余裕の合格安全校なのに母親の一言で子供の頭は真っ白→不合格…「中学入試当日の朝」親の言動が合否を決める
プレジデントオンライン / 2024年1月29日 11時15分
※本稿は、矢野耕平『ぼくのかんがえた「さいきょう」の中学受験』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。
■間違いばかりを気にする親
わが子が中学受験勉強で「最凶」の事態に陥ってしまう……この筆頭に何が挙がるのでしょうか。わたしは「子どもが勉強嫌いになってしまうこと」だと考えます。そもそも勉強というのはそれまで知らなかった「知識」や「教養」を授(さず)けるものであり、本来わが子の視野を広げる、世界が広がる大変にエキサイティングなものです。
ところが、中学受験勉強に専心しているうちに、勉強に嫌気がさしてしまう、勉強に向かうことに恐怖心を抱いてしまう……これは本末転倒と言わざるを得ません。このような由々しき事態を招くのは、保護者のわが子への接し方(加えて、指導する講師のスキル)が大きいのだろうと、これまでの経験上感じています。
わが子がその日のテストで「七〇点」の答案を持って帰ってきました。まず褒(ほ)めてやることができる保護者はどれくらいいるでしょうか。
わたしは大半の保護者は「できなかったもの」ばかりに目を留める傾向にあると踏んでいます。できなかった「三〇点」ばかりに焦点を当ててしまうのです。「あなた、このできなかった三〇点はどういうこと?」
わが子に対してこんなふうに責め立ててしまう……それが積み重なると、子どもは間違えることがどんどん怖くなってしまい、結果的に勉強が負担になってしまうのです。
そういえば、最近は中学受験対策の「早期化」が一部に見られるようになり、小学校一年生や二年生から塾通いするケースを見聞きするようになりました。わが子が塾に嬉々として通い、学ぶことを楽しめているならば、早期の塾通いには大きな意味があるのでしょう。
しかしながら、一年生や二年生からテストの得点結果を親から「監視」され、毎度のように間違えた部分を叱責(しっせき)されてしまう……それがきっかけで勉強面において自信を失い、学ぶことを重荷に感じてしまう低学年生になってしまうと、その後のリカバリーが難しいのです。そうなると、中学受験勉強の経験で身に纏まとってしまった「負」を引きずりながら、その子は生きていかねばなりません。これって怖いことだと思いませんか?
わが子をなかなか褒められないのは「距離が近い」保護者ゆえ当然のことです(わたしも自信がありません)。だからこそ、勉強面については塾などの第三者にある程度託して、保護者はちょっと離れたところから見守るという姿勢を貫いたほうがよさそうです。
■週例テストに追われる子どもたち
塾によってはその週の学習単元の定着を診る「週例テスト」を課しています。これがわが子の学習を進める上での「ペースメーカー」になっていれば何の問題もありません。
一方、「週例テスト」の得点にあまりにこだわってしまうと、日々の学習がいつしか「週例テスト」で高得点を獲得するためのものに化してしまいます。「塾のカリキュラムに即しているので、それで構わないのではないか」と訝(いぶか)しく思うかもしれません。
わたしが問題視しているのは、これによって「一夜漬け」的な学習習慣を子どもたちが身に付けてしまうという点です。つまり、「週例テスト」にギリギリ間に合わせるような学習がデフォルトになるのです。皆さんも「一夜漬け」で勉強したことはありませんか。
わが身を振り返ればお分かりでしょうが、「一夜漬け」で覚えた知識など頭の中からすぐに消え去ってしまうでしょう。「週例テスト」に追われる子どもたちだって同様です。ですから、普段の単元別の「週例テスト」では比較的良い成績を残すものの、より範囲の広い「総合テスト」になるとさっぱり得点できない……こんな状況にわが子が陥ってしまっているなら、それは危険です。
だって、中学入試問題は中学受験の学習範囲全般から出題される「総合テスト」なのですから。
■「指示待ち」になる子どもたち
塾通いを始めたばかりのわが子。当然、保護者のきめ細やかなフォロー体制を構築する必要があります。
わたしは自身の経営する中学受験専門塾の説明会で次のような話をしています。
「特に小学校三年生、四年生のお子さんが塾に初めて通うならば、最初は保護者の手厚いフォローが必要です。宿題はどこが出されているのかは毎回確認してください。また、週間のスケジュールを作成して、何曜日の何時から何時はこの科目のこの教材に取り組むという決め事をして、それらをルーティン化してほしいのです。また、子が宿題をしているときは解答解説を保護者側で預かり、終えたあとに、それを取り出して一緒に丸付けをしてやってください。わが子が理解できなかった点を簡単にアドバイスしてくださるとこちらとしても助かります。保護者がすぐに答えられないような質問が出たときは、すぐに塾にご連絡ください。授業前にこちらでその質問に対応します」
「家庭の進学塾化」と「親の塾講師化」は問題点がある一方、塾に通い始めたばかりは、どうしても保護者の対応に頼らざるを得ないというのが正直なところです。ただし、わたしは先の弁にこんな話を継いでいます。
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「しかし、子が塾通いに慣れるに従って、それまで保護者がフォローしていた事柄について時間をかけながら少しずつ手渡してやってください。たとえば、塾通いから半年経った夏からは親がやっていた丸付けを自力でさせましょう。そして、秋からは分からない問題は親でなく塾の講師に直接尋ねるようにさせましょう。冬になったら、これまで預かっていた解答解説を子に託し、宿題が終わったら自分で確認して復習させましょう……」
保護者の「期間限定サポート」のわが子へのバトンタッチはとても大切です。しかし、いつまでも保護者がわが子を信用できず、その学習管理から離れられないと、その結果、わが子は自分でいつどうやって行動したらよいか分からない……そんな「指示待ち人間」になってしまう危険性があるのです。
希学園首都圏の学園長・山﨑信之亮先生はこう釘を刺します。
「昔の保護者は、『うちの子、塾でがんばっています』と声を大にして言える人ばかりだったのですが、この四~五年、わが子を信じられない保護者が増えてきたように感じます。目に見える偏差値などの数値でしかものを考えられない保護者が増えているのではないでしょうか。わたしが大切だと思うのは、親が『見えないものを信じられるか」ということです。塾で学んでいるわが子、入試会場で試験に取り組むわが子。その姿が信じられないから、わが子を自身でコントロールする、支配下に置こうとしている。そして、『伴走』という表現でそれを正当化しようとしているように思えます」
■過干渉の結果は入試当日に表れる
わたしは保護者の管理が行き過ぎたゆえに、入試本番で大変な目に遭った子たちを数名見ています。そのうちの一人の事例を次に紹介します。
何年も前ですが、東京都在住のAくんという中学受験生の話です。
彼は二月一日からの都内私立中学校の入試に備えて、ひと足早く、一月から本番が始まる埼玉県と千葉県にある私立中学校の入試を受けました。一校目の埼玉県の中学は、彼の「持ち偏差値」より三ポイント下で「合格率八〇%」の判定が出ていた「安全校」です。
塾サイドとしてはよほどのことがなければ合格するだろうと踏んだものの、結果はまさかの「不合格」。その不合格の報をAくんの母親から電話で受けた講師によると、その母親は興奮気味にこう言い放ち、電話をガチャ切りしたというのです。
「もうウチの子の入試の応援に来ないでもらっていいですか? ウチの子、塾の先生が校門の前にいるだけで緊張しちゃうみたい。だから、落ちたんです」
いまはコロナ禍の影響で塾講師たちが自塾の生徒たちが受験する入試当日に校門前で激励する「入試応援」はなくなりましたが、かつては毎年おこなわれている行事でした。
件(くだん)のAくんは「人生初の受験」でしたが、親の立場としても、わが子を初めて試験会場に送り出す経験をしたわけです。いきなりの不合格にうろたえる心情は理解できます。
こちらとしては申し訳ない思いがしましたが、不合格の原因が校門まで足を運んだ塾講師にあると決めつけるその母親の「混乱ぶり」が気に懸かかったのです。
Aくんに不合格だった「入試」の復元答案をすぐに作成してもらいました。そして、わたしは愕然(がくぜん)としたのです。設問の条件の読み誤りなど、ミスを連発しているのです。
Aくんはポツリと言いました。
「試験が始まったら、頭が真っ白になって何も考えられなくなっちゃって……」
この埼玉県の私立中の不合格を受けて、Aくんの母親に千葉県の私立中学校の出願をお願いしました。今度は彼の持ち偏差値より一〇ポイント下の学校です。これなら安心だろうと思いました……。しかし、またもや不合格。
さすがにこれは、おかしい。再びAくんと面談したところ、試験当日の驚くべき母親の言動が分かったのです。Aくんによると、入試会場に向かう中、母親から罵声を浴びせられ続けていたとのこと。電車で向かう途中に車内で彼が参考書を広げていると、それを母親は取り上げて問題を出題し、彼が返答に詰まると「なんであなたはこんなのも分からないのよ!」「こんなんじゃ受かるわけがないでしょ!」と怒鳴られたそうです。
普段はあまり声を荒らげることのない母親なのに、年が明けたころからその言動がおかしくなった、とAくんは「密告」してくれました。母親は中学入試本番が近づくにつれ、「落ちるのではないか」という不安感に完全に支配されてしまったのです。そして、Aくんはその母親に追い詰められた結果、怯(おび)えながら入試本番に臨むことになった……。これでは普段の実力を発揮できないのは当然です。
少し極端な事例かもしれませんが、保護者がわが子の中学受験勉強から「一線」を引ければ、このようなことにはならなかったのでしょう。
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中学受験専門塾スタジオキャンパス代表
1973年生まれ。大手進学塾で十数年勤めた後にスタジオキャンパスを設立。東京・自由が丘と三田に校舎を展開。学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校vs.新名門校』』(SB新書)など。
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(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平)
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