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「偏差値40台でも医者になれる」は過去の話…私立大学医学部が「超人気・超難関」になったワケ

プレジデントオンライン / 2024年1月30日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taka4332

医学部の受験熱が過熱している。かつて私立大学では偏差値40〜50台の医学部もあったが、今や国公立大学医学部とほぼ同等の難関となり、倍率も高くなっているという。医学部専門予備校「京都医塾」による書籍『うちの子、医学部ってアリですか?』(クロスメディア・パブリッシング)より、一部を紹介する――。(第1回/全2回)

■「医学部受験戦争」は激化している

本稿では、「本気で医学部を目指したい」という方に対し、医学部受験の最新動向についてお話ししていきます。

一部のメディアは「医学部地域枠の定員割れ」を報じ、地域枠の医学部合格のハードルが下がったと紹介しました。また、ご自身がかつて医学部を受験し、合格した経験がある保護者さまであれば、「比較的低い偏差値でも合格できる医学部があるのではないか」「国公立大学の医学部は難しいかもしれないが、私立大学の医学部なら十分チャンスがあるのではないか」と考えておられる方もいらっしゃるかもしれません。

ここ10年間ほどの医学部受験の全体的な傾向は「医学部入学定員はわずかに増加しているものの、総志願者数、特に私立大学の志願者数が大幅に増加し、合格の最低ラインが上がった」と要約することができ、受験生にとって「医学部受験競争」は激化しているのです。

詳しく見ていきましょう。

■定員は増えたが、志望者数はもっと増えた

まずは医学部の入学定員についてです。

医学部の定員は、2008年に地域の医師不足や診療科の偏在を背景に「過去最大程度まで医学部の定員を増やす」と閣議決定されました。実際に見てみると2010年から10年間で484人増加しました(図表1)。

【図表】医学部入学定員の推移
出所=『うちの子、医学部ってアリですか?』

令和に入ってからも微増しています。ただし、今後も増加傾向が続くかどうかは不透明な状況です。

次に医学部の志願者数を見ていきましょう。

図表2の棒グラフは、医学部入試の入学志願者数の推移を表しています。国公立大学の志願者はほぼ横ばいですが、私立大学の志願者は2010年から2020年にかけて大きく増加。それ以降も高止まりしています。

図表2の折れ線グラフは、医学部入学定員の推移を表しています。入学定員の増加率に対して志願者数の増加率の方が大きく、定員が増えたことによって医学部に入学しやすくなったというわけではなく、それどころか激化していることがわかります。

【図表】近年の医学部志願者数と定員の推移
出所=『うちの子、医学部ってアリですか?』

■私立医大学学部の倍率はなんと26.2倍

2021年時点において、全国にある医学部の数は82校で、うち防衛医科大学校を含めると国公立大学が51校、私立大学が31校です。これらすべての入学定員は約9400人と、1万人にも届きません(図表1)。

一方、医学部志願者数は約13万人です。先ほどの入学定員をもとに単純計算すると、倍率は13.8倍で、13〜14人の受験生のうち、たった1人しか医学部に合格できないのです。

私立大学医学部だけの倍率も算出してみましょう。

私立大学医学部の志願者数が約9万4000人であるのに対し、定員は3584人でした。倍率は26.2倍と、驚くべき数字になっています。

なぜ、医学部の志願者倍率はこんなに高いのか。その背景には、次の4つの要因があります。

■安定したい理系人材が医者を選んでいる

①理系受験生の安定志向

1つ目の要因は、以前であれば、東京大学や京都大学などといった難関大学の理系学部を目指していたはずのレベルの受験生が、工学部や理学部ではなく医学部を目指しはじめたことです。

日本が順調に成長していた時代においては、偏差値の高い大学を卒業した理系人材が活躍できる企業がたくさんありました。しかし、いわゆる「失われた30年」で日本企業の勢いは衰え、偏差値の高い大学を卒業した理系人材が満足できるような質・量の研究を続けることが難しくなっています。

そんな状況において、多くの受験生が「大企業に就職したからといって安泰ではない」「医師であれば、どんな時代でも安定した収入が得られるし、生活に困ることはない」と考えるのは、自然の流れのようにも思えます。

日本の医師免許には、更新や定年の制度がありません。医師免許を取得した人は、自ら職を退くと決めない限り、ずっと働き続けることができます。

今後AIがますます発達しても、医師という職業がなくなることはありません。高齢化に伴って需要が減少することも考えにくいでしょう。この視点で見ると、医学部志願者数の増加の理由を、医師という職業の持つ特性に魅力を感じる受験生が増えていることで説明することもできるでしょう。

■「金持ちしか受験できない」は過去の話

②受験形式の変化

2つ目の要因は、医療に関する社会的課題解決を目的として、医学部の定数の増員とともに、一般選抜、学校推薦型選抜※1、総合型選抜※2、医学部地域枠などのような様々な入試形式や枠が用意されるようになったことです。

※1 旧推薦入試。出願時に学校長の推薦が必要な入試。「指定校制」と「公募制」がある。
※2 旧AO入試(アドミッション・オフィス入試)。高校における成績や小論文、面接などで人物を評価し、合否を判断する入試。

特に医学部地域枠※3では、一定期間指定の地域で勤務すれば学費を免除するといった学生の経済的負担を軽くする制度が設けられたこともあり、一般家庭であっても私立大学医学部への進学を検討することができるようになっていると考えられます。

※3 地方の医師不足を解消する目的で大学医学部に設けられた入試枠。医師免許取得後に規定の年限、指定病院で働くことを条件として、奨学金が返済免除されることもある。

■出身大学にこだわらない受験生が増えた

③「医師臨床研修制度」の導入

2004年、「医師臨床研修制度※4」が導入されました。これは、「診療に従事しようとする医師は、医学部卒業後2年以上、厚生労働大臣の指定する病院において研修を受けなければならない」という制度です。(詳細は※4参照)

※4 医師免許取得後に行われる医療現場での研修(初期・後期)。2004年から2年以上の初期臨床研修が必修化された。この臨床研修制度の導入に合わせて、どの研修医がどの病院で研修をするかの組み合わせを一定の規則に従って決める「研修医マッチング」という制度が新たに採用された。

医師臨床研修制度が導入されるまでは、医学部を卒業した研修医は、卒業した大学の医局に入るのが一般的で、出身大学とつながりのない病院に入局しづらいとされていました。しかし医師臨床研修制度が導入されてからは、出身大学とは直接つながりのない大学病院や市中病院で研修を受けるケースが増えました。初期臨床研修を終了した後も、あらためて自分の希望する病院へ就職しなおすことが比較的容易にできるようになっています。

この制度によって、特に私立大学の医学部受験は大きく変化しました。つまり、医学部受験において国公立大学であることや偏差値が上位である大学、地元の大学などにこだわるよりも、「いち早く医師になること」を優先し、私立大学、それも自分と問題などの相性が良い大学、合格可能性が高い大学を選ぶ受験生が増えたのです。

■私立医学部の偏差値は国公立とほぼ同等

次に、私立大学医学部の偏差値について見ていきましょう。

かつては偏差値40〜50台の医学部もたくさんありましたが、昨今では、私立大学医学部に合格するために必要な学力レベルは、以前に比べはるかに高くなっています。もはや私立大学医学部の偏差値は、国公立大学医学部の偏差値とほとんど変わらないというのが実情です。

図表3は、2020年度の医学部の偏差値一覧から一部を抜粋したものです。私立大学医学部の偏差値帯は、国公立大学の医学部とほぼ同等となっています。

【図表】医学部入試2020年度難易度ランキング(一部抜粋)
出所=『うちの子、医学部ってアリですか?』

ここで「偏差値」についてあらためて説明しましょう。偏差値とは「平均からどれくらいの差があるか」を表した数値で、全体の中での相対順位を知ることができます。

■全受験生の上位6~7%に入らなければいけない

偏差値50以上の人数は全体の半分である50%、そして、偏差値65以上の人数は上位6〜7%にあたります。医学部に合格するためには、約65以上の偏差値、すなわち、上位6〜7%に入る成績が必要であり、これは京都大学の医学部以外の理系学部に合格するための偏差値と同等です。

医学部専門予備校「京都医塾」『うちの子、医学部ってアリですか?』(クロスメディア・パブリッシング)
医学部専門予備校「京都医塾」『うちの子、医学部ってアリですか?』(クロスメディア・パブリッシング)

つまり、私立大学の医学部に合格するためには、少なくとも受験で使用する科目、英語、数学、理科2科目においては、京都大学に合格できるくらいの偏差値が必要となります。

令和のこの時代において、「私立大学の医学部なら簡単」という状況は存在しないのです。

もしも国公立大学の医学部を狙うのであれば、さらに共通テストを受験し、国語・社会も含めて80%以上の得点率が求められます。

本書の第1章で、医療現場の過酷な状況をメディアの報道などでまのあたりにしたうえで、「自分もそこに飛び込み、医師として、人の役に立ちたい」と強く決意する子が増えたように感じるとお伝えしました。今、医学部を目指すということは、このようにモチベーションの高い受験生たちにまさるとも劣らない勢いで学習に取り組む必要があるということです。

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京都医塾(きょうといじゅく)
医学部専門予備校
「京都医塾」という名前は、私たちの教育理念そのものです。地元京都を大切にしていること。将来医師を目指し、いのちを救う現場で働き、社会に貢献したいという強い希望を持った人たちを応援したいこと。そして、「本気の覚悟」さえあれば、どんな生徒さんも受け入れ、一人ひとりと真正面から向き合う。揺るぎない独自の教育理念を貫く「塾」という名に誇りを持っていること。そんな私たちの想いが込められています。

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(医学部専門予備校 京都医塾)

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