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もはやビジホというよりサウナ施設…ヒーターもストーンも北欧製にする「ドーミーイン」の異常なこだわり

プレジデントオンライン / 2024年2月8日 11時16分

「ドーミーイン池袋」のサウナ室。サウナ室の高さは施設によってまちまちだが、開放的になるよう意識しているという。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

全国展開するビジネスホテルチェーン「ドーミーイン」には、熱狂的なファンがいる。彼らの多くは、サウナ施設の快適さを挙げる。どこがすごいのか。経済ジャーナリストの高井尚之さんがリポートする――。(後編/全2回)

■サウナ愛好家も認めるドーミーインのサウナ

(前編から続く)

ビジネスホテルの基本性能は、宿泊予算を踏まえた「低価格での宿泊・滞在」だが、出張利用者はそれ以外の価値を求めてホテルを選ぶ。ホテル側も付加価値のサービスを行う。

たとえば、冷蔵庫にミネラルウォーターを入れて無料提供する施設は多い。また、ギフトや割引クーポンを渡す施設もある。それらも好まれるが、ビジネスパーソン(消費者)に話を聞くと、選ぶ基準で目立つのは「朝食の内容」や「大浴場」、それに付随する「サウナ」だ。

前編で紹介した50代男性(これまでに延べ50泊利用)など、サウナーと呼ばれるサウナ愛好家には、出張時の宿泊先としてビジネスホテル「ドーミーイン」(運営:共立メンテナンス)を選ぶ人が多い。

今回、「ドーミーイン池袋」(東京都豊島区、2021年3月18日オープン)を取材し、同ホテルのサウナへのこだわりについて話を聞いた。

■快適なサウナ施設づくりのためにやっていること

「サウナ激戦区と呼ばれる池袋にあるので、近隣のサウナ施設も意識しています。大浴場にはサウナと水風呂の他、内湯、露天風呂を備えており、お湯は池袋で唯一の“天然温泉の黒湯”です。サウナ内にアロマパンを設置しているので、森林浴の香りも楽しめます。ビジネスホテルの世界でもサウナを導入する競合が増え、1995年からサウナを設置してきた先行施設として、さらに差別化を図っています」(ドーミーイン事業本部 首都圏事業部部長の平山恵一さん)

快適なサウナ施設をつくるための設計はどうしているのか。

「池袋に限りませんが、サウナ内の照明LED化、熱源、天井の高さ、高温サウナ、水風呂などは設計業者や設備管理業者と打ち合わせしながら決めています。現在、『ドーミーイン』ブランドで国内に95棟を展開しており、性能面や運営面のノウハウは社内に蓄積されています」(同)

■サウナ愛好家を満足させるためにここまでやる

「その上で、サウナは高温に設定して室温は上段で96℃(池袋では98℃)です。水風呂については真水の強冷水を採用し、施設によっては水温を13~15℃(通常水温は15~16℃)にしています。その冷水を作るチラー装置については、客室のエアコンと同じメーカーを導入していることもあります。

また、水風呂浴槽は社内の声を反映し、新棟で導入している90センチの深水サイズを、既存棟でも改修工事の際に90センチに変更するよう検討中です」(平山さん)

ドーミーイン事業本部 首都圏事業部部長の平山さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
サウナ施設について説明するドーミーイン事業本部 首都圏事業部部長の平山さん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

サウナ室も水風呂も設置費用だけでなく、運営すればメンテナンス費用がかかる。それでもチラー装置を標準装備して利用客に訴求する(チラーが設置できていない棟もある)。サウナ愛好家ほど、サウナ→水風呂→外気浴(備え付けのイスなどで身体をさます)の繰り返し(「ととのう」)を好むからだ。

水風呂
撮影=プレジデントオンライン編集部
水風呂は備長炭を入れた強冷水でしっかりと身体を冷やすことができる - 撮影=プレジデントオンライン編集部

「2017年に開業した『ドーミーインEXPRESS仙台シーサイド』(宮城県仙台市)では、当社で初めて“オートロウリュ”を導入しました。1時間に1回、自動的にロウリュを行うので利用者の方にご好評いただいています。

また、最近開業した施設では“セルフロウリュ”ができるサウナ室も設けています。サウナブームとともに『自分でロウリュをやりたい』というご要望が増え、それに応えたものです」(同)

■サウナストーンはフィンランド製

「ロウリュ」とは、サウナ室の熱したサウナストーン(火成岩が多い)に水をかけ、発生する蒸気を循環させて発汗を促すもの。北欧フィンランド発祥の入浴法だ。新陳代謝の促進・デトックス効果・疲労回復やストレス解消に効果があるといわれる。

自動的に行われるオートロウリュなら、他の利用者に気をつかう必要もない。セルフロウリュも周囲の利用者に断りつつ行えば、達成感も高まるだろう。

「昨年12月13日に開業した『ドーミーインEXPRESS豊橋』では、高温ドライサウナ(室温96℃)を設けています。サウナ内は、アロマがほのかに漂うのも特徴です。水風呂は水温15~16℃に設定しています」(支配人の山本章さん)

アロマオイルでリラックスできるミストサウナを好む人もいる。さらに、「ドーミーイン池袋」をはじめとした約8割の施設では、サウナヒーターはフィンランド製にし、サウナストーンも、密度が高く熱に強くて変形しにくいフィンランド産の香花石を使用するというこだわりだ。

ドーミーイン池袋の大浴場にある露天風呂
撮影=プレジデントオンライン編集部
ドーミーイン池袋の大浴場にある露天風呂。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

サウナ専門施設ではないビジネスホテルがここまでこる時代となった。

■朝5時からサウナを楽しめる

ところで、ドーミーインの大浴場やサウナは長時間営業(多くの施設は営業時間15時~翌日10時。サウナのみ深夜1時~5時は停止)も持ち味だ。清掃などはどうしているのか。「基本的に4~5人のスタッフで担当しますが、大浴場の営業終了後は、14時までの短時間で作業しなければなりません。日々の清掃やメンテナンスでは作業効率を上げるために細かな工夫をしています。たとえば備え付けのシャンプーやコンディショナー、ボディーソープなどはそのつど補給すると時間がかかるので、あらかじめ補給したものと容器ごと差し替えています。また、お客さまが床で滑って転倒されないよう、毎日浴場内の床をポリッシャーで洗浄し防滑を強化しています」(平山さん)

お湯の入れ替え清掃は各施設や状況によって異なるが、毎日もあれば週1回のところもある。浴槽やパイプ、湯を貯めるタンクの清掃・入れ替えには時間がかかる。日々の清掃では基準に沿った消毒などの対応も行う。

「ご利用時にスタッフが浴場内に入る場合もありますが、安全面の確認もあり、ご理解いただきたいと思います」(同)

ホテルの利用者は幅広いが、中心客層は30~50代のビジネスパーソン。男女比は6割強:3割弱だ。施設の立地によっては、平日はビジネス客が多いが、休日はファミリー客やカップル客が多くなるという。

「ドーミーイン池袋」のマンガコーナー
撮影=プレジデントオンライン編集部
「ドーミーイン池袋」にはマンガコーナー「ドーミーぶんこ」もある。充実のラインナップ。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■社内の声で改善を進める

「社内にはサウナーの従業員も多く、一般のお客さまを含めた『ドーミーイン サウナ部』も活動中。当社の公式サイトやSNSでも関連情報を発信しています」(平山さん)

コロナ禍の2020年秋ごろから始めたコミュニケーションの一環で、公式サイトでも紹介する。ネットで展開する「大人の部活」プロジェクトのひとつ、だという。

実際に見ると、サウナ好きの思いが伝わってくる。ドーミーイン以外に、別ブランドを展開する共立リゾートの「箱根小涌谷温泉 水(みず)の音(と)」などのブログもある。筆者もプライベートで同施設を利用したことがあり、当時を思い出しながら読んだ。他社のサウナ施設や一般のサウナ情報も自由に発信でき、サービスの見直しや改善の参考にもするという。

「昨年秋には『第1回FAN×FUN総選挙 ~行ってみたい! 行ってよかった! お風呂編~』を実施しました。『ドーミーイン』と『共立リゾート』全133施設(当時)を対象に、特設サイト上からお客さまの好きな施設にご投票いただいたものです」(コーポレートコミュニケーション部の波多野さん)

ドーミーイン1位は「御宿(おんやど) 野乃京都七条」(京都府京都市)、共立リゾート1位は「ラビスタ東京ベイ」(東京都江東区)だった。

マーケティングの視点では、これまで紹介した各施設内の設備などは機能的訴求で、こちらの活動は情緒的訴求といえるだろう。

■独自の会員システムを始めるワケ

出張における宿泊費は各社で規定が設けられている。過去の調査結果+筆者の取材経験では、一般社員で「1万円」が上限という例が多かった。以前の取材では「近隣の大企業社員のご利用が多く、1泊朝食付きで同社の規定内(当時は一般社員で8000円)で宿泊できるように企業努力しています」(北関東のホテル経営者)という話も聞いた。

だが、繁閑期で宿泊料金を変えるホテルも多く、コロナ前はこんな消費者の声があった。

「頻繁に東京出張しますが、急な出張の際、社内規定に合う宿泊先がどこも満室でした。あるビジネスホテルが空いていたけど、1泊1万5000円に急騰していたのです。その時はあきらめて、シャワー付きの簡易施設に泊まりました」(30代の男性=当時)

一方、入会金・年会費無料の会員を募集するホテルも多い。会員特典のひとつが「ベストプライス」で宿泊プランを最安値で提供するもの。ドーミーインも「Dormy’s」という名称で会員を多く抱えている。

ちなみに社内規程を超える場合の宿泊費は「数千円なら上長の許可でOK」という会社もあれば、「差額料金を自分で負担すればいい」会社もある。

「差額を自己負担してでも泊まってみたい」というお客さんには、ありがたい存在だ。ホテルも飲食店も「利用しようと考えた時、思い出してもらえるブランドは強い」という。まずは“選択肢という土俵”にいることが大切だからだ。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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