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「ウクライナ戦争は24時間以内に終了」と断言…"帰ってきたトランプ大統領"が掲げる「復讐と報復の政策集」

プレジデントオンライン / 2024年1月30日 11時15分

米大統領選で返り咲きを目指すトランプ前大統領(2024年1月19日、ニューハンプシャー州コンコード) - 写真=AFP/時事通信フォト

11月のアメリカ大統領選に向けた共和党の指名候補争いで、トランプ前大統領が予備選で連勝し、共和党の指名候補となることがほぼ確実となった。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「トランプ氏の言動は予測不可能で、世界経済にとって大きなリスクとなる恐れがある」という――。

■トランプ氏「連勝」で独走態勢

1月16日にアイオワ州で開かれた共和党の党員集会で、ドナルド・トランプ前大統領が、次期大統領選の指名候補をめぐる投票で圧勝した。世論調査などから“トランプ優勢”の見方は強かったが、予備選の皮切りとなるアイオワで下馬評を裏づけた意味は大きい。さらに、23日に行われた第2戦、ニューハンプシャー州の予備選挙でもトランプ氏が勝利し、一段と優位な状況になっている。

共和党の指名候補は、7月15日~18日の党大会で正式に決まる。1月から各州で順次実施される党員集会と予備選では、党大会に出席する「代議員」が選ばれ、代議員の獲得数が最も多い候補が正式指名を受けることになる。

アイオワでトランプ氏が獲得した代議員は51.0%に当たる20人で、2位のロン・デサンティス氏(9人)、3位のニッキー・ヘイリー氏(8人)、4位のビベック・ラマスワミ氏(3人)に大差をつけた。2位のデサンティス氏と4位のラマスワミ氏はすでに選挙戦からの撤退を表明し、今後はトランプ氏とヘイリー氏の一騎打ちとなる。

民主党側は、バイデン大統領に健康問題などがなければ、2期目を狙うことになる。11月5日投票の本選が、前回(2020年)同様にバイデンvs.トランプとなれば、バイデン政権の支持率低迷から見て、トランプ再選が現実のものとなるという予想は多い。

■テーマは「復讐(revenge)と報復(retribution)」

アイオワの勝利から、米メディアでは「トランプ2.0」への関心が高まっている。トランプ氏が再選後に取り組むと予想される政策の中身だ。

ここでは「もし第2期トランプ政権が誕生したら世界はどうなるか」をシミュレーションしたい。

第2期トランプ政権のテーマが「復讐(revenge)と報復(retribution)」であることは間違いない。彼自身が「支持者は報復を期待している」と発言し、「TRUMP RETRIBUTION 2024」と書かれたプレートはAmazonでも販売されている(※写真)。支持者ウケを狙っている面と、トランプ氏の「復讐したい」という本音の両面があると見ていい。

Amazonで販売されている「trump RETRIBUTION 2024」と書かれたプレート
Amazonで販売されている「TRUMP RETRIBUTION 2024」と書かれたプレート(Amazonのウェブサイトより)

ただ、1月10日にアイオワ州で開かれたタウンホールイベントでは、FOXニュースの司会者から質問されて「報復している暇はない」とやんわり否定した。トランプ氏は、実業家だけあって状況に応じて発言を微調整する柔軟性やバランス感覚はある。

昨年12月5日に開かれた同様のイベントでは、司会者から「誰かに報復するために権力を乱用しないと国民に約束できますか?」と問われ、「初日を除けば約束できる」とトランプ氏は答えた。初日にメキシコとの国境を封鎖し、石油掘削を拡大すると語ったので、かなり強権的に政治を進めることが予想されている。

■バイデン政権が進めてきた政策を「ひっくり返す」

トランプ氏は、12月26日に彼が創設したSNS(Truth Social)に、ある世論調査の結果を示して、自分の再選について有権者が連想する言葉は「復讐(revenge)」が最多だったと投稿している。彼自身が訴えてきた「報復」と重なるから強調したのだろう。

トランプ氏の報復は、人事と政策の両面で考えられる。バイデン氏はじめ民主党とその協力者に報復人事を行い、バイデン政権が進めてきた政策を完全にひっくり返すということだ。

トランプ氏はバイデン政権が進めてきた政策を完全にひっくり返すという
トランプ氏はバイデン政権が進めてきた政策を完全にひっくり返すという(写真=The White House/Executive Office of the President files/Wikimedia Commons)

トランプ氏は4年間の大統領経験から、権力行使の方法などは熟知している。第2期政権では無駄なく、効率的に権力を行使するのではないかと予想される。結果的に、独裁政治になるということだ。

例えば人事面では、前回は途中から自分に忠誠心がないメンバーはどんどん外していった。今回は初めから忠誠心を重視した人事になるのではないかと見られている。

■具体的な政策は「アジェンダ47」に提示

トランプ氏の政策は、彼が訴えてきたようにMAGA(Make America Great Again:アメリカを再び偉大な国にする)やアメリカ・ファーストが中核にある。彼と彼の支持者にとってはゲームのルールみたいなものだ。一方、MAGAに対立するのが「グローバル」で、バイデン氏はじめ民主党員についても、党内の対立候補であるヘイリー氏についても「グローバリスト」と呼んで非難している。

2020年の大統領選は、有権者から見ると「正義のバイデン」が「本音のトランプ」に勝利した戦いだった。バイデン政権は、トランプ氏のMAGAやアメリカ・ファーストから、国際協調へと政策を転換している。

トランプ氏の政策については、昨年2月に発表された「アジェンダ47」に提示されている。

Agenda47 主要ポイントの整理

1.不法移民に対する福祉打ち切り。不法移民の子女への市民権剝奪。出産ツーリズムによる入国の違法化。

2.バイデン政権が推進するグリーン・ニューディール政策を中止し、自動車産業における労働者の雇用と賃金を守る。

3.エネルギーにかかわる不必要な規制を撤廃。パリ協定からの再離脱。米国のエネルギー自立を推進し、世界で最もエネルギー効率を高くすることで、米国を製造超大国にする。

4.疲弊した米軍の再建。欧州に対して、バイデン政権が支援したウクライナ再建費用の償還を要求する。

5.公正かつ相互主義に則った貿易の確立。中国等へ依存する通商政策から脱却。中国への最恵国待遇の取り消し。

6.小児慢性疾病の増加や子供の健康問題へ対処する。

7.ホームレスや麻薬中毒にかかわる問題へ対処する。

8.FCC(連邦通信委員会)やFTC(連邦取引委員会)といった、非公選の「第四の政府機関」を大統領権限下に入れる。官僚機構を打破。

9.第3次世界大戦の勃発を防ぐ。ウクライナ戦争を即時終結させ、和平を実現する。

10.中国のスパイ行為を阻止する。中国が米国のインフラや重要産業を所有することを阻止する。

■ウクライナ戦争は「24時間以内に終わらせる」

いくつか重要な項目を解説しよう。

まず反ESG投資には、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)にかかわる多くの問題が含まれている。例えば、トランプ氏は「気候変動問題はフェイクニュースだ」と主張してきたので、脱炭素社会をめざす「パリ協定」から再び離脱し、石油ガスの採掘を促進すると予想される。

2020年の大統領選で、トランプ氏はポリティカル・コレクトネス(政治的に適切な発言や政策の推奨)に対抗する「反ポリコレ」を掲げていた。今回は「反WOKE」が加わると予想されている。WOKEは「リベラルに目覚めた人」の意味で、否定的には「意識が高いことを気取って他人に価値観を押しつける人」というニュアンスで用いられる。

ウクライナ戦争については、戦闘停止と和平実現に向けて積極的に動くと予想されている。トランプ氏が昨年「私が大統領なら24時間以内に終わらせる」と発言したのは、ウクライナへの支援を取りやめるという意味だ。早期の戦闘停止が実現するには、ウクライナが領土の一部をロシアに明け渡すことになる。

ウクライナのゼレンスキー大統領にとって、アメリカ大統領に最もなってほしくないのはトランプ氏だろう。この1月に再選の可能性が高まったせいか、ゼレンスキー大統領はトランプ氏に「キーウに招待します」と呼びかけている。

ウクライナのゼレンスキー大統領はトランプ氏に「キーウに招待します」と呼びかけている
ウクライナのゼレンスキー大統領はトランプ氏に「キーウに招待します」と呼びかけている(写真=The Presidential Office of Ukraine/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

さらに、アメリカがNATO(北大西洋条約機構)から脱退することも懸念されている。いまアメリカが脱退すれば、ヨーロッパのパワーバランスが崩れ、大きなリスクになりかねない。昨年12月、アメリカ議会では、大統領令だけではNATO脱退ができないように法律が整備された。民主党と共和党の上院議員が共同提案した超党派の政策で、トランプ氏によるNATO脱退を防ぐ準備が進められたことになる。

■「最大のリスク」は中東問題

第2期トランプ政権が誕生すると、最もリスクが高まるのは中東だと筆者は見ている。パレスチナ自治区ガザ地区でイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が激化するなか、イスラエルを支援するアメリカは、現在も国際社会で非難されている。さらに、アメリカ国内では民主党の支持者に分断が起きている。リベラルな支持者は基本的に人権重視、多様性重視だから、ガザ地区で民間人の被害が拡大していることを許容しがたいからだ。

握手するトランプ氏とイスラエルのネタニヤフ首相。トランプ氏が再選すれば、第1期と同様に、親イスラエルの政権になることが予想される。
握手するトランプ氏とイスラエルのネタニヤフ首相。トランプ氏が再選すれば、第1期と同様に、親イスラエルの政権になることが予想される(写真=The White House/Wikimedia Commons)

親イスラエルの共和党は、予備選で候補者がディベートする際も、主要候補者はイスラエルへの忠誠心を競い合っている。今回の予備選で、候補者たちの親イスラエルがより明確になったといえる。

よく知られるように、アメリカでは金融、石油、メディア、エンターテインメントなどの主要産業はユダヤ系資本が支えている。イスラエルの支援を受けてロビー活動する“イスラエルロビー”は非常に強力で、大統領選への影響力は大きい。候補者がイスラエルへの忠誠心をアピールするのは無理もない。

なかでもトランプ氏の親イスラエルが別格なのは、筆者が過去の記事にも書いたように、ユダヤ人(ユダヤ教徒)が親族に多いという背景がある。

■トランプの孫10人全員が「ユダヤ人」

トランプ氏は最初の妻との間に長男ドナルド、長女イヴァンカ、次男エリックがいて、3人ともユダヤ人と結婚している。長男の子は5人、長女の子が3人、次男の子が2人いる。

ユダヤ教で定義する「ユダヤ人」は、「母親がユダヤ人で、他宗教に改宗していない人」もしくは、「ユダヤ教に改宗した人」となっている。イヴァンカは結婚前にユダヤ教に改宗しているので、トランプ氏の孫は10人全員がユダヤ人ということになる。

特にイヴァンカの夫であるジャレッド・コーリー・クシュナーが親イスラエルで、ネタニヤフ首相とも懇意にしているのは広く知られるところだ。

トランプ氏の長女イヴァンカとその家族。トランプ氏の孫は10人全員が「ユダヤ人」
トランプ氏の長女イヴァンカとその家族。トランプ氏の孫は10人全員が「ユダヤ人」(写真=DoD photo by U.S. Air Force Staff Sgt. Marianique Santos/Wikimedia Commons)

トランプ氏が再選すれば、第1期と同様に、親イスラエルの政権になることは疑いようがない。

第2期トランプ政権がイスラエルへの軍事支援を強化すると何が起こるのか。中東のアラブ諸国で反イスラエル、反米の動きが活発になり、特にイランとの対立が顕在化すると予想される。

イスラエルとイランは互いに最大の敵国であり、イランがハマスを支援していることは知られている。アメリカについても、第1期トランプ政権でイランは最大の敵国となった。

イランでは、革命防衛隊のソレイマニ司令官が米軍の空爆で殺害されてから3年経過した命日の本年1月3日にイラン当局が暗殺に関わった容疑者のリストを公開し復讐を誓った。その「復讐のリスト」にはトランプ氏も含まれていた。トランプ氏とイランの両者が復讐という言葉を使っているのは脅威だ。

アメリカのイスラエル支援が強まれば、イスラエル対イラン、アメリカ対イランの直接的な争いが勃発しかねない。

日本はじめ世界への影響は大きい。ウクライナ戦争が勃発した際、原油価格の高騰は一時的なもので終わったが、アメリカがイランと争うことになれば、原油価格への影響は比較にならないだろう。

第2期トランプ政権による最大のリスクは、イランとの衝突が顕在化することにある。

■再び「トランプ・ラリー」がはじまる

トランプ氏の経済政策については期待が大きい。2016年にトランプ氏が大統領選に勝利したときは、世界の株式相場は上昇基調となって「トランプ・ラリー」と呼ばれた。トランプ氏が掲げた所得税減税、財政出動などへの政策期待が大きかったためだ。コロナ禍で世界的に経済が低迷しなければ、トランプ氏は2020年に再選しただろうといわれるほどだ。今年11月の本選でも、トランプ氏が再選した直後から「トランプ・ラリー」がはじまると予想される。

一方、経済政策のリスクとしては、3つのインフレ要因がある。

トランプ政権が導入した所得税減税は、2025年に失効するため、再選すれば恒久化するというのが彼の計画だ。減税はインフレ要因だから、現在3%後半で高止まりしているインフレ率が1年後にどう変化するかはわからない。

2つ目のインフレ要因として、対中国の関税引き上げによって物価上昇が予想される。3つ目の要因が移民の減少だ。現在インフレ率が高止まりしている原因の1つに労働者の賃金が下がらないことがある。移民の受け入れが減れば、賃金はなかなか下がらない。

また、先ほどの中東リスクが顕在化すれば、原油価格が上昇する展開も起こりうる。第2期トランプ政権によって、インフレ(高金利)がつづくリスクは高い。

■「ボラティリティ」にどう対応するか

英エコノミスト誌は昨年11月、「2024年の世界」という特集記事で、「トランプ氏が2024年の世界における最大の危険性になる」と予想した。

トランプ氏の危険性は、言動の予測不可能性にある。金融の用語に言い換えれば、「ボラティリティ(変動率)」が高いのだ。

例えば中国の習近平主席、ロシアのプーチン大統領などから見ても、トランプ氏の予測不可能性は相当に厄介だろう。

バイデン政権は、人権重視や多様性重視の観点から、新疆ウイグル自治区の人権問題などは無視できない。一方、トランプ氏はバイデン氏と比較するとあまり問題視しないから、人権問題に関しては、習主席はむしろ歓迎するだろう。反ESGや反WOKEは中国をより利することになる。

中国がフィリピンやベトナムとの間で問題を起こしても、トランプ政権は厳しい対応をしなかった。バイデン政権が常にウオッチしてきたのとは対照的だ。

軍事戦略においては、敵の行動が予測困難なことは脅威となる。ボラティリティが大きいのは大きな武器なのだ。したがって、バイデン大統領のほうが、仮に敵対しても戦いやすい相手となる。トランプ氏のように、敵の大将がどう動くかわからないのは困るのだ。

トランプ氏の危険性は、言動の予測不可能性にある
トランプ氏の危険性は、言動の予測不可能性にある(写真=Gage Skidmore from Peoria/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons)

トランプ再選は、各国の政治にも影響が出る。第1期トランプ政権では、欧州で極右と見られる党首や政治家が増え、勢力を強めた。バイデン政権になってからは下火だが、トランプ再選によって再び活発化し、極右連合のような動きが出てくるかもしれない。プーチン大統領も、心情的には極右連合に加わっている。

日本の政治家は、第1期政権では、当時の安倍晋三首相がトランプ大統領と良好な関係を築くことができた。トランプ氏は属人的な考えが強く、1対1の関係を結べる相手と深く付き合うところがある。彼の考え方に理解と共感を示せる政治家でなければ、良好な関係を築くのは難しいだろう。

トランプ再選は、日本にとっても大きなリスクになりうる。11月5日の本選まで目が離せない状況だ。

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田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント
専門は企業・産業・技術・金融・経済・国際関係等の戦略分析。日米欧の金融機関にも長年勤務。主な著作に『GAFA×BATH』『2025年のデジタル資本主義』など。シカゴ大学MBA。テレビ東京WBSコメンテーター。テレビ朝日ワイドスクランブル月曜レギュラーコメンテーター。公正取引委員会独禁法懇話会メンバーなども兼務している。

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(立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント 田中 道昭 構成=伊田欣司)

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