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「かぶん」にもてなす? 「ねんごろ」にもてなす?…大人も迷う2024年最新中学入試問題の解き方

プレジデントオンライン / 2024年1月29日 11時15分

首都圏の中学受験において、1月受験校として毎年多くの受験生を集める栄東中学・高等高校(埼玉県さいたま市)(写真=みゃー/CC-BY-SA-3.0/Wikipedia Commons)

2月1日から2024年度の東京・神奈川の中学入試が始まる。1月10日はその前哨戦となる埼玉県の人気進学校・栄東中学校(共学校)の入試が行われた。中学受験塾を主宰する矢野耕平さんは「栄東中の試験では、日常ではあまり使わない大人っぽい語彙力を問う問題が出た。こうした問題を説くには、暗記だけでは難しい」という――。

■栄東中学校で出された「大人表現」の穴埋め問題

2024年1月10日に実施された栄東中学校(A日程)の国語から言語知識問題を取り出して、紹介したい。つい先日に大勢の受験生たちが挑んだ「ホッカホカ」の入試問題である。

[2024年度栄東中学校(A日程)国語 大問2より]
 次の( 1 )~( 10 )に当てはめるのに最も適切な言葉をあとの【語群】から選び、それぞれ記号で答えなさい。ただし、記号は1度ずつしか使いません。

・ 本心を( 1 )に打ち明けた。
・ クレームに対する( 2 )な対応にいらだつ。
・ 風にそよぐ( 3 )な柳の枝を描く。
・ 大切な客人に対し( 4 )なもてなしを心がける。
・ 先方の( 5 )な心づかいに感謝する。
・ なりふりかまわず( 6 )なやり方でお金をかせぐ。
・ ( 7 )な小鳥のさえずりに目を覚ました。
・ 私としたことが( 8 )にもすっかり忘れていた。
・ けんか相手のことを( 9 )に言う。
・ 雨上がりは( 10 )に外に出たくなる。


語群
 たおやか  かぶん  ねんごろ  うかつ  あこぎ
 そぞろ  あしざま  せきらら  かんまん  うららか

《解答は末尾に記載》

■多くの学校で出題のテーマに

このような「大人表現」を言語知識問題として出題する学校はかなりある。

パッと思いつくだけでも、灘、聖光学院、慶應義塾中等部、慶應義塾湘南藤沢、早稲田実業、吉祥女子、攻玉社、普連土学園、共立女子、昭和女子大学附属昭和などが挙げられる。

マスに1文字目を書こうとしてる子供の手元
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

「大人表現」という表記をしたものの、上の選択肢を眺めると、大人であっても日常的にはあまり用いないことばではないだろうか。小学生であればなおさらである。中学入試ではかなり高い語彙(ごい)レベルが問われていることがよく分かる。

1月10日の栄東のA日程入試。この日だけで6000名近い受験生たちが挑んだ。そして、中学入試の日程上、この栄東が「初戦」となる受験生が大半だったと考えられる。初めての入試でドキドキしている1教科目の国語で突如こういう問題に出くわして、さらにその緊張感が高まった受験生たちがたくさんいたことだろう。それもそのはず。たとえ大人がこの問題に挑んだとしても、すぐに全問正解できる人はなかなかいないのではないか。そういうレベルである。

■前後の文脈から空欄の中身を推測する

さて、わたしはこの手の問題の対処法のひとつとして、前後のコンテクスト(文脈)から空欄に入ることばの意味を「推測」することが大切であると指導している。

例えば、( 1 )は、本心を「どのように」打ち明けたのかを考えることになる。「打ち明ける」という思い切った表現からすると、( 1 )には「率直に」や「単刀直入に」などに近い表現が来ると推測できる。正解は「せきらら」である。勘の良い受験生は「赤裸々」という漢字をすぐに思い浮かべられただろう。

■のらりくらり→「緩慢」という連想

次に( 2 )に移ろう。クレームを入れたら、「( 2 )の対応」をされたのでいらだってしまったのである。普通ならば、平伏して謝罪すべきところを、相手がそんなそぶりも見せず、「のらりくらり」とした対応をされたのかもしれない。この推測した「のらりくらり」に意味が近いものを選ぶことになる。

「かんまん」の「まん」の漢字が「慢」であると気づいた受験生は正解できただろう。ちなみに、「怠慢」や「慢心」「高慢」などの熟語を思い浮かべれば分かるが、この「慢」には「思い上がり」という意味がある。そしてこの問題の「かんまん」は「緩慢」と書き、「ゆるやか」のような意味である。漢字の意味がわかると熟語を理解しやすいので併せて覚えておきたい。

このように前後のコンテクストから空欄の意味を推し量ったり、ひらがなを漢字に置き換えたりすると、この手の問題は対処できることが多い(すべてではないけれど)。

■難しい2択をどう決めるか

さて、大人でも思い悩んだのは、( 4 )と( 5 )ではないだろうか。解答は絞れていて、イの「かぶん」か、ウの「ねんごろ」がどちらかにそれぞれ入ることには気づくだろう。でも、どっちの表現が適切かは難しいかもしれない。以下にそれらを書き出してみよう。

① 大切な客人に対し(かぶん)なもてなしを心がける。
② 大切な客人に対し(ねんごろ)なもてなしを心がける。
③ 先方の(かぶん)な心づかいに感謝する。
④ 先方の(ねんごろ)な心づかいに感謝する。

「かぶん」は「過分」という漢字になることに気づいてほしい。「分が過ぎる」、つまり、「分不相応である」という意味になる。これは自分をへり下る謙譲表現の一種と解してもよい。よって、①の「大切な客人に対し(かぶん)なもてなしを心がける」はおかしい。大切な客人に「お前らには分不相応なもてなしだけどな」などとは言わないだろう。ここには「ねんごろ」が入る。漢字に置きかえると「懇ろ」となる。「懇親」の「懇」の字であり、「心を込めた、丁寧に」のような意味となる。

そして、④はもちろん「かぶん」である。先ほど説明したように、これは謙譲表現の1つである。④の主語が「わたし」であることからも理解できるだろう。

■子どもを子ども扱いせずに話しかける大切さ

それでは、どのようなトレーニングをすれば、わが子はこの手の言語知識問題を得点源にできるのだろうか。もちろん、一朝一夕に成し遂げられることではない。子どもの語彙の多寡には読書量はまちがいなく関係しているのだろうし、そして、親のわが子への接し方が鍵を握ると考えている。

矢野耕平『わが子に「ヤバい」と言わせない親の語彙力』(KADOKAWA)
矢野耕平『わが子に「ヤバい」と言わせない親の語彙力』(KADOKAWA)

幼児を例にとると分かりやすいが、彼ら彼女らは「誰かに教え込まれる」ことでことばを獲得するのだろうか。そうではない。自分の周囲に飛び交う「なんだかよく分からない音」と、「その音が指示する対象物」を結びつけることで、はじめてそのことばを習得するのである。すさまじい量の推定の連続に違いない。

これを踏まえると、小学生を「語彙モンスター」に育て上げる秘訣(ひけつ)は、親が、周囲の大人たちが「なんだかよく分からない音」、すなわち「大人表現」をシャワーのように浴びせ、それらが指示することを自然と理解できるよう導くことだ。

これはなかなか難しいのであるが、子どもを子ども扱いせず、ひとりの「大人」のように考え、遠慮せずに普段使用していることばを投げかける意識が大切だ。ニュースを見たりしながら雑談をするときなどは、この試みが講じやすいのではないだろうか。

拙著『わが子に「ヤバい」と言わせない 親の語彙力』(KADOKAWA)は、近年の中学入試で出題された「言語知識問題」を数多く盛り込み、まずは大人が学び、それをわが子に「伝承」してほしいという思いで書き上げた。本書を一読すれば分かると思うが、大人であっても苦戦するレベルの問題揃いである。中学入試の言語知識問題は、難しいが、面白いし、深い。親子でこれらの問題を楽しみ、「これってお母さん、お父さんだって知らないことばだよ」……そんな会話をすることで、わが子の語彙の基盤は強化されていくはずだ。

〈栄東中学校入試問題の解答〉
 1 ク 2 ケ 3 ア 4 ウ 5 イ 6 オ 7 コ 8 エ 9 キ 10 カ

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矢野 耕平(やの・こうへい)
中学受験専門塾スタジオキャンパス代表
1973年生まれ。大手進学塾で十数年勤めた後にスタジオキャンパスを設立。東京・自由が丘と三田に校舎を展開。学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校vs.新名門校』』(SB新書)など。

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(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平)

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