、ということになりました。
■「コカ・コーラがとうとう酒を売るか」
九州のテストマーケティングでは、発売1カ月でいきなり缶チューハイレモンフレーバー部門のトップシェアを獲得しました。九州でしか売っていないのに、人気タレントが全国放送のテレビ番組で取り上げてくれたりもしました。
テレビ番組というのは「マツコの知らない世界」です。3種類のラインナップや前割りレモン製法まで紹介してくれ、「コカ・コーラがとうとう酒を売るか」というマツコ・デラックスさんのセリフまで飛び出しました。これが大きな話題になり、ますます人気に火が付きました。九州に出張に行ったビジネスパーソンがお土産に買って帰っている、という話も聞きました。
もちろんテストマーケティングですから調査もしました。消費者からは「飲みやすい」「クリアテイスト」「フルーツテイストがおいしい」「クラフトマンシップを感じる」「新しい」「フレッシュ」といった声が上がっていました。
どうして購入したのかを聞くと、「クラフトのレモンサワーだったから」「レモンがたくさん入っているから」という理由がもっとも多かった。まさに狙い通りでした。
一方で、課題も見えてきました。
■「若い女性も飲んでいいんだ」と買ってもらえた
缶酎ハイのユーザーには、さまざまな人がいます。1週間で缶酎ハイを何本も飲む人もいれば、数カ月に1本という人もいます。
酎ハイ市場の8割を構成しているのが、1週間に何本も飲む人。言ってみれば、ヘビーユーザーによる購買なのです。
競合と比べたとき、「檸檬堂」はこのヘビーユーザーが取れていないことがわかりました。その理由の一つが、逆にいえば私たちの成功の理由でもありました。ほとんど酎ハイを飲まなかった人たちが、買っていったからです。
テレビCMでも、若い女性たちが飲んでいるというシーンを登場させました。「ああ、若い女性も飲んでいいんだ」という雰囲気を醸し出した。
これまでのレモンサワーは、「私たちのものではなかった」と思っていたけど、「こんな素敵なブランドができたのなら」と、若い女性たちにも買ってもらえたのです。
パッケージがこれまでとはまるで違っていたことも大きかったと思います。いわゆる「ジャケ買い」です。
■「プレミアム市場」を作り、マーケットを拡大した
実際、これまで飲んでいなかった若い女性が、インスタグラムに次々に「『檸檬堂』を飲んでいる」と投稿してくれたりしました。新しいカテゴリーユーザーが入ってきたのです。
もともと3000億円だった酎ハイマーケットは、3年で4000億円規模に拡大しています。私たちが若い女性やライトユーザー向けを出したことで、競合も次々と同じカテゴリーに商品をぶつけてきたからです。
しかも、「檸檬堂」が創ったのは、従来よりも値段の高いプレミアム市場です。108円ではなく、128円、138円。これは、お店からも喜ばれました。1缶のスペースは同じでも、入ってくる利益が大きいからです。
単価が上がり、しかも安売りしなくても売れるプレミアムの酎ハイ。だから、日本コカ・コーラがアルコール飲料に入ってきても、喜んでもらえたと私は思っています。すごいですね、いいブランドですね、おいしいですね、という声も業界内からいただきましたが、プレミアムで来たことが大きかったのではないかと思うのです。
つまり、マーケットを大きくすることができたのです。
■シェアを少し奪われても、マーケットの拡大はありがたい
競合にすれば、マーケットシェアを少し奪われようが、マーケットが3000億円から4000億円になったら、こんな嬉しいことはない。しかもプレミアム市場を開拓してくれたのです。だから、「やってくれてありがとう」だったと思うのです。
もし、エッジも立てず、プレミアムも狙わず、単に新商品を出して、競合内でシェアの食い合いをしていただけなら、お叱りを受けたかもしれない。しかし、市場を大きくし、しかもプレミアムマーケットを創造できたというのは、マーケット関係者からは歓迎されたのです。
この成功によって、私は2020年に日経クロストレンドの「マーケター・オブ・ザ・イヤー」大賞に選んでいただきました。実際にはチームが作ったのだと声を大にして言いたいですが、それでも選んでもらったのは、単にシェアの食い合いをするのではなく、新しいマーケットを開拓できたからだと思っています。
■「9%の『鬼レモン』が出ました」にはしなかった
少し時計を進めてしまいましたが、九州のテストマーケティングで見つけたヘビーユーザーに支持されていないという課題には、もちろん対策を打ち出しました。ヘビーユーザーからの支持が大きくならなかったのは、テレビCMに若い女性を使ったことに加えて、高いアルコール度数のラインナップがなかったからだとわかっていたからです。
「檸檬堂」が出していたのは、3%、5%、7%の3種類。そこで9%の度数の製品を作ることにしたのです。これが、「鬼レモン」でした。
普通なら、「9%の『鬼レモン』が出ました」とうたう広告を作りますが、そうはしませんでした。
「鬼レモン」を打ち出すにあたり、徹底的にリサーチをしたのです。そして、データを取って分析しました。3%、5%、7%、9%のアルコール度数があったとき、どんなふうに製品を選ぶのかを聞いたのです。
それでわかったのは、「実は気分によって選んでいる」ということでした。期待されていたのは、3%、5%、7%、9%のラインナップが揃っているということであって、「9%が出ました」という打ち出し方ではないとわかったのです。
■「あなたは何レモン?」で全ラインナップが伸びた
実際、「9%が出ました」という打ち出し方を求めていない、ということはデータからもはっきりわかりました。それは、ヘビーユーザーでも同様でした。
そこで、3%の「檸檬堂 はちみつレモン」、5%の「檸檬堂 定番レモン」、7%の「檸檬堂 塩レモン」、9%の「檸檬堂 鬼レモン」の4種類の製品の写真を並べ、「あなたは何レモン?」というキャッチフレーズをつけた広告を作りました。これが、強く支持され、すべてのラインナップが大きく伸びたのでした。
さらに後に350ミリリットルだけでなく、500ミリリットルも出すことになりますが、ここでも知恵を絞りました。単なる「500ミリリットルが増えました」では、あまりに面白くない。
リアルな専門店では、普通よりも大きなサイズのレモンサワーは「メガサイズ」といったネーミングで出されていました。そこで、「檸檬堂」も「ホームランサイズ」という呼び名にしたのです。
これは、チームのメンバーのアイデアでした。お店風にしたい、ホームランサイズという名前にしたいと聞いたときには、なんとも遊び心を感じられて、笑いながらすぐに「よし、それで行こう」とジャッジしたのを覚えています。
少人数でのプロジェクトで、私にほとんど100%の権限が委ねられており、「和佐さんがいいと思うなら、やったらいいよ」という状況を会社が作ってくれていました。だから、すべてにおいて遊び心たっぷりの仕事にすることができたのが、「檸檬堂」のプロジェクトでした。
■レッドオーシャンに見える市場でもチャンスは必ずある
私がOKを出せば、なんでも動いてしまう。歴史ある大きなブランドだと、こうはいきません。いろいろなところで、「前はこうだった」といったチャチャが入る。しかし、新ブランドはそんなことはないのです。
細かなところまで遊び心を使い、楽しく進めたのでした。だからこそ、うまくいったのだと思っています。そして、やはり王道、定番にこだわったこと。一番売れるのは、やはり真ん中なのです。
真ん中でこそ、勝負する。そして、どこにもないエッジの立ったものを作る。「ああ、これは私のブランドだ」と思えるものにこだわる。レッドオーシャンに見える市場でも、チャンスは必ずあるのです。
「檸檬堂」はすでにグローバルに進出しています。パッケージの漢字の部分をそのままアルファベットの「LEMONDO」にして、世界のポテンシャルのあるところで販売されています。
たとえばフィリピンでは、大変な売れ行きで、「アルコポップ」市場ですでに定番ブランドになっているそうです。グローバルのコカ・コーラでは、このプロジェクトが発端になって、アルコール製品の新たな模索が始まっています。
コカ・コーラという世界的企業の新たなポテンシャルをも、「檸檬堂」はこじ開けたのです。
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Jukebox Dreams代表取締役CEO
1990年、同志社大学文学部新聞学科卒業後、P&Gジャパン・マーケティング本部入社。医薬品、紙製品のマーケティングに始まり、化粧品&スキンケア、洗濯関連カテゴリー等を担当。ブランドと人材育成の実績を重ね、ブランドマネジャーからマーケティングディレクターへ。2006年、紙製品、化粧品&スキンケア事業部担当のジェネラルマネジャーとして、P&Lの責任を持つ。2009年より、日本コカ・コーラのお茶カテゴリーマーケティング責任者。「太陽のマテ茶」や「からだすこやか茶W」などの新製品発売および「綾鷹」ブランドの立て直しなどによるお茶カテゴリーV字回復を実現。2013年、同社副社長に就任し、「ジョージア ヨーロピアン」「世界は誰かの仕事でできている。」キャンペーンなど複数の大型ブランドのビジネス拡大推進をリード。2019年にコカ・コーラ社世界初となるアルコールブランド「檸檬堂」の開発責任者として成功を収め、最高マーケティング責任者に就任。2020年、日経クロストレンドが選出する、マーケター・オブ・ザ・イヤー大賞受賞。2023年、同社を退社。Jukebox Dreams(ジュークボックスドリームズ)を設立、同社代表取締役CEO就任。
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(Jukebox Dreams代表取締役CEO 和佐 高志)
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