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モナリザが有名になったのは「たまたま」だった…1911年の盗難事件まで「無名の作品」だったという史実

プレジデントオンライン / 2024年1月29日 11時15分

レオナルド・ダ・ヴィンチ『モナ・リザ』(画像=ルーヴル美術館/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)

レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』は史上最高の絵画と名高い。ところが、1911年の盗難事件で注目されるまでは、無名の作品にすぎなかった。行動学者のジョン・レヴィ氏の著書『影響力の科学 ビジネスで成功し人生を豊かにする最上のスキル』(小山竜央監修、島藤真澄訳、KADOKAWA)より、一部を紹介しよう――。

■その絵画は、誰にも気づかれずに盗まれていた

1911年8月21日月曜日、午前6時55分、白い作業スモックを着た男が、フランス、パリのルーヴル美術館に入った。毎週月曜日、ルーヴル美術館は清掃、メンテナンス、搬出入のために一般公開されず、そのため男は気づかれずに行動できた。おまけにこの時、美術館は、当時世界最大の建物(約18万2000平方メートルの敷地に1000の部屋)の警備要員を、すでに166人から僅わずか12人にまで減らしていた。

男は誰もいないホールを歩きながら、ルネッサンス絵画を集めたサロン・カレに入った。中に入ると、彼はイタリアの巨匠たちによる数多くの作品の中で、どれが一番気に入ったかを少し考えたが、脱出しやすさを考慮し、一番小さな作品を手に取った。何の変哲もない作品だが、額縁を外すと、脱出するのに便利なサイズだった。

彼はそれを横のドアから運び出し、人目を避けて逃げようと考えたが、この日は横のドアに鍵(かぎ)がかかっており、別の作戦が必要だった。

そこで彼は大胆な策に出た。絵を白いスモックに包み、脇に挟んで、入った時と同じように外に出たのだ。※1

驚くべきことに、誰にも気づかれず、誰にも止められなかった。翌日、美術館が一般公開されて初めて、ある来館者が絵がなくなっていることを警備員に知らせた。

■“空っぽの場所”を見るために大勢の人が殺到

美術館の警備本部は、作品は写真撮影や修復のためにルーヴル美術館の職員によって持ち出されたに違いないと断言していたが、やがて盗まれたことが知れ渡った。世界中の新聞がこの話を取り上げ、1面の見出しにまでなった。

それはイタリア・ルネサンス時代に描かれたこの無名な作品について、誰も聞いたことも関心を持ったこともなかったからではなく、ルーヴル美術館を管理するフランス政府の無能さを揶揄(やゆ)するためだった。窃盗事件への怒りが高まり、その返還のために報奨金が出されるようになると、ルーヴル美術館の脇の展示室に飾られていたこの無名の作品は、瞬く間に世界で最も有名な絵画となった。

強盗事件は伝説となり、ルーヴル美術館が再開されると、サロン・カレに人々が押し寄せ、その中には有名な作家フランツ・カフカもいた――かつてその絵があった場所が空っぽになっているのを見るためだけに。パリ中に6500枚もの指名手配書が配られ、絵画を特定するよう呼びかけられ、泥棒を捕まえなければならないというプレッシャーから、60人の刑事がこの事件を担当することになった。

彼らは手がかりを探そうとしたが、何も出てこなかった。

■盗品を受け取っていたのは若き日のピカソだった

それから2カ月後、報奨金目当ての何者かが、ルーヴル美術館から何度も作品を盗み出し、“友人“に売ったと地元紙を訪ねてきた。その“友人”というのが、詩人で作家のギヨーム・アポリネールと、パブロ・ピカソというスペイン人画家だと警察が気づくのにそう時間はかからなかった。

そう、そのピカソこそ、間もなく世界的に有名なキュビズムの画家となる人物だった。噂が広まると、2人は盗まれた美術品を処分しなければならないと悟った。2人はすべてをケースに詰め、夜陰にまぎれて川に投げ込もうとしたが、その瞬間、投げ込む気が失(う)せた。

代わりにアポリネールは地元新聞社に作品を返却し、匿名を求めた。数日後、警察は彼を拘束し、ピカソにも出頭するよう命じた。2人は怯(おび)え、豹変(ひょうへん)したピカソはギヨームとは面識がないとまで言い出した。

運のいいことに、彼らが返却した作品はルネサンス絵画ではなく、紀元前3~4世紀に製作されたイベリア彫刻だった。実はこれらの作品は、ピカソの有名な絵画『アビニョンの娘たち』のインスピレーションの源だったのだ。(※2)絵画の窃盗とは何の関係もないため、事件は却下され、2人は釈放された。※3

■評論家すら目もくれない作品がなぜ「史上最高の絵画」に?

この絵が再び姿を現したのは、1913年12月のことだった。ルーヴル美術館に勤めていたガラス職人のヴィンチェンツォ・ペルッジャは、この絵を売るためにフィレンツェ行きの列車に乗り、有名な画商に会いに行った。

しかし、作品が確認されると、画商は警察に通報し、ヴィンチェンツォは逮捕された。有罪を認めた後、彼はわずか8カ月間服役した。その間、世間は絵画の返還を喜んだ。絵はフィレンツェ、ミラノ、ローマを短期間巡業した後、ルーヴル美術館に戻された。

レオナルド・ダ・ヴィンチが描いたこの女性の肖像画がサロン・カレに再び飾られた時、10万人以上の人々がこれを見に来た。防弾ガラス、警備員、お金で買える最高のセキュリティシステムで守られていた。ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』は現在、年間800万人以上の来館者を集めている※4

では、1507年に描かれ、1860年までルネサンス絵画の貴重な表現として美術評論家にすら認識されていなかったこの絵画が、事件以前まではほとんど誰も関心を持たなかったにもかかわらず、多くの人に史上最高の絵画と評価されるまでになったのはなぜだろうか。そして、それが私たちがどのようにつながり、どのように付き合うかにどう関係することになるのだろうか。※5

■もし盗まれていなかったら、有名になることはなかった

食べ物、音、製品など、何かに触れるだけで、それがより好きになるというのは、私たち誰もが持っている、面白い癖やバイアスだ。

旅先で、その土地の郷土料理を試してみたくなることがあるだろう。オーストラリアで人気の酵母エキスを使った発酵食品、ベジマイトを試してみれば、地元の人は最高のスナックだと断言するが、外国人は控えめに言っても理想的ではないと感じるだろう。あるいは、新曲が発売されたとき、その曲には興味がなかったが、10回目に聴いたとき、その曲の良さがわかってきたということもあるだろう。

これは研究者が「ザイアンスの法則(単純接触効果)」と呼ぶものだ。私たちは、何かに触れれば触れるほど、それを好きになり、信頼し、より心地よく感じるようにできている。

モナ・リザが伝説的な絵画であるのは、それが他のすべての絵画よりもずば抜けて優れているからではなく、むしろ私たち全員が何度もそれに触れてきたからで、そもそも私たちが絵画に触れたのは、それが盗まれたからにほかならない。

もし盗まれていなかったら、私たちはこの絵のことを知ることもなかっただろう。何百万枚もの写真やセルフィーを撮られることもなく、ルーヴル美術館の脇の小部屋の壁に飾られたままだったかもしれない。

パリのルーヴル美術館入り口にあるガラスのピラミッド
写真=iStock.com/Jean-Luc Ichard
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jean-Luc Ichard

■人間は、自分と根本的に異なる人とはつながりを持たない

単純接触効果は非常に強力で、私たちが何を食べ、どのような服装をし、誰と時間を過ごすかに影響を与える。面白いことに、私たちが何よりも接触しているのは自分自身だ。だから、自分と最も共通点を持つ人が、私たちとつながる可能性を最も持っているというのは理にかなっている。

私たちが行った、出会い系に関する調査で、ほとんどすべての特徴(イニシャル、大学のタイプ、NCAAスポーツの経験、宗教など)において、共通点が多い人ほどつながる可能性が高いことを発見した理由でもある。

正直に言えば、私たちのほとんどは、自分とは根本的に異なる人たちとはつながりを持たない。私たちは、政治的見解、収入レベル、宗教的信条、好きなスポーツチームなどが似ている人と、一緒に過ごす傾向がある。

「マイクは違う宗教の信者だけど、私たちは親友だよ」と言うかもしれない。常に異常値はあり得るが、マイクの収入、キャリア、政治的見解、価値観、好きなスポーツチームなど、あなたと重なる部分がたくさんあるはずだ。これらは「マルチプレックス(多重関係)」と呼ばれる。

■机が隣同士の同僚を50メートル離してみると…

シングルプレックスとは、共通点が1つの関係(例えば、あなたが店の客で、相手がレジを打っている)のことである。もし2人が同じヘアスタイリストを使い、同じジムに通い、同じ教会に通うなら、2人は複数の関連点を持ち、マルチプレックスを持つと定義される。

接点が増えれば増えるほど、人と人がつながる可能性も高まるという研究結果がある。プレックスが増えれば増えるほど、人々の目に触れる機会が増えることを考えれば、これは驚くべきことではない。

衝撃的なのは、距離がもたらす驚くべき効果である。

もし、友人と会うたびに車で6時間かかるとしたら、ただ会うためだけに行かないだろう。1970年代、マサチューセッツ工科大学のトーマス・アレン教授は、オフィス間の距離が人々のコミュニケーションやつながりに、どのような影響を与えるかを理解しようとした。誰かが外国にいる場合、おそらく滅多に会うことはないだろう。

しかし、フロアを挟んで座っているのと、机が隣接している場合とで、どのくらい接触の頻度に差があるだろうか。

コミュニケーションの頻度とデスクの距離をグラフにしたところ、アレンは驚くべき結果を発見した。2人の席が近ければ近いほど、コミュニケーションは指数関数的に増加したのである。2人の距離が50メートル以上離れると、コミュニケーションは途絶え始めた。この関係は後にアレン曲線として知られるようになるが、デジタル・コミュニケーションにおいても同様である。

タブレットを見ながら会話する2人のビジネスパーソン
写真=iStock.com/Morsa Images
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Morsa Images

■“内輪の共通点”以外でつながるにはどうすればいいのか

アレンは著書の中でこう述べている。

我々の研究データは、距離とともにすべてのコミュニケーション手段の使用が減少することを示している。……私たちが誰かと顔を合わせる機会が多ければ多いほど、その人に電話をかけたり、別の媒体でコミュニケーションをとったりする可能性は高くなる※6

親と同じような仕事をする子供が多いことに、私はよく驚かされる。このような共通の基盤があれば、子供のころに見たお気に入りの番組について思い出したり、地元のスポーツチームを観戦したりするときに安心できるかもしれない。

しかし、自分の内輪や育った場所を超えたところに願望や目標がある場合には、これは信じられないほど限定的なものだ。私たちが求めているのは、こうした限定的な要素を超えて人々とつながる方法なのだ。私たちは、尊敬し、憧(あこが)れ、成功をもたらしてくれる人々との有意義な関係を望んでいる。

私の場合、億万長者やプロスポーツ選手、セレブ、ビジネス界の重鎮と一緒に育ったわけではない。父はアーティストで母はミュージシャンのため、一緒に育った人はクリエイティブな人に限定されている。それはそれで刺激的かもしれないが、私が学びたいこと、興味ある職業とはまったく無縁だった。

■「他人は自分の価値を知らない」ことを常に忘れないこと

しかし今、私の人生は多様な人間関係のおかげで限りなく豊かになっている。それは、単純接触効果を超える方法やマルチプレックスを研究するために、費やした時間のおかげである。

ジョン・レヴィ『影響力の科学 ビジネスで成功し人生を豊かにする最上のスキル』(KADOKAWA)
ジョン・レヴィ『影響力の科学 ビジネスで成功し人生を豊かにする最上のスキル』(KADOKAWA)

その始まりは、影響力の大小にかかわらず、人々とつながりを持つためには、2つの重要な要素を理解する必要があるということに気づいたことだった。

1 私たちの存在に気づいてもらう方法:誰も知らない人から面談の申し出を受けたり、商品を買ったり、知らない非営利団体に寄付したりはしないし、学生も聞いたことのないクラブで宣誓しないだろう。

2 私たちと関わりたいと思ってもらう方法:たとえ彼らが私たちや私たちの製品、活動、組織について聞いたことがあったとしても、お金を払ったり関わったりするのには、十分な価値を見いだす必要がある。

これらの要素を理解することで、私たちは誰とでもつながることができる。覚えておいてほしいのは、誰かが私たちに出会う前は、私たちが誰なのか、私たちがどれほど素晴らしい人間なのかを、おそらく知らないということだ。

自分の立場からは、自分らの輪の一員になりたくないというのは想像しにくいかもしれないが、しかし実際には、ほとんどの人々とつながるためには、彼らが何に価値を置いているかを知る必要がある。

1:“The Missing Piece: Mona Lisa, Her Thief, the True Story,” IMDb.com, October 20, 2012.

2:Noah Charney, “Pablo Picasso, Art Thief: The ‘Affaire des Statuettes’ and Its Role
in the Foundation of Modernist Painting,” Arte, Individuo y Sociedad 26, no. 2 (2014):
187-198.

3:James Zug, “Stolen:How the Mona Lisa Became the World’s Most Famous Painting,”
Smithsonian Magazine, June 15, 2011.

4:Zug, “Stolen.”

5:NPR staff, “The Theft That Made The ‘Mona Lisa’ A Masterpiece,” NPR. Ac-cessed August 12, 2020.

6:トーマス・J・アレン、グンター・W・ヘン著、糀谷利雄、冨樫経廣訳、株式会社日揮監修、『知的創造の現場 プロジェクトハウスが組織と人を変革する』ダイヤモンド社、2008年

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ジョン・レヴィ 行動科学者
米国の行動科学者。信頼、人のつながり、帰属意識、影響力の研究で知られ、企業によるマーケティング、セールスなどの変革が専門。クライアントはフォーチュン500に名を連ねるマイクロソフト、サムスンから新興企業まで幅広い。ノーベル賞受賞者、オリンピック選手、経営者からグラミー賞受賞者まで業界のリーダーが集まる秘密の食事会「インフルエンサー・ディナー」を設立し、この種のコミュニティとして世界最大に発展している。著書に『The 2 AM Principle』(Regan Arts. 2016)など。

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(行動科学者 ジョン・レヴィ)

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