1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 政治

国民から総スカンでも「岸田一強体制」となる摩訶不思議…派閥解消でカオス化し安倍派は瓦解し、茂木派は溶解

プレジデントオンライン / 2024年2月2日 14時16分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/whitewish

岸田派(旧宏池会)が解散したのを皮切りに他派閥もそれに追随した自民党。かつて宏池会所属の参議院議員だった大正大学准教授の大沼みずほさんは「次回の自民総裁選に男性議員が立候補しまくるのは必至。初の女性総理をつくるキングメーカーに名乗りをあげる動きもあるが、結局、岸田文雄総理続投となる公算が大きい」という――。(後編/全2回)

前編[派閥解消で失うもの(1)政治資金、(2)総裁選に必要なお金]から続く

■派閥解消で失うもの(3)議員間の濃密な人間関係

派閥解散後の今は行われていないが、どの派閥も毎週木曜日の昼に派閥のある永田町近辺にある事務所で、ランチを一緒にしながら情報交換する。俗に「例会」という。特に新人議員にとって、国会での動きがまだよくわからない時に、国会対策室や幹事長室に所属する先輩からの情報は貴重だ。

どんなことが党内で起きているのか、議員会館の部屋にいてはわからないからだ。また、党の部会や調査会でもどのようなものがあり、どういったものに出たらいいのかなども相談に乗ってもらう場でもある。

宏池会は事務所で同じ種類の弁当を食べて結束を図る、いわゆる「一致団結箱弁当」ではなく、カレーや幕の内弁当、かつ丼など数種類から選べるようになっており、他派閥から羨ましがられた。弁当1つからもわかるように「多様性」を重んじる気さくでフランクな雰囲気だった。ボトムアップの意見集約という意味でもオープンだった。

参議院は参議院の宏池会で集まる「参宏会」というグループで月1回食事会などをしていたが、衆議院側との交流は、気の合う人たちと食事会をしたり、勉強会したりする程度でゆるやかな付き合いであった。

ただ、やはり懇親会などでは先輩議員に地元活動での悩みや人間関係など細かいことまで相談に乗ってもらえるのでありがたかった。

また、東京と地元選挙区の山形で年に1回ずつ行う国政報告会では、岸田会長や林座長、上川陽子法務大臣(当時)や宮沢洋一税調会長などが来賓あいさつなどに来て花を添えてくれた。そして、「こどもの貧困対策」やSDGsについての勉強会、宏池会に属していたかつての先輩議員を講師とした勉強会なども盛んに行われていた。

夏に行われる河口湖での研修合宿ではAIや外交、経済の専門家を招いての勉強会があり、夜の懇親会では派閥担当の記者たちとカラオケに行くなどわきあいあいとした雰囲気だった。

古賀誠名誉会長に同行して行われる毎年恒例の大平正芳元総理の墓参り、沖縄の「平和の礎」視察など、平和の尊さをことあるごとに教えてもらった。派閥結成60周年の時には、岸田会長とケネディ駐日米国大使(当時)との対談、林座長と駐日中国大使との対談を冊子にまとめ、シンポジウムを開催し、これまでの宏池会の歴史を振り返る動画なども作成した。

そして、何より選挙の時に先輩議員や同僚議員が応援に来てくれる時は本当に心強いものだ。党本部から、幹部を派遣してもらっても、相手も筆者を知らないので、応援演説も通りいっぺんの内容になる。しかし、宏池会の先輩方は日頃の活動を知っていてくれているし、密な関係があるので、演説にも心が入り、愛情がこもったものになる。

こうした活動を通じて、派閥内の結束やつながりは強まっていき、自分自身も宏池会の一員としての「メンバーシップ」を確立していった。

宏池会に属することで、先輩たちがつないできた伝統や考え方、日ごろの国会でのふるまいや野党との人間関係の構築の仕方、懇親会や選挙応援でできる絆など有形無形の財産を得ることができた。それが派閥の果たしてきた大きな役割ともいえよう。

■派閥で失うもの(4)女性総理候補

なぜ、派閥の幹部は派閥の掛け持ちを許さず、新人議員を囲い込むのか。先輩議員に相談ごとをすることで「借り」を作り、先輩は「貸し」を作ることで、そこにいい意味での「貸し借り」関係が生まれる。きっと会社生活でも大なり小なりこうした人間関係はあるはずだ。

派閥解消により以上のようなつながりは確実に希薄なものにならざるを得ないだろう。人間関係の絆が弱まり、総裁選の際の議員間の駆け引きはより複雑微妙なものになって、票が読みづらくなるのは必至だ。

先日、麻生太郎副総裁が上川陽子外務大臣のことを「おばさん」だの「美しい方とはいわない」だのと形容し、世論から大ヒンシュクを買った。麻生氏の真意は「今、新しいスターが育ちつつある」という意味だったようで、上川氏も目くじら立てずに柳に風と受け流した。次期総裁候補として、上川氏を世間に売り、自分がキングメーカーとして君臨したいという思惑が透けて見えると評するコメンテーターもいる。

前回の総裁選は、高市早苗氏と野田聖子氏が総裁選に手を挙げ、総裁候補者の半分が女性だった。これまでにないことだった。上川氏も派閥が解散された今、20人の推薦者を集めれば立候補は可能だ。また小渕優子選挙対策委員長は平成研(茂木派)を退会し、小渕氏を中心とする新たなグループができそうな雰囲気もある。そうした意味で、次回の総裁選は多くの女性が候補者になりうるかもしれない期待も高まっている。

しかし、自民党議員に女性が占める割合は約1割。人数が少ない上に、女性議員は群れない。“ボーイズクラブ”の男性議員は夜な夜な一緒に飲みに行って親交を深めるが、女性議員は必ずしもそうしない。女性をトップとした派閥は麻生派に組み込まれる前の山東昭子氏がトップだった山東派くらいで、これまで女性がトップとなり、総裁候補とした派閥はなかった。

前回の総裁選も、故安倍晋三氏のおかげで高市氏、二階俊博氏のおかげで野田氏は推薦人を確保することができ、立候補が可能となった。裏ではキングメーカー同士の戦いになっていたのである。派閥(派閥のトップ?)のおかげで無派閥の女性議員は総裁選に立候補することができたともいえる。

今回の派閥解消によりキングメーカーたちの縛りはなくなる。男性議員からもたくさんの候補者が立候補すれば、総裁選はカオス化するだろう。推薦人20人を集めた男性候補がタケノコのように手を挙げる可能性がある。

ただし、安倍氏亡き後の高市氏、秘書が立件された二階氏を後ろ盾とする野田氏の2回目立候補は厳しくなるかもしれない。麻生氏の発言で知名度が上がった形の上川氏はいわば赤丸急上昇だが、党内から「どんなご支援もありがたく受け止める」環境の整備が大事になってくる。河野太郎氏が立候補すれば、麻生派も結局のところ分断され、岸田総理が再選を目指そうとすれば、旧宏池会の推薦は難しいからだ。小渕氏も青木幹雄氏亡きあとどのくらい支持を広げられるか未知数である。

結局のところ、派閥解消の影響で、有象無象のボーイズタケノコクラブたちが立候補すれば、日本初の女性総理候補はむしろ立候補さえ難しくなるというジレンマをはらむ。

以前なら、派閥の幹部たちが「女性議員の○○を推そう」と言えば、それでまとまった推薦人を確保できたかもしれないが、現在の流動的な党内では、女性候補が立候補して勝ち上がっていくのは至難の業だ。もしそれができるとするなら、それは岸田総理かもしれない。そんな声が永田町から聞こえてくる。

国会議事堂
写真=iStock.com/mizoula
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mizoula

旧宏池会を丸々上川氏に禅譲し、麻生派の一部と安倍派、茂木派の一部を巻き込んで、いわば“キングメーカー”岸田として上川氏を擁立するというのだ。もちろん、麻生氏もキングメーカーたりえるが、河野氏を抱える麻生派は総裁選では分裂含みだ。

これまで「第4派閥」と弱小で肩身の狭い旧宏池会だったが、解散しても結束は強く、退会者が続く茂木派とは異なり、1つの塊として行動できる。国民からの支持は依然低迷しているものの岸田総理は当面続投する公算が大きいのだ。

安倍派はずっと党内与党だったので、党内野党になろうという人たちは少ない。麻生派は河野氏が立候補すれば分裂し、茂木派も茂木氏が立候補したとしても、派内の全員が応援するかわからない状況にある。石破氏は菅グループや二階派が応援するかもしれないが、広がりに欠く。

自民内の派閥力学において派閥解消という戦略はそうとうなインパクトがあったことは確かだ。岸田総理がそれを実行できたのは、旧宏池会への絶対的信頼があったからだろう。安倍派が瓦解(がかい)し、茂木派が溶け始めた今、「解散しても、旧宏池会メンバーは自分を応援してくれる」という自信だ。永田町界隈では「岸田一強体制」が始まるとの観測も出始めている。

日本プロスポーツ大賞/岸田首相と麻生氏
写真=時事通信フォト
日本プロスポーツ大賞に出席し、笑顔で握手する岸田文雄首相(右)と麻生太郎自民党副総裁=2023年12月21日、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

■派閥解消後の自民党

自由民主党の議員は370人を超える。その中には、右から左までいろいろな思想の議員がいる。だからこそ、多様性にあふれその切磋琢磨(せっさたくま)からいい意見が生まれ、いい政策につながる。派閥という枠組みがなくなっても議員はグループを作り、意見交換をしたり、政策を立案する勉強会をしたりして人間関係を築いていくだろう。

しかし派閥が生み出してきた「強固な絆」や「幹部のコントロール」がなくなれば、烏合(うごう)の衆となり、自民党内で、離合集散を繰り返す野党のようになっていく可能性もある。国会議員は年齢も、背景も異なり、自己主張も強く、承認欲求や名誉欲の強い個人の集まりであり、それを派閥という教育機関がまとめ上げていたところが自民党の強みだったと言える。

今後、党本部に絶対必要なのは人事局や日頃の活動をきちんと評価できるシステムだ。これがあればこれまでの派閥推薦表などは不要になる。また、政党法を制定する中で、政策活動費の透明化や総裁選のあり方も議論をしていかなければならないだろう。

政治改革は派閥解散で終わりではなく、ここがスタートである。お金にまつわる規制強化はもちろんしていかねばならないが、規制強化の議論だけでなく、派閥と関係の深かった総裁選の在り方と今後の政策集団の在り方といったところまで幅広に議論をしていかねば、袋小路に入り、「木を見て森を見ず」となりかねない。

このままでは、総裁選はカオス化し、最後は無意味な合従連衡が繰り返される可能性もでてくる。派閥の弊害を検証しつつ、派閥の果たしてきた役割もまた、ここで一度振り返る必要がある。派閥は「悪」という論調に一石を投じるためにも。

----------

大沼 瑞穂(おおぬま・みずほ)
大正大学社会共生学部公共政策学科准教授
慶応義塾大学法学研究科(修士号)修了、NHK報道記者、外務省専門調査員、東京財団研究員、内閣府上席政策調査員を経て、2013~2019年まで参議院議員(山形選挙区)。

----------

(大正大学社会共生学部公共政策学科准教授 大沼 瑞穂)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください