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1億6000万円を荒稼ぎするパパ活女子も…「港区女子=高級寿司店にいるヤバい女」に変わった最大のきっかけ

プレジデントオンライン / 2024年2月3日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

■「港区女子vs高級寿司店」が億バズり

こんな話がなぜ「億」もバズったのかと首を傾げている人も多いのではないか。

1月下旬からSNSやネットを騒がせている「港区女子vs高級寿司店」トラブルのことだ。

きっかけは、東京・六本木のラウンジで働いているという女性が、南麻布の有名寿司店の大将が険しい顔をして今にも迫ってきそうなところを弟子が後ろから抑えるという臨場感のある写真とともに、「殴られそうになった」と投稿をしたことだった。

この女性が言うには、大将にワインの置き場所の変更を頼んだところ、不機嫌になってしまったということで、「こんなお寿司屋さん初めて」と口にしたら激昂してカウンターを乗り越えてこようとしたという。

ただ、これには多くの常連客が疑問を投げかけている。中には独自に調査を行い、この女性が店内で写真を無断撮影するなどの迷惑行為をしていたことがトラブルの原因だと主張する人たちまで現れ、あれよあれよという間に2.8億インプレッション(表示回数)という「億バズり」したというワケだ。

■ハイスペック男性との結婚を夢見ている

そう聞くと、「よっしゃ! オレも高級寿司店の大将に喧嘩を売って億バズりだ!」というバカ……ではなく軽率な方もいらっしゃると思うが、今回のトラブルがここまでの世間の耳目を集めたのは、トラブルの中身がどうとかではなく「港区女子」というバズワードによるところが大きいという。

ご存じの方も多いだろうが、港区女子という概念を世に広めたのは、首都圏のハイラグジュアリーな人々のグルメや恋愛事情を紹介する雑誌「東京カレンダー」(以下、東カレ)といわれている。確かに「東カレ」の誌面では2017年ごろから港区在住の経営者やハイスペック男性を「港区おじさん」と呼び、その対となる存在として、夜な夜な高級レストランに現れるタイトな服装を好むモデルのような風貌の「港区女子」なる人々が頻繁に登場している。

女性誌の取材で港区女子にも出会うこともあるというライターの毒島サチコ氏の記事によれば、港区女子は港区に住んでいる女性ではなく、「職業は“自称モデル”が主流だったが、現在は会社員も多い」という。では、彼女たちの目的は何かというと、「夢はハイスペックな男性との結婚」だという。目的が目的なので当然、食事やデートは男側が奢るのが「常識」だ。

■玉の輿を狙う女性はいつの時代も存在していた

そんな港区女子に対してはかねてからイラッとしている人が異性同性問わずにかなりいるという。そういう「憎悪」がブスブスとくすぶっていたところに、「有名寿司店の大将を無断でSNSにさらす」という迷惑行為で一気に着火、前代未聞の「億バズり」となったというのが、炎上専門家の見立てだ。

「なるほどなあ」と思う一方で、個人的にはこの説明には引っかかる点もある。

「若さと美貌を武器にハイスペックな男性との結婚を狙っている女性」など今も昔も石を投げれば当たるほど、そこらじゅうにあふれているからだ。

「チャンネーとギロッポンでシースー」なんて言っていたバブル期は、「3K」(高身長・高学歴・高収入)なんて言葉もあったくらい、もっと露骨に玉の輿を狙う若い女性が溢れていた。筆者が麻布でバーテンダーをしていた30年前も、「特に働いていないのに社長や業界人といつも飲んでいる謎の若い女性」など山ほどお目にかかったが、彼女らが財布を出したところも見たことがない。

つまり、「港区女子」はいつの時代も若い女性のなかで一定数存在している定番の生き方なのだ。にもかかわらず、ここまで世間から叩かれるということは、「ハイスペック男を狙っている」「男に奢ってもらうのが常識」ということ以外にも、「港区女子特有の嫌われる理由」があるのではないか。

■セレブから「ヤバい女」になったきっかけ

いろいろなご意見があるだろうが、筆者は「東京カレンダー」が「港区女子」を商標登録した時期あたりから、この言葉がもつイメージが急速に悪化して、「港区女子=ヤバい女」というネガティブになってきたことと無関係ではないと考えている。

一体どういうことか、順を追って説明しよう。先ほども述べたように当初、港区女子はイケてる港区おじさんとハイラグジュアリーな夜を楽しむセレブ的な扱いだった。しかし、徐々に「心の闇を抱えた女性」というネガイメージがつく。それを仕掛けたのは、他でもない生みの親の「東京カレンダー」だ。

独立行政法人 工業所有権情報・研修館の「特許情報プラットフォーム」で「港区女子」を検索すると、東京カレンダー株式会社が2022年2月28日に登録していることがわかる(特許情報第6519750号)。

■「港区の闇」を晒したWEBドラマ

では、なぜこのような商標登録をしたのかというと、『港区女子』というタイトルのドラマを制作したからだ。

「東カレ」は「東京・港区を舞台にギャラ飲みで生活を凌ぐ港区女子たちのリアルを描いたドラマ」(東京カレンダーホームページ)を22年6月からネットで配信をしている。では、そこで描かれている「港区女子」はこれまで「東カレ」の誌面に登場したイメージなのかというと、そうではない。

わかりやすいのは、YouTubeに公開された「【WEBドラマ】『港区女子』が配信決定!港区の闇を再現したリアルストーリーの特別動画・予告(60秒)」だ。この予告編では冒頭いきなりこんなテロップが大きく浮かぶ。

「港区の闇、すべて晒す」

そして、タレントの佐藤ミケーラ倭子さん演じる主人公が「私はこのまま落ちていくの?」「誰か助けて」「誰か止めて」などと苦悩するシーンが流されていく。

■ギャラ飲みの4000万円所得に国税がメス

いかがだろう。財布を持たずにイケてる金持ちおじさんと毎晩、高級レストランでグラスを傾けているキラキラした港区女子とかけ離れた「闇落ちした女性」というネガイメージではないか。

もちろん、このようなネガイメージづけはその前からも徐々についていた。「東カレWEB」上で2018年から連載されていた小説をコミック化した『恋と友情のあいだで』も21年に単行本化されると、こんなキャッチコピーがつく。

「『港区女子』の傲慢(ごうまん)さと不幸を描く漫画」

そんな港区女子の傲慢さと不幸さは、フィクションだけではなく現実世界でも広まっていく。「東カレ」が「港区女子」の商標を登録した22年2月、港区女子には欠かせない「ギャラ飲み」に国税のメスが入ってしまうのだ。

「東京国税局は、ギャラ飲みで3年間に約4000万円の所得を得ていた女性に申告漏れを指摘し、約1100万円を追徴課税しました」(CS放送 TBS NEWS 2022年2月)

この調査は、ギャラ飲みを仲介していると言われるマッチングアプリ大手「pato」(パト)にも及んだ。もちろん、以下のような記事があるように、港区女子は「追徴課税」くらいで生き方を変えることはしない。

「『社長さんが追徴金1000万払ってくれたからだいじょうぶ』ギャラ飲みバブル“港区女子”に国税のメス 本人たちに直撃すると…《何も考えず100万円くれる富豪も》」(文春オンライン 22年2月17日)
東京タワーの見える夜景
写真=iStock.com/F3al2
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/F3al2

■ネガイメージを悪化させた「頂き女子」

ただ、「税金が高くて生活が苦しい」と悲鳴をあげる庶民の感覚としてはとても「だいじょうぶ」な話ではない。港区女子たちに対して「脱法」や「脱税」という違法イメージを抱いた人もかなり増えていったはずだ。

ストレートに言ってしまうと、「何かしでかしそうなヤバい女」というイメージである。

話を整理しよう。「ハイスペック男性との結婚を狙う、奢ってもらうのが常識の女性」はいつの時代も存在していたが、2000年前半のITバブル時代になると経営者やエリート男性たちから謝礼をもらって飲み会に参加をする「ギャラ飲み」をする若い女性が徐々に増えていった。彼女たちはいつしか「港区女子」と呼ばれていく。

しかし、21年ごろから急速に「ギャラ飲み」でこの世の春を謳歌(おうか)する港区女子たちの「傲慢さ、不幸さ」や「心の闇」にフォーカスを当てるようなコンテンツが増えていく。そして、国税によって「ギャラ飲み」にメスが入ったことで、「脱法」「脱税」「カネに汚い」という違法イメージまでオンされる。

23年に入ると、そんな港区女子のネガイメージがさらに拍車がかかる。23年8月には、パパ活で1億6000万円以上を荒稼ぎして、そのカネを引っ張るテクニックをマニュアルにして販売していた「頂き女子りりちゃん」を名乗る女性が詐欺容疑などで逮捕され、社会的にも大きな話題になった。

札束を持つ女性
写真=iStock.com/show999
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/show999

■「奢り奢られ論争」は日本の永遠の課題

港区女子側からは、「私たちはギャラ飲みだ! あんな実質的な売春行為と一緒にするな」というお叱りが飛んできそうだが、世間的には「女性が若さと美貌を武器に男からカネを引っ張る」という点においては、残念ながら同一視されてしまう部分もあるのだ。

そこへ加えて、10月になると料理研究家でインフルエンサーのリュウジ氏がSNS上で「なんで男ってだけで知らん女子の飯代払わなきゃいけないの?」「俗に言う港区っぽい飲み会に多いけど(中略)ご飯会で当然のように男が出すっておかしい」と投稿して大きな話題にもなった。

この「女性に奢りたくない論争」というのは古くは高度経済成長期から確認される、戦後日本の普遍的な現象だ。しかし、今回はより女性への憎しみが込められているように思えるのはやはり、ここまで続く「港区女子」という存在に対するネガイメージもあるのではないか。

■会ったこともないのに「悪人」扱いしてしまう

そんな風に「港区女子=何かやらかしそうなヤバい女」というイメージが徐々に構築されていく最中、今年になってドカンと例の高級寿司店のトラブルが起きた。

女性はラウンジ嬢だとは明かしているものの自らを「港区女子」だと名乗っていない。にもかかわらず過去に、港区女子的な言動をしていたということで「港区女子vs高級寿司店」というアンチたちが待ち望んでいたマッチメイクにされた結果、「億バズり」となった――という流れだ。

今回の騒動を見て痛感したのは、「悪人イメージ」のひとり歩きの恐ろしさだ。

多くの人は「港区女子」なる人々と会ったこともないし直接、喋ったこともない。しかし、港区女子を題材にしたドラマやコミックで描かれる「闇落ちキャラ」や、事件などで報じられる一部の人たちの違法行為に引きずられて、「港区女子」の「ヤバい女イメージ」が出来上がっていく。

■極端な「港区女子」が足を引っ張っている

そして、あれほどの「億バズり」をしたのだから、これからはあのラウンジ嬢が「港区女子」の新たなアイコンになっていくのだ。

当たり前の話だが、心の闇を抱えていない港区女子もいれば、ギャラ飲みで得た収入をちゃんと申告している港区女子もいる。高級寿司店で節度のある振る舞いをして、トラブルを起こさない良識のある港区女子もいる。

しかし、われわれはそれを忘れて「極端な事例」に引きずられて、あたかも港区女子全員がとんでもない非常識な人々だと拡大解釈して袋叩きにする。

これは特定の主義主張をする人々や外国人のヘイトにもつながる話で、これまで日本人は何度も過ちを繰り返してきた。「港区女子」をディスる前にちょっと立ち止まって考えたい。

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窪田 順生(くぼた・まさき)
ノンフィクションライター
1974年生。テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者等を経て現職。報道対策アドバイザーとしても活動。数多くの広報コンサルティングや取材対応トレーニングを行っている。著書に『スピンドクター“モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)、『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)、『潜入旧統一教会 「解散命令請求」取材NG最深部の全貌』(徳間書店)など。

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(ノンフィクションライター 窪田 順生)

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