中絶手術で掻き出される寸前…テレクラ"デキ婚"の親に望まれずに生まれた娘が破滅人生の母から受けた冷酷
プレジデントオンライン / 2024年1月27日 11時15分
ある家庭では、ひきこもりの子どもを「いない存在」として扱う。ある家庭では、夫の暴力支配が近所に知られないように、家族全員がひた隠しにする。限られた人間しか出入りしない「家庭」という密室では、しばしばタブーが生まれ、誰にも触れられないまま長い年月が過ぎるケースも少なくない。
そんな「家庭のタブー」はなぜ生じるのか。どんな家庭にタブーができるのか。具体事例からその成り立ちを探り、発生を防ぐ方法や生じたタブーを破る術を模索したい。
今回は、両親に捨てられ、祖父母に育てられながらも毒親の存在に苦しめられ続ける、30代の女性の家庭のタブーを取り上げる。
■テレクラで“デキ婚”の両親
関東地方在住の猫田奈理子さん(仮名・30代・既婚)の両親は、父親が30歳、母親が20歳の時、テレフォンクラブで知り合った。出会ってすぐに交際が始まり、まもなく妊娠が発覚。最初は産むつもりでいた母親だが、次第に父親との仲が悪くなると「中絶する!」と言い出し、産婦人科に予約を入れてしまう。
中絶に反対する母方の祖母は、「子殺し! お前は最低だよ!」と言って母親を止めようと試みるが、聞く耳を持たない。そして迎えた中絶手術の日。猫田さんの母親が実家で中絶する病院へ行く準備をしていると、父親が来て言った。
「俺の母親も命を粗末にするなと言っている。中絶手術はやめろ」
父方の祖母も中絶に反対し、父親を説得していたのだ。猫田さんにとって、2人の祖母は命の恩人だった。
「改めて、私は父からも母からも望まれずに産まれて来たんだなと思いました。今こうして生きているのは、止めてくれた祖母たちのおかげです」
中絶手術が中止になったあと、父親が「責任を取る」という形で母親と結婚。2人でアパートを借りて暮らし始めたが、すでに関係がギスギスしていた2人。母親は臨月までは父親と一緒に暮らしていたが、陣痛が始まって入院すると、退院後もアパートに帰らない。実家に戻った母親は、祖母に育児を手伝ってもらいながら居座り続けた。
ところが産後2カ月ほど経つと、母親は猫田さんの世話をしなくなった。すべて祖母に押し付け、自分は一日中ゴロゴロしている。ついに猫田さんが産まれて5カ月後、両親は離婚。
「父はなぜか私の親権を取りたがったため、調停になりました。特別な理由がない限り母親が親権を獲得する場合が多いと思いますが、母方の祖父母が父方の祖父母より10歳以上若かったため、より子育てをサポートしやすいだろうということも加味され、母が親権を取りました」
当時、母方の祖父は45歳で現役の船員、祖母は46歳で専業主婦だった。結局、猫田さんが20歳になるまで父親が養育費を払うということが決まったが、父親は、「養育費は払うが、二度と妻にも娘にも会わなくていい」と言い、実際現在まで猫田さんは父親に会っていない。
「私はこの話を大きくなってから聞いて、父はなんて冷たい人なんだろうと思いました」
■母親に捨てられる
離婚後、相変わらず娘の世話をしない母親は、ある日近所のコンビニで高校時代の元彼と再会し、よりを戻すことに。
家の中でゴロゴロしていた母親は夜遊びに明け暮れ、「育児放棄して男と遊び歩いている」と近所でも有名になっていた。母親は、元彼と会う予定のない日は大抵機嫌が悪く、猫田さんが泣くと怒り出し、おもちゃを投げつけるなどしていた。祖母は猫田さんを守るため、母親の機嫌が悪くなると、猫田さんを抱いて外へ避難することもあった。
離婚から5カ月ほど経った頃、さすがに堪忍袋の緒が切れた祖父は、「自分の子の世話もしないで男と遊んでいるなら出て行きなさい!」と母親を叱る。
すると母親は、あろうことか本当に荷物をまとめ始め、猫田さんを置いて出て行ってしまった。猫田さんはまだ生後10カ月だった。
それから約1カ月後、母親から実家に電話がかかってきた。祖母が出ると、「娘はどうしてる?」と言う。あれから母親は元彼の実家で暮らしており、公衆電話からかけてきていた。
やはり自分が産んだ子が気になるのかと思った祖母は、「見にきてもいいわよ」と優しく声をかける。
母親は、月に1回くらいのペースで猫田さんに会いに実家に来るようになった。だが、来ても祖父母に悪びれる様子も、猫田さんを慈しむ素振りもなく、ただちょっと見て帰っていった。
猫田さんが1歳半になった頃、母親は元彼と再婚。祖父母は「どうせまたすぐに別れるんだから再婚しないほうがいい」と反対したが、聞く耳を持たない。祖母は「3年持てばいいわね」と嫌味を言った。
この頃、保険会社の外交員として働いていた母親は、営業成績のために猫田さんを保険に加入させる。しかし最初の数回分は自分で払ったが、その後は支払いを放棄し、祖父母が負担する羽目に陥っていた。
■2度めの離婚
猫田さんが3歳になった頃、父親からの養育費の振り込みが途絶えた。祖母はすぐに気付いたが、父親に催促はしなかった。母親は気付いていたかどうかさえ不明だ。
やがて猫田さんが4歳になると、母親(当時24歳)は2度めの離婚をした。どうやら母親は再婚後、2番めの夫からひどいDVを受けていたらしいが、再婚するときに祖母から言われた「3年持てばいいわね」という嫌味に反発するために、意地で3年耐えたのだった。
2度めの離婚をした母親は実家に戻ってきた。そのとき、母親の荷物にたくさんのぬいぐるみがあった。4歳の猫田さんは、ぬいぐるみが目に入ると、「わー、かわいい! 私にもちょうだい!」と飛びついた。
すると母親は嫌そうな顔をし、「これならいらないからあげるわ」と言ってたくさんある中からひとつだけ渡した。
母親が戻ってくると祖母は、「生活費の援助もするし育児も手伝う。あなたは数時間パートに出てくれる程度で良いから、この家でみんなで奈理子を育てよう!」と提案。しかし母親は、「こんな田舎じゃ仕事がない。こんな家にいたくないわ!」と言って1週間もしないうちに出て行ってしまった。
街に出て、水商売の仕事に就いた母親は実家に来なくなり、代わりに祖母と猫田さんが母親が暮らす街に出ていき、主要駅周辺で会うようになる。
だが母親は、「気が変わった」「面倒くさくなった」などの理由で約束した日時に来ないことも多く、ドタキャンされる度に猫田さんはひどく落胆した。
■「両親がいない」という傷
3歳から猫田さんが幼稚園に通い始めると、祖母は他の母親たちに、「奈理子ちゃんのお母さんって、水商売やってて男の人と暮らしてるんですよね? だから一緒に暮らしてないんですよね? 幼稚園のママさんたちの間で噂になってますよ!」と言われ始めた。
「祖母はこの時50歳ぐらいで、祖母としては若い年齢でしたが、やはり母親ではなく祖母なので、他の母親たちと馴染めず、孤立していました」
祖母だけ母親たちの集まりに呼ばれないことも珍しくはなかった。また、友達の家に遊びに行くようになると、友達の家には両親やきょうだいがいることに気付き、「何で自分の家にはお父さんとお母さんが一緒に暮らしていないんだろう?」と疑問に思うようになる。
祖母はそんな猫田さんを気遣い、幼稚園の行事には母親に来るように言い、時にはお金を渡してまで来てもらうようにしていた。しかし行事が終われば「じゃあね!」と言ってさっさと帰っていく母親の後ろ姿に、猫田さんは毎回心を痛めていた。
小1になり、字が書けるようになると、猫田さんは母親に手紙を書いた。母親は「ありがとう」と言って受け取ったが、後日感想を聞くと、「ごめん読んでない! どんな内容かも見てない! どこかにやっちゃって、捨てたかも!」と冷たく言い捨てられた。
またあるときは、中にお菓子が入っていて、サンリオのキャラクターが描かれたかわいい缶を母親が見せびらかし、「これ、かわいいでしょ! でも私が欲しかったのは缶だけで、お菓子は太るしいらないからあんたにあげるわ!」と言ってお菓子だけ渡された。
そこで猫田さんが「私もその缶がほしい!」と食い下がると、母親は「これは私のだからダメよ!」と言いながら猫田さんを払い除ける。
それを見ていた祖母は、「小さい子と本気で張り合って情けない。奈理子は欲しがって当たり前の年齢なんだから、これからは2つ買ってきなさい! あんたはいつも自分のことばかりだけど、自分の子どもが大切じゃないの?」とたずねる。
すると母親は、「私はたぶん生まれつき母性本能がないんだわ」と平然と答えた。この頃から猫田さんは、「母親は自分にあまり愛情を感じていない」ということを確信し始める。
猫田さんは思い切って、「ママの一番大切な人は誰? ママは自分と私だったらどっちがかわいい?」と母親にたずねた。
「そんなの自分が一番大切に決まってるでしょ! 世界で一番かわいいのは私よ!」母親は真顔で即答した。
「現実を突きつけられた私はひどく悲しみましたが、こんなことを言われてもまだ母のことが好きでした。子どもはみんな、大人が想像しているよりもずっと、親のことを愛しているのだと思います」
■10歳の絶望
母親の愛情が自分にないと悟った猫田さんは、祖母に「お父さんに会ってみたい」と懇願した。猫田さんがかわいそうになった祖母は、父親の実家に相談してくれた。
「息子は今新しい彼女と交際中で、邪魔されたくない」
「会いたいのは分かるが、なぜ母親でなく祖母が電話してくるのか?」
電話に出た父方の祖母は、そう言って訝しがる。祖母は父親に会わせることを諦め、養育費が3歳から振り込まれていないことだけ伝え、電話を切った。
水商売の仕事が順調な母親は、何万円もする下着や化粧品、ブランドバッグなどを購入し、海外旅行に出かけるなどして豪遊していた。母親は自分が使うものにはお金を出し惜しみしなかったが、猫田さんには一銭も出さず、養育費は祖父母が賄っていた。
ところが母親が30代になってしばらくすると、勤め先の店で急激に人気がなくなり、収入が激減。母親は水商売を辞めて派遣会社に登録し、IT系の会社で働き始めた。
母親の愛情が自分にないと悟ったはずの猫田さんだったが、10歳になったある日、「私、ママの家でママと暮らしてみたいの!」と母親に打ち明けた。
すると意外なことに、「いいわよ。ちょっと考えてみようか」と返答。その場にいた祖母は、複雑な表情をしていた。
母親の家で一緒に暮らすとなると、猫田さんは転校する必要がある。昼間働いている母親は、働いていない祖母ほどしっかり家事はできない。それでも猫田さんは、母親と一緒に暮らせるならできる限りのことを頑張ろうと思っていた。
祖母は、「奈理子ちゃんがどうしてもママと住みたいならお祖母ちゃん賛成よ。でも、何かったらすぐに電話してきなさい。いつでも帰ってきてもいいんだからね」と言ってくれた。
孫が生活する環境を偵察したいと考えていた祖母は、「私があなたの家まで奈理子を送って行くから、次の長期休暇に予行練習をしてみるのはどう?」と提案するも、母親は、「お母さんは絶対来ないで!」と拒絶。
祖母が来ることを頑なに拒む母親が理解できず、猫田さんは祖母にたずねた。「ねえお祖母ちゃん、どうしてママはお祖母ちゃんは来ちゃダメって言うの?」
すると祖母は、答えにくそうに言った。
「奈理子ちゃんがショックを受けると思って今まで言わなかったんだけど、ママの家に行ったらわかっちゃうから言うわね。ママは男の人と一緒に住んでて、家にお祖母ちゃんを入れたくないのよ」
「祖母は母が彼氏と同棲していることを知っていたので、私を母の家で生活させたら“彼氏に何をされるかわからない”ということを心配していたのです。私はこの瞬間、母は“母親”ではなく、”女“であったと理解しました。子育てもせず、娘の寂しさや苦労も知らずに、自分はずっと男と遊んでいたのだと知り、絶望しました」
その後、猫田さんは、「男の人がいるならママの家には行きたくない。男の人がいなくなれば行きたい」と言うと母親は激怒し、祖父母の携帯電話番号を着信拒否にした。猫田さんは自分よりも彼氏を選んだ母親に嫌悪感を抱き始め、母親の彼氏を恨めしく思うようになっていった。(以下、後編に続く)
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ノンフィクションライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。2023年12月に『毒母は連鎖する〜子どもを「所有物扱い」する母親たち〜』(光文社新書)刊行。
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(ノンフィクションライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂)
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