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地方公務員の責任と役割を放棄している…川勝知事のリニアデタラメ発言を「公式見解」にする静岡県庁の無責任

プレジデントオンライン / 2024年2月2日 5時15分

川勝知事の事実誤認の発言をテーマにした1月24日のJR東海の記者会見 - 写真提供=JR東海

JR東海は1月、「川勝知事は事実誤認の発言をやめてほしい」とする異例の会見を開いた。にもかかわらず、川勝知事のリニア妨害は一向に収まる気配がない。ジャーナリストの小林一哉さんは「静岡県のリニア担当幹部職員が川勝知事のデタラメ発言をうのみにしている。地方公務員として果たすべき本来の責任と役割を果たしていない」という――。

■JR東海「川勝知事は事実誤認の発言をやめて」

昨年12月の静岡県議会での川勝平太知事による「リニア問題の解決策は『部分開業』である」発言に端を発して、新春恒例の新聞各社のインタビュー記事、新春会見などで、勝手な解釈による事実誤認のデタラメ発言が広がってしまった。

JR東海は1月24日、川勝知事のデタラメ発言が多方面へ誤解を招いているとして、「知事発言は事実と異なる」をテーマとした異例の記者会見を開いた。

JR東海は「県の事務方には正確な事実を伝えているが、知事発言に反映されない」と訴えた。

実際のところ、県リニア担当者はJR東海の要請を無視するだけでなく、川勝知事の「リニア問題の解決策は『部分開業』である」を「公式見解」と表明するなどして、まさに火に油を注ぐ役割を果たしている。

静岡県庁組織は、川勝知事のリニア妨害に関するデタラメ発言を強引に押し通すことで、地方公務員として果たすべき本来の責任と役割を放棄してしまったようだ。

■川勝知事が言い放った「リニア問題の解決策」

川勝知事のデタラメ発言は、昨年12月12日の静岡県議会本会議で、自身のリニア問題解決策を「部分開業」と答弁したことから始まった。

県議会一般質問で、自民党県議が「ことし10月10日の定例会見で、知事は『もし私がJR東海の意思決定者であれば、この川勝とひざを突き合わせて話せば、その場で解決策を出せる』と話した。その解決策とは何か?」とただした。

■「答えになっていない答弁」ばかりを続ける川勝知事

川勝知事は「わたしの発言は、JR東海との対話を進めるために、意思決定者である丹羽(俊介)社長に強いリーダーシップを持って取り組んでほしいという思いを述べた」などと回答をはぐらかしたため、再質問が行われた。

昨年12月静岡県議会で「リニア解決策」を追及される川勝知事
筆者撮影
昨年12月静岡県議会で「リニア解決策」を追及される川勝知事 - 筆者撮影

これに対して、川勝知事は「現在、甲府駅と橋本駅(神奈川県)は72キロあるが、43キロの実験線ができているから、甲府駅まで6キロ、残りの二十数キロを神奈川県まで延ばせば、実験線が実用線になる。これでどうですか」と「部分開業」を示唆した。

静岡工区着工への解決策を問われているのだから、まるで答えになっていない。

それで再々質問が行われたが、やはり川勝知事はあいまいな発言で逃げてしまった。

このため、議会運営委員会で協議を行い、県議会としてあらためて川勝知事の答弁を求めた。

異例の4度目の答弁に立った川勝知事は「現行ルートを前提にした上で、できるところから、つまり開通できる状況になった区間から開通させることが解決策となる。わたしは実験線の延伸、完成が1つの例示となると申し上げた。これは社長にしかできない」と、「部分開業」を解決策だとしてしまった。

もともとの定例会見での記者の質問は「知事の任期中に、静岡工区の問題を解決する道筋を立てるのか、それとも不可能か」だった。

つまり、静岡工区着工への解決策はあるのかを聞いていた。その解決策が、静岡県とは何ら関係のない他県の「部分開業」となってしまった。

■リニアの嘘を嘘で塗り固めていく

2019年7月にも、今回の「解決策」と同様に、「リニア開業と南アルプス保全を両立する腹案がある」と川勝知事が発言していることを1月22日公開の「川勝知事の『リニアのウソ』に私もまんまと騙された…静岡県民から『知事への不満』がなぜか聞こえないワケ」で紹介した。

約4年前の「腹案」の場合、静岡県に関係する「南アルプス保全」を明確に主張していた。

記者たちは、定例会見で「腹案とは何か」を追及したが、川勝知事はあいまいにごまかして逃げてしまった。

ただ今回は、県議会での厳しい追及に遭い、ごまかすわけにはいかなかった。川勝知事は得意の「嘘」で何とか逃げるしかなかった。

その後、川勝知事は「嘘」をさらに「嘘」で塗り固めていく。

■県幹部が「部分開業」を県の公式見解にしてしまう

県議会翌日の13日の定例会見で、川勝知事の「社長にしかできない」発言に対して、肝心の丹羽社長が「部分開業」を否定しているとただされると、相変わらずのごまかしで、記者たちを煙に巻いてしまった。

翌日14日の県議会危機管理くらし環境委員会で、リニア担当幹部職員の渡邉光喜参事が「県庁内で議論したことはないが、知事が議会で答弁したので『県の公式見解』となる」と発言してしまう。

同じ14日に、JR東海が静岡工区の未着工を理由に、開業時期を「2027年“以降”」に変更すると発表すると、県は「2037年の全線開通を一刻も早く実現するために、できるところから開通していくべき」とする知事コメントを15日に出した。

つまり、知事コメントにある「できるところから開通していくべき」は川勝知事の「部分開業」論であり、県の「公式見解」として正式ルートを通じて広報された。

■静岡県全体の責任が問われる異例の事態

この「部分開業」論を皮切りに、新たな開業時期などデタラメ発言が次々とあふれ出てきた。

「部分開業」論を記者会見で唱えた川勝知事(静岡県庁)
筆者撮影
「部分開業」論を記者会見で唱えた川勝知事(静岡県庁) - 筆者撮影

ことし1月1日付新聞各紙の新春インタビュー記事に続いて、1月4日の新年会見などで、川勝知事は「(リニア開業は)2027年のくびき(縛り)がなくなった。2037年がデッドライン(最終期限)」だから、「南アルプスの問題は2037年までに解決すればいい」と発言した。

すなわち、知事任期中(2025年7月まで)はリニア問題の解決はなく、静岡工区着工の許可を棚上げすると宣言したのである。

つまり、「静岡県とは関係のない区間で、できるところから開通していくべき」の「部分開業」をJR東海は目指すべきだと、川勝知事は暗に主張したのだ。

当初からJR東海は「部分開業」を否定している。また、2037年全線開通も目標にしているが、東京・品川―名古屋間の2027年開業が遅れれば、当然、大阪までの全線開通も2037年には間に合わない。

何よりも、「部分開業」が「静岡県の公式見解」となれば、政治家である川勝知事の「ごまかし」や「嘘」では済まされなくなってしまう。

静岡県全体の責任が問われることになるからだ。

■「県は知事だという意味で、知事の発言が公式見解だ」

昨年12月26日の記者会見で、「『部分開業』は知事自身の主張ではなく、県の公式見解という認識か」という質問が出された。

川勝知事は、従来の「部分開業」論の主張を繰り返した後、「2027年開業前に実験線の延伸完成がある。事業計画に書かれていることを基に県職員も公式見解だと(述べた)」とやはり論点を外してしまった。

その後知事に代わり、県議会委員会で「公式見解」発言をした渡邉参事が「記者会見ではなく、議会で知事が答弁した『リニア問題の解決策は部分開業である』は、政治家ではなくて執行機関の知事としての発言だと理解している」などと何ともわかりにくい説明をした。

「部分開業」が県の公式見解だと説明する渡邉参事(静岡県庁)
筆者撮影
「部分開業」が県の公式見解だと説明する渡邉参事(静岡県庁) - 筆者撮影

このため、再度の説明が渡邉参事に求められた。

渡邉参事は「知事は執行機関であり、あくまでも私は補助機関である。知事を補助する機関なので、いわゆる県は知事であるという意味で、公式見解であるというのが知事の答えである。あくまでも地方自治法の考えだと理解してもらいたい」とわかりにくい回答を繰り返した。

■コンプライアンスに背く行為ではないか

JR東海は渡邉参事をはじめ県幹部に一連の事実関係を正確に伝え、川勝知事に説明してもらえるよう要請してきた。

渡邉参事も知事の「部分開業」論がデタラメであることを承知していたはずだ。それにもかかわらず、一職員が勝手に「県の公式見解」としてしまった理由を「知事の議会での答弁だから」と釈明したのである。

つまり、県庁組織の中では、知事の意向であれば、黒を白と言い、白を黒と言うことができるというわけだ。

ただこれではコンプライアンス(法令遵守)に背くことになってしまう。地方公務員法32条(法令等及び上司の職務上の命令に従う義務)、33条(信用失墜行為の禁止)に違反する疑いが強い。

知事発言に間違いがあるならば、渡邉参事は事実を進言した上で、県議会に訂正を要請する手続きを踏むべきである。

知事発言の間違いを承知しながらも、担当職員がリニア議論を続けることはあまりにも危険である。

だから、リニア問題は解決の糸口さえつかめないのだ。

■2023年の「田代ダム案」と全く同じ構図

昨年1年間、リニアの水問題解決のカギを握る田代ダム案が何度も議論の中心となり、静岡県とJR東海との間でいたちごっこが繰り返されたのも全く同じ構図である。

2022年4月、JR東海は東京電力リニューアブルパワー(東電RP)の内諾を得た上で田代ダム案を提案した。東電RPは、田代ダム案が河川法の「水利権」に絡まないことを県はじめ利水者に理解してもらう条件をJR東海に託した。

しかし、提案直後から、川勝知事は「JR東海は関係のない水利権に首を突っ込んでいる」「突然、水利権の約束を破るのはアホなこと、乱暴なこと」などと強く反発した。

JR東海は田代ダム案が水利権と無関係なことを詳しく説明し、国交省は、田代ダム案が水利権に関わる河川法に触れないとする政府見解を明示した。

当初、川勝知事が単なる“勘違い”をしているだけだと思われた。森貴志副知事ら事務方がちゃんと説明すれば、川勝知事の誤解も解けると見られた。

ところが、昨年1月4日の新年会見でも、川勝知事は田代ダム案をやり玉に挙げて、田代ダム案の水利権問題を持ち出した。

結局、昨年11月になっても田代ダム案を認めない姿勢を崩さなかった。

■静岡県庁は「機能崩壊」寸前

賢明な川勝知事が河川法の水利権を理解していないはずがない。

田代ダム案を認めたくないための1つの「嘘」として、非常にわかりにくい水利権を使ったとしか考えられない。

一方、渡邉参事は国交省の政府見解に言い掛かりをつけるなど、川勝知事と同じ姿勢を崩さなかった。つまり、事実関係を無視してでも、執行機関である知事の意向に従ったのだろう。

JR東海は1月24日、静岡市で記者会見を開いて、報道各社に正確に事実を伝えるよう要請した。川勝知事のデタラメ発言を打ち消すことに躍起である。

今後、同じような会見が繰り返されるかもしれない。

静岡県庁のリニア担当職員たちが、川勝知事の「嘘」に率先して加担したままでいいのだろうか。静岡県庁は「機能不全」状態ではなく、「機能崩壊」寸前である。

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小林 一哉(こばやし・かずや)
ジャーナリスト
ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。

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(ジャーナリスト 小林 一哉)

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